悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

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第37話:彼を病ませたのは私です

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しばらく進むと、頑丈な南京錠が付いた部屋が目に入った。きっとあそこが私の部屋なのだろう。それにしても、大きな南京錠だ事。こんな大きな南京錠、初めて見たわ。漫画ではもう少し小さかった気がするが…

「さあ、ここがデイジーの部屋だよ」

部屋に入ると、すかさず内側から鍵を掛けるクラウディオ様。内側の鍵にも、頑丈な南京錠が付いている。部屋の窓には、頑丈な鉄格子も。そして隅には、鎖も置いていある。

この部屋を見た時、完全に引いていたルイーダ様。でも私は、漫画で何度もこの部屋を見ていたから、驚く事もない。むしろ…

「とても広いお部屋なのですね。あら?この本棚には、恋愛小説が詰まっていますわ。こっちには、私の好きなお茶の葉が並んでいますし。それに大きな浴槽です事。あら?ここは運動が出来るスペースですの?こっちにはたくさんのアロマが並んでいるわ」

実物は私が想像していた以上に立派な部屋だった。公爵令嬢だった私の部屋も立派だったけれど、その部屋の2倍はあるだろうと思える大きな部屋。私の好きな恋愛小説ばかりを集めた本棚。運動不足にならない様に準備された、ちょっとした運動スペース。

いつでも好きな時にお茶を飲めるよう、ティーセットも準備されている。5人は入れるであろう大きなお風呂。アロマもたくさん置いてある。これは凄いわ。

「デイジーが好きなものを公爵から教えてもらって色々と取り寄せたんだ。しばらくはこの部屋から一切出すつもりはないからね。ただ、僕は君に少しでも快適に暮らして欲しいと思っているんだ。だから、他に必要な物があれば、何でも言って欲しい」

恐ろしい男だと思っていたが、どうやら私の事を大切に思ってくれている事は確かな様だ。漫画でのクラウディオ様も、なんだかんだ言って、ルイーダ様が喜ぶことを心掛けていた。

「クラウディオ様、これだけ色々とあれば十分ですわ。ありがとうございます。ただ1つ欲を言わせていただけますと、お勉強用の教科書なども準備して頂けると嬉しいですわ。私は1年後には、クラウディオ様と結婚するのですから。いずれ王妃になった時、恥をかかない様にしっかり勉強をしたいと思っておりますの」

どうせもうクラウディオ様から逃げられないのなら、その事実をしっかり受け入れ、自分に出来る事をやって行こうと思ったのだ。

そもそも私は、クラウディオ様が嫌いだった訳ではない。むしろ、病んでしまうほど人を好きになれるクラウディオ様に好感を持っていたし。そもそも私は、悪役令嬢のデイジー以外の登場人物は、皆結構好きだったのよね。

ただ悪役令嬢のデイジーに転生してしまったため、あえて彼に近づかない様にしていたのだ。自分とお父様の命を守るために。

でも全てが終わり、囚われてしまった今、もう彼を避ける必要は無い。むしろクラウディオ様に積極的に接して、病んでしまった心を少しでも癒して差し上げないと。

我ながらこの切り替えの早さにはびっくりするわ。

「デイジーが望むなら、勉強道具を与えよう。ただ…僕は君が傍にいてくれるだけで十分だ。だから、王妃教育はそんなに無理してやらなくてもいい。そもそも、しばらくはこの部屋には誰も入れるつもりはないし」

私を後ろから抱きしめるクラウディオ様。いくらクラウディオ様がそう言っても、さすがに王妃教育を受けない訳にはいかない。ただ、今それを訴えたところで、クラウディオ様は絶対に私の言う事を聞かないだろう。むしろ私が外部の人間と接触して、この部屋から逃げ出そうとしていると言いがかりをつける事も十分考えられる。

あぁ、悲しいかな。私は漫画を隅々まで読んでいたうえ、ファンブックまで買っていた為、クラウディオ様の性格を熟知している。ここはやっぱり

「分かりましたわ。それでは、自分で極力勉強をするようにいたします。クラウディオ様、私はずっとあなた様に殺されるのではないかと怯えていました。私があなた様に近づけば、死期が近づく…今思えば、なぜそんなバカげたことを信じていたのかは分かりません。ただ私は、頭を打ったショックで、少しネガティブな感情を抱く傾向にあったのかもしれませんね。ですが私を愛してくれていると知った今、もうあなた様を避ける理由はありませんわ」

そう言ってクラウディオ様にほほ笑んだ。

「デイジーは賢いね。僕を安心させようとしているのは分かったよ。ただ…君はジャックに好意を抱いていたし、何より国を出ようとしていた。正直まだ僕は、君が信用できない。それでも、僕を受け入れようとしてくれることは、素直に嬉しいよ。デイジー、僕はどうしようもないほど、君を愛している。だから…どうか囚われてくれ」

そう言うと、私をギュッと抱きしめた。今にも泣きそうな顔のクラウディオ様。私、自分の事で精一杯で、知らず知らずのうちに彼を追い詰めてしまっていたのね。こんなに病んでしまうほどに…

「私はもう、どこにも行きませんわ。と言っても、信じてもらえないでしょうから、これからは態度で示します。いつかクラウディオ様の心が、穏やかに過ごせるように」

私は漫画のストーリーを鵜呑みにしすぎて、周りの状況を全く理解できていなかった。その結果、結局クラウディオ様を病ませてしまったのだ。彼を病ませたのは、ある意味私の責任だ。

だからこれからは、私が彼を支えて行こう。それに思ったほど監禁生活も、辛くなさそうだし…

とにかくこれからは、クラウディオ様に安心してもらえる様に頑張らないと。
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