悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

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第35話:ルイーダ様が羨ましいです

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「あの…デイジー様、私、実はずっとデイジー様に憧れておりましたの。身分が高いにも関わらず、誰にでも優しく聡明なあなた様を。まさか私と殿下の仲を疑っているとは夢にも思っておらず。デイジー様を不安にさせてしまい、申し訳ございませんでした」

私に向かって頭を下げるのは、ルイーダ様だ。さすがヒロイン、私の勘違いのせいで、今さっき怖い思いをしたはずなのに、逆に私に謝るだなんて。本当にいい子ね。

「悪いのは全て私です。ルイーダ様、どうか…どうか幸せになってくださいね。私はあなた様の幸せを心から願っておりますので」

漫画でのルイーダ様は、クラウディオ殿下から監禁生活を強要されていたが、それでも彼女なりに幸せそうだった。それに彼女は、クラウディオ殿下を心から愛していた。

それなのに私は、悪役令嬢という身分でありながら、王妃の座もクラウディオ殿下も彼女から奪ってしまったのだ。だから、なんだか申し訳なく思っている。

「ありがとうございます、実は私、婚約したいと思える男性と出会えましたの。ですから、どうか気にしないで下さい」

そう言うと、それはそれは幸せそうに微笑んだルイーダ様。

あら?もしかして彼女、別の令息を捕まえたのかしら?

「そう言えばルイーダ様は、侯爵令息のグリズム様と恋仲だと聞きましたわ。もしかして、もう婚約の話まで出ているのですか?」

「ええ…」

ルイーダ様が嬉しそうに微笑んだ。何ですって!ルイーダ様は漫画でクラウディオ殿下の恋敵だった、グリズム様と恋に落ちたですって!でも、2人が出会うのは、2年生になってからのはずだが…

もしかして、色々と話が変わっているのかもしれない。
でも…
漫画では泣く泣くルイーダ様を諦めたグリズム様。最後、男泣きする姿は、私達読者の涙を誘った。そんなグリズム様が、現実世界でルイーダ様と結ばれるだなんて。

あぁ…出来る事なら間近で2人が幸せそうに過ごす姿をこの目で拝みたかったわ…

それにしても、お優しくて健全なグリムズ様と婚約出来るだなんて、ルイーダ様はある意味私よりもずっと幸せなのかもしれない。

監禁されることなく、将来は侯爵夫人になれるのだから。

その点私はと言うと…

そっと上を見上げると、笑顔のクラウディオ殿下と目があった。そう、私は今から、この男に監禁されるのだ。

「さあ、令嬢たちとの別れも済んだね。そろそろ行こうか」

ずっと私を抱っこしているクラウディオ殿下、腕が痛くはないのかしら?そう思ったが、私は知っている。ここで“自分で歩けますわ”なんていえば、途端にクラウディオ殿下のご機嫌が悪くなることを。

現にルイーダ様を手に入れた時、クラウディオ殿下はルイーダ様が自分から逃げて行かない様に、こうやって抱きかかえて王宮へと連れて行こうとした。

その時自分で歩くと言ったルイーダ様に機嫌を損ねたクラウディオ殿下が“僕の腕から抜け出ようとするだなんて、悪い子だね。そんな子は、これで繋いでおこう”そう言って、手と足に鎖を付けたのだ。

きっと今も、クラウディオ殿下のポケットには鎖が入っているのだろう。現にポケットの辺りが、もっこりしているし…

ふとルイーダ様の方を見ると、騒ぎを聞きつけたグリムズ様が、心配そうにルイーダ様を抱きしめていた。まさかヒロインのルイーダ様と、恋敵のグリムズ様が抱き合っているシーンを生で見られるだなんて!

これは尊いわ!せっかくだから、この目に焼き付けておかないと!まさか2人の幸せそうな姿を見られるだなんて、私ってなんてラッキーなのかしら?もしかすると神様が、今から囚われる哀れな私に、ちょっとしたプレゼントを贈ってくれたのかもしれないわね。

人知れず幸せに浸っていると

「デイジー、今度はグリムズを見ているのかい?せっかくジャックを他国に追いやったのに…デイジーはどれほど僕に嫉妬させたら気が済むのかい?」

恐ろしいほど低い声が、耳元から聞こえる。マズイ…つい興奮して、2人をガン見してしまったわ。

「ごめんなさい。私はルイーダ様を見ていたのです。彼女が幸せそうでよかったなっと思って。ほら、私は変な勘違いで彼女に迷惑を掛けたので、それで…」

「それにしては、随分嬉しそうに見ていたね…まあいい。さあ、王宮に向かおうか?」

王宮の馬車に乗せられた。ただ…なぜかクラウディオ殿下の膝の上だ。さっきから、片時も私を放さないクラウディオ殿下。まずいわ…完全にこの人、病んでいるわよね。

さっきはルイーダ様からクラウディオ殿下を奪ってしまう形になった事を申し訳なく思っていたが、今はこんな病んだ殿下から逃げられたルイーダ様を心底羨ましいと思う。

確かに命は助かったが…
私、一体どこで間違えてしまったのかしら?
ついそんな事を考えてしまったのだった。
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