悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

文字の大きさ
上 下
33 / 43

第33話:どういう事でしょうか

しおりを挟む
私の前まで来ると、私と視線を合わせるようにその場にしゃがみ込んだ殿下。無意識に瞳から涙が溢れ出す。

「デイジー、君は一体何を言っているのだい?言っている意味があまりよく分からないが、ただ1つわかる事は、君が僕を捨ててこの国を出ようとしているという事だ。悪いが君をこの国から逃がすつもりはない。もちろん、君の命を奪うつもりもね」

そう言うと、私の頬から流れる涙を、ペロリと舐めたのだ。えっ?今私の頬を舐めた?一体どういうことなの?

それに今、私の命を奪うつもりはないと言った?という事は…

「殿下は、私とお父様を処刑するつもりでいるのではないのですか?」

「処刑?一体どんな罪で、君と公爵を処刑するのだい?そんな物騒な事を、君は心配していたのかい?僕はただ、君が欲しいだけなんだけれどな」

私が欲しい?この人は一体、何を言っているのだろう。

「クラウディオ殿下は、ルイーダ様を心から愛しているのではないのですか?私がいる以上、ルイーダ様と結婚する事は出来ません。ですので、私とお父様を亡き者に…」

「ルイーダ嬢?ああ、サメロ子爵令嬢の事か。何をどうしたら、僕とサメロ子爵令嬢が愛し合っていると思う要素があるのだい?もしかして、君がデイジーに嘘を吹き込んだのか?」

近くで様子を伺っていたルイーダ様に向かって、低い声で問いかけるクラウディオ殿下。

「め…滅相もございません。私はデイジー様とお話しした事も、ほとんどございませんわ」

「それならどうしてデイジーが、そんな誤解をしているのだ!おかしいだろう!貴様、まさかデイジーを亡き者して、次期王妃の座を狙っていたのか?なんて恐ろしい女だ!すぐにこの女を捕まえろ!サメロ子爵家も、すぐに家宅捜索をするのだ!」

クラウディオ殿下の言葉で、護衛騎士たちが一斉にルイーダ様を捕まえた。

えっ?何?どういう事?

「私は本当に何も知りません。本当です、信じて下さい」

美しい緑色の瞳から涙を流し、青ざめた表情をしたルイーダ様が必死に叫んでいる。待って、どうしてルイーダ様が捕まるの?これはマズイわ。

「お待ちください、殿下。確かにルイーダ様のおっしゃった通り、私たちはお話ししたことはほとんどございません。ですから、どうかルイーダ様を放してあげて下さい」

「それならどうして僕と彼女が愛し合っているだなんて、バカげた勘違いをしたのだい?」

「それは…その…そう、入学式の日に、殿下とルイーダ様が仲睦まじくしていたので。それに以前校舎奥の丘に訪れた時、殿下とルイーダ様がいらしたので。それで…」

さすがにこの世界は、私が前世に読んでいた漫画の世界で、2人はヒーローとヒロインだなんて言えない。

「確かに入学式の日、僕は彼女を助けたこともあったかもしれない。ただ、入学式の日も丘に向かった日も、デイジーを追って向かっただけだよ。それに僕は、サメロ子爵令嬢と話をしたのは、入学式だけだ」

「デイジー様、私は本当に殿下とお話しさせていただいたのは、入学式の時だけです。丘の上には確かによく行っておりましたが、あの場所は人が来ず静かに本が読めるため、好んで行っていただけです。確かに一度デイジー様と殿下が丘にいらした事がありましたが、私は2人の邪魔をしてはいけないと思い、その日は引き返しましたし」

そんな…
一体どうなっているの?2人が愛し合っていないだなんて。2人が結ばれないだなんて、根底から覆される事態だわ。

「それでは、私の勘違い?」

そんな…この数ヶ月、命の危機を感じ、毎日眠れぬ夜を過ごしていた私の日々は、一体何だったのだろう…

「デイジー様、もしかしてここ数ヶ月、ずっと元気がなかったのは、殿下とルイーダ様の仲を疑い、さらに自分が殿下に処刑されるという、その…なんと申しますか、あり得ない妄想を信じ切っていたからですか?」

ポツリと呟いたのは、ミーナ様だ。あり得ない妄想だなんて…まあ、漫画の世界を知らない人から見たら、あり得ない妄想と思うのも無理はないが。

私は本当にこの数ヶ月、生きた心地がしなかったくらい、悩んでいたのに…

「はい、信じておりましたわ…どうやら間違っていた様ですが…」

ポツリと呟いた。

「デイジー様、前にも申しましたが、殿下のデイジー様への愛情は誰がどう見ても深いものでしたわ。それなのに、どうして…」

ミーナ様が私を残念な者を見る目で見つめている。確かにはたから見たら、私にやたら絡んできたり、お父様を脅してまで婚約者候補を辞退しない様に訴えたりと、私に好意を持っているのではという疑惑を持ってもおかしくない。

でも、私には前世の記憶があるのだ。漫画の世界では、2人は本当に愛し合っていた。だからこそ、まさか悪役令嬢の私を、殿下が好きになるだなんて!という先入観が私の頭にあったのだ。

「デイジー、僕の愛情が足りなかったのだね。辛い思いをさせてしまってすまなかった」

がっくり肩を落とす私を抱きかかえたのは、クラウディオ殿下だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

【完結】婚約破棄しろとうるさい幼なじみを溺愛して幸せな結婚を目指します!

まゆら
恋愛
第二王子である私の婚約者、幼なじみのレナ・シャルマンは何かあると直ぐに婚約破棄しろというのですが 彼女を溺愛しているので、無視しています。 婚約破棄はせずに幸せな結婚生活を送るつもりです。 ◇◇◇ 前世の記憶持ちの私は、婚約破棄されて国外追放されて失意のうちに亡くなるとかイヤなので婚約破棄をお願いしているのに婚約者が破棄に応じてくれません! どうしたらよいのでしょうか? すれ違いまくるふたりの行く末は? ハッピーエンド? 無事に完結しました! 現在は、結婚後のリカルドとレナの様子をお届け中! 相変わらずレナを溺愛する姉リリスとレナを愛するあまりに空回りするリカルド。 結婚してもシャルマン商会で仕事をする事に夢中のレナ。 レナが生んだ子供たちも… 基本的に、ほのぼのまったり。 恐い人、悪い人がほとんど出てこない進行になっております。 脳が疲れてもサクッと読める物語を目指して執筆中!

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

処理中です...