悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

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第32話:間に合わなかった様です

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結局その日はほとんど眠らず、密かに亡命の準備を進めた。大きめのカバンに必要な物を詰めていく。やっぱりドレスは売った方がいいわよね。宝石は小ぶりだから、一応持って行こう。

そんな思いでカバンに詰めていく。結局一睡もしないまま、朝になってしまった。

「お嬢様…この荷物は一体何なのですか?家出でもするおつもりですか?」

朝やって来たジェシカが、パンパンに詰まったカバンを見て固まっている。

「この荷物は…えっと、気にしないで。さあ、学院に行く準備をしないとね」

「物凄く眠そうな顔をしていらっしゃいますが、まさか夜通し荷造りをしていたのですか?あなた様は、一体何を考えているのですか?家出なんて、絶対にやめて下さいよ。旦那様が悲しみます」

「分かっているわよ。お父様を残して出て行く訳ないでしょう。ちょっと、その…お父様と旅行に行けたら嬉しいなって思って…」

そう、逃避行にね。と、都合の悪い事は心の中で呟く。でも、私たちがこの国を出たら、ジェシカ含めた使用人たちも、路頭に迷うわよね。と言っても、我が家が断罪され、家が潰されても同じ運命だ。

それならきちんと理由を話して、多めにお給料を渡した方がいいだろう。やっぱり近いうちに、逃げないと!

とにかく今日、もう一度お父様と話をしないと。

ただ、お父様は今日も朝早くに出掛けてしまった様だ。本当にお忙しい人ね。もしかして、既に私との亡命の件で動いてくれているのかもしれない。

そう考えながら、学院へと向かった。それにしても、徹夜は良くなかったわね。なんだか頭がボーっとするし。でも、今が正念場だ。私も出来る事は何でもしないと!

この日も何事もなく時間が過ぎていく。そしてお昼休み、ミーナ様達と一緒に、テラス席でお茶を楽しむ。相変わらず楽しそうに話しをしているミーナ様達令嬢。でも私は眠くて頭が働かず、ただほほ笑みながら話を聞いていた。

ふと別の席を見ると、席に座りながら本を読んでいるルイーダ様の姿が。彼女がここにいるのって、珍しいわね。

あら?そう言えばあの光景、どこかで見たような…

その時だった。

「ルイーダお嬢様、そのお茶は飲んではいけません!」

血相を変えたメイドが、ルイーダ様に入れていたお茶を取り上げたのだ。このシーン、もしかして…

そう、悪役令嬢デイジーが、ヒロインのルイーダ様を毒殺しようとお茶に毒を入れたシーンだ。そしてここから、悪役令嬢デイジーの断罪イベントが始まるのだ。

ただ漫画では、毒入りのお茶を飲もうとしたルイーダ様を止めたのは、クラウディオ殿下だった様な気がするが、きっと少し話が変わってしまったのだろう。

間に合わなかった…
でも私は、お茶に毒など入れていない。今ならまだ間に合うかもしれない。早く逃げないと!

そう思い、スッと立ち上がると、そのままその場を後にしようとしたのだが…

「デイジー、ここにいたんだね。探したんだよ」

笑顔で私の元にやってくるクラウディオ殿下。なぜか後ろにはお父様と陛下もいる。もしかして、この場で私とお父様を断罪するつもりなのでは…


「殿下、私はルイーダ様のお茶に、毒など入れておりませんわ。ですから、どうか私とお父様の命を奪わないで下さい。私は殿下とルイーダ様の仲を引き裂こうなどと、微塵も考えておりません。金輪際、2人に関わる様なことは致しません。私と父は、他国でひっそりと暮らします。ですのでどうか、お命だけは…」

これから断罪が始まる、そう思ったら、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。それでも必死にクラウディオ殿下に頭を下げた。私はただ、平和に生きたいだけなのだ。彼らの邪魔をするつもりは微塵もない。

「デイジー、今言った事は本当かい?僕を捨てて、公爵と一緒に国を出るというのは…」

必死に頭を下げる私に、いつもより明らかに低い声で話しかけてくるクラウディオ殿下。一瞬にして体が強張る。

「もちろんです、近々国を出る準備を進めております。殿下やルイーダ様の前には、二度と姿は見せません。ですから、どうか…」

「デイジー、何を言っているのだ。とにかく、一度落ち着いてくれ。クラウディオ殿下、デイジーは何か勘違いしている様で。私もデイジーも、国を出るつもりはありません」

お父様が必死に訴えている。ちょっと、せっかくうまく丸め込もうとしているのに!

「お父様、何を言っているのですか?確かに国を出たら生活に困る事もあるでしょう。今までの様に、豪華な生活も出来なくなります。ですが、命さえあれば、いつかきっと生きていてよかったと思える日が来ると思うのです。ですから、どうかこの国を出ましょう」

私はただ、生きたいのだ。断罪が始まった以上、もう陛下や殿下に直々に命乞いをするしかない。そう思って必死に訴える。

すると、クラウディオ殿下が不気味の微笑を浮かべながら、こっちに近づいてくる。
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