32 / 43
第32話:間に合わなかった様です
しおりを挟む
結局その日はほとんど眠らず、密かに亡命の準備を進めた。大きめのカバンに必要な物を詰めていく。やっぱりドレスは売った方がいいわよね。宝石は小ぶりだから、一応持って行こう。
そんな思いでカバンに詰めていく。結局一睡もしないまま、朝になってしまった。
「お嬢様…この荷物は一体何なのですか?家出でもするおつもりですか?」
朝やって来たジェシカが、パンパンに詰まったカバンを見て固まっている。
「この荷物は…えっと、気にしないで。さあ、学院に行く準備をしないとね」
「物凄く眠そうな顔をしていらっしゃいますが、まさか夜通し荷造りをしていたのですか?あなた様は、一体何を考えているのですか?家出なんて、絶対にやめて下さいよ。旦那様が悲しみます」
「分かっているわよ。お父様を残して出て行く訳ないでしょう。ちょっと、その…お父様と旅行に行けたら嬉しいなって思って…」
そう、逃避行にね。と、都合の悪い事は心の中で呟く。でも、私たちがこの国を出たら、ジェシカ含めた使用人たちも、路頭に迷うわよね。と言っても、我が家が断罪され、家が潰されても同じ運命だ。
それならきちんと理由を話して、多めにお給料を渡した方がいいだろう。やっぱり近いうちに、逃げないと!
とにかく今日、もう一度お父様と話をしないと。
ただ、お父様は今日も朝早くに出掛けてしまった様だ。本当にお忙しい人ね。もしかして、既に私との亡命の件で動いてくれているのかもしれない。
そう考えながら、学院へと向かった。それにしても、徹夜は良くなかったわね。なんだか頭がボーっとするし。でも、今が正念場だ。私も出来る事は何でもしないと!
この日も何事もなく時間が過ぎていく。そしてお昼休み、ミーナ様達と一緒に、テラス席でお茶を楽しむ。相変わらず楽しそうに話しをしているミーナ様達令嬢。でも私は眠くて頭が働かず、ただほほ笑みながら話を聞いていた。
ふと別の席を見ると、席に座りながら本を読んでいるルイーダ様の姿が。彼女がここにいるのって、珍しいわね。
あら?そう言えばあの光景、どこかで見たような…
その時だった。
「ルイーダお嬢様、そのお茶は飲んではいけません!」
血相を変えたメイドが、ルイーダ様に入れていたお茶を取り上げたのだ。このシーン、もしかして…
そう、悪役令嬢デイジーが、ヒロインのルイーダ様を毒殺しようとお茶に毒を入れたシーンだ。そしてここから、悪役令嬢デイジーの断罪イベントが始まるのだ。
ただ漫画では、毒入りのお茶を飲もうとしたルイーダ様を止めたのは、クラウディオ殿下だった様な気がするが、きっと少し話が変わってしまったのだろう。
間に合わなかった…
でも私は、お茶に毒など入れていない。今ならまだ間に合うかもしれない。早く逃げないと!
そう思い、スッと立ち上がると、そのままその場を後にしようとしたのだが…
「デイジー、ここにいたんだね。探したんだよ」
笑顔で私の元にやってくるクラウディオ殿下。なぜか後ろにはお父様と陛下もいる。もしかして、この場で私とお父様を断罪するつもりなのでは…
「殿下、私はルイーダ様のお茶に、毒など入れておりませんわ。ですから、どうか私とお父様の命を奪わないで下さい。私は殿下とルイーダ様の仲を引き裂こうなどと、微塵も考えておりません。金輪際、2人に関わる様なことは致しません。私と父は、他国でひっそりと暮らします。ですのでどうか、お命だけは…」
これから断罪が始まる、そう思ったら、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。それでも必死にクラウディオ殿下に頭を下げた。私はただ、平和に生きたいだけなのだ。彼らの邪魔をするつもりは微塵もない。
「デイジー、今言った事は本当かい?僕を捨てて、公爵と一緒に国を出るというのは…」
必死に頭を下げる私に、いつもより明らかに低い声で話しかけてくるクラウディオ殿下。一瞬にして体が強張る。
「もちろんです、近々国を出る準備を進めております。殿下やルイーダ様の前には、二度と姿は見せません。ですから、どうか…」
「デイジー、何を言っているのだ。とにかく、一度落ち着いてくれ。クラウディオ殿下、デイジーは何か勘違いしている様で。私もデイジーも、国を出るつもりはありません」
お父様が必死に訴えている。ちょっと、せっかくうまく丸め込もうとしているのに!
「お父様、何を言っているのですか?確かに国を出たら生活に困る事もあるでしょう。今までの様に、豪華な生活も出来なくなります。ですが、命さえあれば、いつかきっと生きていてよかったと思える日が来ると思うのです。ですから、どうかこの国を出ましょう」
私はただ、生きたいのだ。断罪が始まった以上、もう陛下や殿下に直々に命乞いをするしかない。そう思って必死に訴える。
すると、クラウディオ殿下が不気味の微笑を浮かべながら、こっちに近づいてくる。
そんな思いでカバンに詰めていく。結局一睡もしないまま、朝になってしまった。
「お嬢様…この荷物は一体何なのですか?家出でもするおつもりですか?」
朝やって来たジェシカが、パンパンに詰まったカバンを見て固まっている。
「この荷物は…えっと、気にしないで。さあ、学院に行く準備をしないとね」
「物凄く眠そうな顔をしていらっしゃいますが、まさか夜通し荷造りをしていたのですか?あなた様は、一体何を考えているのですか?家出なんて、絶対にやめて下さいよ。旦那様が悲しみます」
「分かっているわよ。お父様を残して出て行く訳ないでしょう。ちょっと、その…お父様と旅行に行けたら嬉しいなって思って…」
そう、逃避行にね。と、都合の悪い事は心の中で呟く。でも、私たちがこの国を出たら、ジェシカ含めた使用人たちも、路頭に迷うわよね。と言っても、我が家が断罪され、家が潰されても同じ運命だ。
それならきちんと理由を話して、多めにお給料を渡した方がいいだろう。やっぱり近いうちに、逃げないと!
とにかく今日、もう一度お父様と話をしないと。
ただ、お父様は今日も朝早くに出掛けてしまった様だ。本当にお忙しい人ね。もしかして、既に私との亡命の件で動いてくれているのかもしれない。
そう考えながら、学院へと向かった。それにしても、徹夜は良くなかったわね。なんだか頭がボーっとするし。でも、今が正念場だ。私も出来る事は何でもしないと!
この日も何事もなく時間が過ぎていく。そしてお昼休み、ミーナ様達と一緒に、テラス席でお茶を楽しむ。相変わらず楽しそうに話しをしているミーナ様達令嬢。でも私は眠くて頭が働かず、ただほほ笑みながら話を聞いていた。
ふと別の席を見ると、席に座りながら本を読んでいるルイーダ様の姿が。彼女がここにいるのって、珍しいわね。
あら?そう言えばあの光景、どこかで見たような…
その時だった。
「ルイーダお嬢様、そのお茶は飲んではいけません!」
血相を変えたメイドが、ルイーダ様に入れていたお茶を取り上げたのだ。このシーン、もしかして…
そう、悪役令嬢デイジーが、ヒロインのルイーダ様を毒殺しようとお茶に毒を入れたシーンだ。そしてここから、悪役令嬢デイジーの断罪イベントが始まるのだ。
ただ漫画では、毒入りのお茶を飲もうとしたルイーダ様を止めたのは、クラウディオ殿下だった様な気がするが、きっと少し話が変わってしまったのだろう。
間に合わなかった…
でも私は、お茶に毒など入れていない。今ならまだ間に合うかもしれない。早く逃げないと!
そう思い、スッと立ち上がると、そのままその場を後にしようとしたのだが…
「デイジー、ここにいたんだね。探したんだよ」
笑顔で私の元にやってくるクラウディオ殿下。なぜか後ろにはお父様と陛下もいる。もしかして、この場で私とお父様を断罪するつもりなのでは…
「殿下、私はルイーダ様のお茶に、毒など入れておりませんわ。ですから、どうか私とお父様の命を奪わないで下さい。私は殿下とルイーダ様の仲を引き裂こうなどと、微塵も考えておりません。金輪際、2人に関わる様なことは致しません。私と父は、他国でひっそりと暮らします。ですのでどうか、お命だけは…」
これから断罪が始まる、そう思ったら、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。それでも必死にクラウディオ殿下に頭を下げた。私はただ、平和に生きたいだけなのだ。彼らの邪魔をするつもりは微塵もない。
「デイジー、今言った事は本当かい?僕を捨てて、公爵と一緒に国を出るというのは…」
必死に頭を下げる私に、いつもより明らかに低い声で話しかけてくるクラウディオ殿下。一瞬にして体が強張る。
「もちろんです、近々国を出る準備を進めております。殿下やルイーダ様の前には、二度と姿は見せません。ですから、どうか…」
「デイジー、何を言っているのだ。とにかく、一度落ち着いてくれ。クラウディオ殿下、デイジーは何か勘違いしている様で。私もデイジーも、国を出るつもりはありません」
お父様が必死に訴えている。ちょっと、せっかくうまく丸め込もうとしているのに!
「お父様、何を言っているのですか?確かに国を出たら生活に困る事もあるでしょう。今までの様に、豪華な生活も出来なくなります。ですが、命さえあれば、いつかきっと生きていてよかったと思える日が来ると思うのです。ですから、どうかこの国を出ましょう」
私はただ、生きたいのだ。断罪が始まった以上、もう陛下や殿下に直々に命乞いをするしかない。そう思って必死に訴える。
すると、クラウディオ殿下が不気味の微笑を浮かべながら、こっちに近づいてくる。
20
お気に入りに追加
2,718
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

勝手にしなさいよ
棗
恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……
ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。
もう一度言おう。ヒロインがいない!!
乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。
※ざまぁ展開あり
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~
桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」
ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言?
◆本編◆
婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。
物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。
そして攻略者達の後日談の三部作です。
◆番外編◆
番外編を随時更新しています。
全てタイトルの人物が主役となっています。
ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。
なろう様にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる