悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

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第11話:僕の婚約者~クラウディオ視点~

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物心ついた時から、僕には婚約者がいた。

「クラウディオ、あなたの婚約者、デイジーちゃんは私の大切な友人、シャリーが残した大切な忘れ形見なの。とてもいい子だから、あなたもデイジーちゃんの事を大切にしてあげてね」

いつも母上は、僕にデイジーの母親の話をしていた。母上の話では、心優しく芯の通った女性だったらしい。侯爵令嬢だった母上は、たびたび令嬢たちに嫌がらせを受ける事があったそうだが、体を張って守ってくれたのが、デイジーの母親だったらしい。

父上と別の令嬢が恋仲になっているのではないかと疑い、涙を流す母上を慰め、父上に意見してくれたのもデイジーの母親だったらしい。

母上にとってデイジーの母親は、家族以上に大切な人だったとの事。その為、何が何でも僕とデイジーを結婚させたい、それがデイジーの母親に対する、自分が出来る唯一の事と考えているとの事。

そんなに素敵な女性の娘か。デイジーは一体どんな子なのだろう。僕は子供心に、デイジーに会うのが楽しみだった。そして僕たちが婚約を結んで2年後、5歳の時に初めてデイジーに会った。

オレンジ色の髪にエメラルドグリーンの瞳をした、可愛らしい令嬢だった。僕の顔を見るなり

「あなたがクラウディオ様ね。私はデイジーよ。一緒に遊びましょう」

満面の笑みで嬉しそうに近づいて来たデイジーは、僕の手を引き走り出したのだ。

「コラ、デイジー」

公爵の言葉を無視し、僕の手を引き中庭にやって来たデイジー。その日はデイジーと沢山遊んだ。デイジーは公爵から甘やかされているせいか、少し我が儘だが、それでも表情が豊かで可愛らしい令嬢だった。

それに実は優しいところもあるのだ。それはデイジーと一緒に散歩をしていた時の事。小鳥が木から落ちてしまった様で、地面でぐったりとしていた。そんな小鳥を見たデイジーが、自分がお世話をすると言い出したのだ。

「この子のお母さんは私なのよ」

そう言って一生懸命小鳥の世話をしていたデイジー。でも、小鳥は元気になると、どこかに飛んで行ってしまった。せっかく育てた小鳥が飛んで行ったことに悲しみ、声を上げて泣くデイジー。そんなデイジーを、僕は優しく抱きしめた。

柔らかくて温かい…
この子をこれからも守っていこう。そう思っていた。でも…


歳を重ねるにつれ、彼女の我が儘はどんどん酷くなっていった。気に入らないと癇癪を起し、かなきり声で怒鳴りまくるのだ。いつも不機嫌そうな顔をして、眉間に皺を寄せている。

そのくせドレスや宝石ばかりに興味を持ち、いかに自分が美しいかを自慢する様になった。僕に近づく令嬢に文句を言い、メイドたちも顎で使う。いつも怒鳴り散らかし、まともに話しが出来ない。

どうして…
昔はあんなに可愛かったのに…
どうしてデイジーは、こんな令嬢になってしまったのだろう…

僕も母上も、何とかしてデイジーを普通の令嬢にしようとしたが、少しでも気に入らないと癇癪を起すのだ。僕は次第に、あのかなきり声を聞くと、頭痛がするとともに、嫌悪感を抱くようになっていった。

頼む、デイジー。これ以上君の事を嫌いにさせないでくれ…
僕の心の叫びも空しく、ついに事件は起こった。それはデイジーの15歳の誕生日パーティでの出来事だった。僕に話しかけた令嬢に激怒したデイジーが、令嬢を呼び出して文句を言い出したのだ。いつもの様に醜い顔で怒り狂うデイジー。

怒った顔程醜いものはない…見た目を気にする割には、どうしてそんな事にも気が付かないのだろう…
とにかくデイジーを止めないと。そんな思いでデイジーをなだめる。すると、僕が間に入った事が気に入らなかったデイジーが、令嬢につかみかかったのだ。とっさに令嬢を庇った瞬間、僕の手がデイジーに当たり、バランスを崩したデイジーが階段から転がり落ちて行ったのだ。

ぐったりとして動かないデイジーを見た瞬間、一気に血の気が引いた。僕は、なんて事をしてしまったのだと。

急いでデイジーの元へと駆け寄り、彼女を抱き寄せた。デイジーは昔と変わらず、温かくて柔らかい。でも…

「デイジー、すまない。どうか目を覚ましてくれ…」

気が付くと僕は、デイジーを抱きかかえ、必死に訴えていた。その後デイジーは医師の診察を受けたが、意識は戻らないまま。

デイジーの父親からはかなり文句を言われたが、父上からは

「クラウディオ、お前は悪くない。デイジー嬢はさすがに我が儘すぎる。他の貴族からも苦情が来ているし…一度婚約の件も、考え直そう」

そう言われた。婚約を考え直す?その言葉を聞いた瞬間、何とも言えない気持ちになった。どうしてデイジーは、あんなにヒステリックになってしまったのだろう。初めて会った時は、僕に笑顔を見せてくれたのに…

僕はデイジーの笑顔が好きだった。少し我が儘でも構わない、僕に笑いかけてくれたら、それだけでよかったんだ。それなのに…

それに、もしもデイジーが目覚めなかったら。いくら不可抗力と言っても、デイジーを階段から突き落としたのは、まぎれもない僕だ。僕は婚約者をこの手で…

考えただけで、手が震えた。結局その日は、ほとんど眠れなかった。
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