悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

文字の大きさ
上 下
6 / 43

第6話:今日は疲れました

しおりを挟む
「デイジー、そろそろ帰ろう。クラウディオ殿下、申し訳ございませんが、デイジーは意識が戻ったばかりでして。あまり長い時間の外出は、体にも負担がかかるでしょうし」

そう言って私を迎えに来てくれたのは、お父様だ。優しいお父様、嬉しくてついお父様に飛びついた。

「デイジーはまだまだ甘えん坊だな。私の可愛いデイジー」

いつもの様にお父様が私を甘やかす。そんなお父様が、私は大好きなのだが、でも、お父様のこの行動が、私の我が儘を助長させたのよね。漫画を読んでいた時は、お父様の事を本当にバカな親だと思っていたが、そんなバカな親にしたのは、私のせいでもあるだろう。

だからこそ、絶対にお父様を不幸にはさせない。お父様の笑顔を見て、改めてそう思った。

「それでは殿下、私はこれで失礼いたします。楽しいお茶の時間を、ありがとうございました」

「僕の方こそ、今日は君の事を色々と知れてよかった。僕たちは少し遠回りをしてしまった様だけれど、これからはもっとお互いの事を知っていこう」

そう言って私のほほ笑む殿下。この人は何を言っているのだろう。あなたはもうすぐ運命の令嬢と出会い、私の事が邪魔になるのだから。でも、もし私が邪魔になったら、無駄に真面目な殿下の事だ。

無下に婚約破棄出来ないという事で、私とお父様を亡き者にしようとしないかしら?ルイーダ様を手に入れる為に、時に残酷で強引な手段を使うクラウディオ殿下の姿を知っている。その為、どうしても警戒してしまうのだ。

とにかく、彼にはやはりあまり近づかない様にしよう。そして1年後、殿下とルイーダ様の仲が深まったところで、婚約者候補を辞退しよう。

婚約者候補を辞退したら、あとはルイーダ様が何とかしてくれるだろう。

「デイジー、黙り込んでどうしたんだい?せっかくだから、門まで送るよ」

笑顔で手を差し伸べてくれるクラウディオ殿下に気が付かないふりをして、スッとお父様の手を握った。そして

「殿下、わざわざ送って下さらなくても大丈夫ですわ。私達はもう、婚約者ではないのですから。それでは失礼いたします」

何も知らない、悪意はありませんと言った無邪気な笑顔をみせ、殿下にそう伝えた。そう、もう私たちは婚約者という呪縛から、解き放たれたのだ。この国では、婚約者と婚約者候補では、天と地ほど扱いが違う。ちなみに殿下は婚約者候補を何人でも持つことが出来る代わりに、候補者たちは途中で辞退する事が出来る、比較的自由な制度なのだ。正し、婚約者候補になってから、1年は辞退できないが。その点は仕方がないだろう。

それに、婚約者から婚約者候補になるという事は、世間一般で言うと、ある意味婚約を破棄したと言っても過言ではない。わざわざ候補にするという事は、そういう事なのだ。きっと貴族界では、私と殿下が結婚する事はないという見解で纏まるはずだ。

「デイジー、確かに君は僕の婚約者候補に下がってしまったが、それでも候補であることは変わりない。だから、僕に送らせて欲しい」

今日のクラウディオ殿下、どうしてこうも食い下がってくるのかしら?面倒ね。仕方がない、これ以上押し問答をしていても仕方がないし、送ってもらいましょうか。

「分かりましたわ、ではお願いします」

にっこり微笑みお父様の手をギュッと握って歩き始めた。でもなぜか、私の反対側の手をスッと握った殿下。何なの、このおかしな光景は…

隣で色々と殿下が話しかけてくる。一体どうしたのだろう?今までは全く私に話し掛けてくることもなかったのに…私がまあリにもまともになったから、興味を持ったとか?要するに、興味本位という事ね。

まあいいわ。

そんな事を考えているうちに、門に着いた。

「殿下、送って下さり、ありがとうございます。それでは私はこれで失礼いたしますわ」

「ああ、今日はわざわざ来てくれてありがとう。また…その、王宮にもいつでも遊びに来て欲しい」

「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」

お父様と一緒に、馬車に乗り込んだ。なんだか今日は疲れたわ。私はどうしても、病んだ殿下のイメージが強いのよね。不敵な笑みを浮かべ、ルイーダ様を監禁するクラウディオ殿下の姿が脳裏に浮かぶ。

その瞬間、背筋がぞくっとした。いずれルイーダ様と殿下が結ばれるとわかっていても、やっぱりこれ以上は殿下には関わらない方がよさそうだ。

「デイジー、大丈夫かい?そんなにぐったりとして、可哀そうに。病み上がりなのに殿下に連れまわされて、疲れたのだろう。それにしてもあの男、デイジーよりも別の令嬢を庇ったくせに、デイジーとの婚約破棄を拒むだなんて図々しい。大丈夫だよ、デイジー、婚約者候補は、1年経てば解消できるんだ。1年後、すぐに解消すればいい!」

「ありがとうございます、お父様。ぜひそうさせていただきますわ。ただ、殿下も今まで色々と私の事で苦労したのでしょう。ですから、あまり殿下を悪く言わないであげて下さい」

「あんな男を庇うのかい?デイジーは優しいな。とにかく1年後、すぐに婚約者候補を辞退しよう。大丈夫だ、お父様がデイジーに合う殿方を探してあげるからね」

そう言ってほほ笑んでくれたお父様。お父様もそう言ってくれているし、きっと大丈夫だろう。それに私には、1年後に婚約者候補を辞められるという、最強のカードを手に入れたのだから…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~

犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

皇太子殿下の御心のままに~悪役は誰なのか~

桜木弥生
恋愛
「この場にいる皆に証人となって欲しい。私、ウルグスタ皇太子、アーサー・ウルグスタは、レスガンティ公爵令嬢、ロベリア・レスガンティに婚約者の座を降りて貰おうと思う」 ウルグスタ皇国の立太子式典の最中、皇太子になったアーサーは婚約者のロベリアへの急な婚約破棄宣言? ◆本編◆ 婚約破棄を回避しようとしたけれど物語の強制力に巻き込まれた公爵令嬢ロベリア。 物語の通りに進めようとして画策したヒロインエリー。 そして攻略者達の後日談の三部作です。 ◆番外編◆ 番外編を随時更新しています。 全てタイトルの人物が主役となっています。 ありがちな設定なので、もしかしたら同じようなお話があるかもしれません。もし似たような作品があったら大変申し訳ありません。 なろう様にも掲載中です。

処理中です...