悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

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第5話:殿下と話をしました

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「せっかくだから、中庭を散歩しよう」

「ええ…分かりましたわ。あの、殿下、もし私が階段から落ちた件で申し訳なく思っていらっしゃるなら、その必要はりませんわ。あの時私の行いの方が、明らかに悪かったのですから」

あの時は確か1人の令嬢につかみかかって、もみ合いになったのだ。その時、その令嬢をクラウディオ殿下が庇った事で、結果的に私を押す形になり、バランスを崩して階段から落ちた。

だからクラウディオ殿下は悪くないのだ。そもそも嫌いな婚約者より、罪もない令嬢を庇うのが普通だろう。

「ありがとう、デイジー。本当に君は…変わったのだね…こんな風に普通に会話が出来る様になるだなんて。君がそう言ってくれたとしても、結局階段から突き落とす形になってしまった事には変わりはない。本当にすまなかった」

改めて私に頭を下げるクラウディオ殿下。この人、変なところで真面目なのよね。本当にこんな真面目な男が、1人の令嬢に執着し病んでいくだなんて。まあ、それがあの漫画の面白いところだったのだけれど…

そうだわ!

「謝罪は結構ですわ。私はそれだけ、クラウディオ殿下に嫌われていたという事ですし。それよりも、先ほどもお話しした通り、私たちはやはり一旦婚約を白紙に戻した方がいい気がしますの。正直昔の私と決別して、新たな私として歩みたいのです。ですのでそのためにも、真っ白な気持ちで前に進みたくて。それに私は、公爵家の一人娘です。いずれ婿を取り、公爵家を、お父様を支えたいと今は思っておりますの」

そしてジャック様と結婚して、幸せに暮らすの。と、都合の悪い事は、心の中で呟く。

「…真っ白な気持ちで、前に進みたいか。確かに君は、公爵家の一人娘だ。ただ、公爵は弟の家から養子を迎え入れる事も考えているみたいだよ…それに、婚約者候補は、僕との婚約を望まないなら君から断る事も出来る。だから…そこまで婚約を解消する事を望まなくてもいいと思うが…」

「殿下はどうして私との婚約を解消する事を拒むのですか?あなた様は私を嫌っていますよね?それならいっその事…」

「分からない…ただ、今一時的な感情で、婚約を解消するのは良くない気がするんだよ。それに僕は、婚約者の君としっかり向き合っていなかったし。だからもう少しだけ、君と向き合いたいと思っているんだよ」

いくら私と向き合ったところで、後半年もすれば運命の相手が現れるというのに…それまでは私にも付き合えというのね。案外面倒な男だ。でも、仕方ないか。

「分かりましたわ。ただ、もし万が一殿下が心から愛する方が現れたら、遠慮せずに教えてください。その時は、私は身を引くつもりでおりますので」

ですから、私もお父様の事も、殺さないで下さいね。私はあなた様とルイーダ様の恋を、全力で応援いたしますので。

そんな思いで、クラウディオ殿下にほほ笑んだ。その瞬間風が吹き、近くに咲いていた花びらが舞った。

「まあ、なんて綺麗なのかしら?花吹雪ですわね」

この花、まるで桜みたいね。日本に住んでいた時は、よくお花見をしていたっけ。懐かしいわ。この国にも、こんな綺麗なお花があっただなんて。私、本当に今まで何も見てこなかったのね。

「本当にデイジーは変わったね。それから、さっきから気になっていたのだが、殿下呼びではなく、昔みたいに名前で呼んで欲しい…」

ポツリとクラウディオ殿下がそう呟いたのだ。

「いいえ…あなた様は王太子殿下なのです。これからも殿下と呼ばせていただきますわ。それから、今までの無礼をどうかお許しください」

改めてクラウディオ殿下に頭を下げた。

「随分と色々なお話しをいたしましたね。そろそろ私は、失礼させていただきますわ」

どうやら今日は、ジャック様はいらしていないみたいだし、これ以上ここにいても仕方がない。そんな思いから、クラウディオ殿下に頭を下げ、その場を去ろうとしたのだが…

「待ってくれ、まだお茶すら飲んでいないではないか。せっかくだから、お茶でも飲もう。すぐに準備をしてくれ」

えっ?今からお茶をするの?今散々話をしたじゃない。もう私は、あなた様と話すことはないわ。そう言いたいが、もちろんそんな事は言えない。仕方なく近くにあったイスに座る。

すると、メイドがすかさずお茶を入れてくれた。これはアップルティね、とてもいい匂いがするわ。

「ありがとう、とても美味しそうなお茶ね」

お茶を入れてくれたメイドにお礼を伝えた。すると、メイドが目を丸くして固まっている。そりゃそうだろう、昔の私なら文句しか言わなかったのだ。私の口からお礼の言葉が出たから、びっくりしたのだろう。

ただ、傲慢で我が儘でどうしようもない昔の私だったけれど、暴言は吐くが、一度も暴力だけは振るった事がない。それだけは、自分でも唯一マシだったと思う事だ。

「やっぱりデイジーは本当に変わったのだね…メイドにお礼を言うなんて。ねえ、デイジー、君はどんなお茶が好きなのだい?」

よほど私が変わった事が、衝撃なのだろう。本日3度目の“デイジーは本当に変わったのだね”の言葉をもらったわ。

「そうですわね。お茶なら何でも好きですわ。でも、ジャスミンティが一番好きですわね」

「ジャスミンティ?聞いたことがないお茶だな。そのお茶はどこにあるんだい?他国から取り寄せているのかい?」

しまった、前世の記憶と今の記憶がごちゃごちゃになってしまっている様だわ。この国には、ジャスミンティは存在しないのだった。

「ごめんなさい、勘違いの様でしたわ。そうですわね、アップルティやレモンティが好きですわ。フルーツ系のお茶ですかね」

「フルーツ系のお茶か、分かったよ。これからは、それらを準備させよう」

別にこれからはないので、わざわざ準備してもらう必要は無い、そう言いたいが、もちろん言える訳がない。その後も色々と質問を受けながら、お茶を楽しんだのだった。
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