悪役令嬢は退散したいのに…まずい方向に進んでいます

Karamimi

文字の大きさ
上 下
3 / 43

第3話:王宮へ向かいます

しおりを挟む
翌日、ドレスに着替え、お父様と一緒に馬車に乗り込んだ。

するとなぜかお父様が私を見て嬉しそうな顔をしている。

「お父様、どうしたのですか?」

「イヤ…その、そうやって落ち着いて座っていると、デイジーの亡くなった母親を思い出すよ。君の母親は、いつも落ち着いているタイプの女性でね。それでいて誰にでも優しくて、芯の通ったとても素敵な女性だったんだ」

「そうだったのですね。そう言えばお父様がお母様の話をするのは、今日が初めてですわね」

今までの私は、あまり人の話しを聞くタイプではなかった為、お父様もお母様の話をする機会がなかったのだろう。お母様は私が1歳の時に、病気で亡くなってしまった。だから、肖像画でしか見た事がないが、今の私によく似ているのだ。

「そうだね、デイジー、君は本当に母親によく似ている。今のデイジーを見ていると、亡くなったシャリーを思い出すよ」

そう言ってお父様が寂しそうに笑った。最愛のお母様を亡くし、悲しんでいる暇もなく必死に私を育ててくれたお父様。そんなお父様を、私の我が儘のせいで殺すわけにはいかない!

お父様の手をそっと握った。

「お父様、私を今まで大切に育てて下さり、ありがとうございます。今まで沢山我が儘を言い、困らせてきましたが、これからは私がお父様を支えますわ」

「あぁ…デイジー。なんて嬉しい事を言ってくれるんだ!私の可愛いデイジー」

涙をポロポロ流しながら、私を抱きしめてくれるお父様。私のたった1人の肉親。私の大切な人、お父様を悲しませないためにも、やはり私が公爵家を継ごう。そして、ジャック様と結婚…なんて、つい都合のいい事を考えてしまう。

とにかく、まずは婚約を白紙に戻してもらわないと。白紙にさえ戻してしまえば、後はクラウディオ殿下とルイーダ様は勝手にくっ付くだろう。そして私は…

ついニヤニヤが止まらない。

そうしている間に、王宮に着いた。

「さあ、お父様、着きましたよ。いつまでも泣いていないで、参りましょう」

お父様にハンカチを渡し、馬車から降りた。

「あぁ…神様。いいや、シャリー、きっと君が、我が儘だったデイジーの心を入れ替えてくれたんだね。ありがとう…本当にありがとう」

なぜかお父様が、天に向かって拝んでいる。お父様も私が我が儘だと思っていたのね…まあ、確かに我が儘だったけれど…何とも言えない気持ちになった。

「お父様、そろそろ行きましょう」

「ああ、そうだな。行こうか」

満面の笑みを浮かべたお父様と一緒に、王族が待つ部屋へと向かう。そして部屋に入ると、そこには陛下と王妃様、さらにクラウディオ殿下が待っていた。

「デイジーちゃん、怪我はもう大丈夫なの?クラウディオが本当にごめんなさい。でも、あの子もわざとあなたを階段から突き落としたわけではないのよ。だから、婚約を白紙に戻したいだなんて、そんな事を言わないで」

目に涙をたっぷり溜めた王妃様が、私の手を握り必死に訴えかけてくる。

「王妃様、落ち着いて下さい。今回の件は、私が令嬢たちに言いがかりをつけた事がすべてもの原因なのです。あの様な公の場で醜くも嫉妬心を晒した私が、このままクラウディオ殿下の婚約者にいていい訳がないのです。どうか、一度婚約を白紙に戻してくださいませんでしょうか?お願いいたします」

王妃様に頭を下げる。

「…」

あら?返事がないわね。おかしいと思い、ゆっくりと頭を上げると、目を大きく見開き、口をポカンと開けている王妃様の姿が。奥では同じ様に目を見開き、口を開けて固まっている陛下とクラウディオ殿下の姿も目に入った。

「王族の皆様、デイジーは階段から落ちて頭を打ったはずみで、人格が変わってしまった様で…昨日医者に調べてもらいましたが、そういう事もあるのだとか…」

「何と!それでデイジー嬢が敬語を。それに、謝罪の言葉を述べたのだな。それにしても、信じられないな…」

あり得ないと言った表情で呟く陛下。確かに記憶を取り戻す前の私は酷かったが、そんなに驚かなくても…

「とにかく、私は嫉妬に狂い醜い姿を晒してしまった事を、恥じております。ですので、一旦婚約を白紙に戻してください。どうかお願いします。きっと天国にいる母も、私と同じ気持ちだと思います。母はきっと、誰よりも私の事を一番に考えてくれていると思いますので」

あえて王妃様の前で、お母様の話を出した。

「でも…」

渋い顔をする王妃様。

「王妃殿下、確かにシャリーとあなた様は、お互いの子供を結婚させようという話をしていたことは知っております。でも、それはお互い独身の時の話でしょう?我が妻シャリーは亡くなる寸前、私にこう言いました。“どうかデイジーを…お願いします…母親がいない分、あなたが幸せにしてあげて下さい”と。ですから私は、デイジーの幸せを願い、彼女の気持ちを尊重したいのです」

「王妃様、私は一旦自分を見つめ直す時間が欲しいのです。それにクラウディオ殿下も、私の事を嫌っているのではありませんか?お互い愛していないのに、本当に私たちが幸せになれるとお思いですか?お母様がそれを望んでいるとでも?」

必死にお父様と一緒に、王妃様に訴えかける。

「確かに、デイジーちゃんの言う通りね。私、あなた達を結婚させる事ばかり考えていて、肝心のあなた達の気持ちを考えていなかったわ…」

よし、王妃様の心が動いたわ。これで婚約破棄出来そうね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

罠にはめられた公爵令嬢~今度は私が報復する番です

結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
【私と私の家族の命を奪ったのは一体誰?】 私には婚約中の王子がいた。 ある夜のこと、内密で王子から城に呼び出されると、彼は見知らぬ女性と共に私を待ち受けていた。 そして突然告げられた一方的な婚約破棄。しかし二人の婚約は政略的なものであり、とてもでは無いが受け入れられるものではなかった。そこで婚約破棄の件は持ち帰らせてもらうことにしたその帰り道。突然馬車が襲われ、逃げる途中で私は滝に落下してしまう。 次に目覚めた場所は粗末な小屋の中で、私を助けたという青年が側にいた。そして彼の話で私は驚愕の事実を知ることになる。 目覚めた世界は10年後であり、家族は反逆罪で全員処刑されていた。更に驚くべきことに蘇った身体は全く別人の女性であった。 名前も素性も分からないこの身体で、自分と家族の命を奪った相手に必ず報復することに私は決めた――。 ※他サイトでも投稿中

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

第一王子は私(醜女姫)と婚姻解消したいらしい

麻竹
恋愛
第一王子は病に倒れた父王の命令で、隣国の第一王女と結婚させられることになっていた。 しかし第一王子には、幼馴染で将来を誓い合った恋人である侯爵令嬢がいた。 しかし父親である国王は、王子に「侯爵令嬢と、どうしても結婚したければ側妃にしろ」と突っぱねられてしまう。 第一王子は渋々この婚姻を承諾するのだが……しかし隣国から来た王女は、そんな王子の決断を後悔させるほどの人物だった。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

アンジェリーヌは一人じゃない

れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。 メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。 そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。 まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。 実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。 それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。 新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。 アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。 果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。 *タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*) (なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

処理中です...