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第39話:修道長様に会いに行きました
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殿下を見送った後、自室に戻り、殿下から頂いた人形を見つめる。よく見ると、銀色の髪に青い瞳をしている。もしかして、私をイメージして作られているのかしら?そう思うほど、私に似ていたのだ。
殿下ったら、こんなものまで作らせるだなんて…
せっかくなので、机の上に飾った。この1年、殿下は本当に私だけを見てくれ、私の許しを乞うため、必死に動いてくれた。眠る事も食べる事も忘れ、本当に倒れそうになるくらい衰弱していたこともあった。
それでも私が、睡眠と栄養をしっかり摂って欲しいと伝えれば、その通りにしていた。そして殿下から貰った沢山のプレゼント達。この中には、婚約した後に貰ったプレゼント達も沢山ある。
昔から殿下は、私が何を好きでどんなものが喜ぶのか、しっかり理解してくれてプレゼント送ってくれていた。あの当時は気が付かなかったが、今ならわかる。私は婚約当初から、彼に愛されていたことを。
でも…
親の仇の様な鋭い目で睨まれ、私が何を言っても私が悪いと決めつけ、酷い叱責を受けたことが、どうしても心の中に引っかかっている。魅了魔法に掛かっていたとは分かっているが、それでもやはり私は…
「はぁ」
ついため息が出てしまう。
私はきっと、殿下の事が好きなのだろう。でも、それを認めたくない自分もいる。全てを捨てて、修道院に行こうとしたあの時の事を考えると、胸が苦しくなり、殿下に対する憎しみが生まれてしまうのだ。
私は一体、どうすればいいのだろう…
翌日、何気なく修道院に向かった。
「リリアーナ様、よくいらっしゃいました。あら?浮かない顔をしておりますね。どうされましたか?」
「修道長様…実は色々ありまして」
真っ先に修道長様が話しかけてきてくれたのだ。
「よろしければお話を聞きますよ。さあ、どうぞこちらへ」
修道長室へと案内してくれた修道長様。お互い向かい合わせに座った。
「それで今日はどうされたのですか?」
「はい、実は殿下の事で。殿下はこの1年、本当に私に良くしてくださいました。私の為に、全精力を注ぎこんでくれたと言っても過言ではありません。そんな殿下と過ごすうちに、殿下は昔から私の事を大切に思っていてくれていたことに気が付いたのです。私は多分、殿下の事が好きなのでしょう。でも…」
「でも?」
「まだ心のどこかで、殿下を許しきれていない部分があるのです。このまま殿下を受け入れていいものか、ずっと悩んでいて。殿下が魅了魔法で心を操られていたことも知っています。それでも私の心は、深く傷つきました。ですから、自分がどうすればいいのか…」
自分でもどうすればいいのか、分からなくなってしまったのだ。
「初めてここに来た時のリリアーナ様は、本当に今にも命の灯が消えそうなくらい、弱りはてておりましたね。それくらい心を痛め、傷ついていらしたのでしょう。その状況から見ても、殿下が許せないというのは理解できます。ただ…」
「ただ?」
「殿下は今、必死にリリアーナ様の信頼を手に入れようと、相当努力されていらっしゃるのですよね。どうか殿下の今の姿を見てあげてはいかがでしょうか。殿下はきっと、今を必死に生きていらっしゃるのでしょう。過去は変えられない、それならせめて、未来を変えるため、今頑張っていらっしゃるのではないでしょうか」
「未来を変えるため、今を頑張る?」
「そうです。リリアーナ様の未来は、どうあって欲しいですか?」
「私の未来は…」
「過去の辛い経験を忘れろと言われても、そう簡単に忘れられないでしょう。でも、ずっと過去の呪縛に囚われ続けている人生なんて、勿体ないですわ。あなた様はまだお若いのです。どうか今を、未来を見つめてみてください」
今と未来を見つめる…
私は確かに、過去ばかりにこだわって、今の状況をあまり見ていなかった。そしていずれ迎える未来も。
「ただ、殿下の魅了魔法が解けてまだ1年程度、今すぐ結論を出す必要は無いと思いますわ。一度ゆっくりお考え下さい。もしまた行き詰まったら、いつでも話を聞きますわ」
「ありがとうございます、修道長様。少し心が軽くなりましたわ。私は未来をどうしたいのか、もう一度よく考えてみます」
いつまでも過去の呪縛に囚われ、大切な物を見失っていた気がする。確かに私は婚約破棄をした当初、前を向いていた。素敵な殿方と出会い、幸せな未来を築いていきたいと。でもいつの間にか、そんな未来すら考えなくなり、あの時こんな酷い事をされたから受け入れられないと考えてばかりで。
今すら見ようとしていなかった。もう一度未来を、今を見つめ直そう。そう心に決めたのだった。
殿下ったら、こんなものまで作らせるだなんて…
せっかくなので、机の上に飾った。この1年、殿下は本当に私だけを見てくれ、私の許しを乞うため、必死に動いてくれた。眠る事も食べる事も忘れ、本当に倒れそうになるくらい衰弱していたこともあった。
それでも私が、睡眠と栄養をしっかり摂って欲しいと伝えれば、その通りにしていた。そして殿下から貰った沢山のプレゼント達。この中には、婚約した後に貰ったプレゼント達も沢山ある。
昔から殿下は、私が何を好きでどんなものが喜ぶのか、しっかり理解してくれてプレゼント送ってくれていた。あの当時は気が付かなかったが、今ならわかる。私は婚約当初から、彼に愛されていたことを。
でも…
親の仇の様な鋭い目で睨まれ、私が何を言っても私が悪いと決めつけ、酷い叱責を受けたことが、どうしても心の中に引っかかっている。魅了魔法に掛かっていたとは分かっているが、それでもやはり私は…
「はぁ」
ついため息が出てしまう。
私はきっと、殿下の事が好きなのだろう。でも、それを認めたくない自分もいる。全てを捨てて、修道院に行こうとしたあの時の事を考えると、胸が苦しくなり、殿下に対する憎しみが生まれてしまうのだ。
私は一体、どうすればいいのだろう…
翌日、何気なく修道院に向かった。
「リリアーナ様、よくいらっしゃいました。あら?浮かない顔をしておりますね。どうされましたか?」
「修道長様…実は色々ありまして」
真っ先に修道長様が話しかけてきてくれたのだ。
「よろしければお話を聞きますよ。さあ、どうぞこちらへ」
修道長室へと案内してくれた修道長様。お互い向かい合わせに座った。
「それで今日はどうされたのですか?」
「はい、実は殿下の事で。殿下はこの1年、本当に私に良くしてくださいました。私の為に、全精力を注ぎこんでくれたと言っても過言ではありません。そんな殿下と過ごすうちに、殿下は昔から私の事を大切に思っていてくれていたことに気が付いたのです。私は多分、殿下の事が好きなのでしょう。でも…」
「でも?」
「まだ心のどこかで、殿下を許しきれていない部分があるのです。このまま殿下を受け入れていいものか、ずっと悩んでいて。殿下が魅了魔法で心を操られていたことも知っています。それでも私の心は、深く傷つきました。ですから、自分がどうすればいいのか…」
自分でもどうすればいいのか、分からなくなってしまったのだ。
「初めてここに来た時のリリアーナ様は、本当に今にも命の灯が消えそうなくらい、弱りはてておりましたね。それくらい心を痛め、傷ついていらしたのでしょう。その状況から見ても、殿下が許せないというのは理解できます。ただ…」
「ただ?」
「殿下は今、必死にリリアーナ様の信頼を手に入れようと、相当努力されていらっしゃるのですよね。どうか殿下の今の姿を見てあげてはいかがでしょうか。殿下はきっと、今を必死に生きていらっしゃるのでしょう。過去は変えられない、それならせめて、未来を変えるため、今頑張っていらっしゃるのではないでしょうか」
「未来を変えるため、今を頑張る?」
「そうです。リリアーナ様の未来は、どうあって欲しいですか?」
「私の未来は…」
「過去の辛い経験を忘れろと言われても、そう簡単に忘れられないでしょう。でも、ずっと過去の呪縛に囚われ続けている人生なんて、勿体ないですわ。あなた様はまだお若いのです。どうか今を、未来を見つめてみてください」
今と未来を見つめる…
私は確かに、過去ばかりにこだわって、今の状況をあまり見ていなかった。そしていずれ迎える未来も。
「ただ、殿下の魅了魔法が解けてまだ1年程度、今すぐ結論を出す必要は無いと思いますわ。一度ゆっくりお考え下さい。もしまた行き詰まったら、いつでも話を聞きますわ」
「ありがとうございます、修道長様。少し心が軽くなりましたわ。私は未来をどうしたいのか、もう一度よく考えてみます」
いつまでも過去の呪縛に囚われ、大切な物を見失っていた気がする。確かに私は婚約破棄をした当初、前を向いていた。素敵な殿方と出会い、幸せな未来を築いていきたいと。でもいつの間にか、そんな未来すら考えなくなり、あの時こんな酷い事をされたから受け入れられないと考えてばかりで。
今すら見ようとしていなかった。もう一度未来を、今を見つめ直そう。そう心に決めたのだった。
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