上 下
6 / 49

第6話:無事婚約破棄出来ました

しおりを挟む
「さあ、立ち話もなんだ。非常に残念だが、婚約破棄の手続きを行おう」

陛下と王妃様、両親と一緒に王宮の中に入った。そして、婚約届にサインをしたときと同じ部屋に入る。

そこには不機嫌そうに私を睨んでいるアレホ様の姿が。

「わざわざ僕を呼び出しておいて、随分と待たせるのですね。僕は一刻も早く、愛するマルティの元に向かいたいのです」

「アレホ、なんて口の利き方をするのだ。今日マレステーノ公爵と夫人、さらにリリアーナ嬢に来ていただいたのは他でもない。リリアーナ嬢とアレホの婚約を破棄するためだ!」

「やっと僕とこの女の婚約が解消されるのですね。それならそうと、早く行ってください。いやぁ、めでたいな。この女と婚約を解消した暁には、ぜひマルティとの婚約を進めて下さい。僕はもう、マルティ以外の令嬢に興味がないのです!」

相変わらず言いたい放題のアレホ様。私の事をついにはあの女呼ばわり…さすがの両親も、顔が引きつっている。

「陛下、殿下はここまで我が娘の事を嫌っていたのですね!それじゃあ、早速婚約破棄の書類にサインをしていきましょう」

笑顔だが明らかに怒っているお父様。顔に青筋が出ている。お母様も扇子で口元を隠しているが、扇子が今にも折れそうなくらい強く握られている。

「公爵の言う通り、さっさとサインをしてしまおう。まずは僕からサインをするよ」

今まで見た事がないほど嬉しそうな顔で、アレホ様がサインをした。アレホ様から奪い取る様に次にサインをしたのは、お父様とお母様だ。その後陛下と王妃様、私もサインをした。

「それでは今この場を持って、アレホとリリアーナ嬢の婚約破棄をしたという事でいいな?」

「はい、もちろんです!やっとこの女から解放される!」

全身全霊で喜びを表現するアレホ様。そんなに喜ばなくても…て、私の事を大嫌いな殿下だもの。当たり前といえば当たり前よね。

「それじゃあ僕は、今日という素晴らしい日を、マルティに報告して参りますので、これで失礼いたします」

そう言って部屋から出て行こうとするアレホ様…いいや、もう婚約者でも何でもないのだから、殿下呼びをしないといけないわね。アレホ殿下を、お父様が呼び留めた。

「お待ちください、殿下。それほどまでに我が娘の事をお嫌いでしたら、もう二度と娘には近づかないと、一筆書いていただけないでしょうか?」

急にお父様がそんな提案をしたのだ。

「公爵、一体何を…」

「アレホ殿下がそこまで娘の事がお嫌いなら、ぜひ一筆書いて欲しいと思いまして。もちろん、我が娘にも二度と殿下には近づかない様に、一筆書かせますので」

「もちろん、構わないよ!リリアーナも書いてくれるのだよね。そうしてもらえると有難い。早速お互い書き合おう」

嬉しそうにペンを持つアレホ殿下を、必死に陛下が止めている。

「公爵、本当にアレホがすまなかった。とにかく婚約破棄をしたのだから、いいではないか?な、公爵。さあ、もう今日は帰ってくれ。ほら、アレホもマルティ嬢が待っているのではないのか?早く行ってやれ」

「陛下!!」

「とにかく、婚約破棄をしたのだからいいだろう?公爵も夫人も、リリアーナ嬢も、本当にすまなかった。それではこれで」

そう言うと、私たちを無理やり部屋の外に出した陛下。一体陛下は何を考えているのだろう。お父様も同じことを思ったのか

「陛下、ここを開けて下さい。私は殿下に一筆書いてもらわないと気が済まない!陛下」

ドンドンドアを叩くお父様。さすがに迷惑だろう。

「お父様、私たちは正式に婚約破棄が出来たのですから、もういいではありませんか?殿下が私に近づく事なんて、絶対にありませんわ。私も殿下には近づくつもりもありませんから。もう帰りましょう」

「…リリアーナがそう言うなら、分かったよ」

お父様も諦めた様で、3人で王宮を後にする。馬車に乗り込んだ瞬間。


「リリアーナ、本当にすまない。まさか殿下が、あそこまで酷い男になっていただなんて…魅了魔法のせいだとわかっていても、腹が立つことこの上ない。リリアーナは1年もの間、ずっとあの暴言に耐えてきたのだな。私は何も見えてなかった。父親として失格だ」

「それを言うなら私もよ。あんな事を言われ続けていたら、リリアーナの心が壊れてしまうのも無理はないわ。たとえ魅了魔法が解けたとしても、あんな男に大切なリリアーナを差し出す事は出来ないわ。いくら親友の子供でも、許せることと許せない事があるもの。リリアーナ、本当にごめんなさい」

お母様が涙を流して抱きしめてくれた。そう言えば両親がいる前でアレホ殿下が私に何か言うのは、今回が初めてだ。さらにマルティ様からは嫌がらせを受けていただなんて、今の両親には口が裂けても言えない…

「お父様もお母様もどうか自分を責めないで下さい。それに私は、お父様とお母様に私の辛さを理解してもらえただけで、とても嬉しいですわ」

「リリアーナはなんて優しい子なんだ。しばらくは屋敷でゆっくりしなさい。夜会やお茶会には無理して出なくてもいいから」

「ありがとうございます。そうですわね、少し疲れましたので家でゆっくり過ごしたいですわ」

さすがに色々とあって、疲れた。しばらくは屋敷でゆっくり過ごしたいのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...