上 下
45 / 54
第2章

第22話:アーサー様が屋敷に戻ってきました

しおりを挟む
アーサー様が巨大コブラの毒を受けてから、一ヶ月が過ぎようとしている。最初の数日は病院に寝泊まりして看病(と言ってただ側に付いているだけだが)していたが、さすがに長期入院になると体にも負担が掛かるという事で、病院に通うスタイルへと変わった。

ちなみに通院になってからは、私が一人で付き添っている。たまに他の人たちが、お見舞いに来てくれる感じだ。

毎朝病院に向かい、夕方近くまで病院で過ごすのが私のスタイルになった。公爵令息が泊まっている病室とあって、とても広い。ソファーや机も置かれているので、私はそこでぬいぐるみを作ったり、産まれて来る赤ちゃんの産着を縫ったりして過ごしている。

せっかくなら、この子が産まれた記念に何か残したいと思い、私とアーサー様に抱っこされた赤ちゃんのぬいぐるみを作ろうと思っている。まさか自分のぬいぐるみを作る事になるとはね。そう思いながら、自分の顔を鏡で見つつ図案を書いている。

正直アーサー様の元気な時の姿を思い浮かべると、胸が張り裂けそうになる事もある。ただそれと同時に、心の奥が温かいものに包まれる感じもするのだ。だから何度も、アーサー様の元気な時の姿を思い浮かべながら、図案を書いている。

そんな私の姿を見たお姉様が

「ローラ、あなた、随分と強くなったわね」

そう言っていた。お姉様はそう言ってくれたが、私はまだまだ弱い。アーサー様を思い、涙を流す日もしょっちゅうだ。お腹にいる子供の為にも、もっと強くならないと。

今日もアーサー様の病室で、三人のぬいぐるみを作成している。するといつもの様に、お医者様が訪ねて来た。

「失礼します。今日も診察をさせていただきますね」

そう言って診察をおこなうお医者様。

「今日も特に異常はないですね。奥様、旦那様ですが、これ以上病院にいても、特に治療する事はありません。一ヶ月様子を見ましたが、特に容体が急変する事はありませんでしたので、もしご希望されるのでしたら、自宅で療養する事も出来ますよ」

「まあ、それは本当ですか?それならば、夫が住み慣れた屋敷に連れて帰りたいですわ」

やっとアーサー様と一緒に屋敷に戻れるのね。そう思ったら、嬉しくてたまらない。

「それでは、退院の日をまた教えていただけますか?」

「分かりました、一度夫の両親とも相談して、またご連絡を致します」

話しが済むと、出て行ったお医者様。

「アーサー様、ちょっと出かけて参りますね。出来るだけ早く戻って来ますから」

眠るアーサー様の頬に口付けをして、一旦病室を出る。向かった先は、バーエンス公爵家の本家だ。

「まあ、ローラちゃん、いらっしゃい!」

急な訪問にも関わらず、お義父様とお義母様は笑顔で迎えてくれた。幸い今日はお義父様も登城していなかった様で、屋敷にいた。

「実はお医者様から、もういつアーサー様を退院させても構わないと言う許可を頂きましたの。それで、出来るだけ早く退院させたいのですが」

「まあ、それは本当?分かったわ、ローラちゃん。それなら、明日にでも退院させましょう。今からあなた達の屋敷に行き、早速準備を整えましょう」

その後、義両親の協力の元、アーサー様を迎える準備を急ピッチで整えた。そし病院側にも明日退院する旨を伝えた。

ちなみにメイソン様には、夕食の時に明日退院する事を伝えた。そう、メイソン様は今もうちの屋敷で生活をしている。もちろん、モカラ含め使用人たちが厳しく監視している。ただメイソン様も、アーサー様に気を使ってか、特に私に必要以上に絡んで来る事はない。

メイソン様も明日の退院の時は、騎士団を休んで手伝ってくれるとの事。やっぱり男手は多い方がいいものね。他にも、アルフィーお義兄様とお兄様も手伝いに来てくれる事になっている。

翌日
早速皆で病院へと向かう。一ヶ月お世話になったこの病室ともお別れだ。お世話になったお医者様や看護師さんにお礼を言い、無事退院した。

意識の無い旦那様を連れて帰るのは重労働。使用人も含め、メイソン様やお義兄様、お兄様たちにも手伝ってもらい、なんとか屋敷まで連れて帰って来た。もちろん、寝かせる場所は夫婦の寝室だ。やっぱりアーサー様には、この場所にいて欲しい!そんな思いから、この場所にしたのだ。

「皆様、今日は色々とありがとうございました。せっかくなので、アーサー様の退院祝いを行いますので、ぜひ参加していってください」

まだアーサー様の意識は戻らない。それでも、せめて屋敷に無事に帰って来たお祝いがしたいのだ。

その後、騎士団から帰って来たレオナルド様も、退院祝いの席に参加してくれた。

「退院の時に何も出来なかった俺が参加するのは、なんだか申し訳ないな」

そう言ったレオナルド様。

「何をおっしゃっているのですか!レオナルド様には、アーサー様の代わりに騎士団長の仕事までこなして頂いているのです。本当に感謝しているのですよ。ありがとうございます」

新たに騎士団長をたてるという話が出た時、レオナルド様が

「アーサーが目覚めた時、騎士団長の席が埋まっていたらショックを受けるかもしれません。俺がアーサーの分も働きます。ですから、どうかこの部隊の騎士団長の席は開けておいてください」

そう他の騎士団長の懇願してくれたらしい。本当にレオナルド様には、感謝してもしきれない程の恩があるのだ。

皆との束の間の楽しい時間を過ごした後は、アーサー様の待つ夫婦の寝室へと向かう。

「アーサー様、お待たせしてごめんなさい。今日からまた一緒に眠る事が出来ますね。ずっとこの日を待っていたのですよ。随分と時間が掛かってしまいましたが、この日を迎えられた事、とても嬉しく思いますわ。そして改めて”お帰りなさい、アーサー様”」

まだ目覚めないアーサー様にそっと寄り添い、眠りに付いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

陛下から一年以内に世継ぎが生まれなければ王子と離縁するように言い渡されました

夢見 歩
恋愛
「そなたが1年以内に懐妊しない場合、 そなたとサミュエルは離縁をし サミュエルは新しい妃を迎えて 世継ぎを作ることとする。」 陛下が夫に出すという条件を 事前に聞かされた事により わたくしの心は粉々に砕けました。 わたくしを愛していないあなたに対して わたくしが出来ることは〇〇だけです…

殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました

まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました 第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます! 結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。