24 / 54
第2章
第1話:旦那様の従兄弟がやって来ました
しおりを挟む
旦那様と心が通じ合ってから、早半年が過ぎた。結婚式も無事終わり、最近は落ち着いた生活を送っている。もちろん次期公爵夫人になる為、社交界にもそれなりに出ている。
そう、それなりにだ。私はやはり、ぬいぐるみ作家の仕事も大切にしたい。有難い事に、旦那様も義両親も私の気持ちを尊重してくれている。そのお陰で、以前の様にぬいぐるみ作りに専念する事が出来ているのだ。本当に感謝しかない。
今も自室でぬいぐるみのデザインを考えているところだ。
「ローラ様、ファンポーズ公爵夫人がお見えです」
私の元にやって来たのは、モカラだ。
「ありがとう。今行くわ」
ファンポーズ公爵夫人ことマリーナ様は、先日お茶会に参加した時、仲良くなった夫人だ。私の作品がずっと気になっていたそうで、向こうから話しかけてきてくれた。そして二ヶ月後お誕生日を迎える娘さんの為に、ぬいぐるみを作って欲しいとの事で、わざわざ訪ねてきてくれたのだ。
見本となるぬいぐるみや、デザインブックを持って夫人の待つ客間へと向かった。
「お待たせしてごめんなさい、マリーナ様。今日はわざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、急な申し出を引き受けて下さり、ありがとうございます。まあ、ローラ様が抱いていらっしゃるのは、あなた様が作ったぬいぐるみですか?」
「はい、実際に見ていただいた方が、イメージが掴みやすいかと思いまして。他にもいくつか持ってまいりましたので、是非お手に取ってみてください」
モカラや他の使用人たちが、私の作品を次々と並べてくれた。
「お噂通り、とても素敵ですわ。それに肌触りがとてもいい。ずっと触っていたいくらいですわね。このウサギは、色々な生地を縫い合わせて出来ているのですね。斬新でとても素敵ですわ」
嬉しそうに、マリーナ様がぬいぐるみを抱いている。
「ありがとうございます。私の作品は全て、我がバーエンス公爵領で取れた良質な布を使っておりますので、肌触りが良いのですわ。そういえばマリーナ様のお嬢様は、六歳でしたね。お嬢様はどの様なぬいぐるみをご希望されているのでしょうか?」
「実は娘には内緒にしていますの。当日サプライズで渡して、びっくりさせたくて」
なるほど、それで今日娘さんが来ていないのね。
「娘は大きな犬が好きなので、一メートルくらいの犬のぬいぐるみをお願いしたいのだけれど、大丈夫でしょうか?」
一メートルくらいの犬のぬいぐるみか。これはまた作りがいがありそうだわ。
「ええ、大丈夫ですわ。それでは、具体的なデザインを考えていきましょう」
その後はマリーナ様と一緒に、細かなデザインを考えていく。犬の形を何度もスケッチブックに書き、マリーナ様に確認をとる。もちろん、色なども細かく聞き取っていった。
結局二時間近くかかってしまったが、無事デザインが完成した。
「ローラ様、今日はありがとうございました。こんなにも丁寧に私の意見を聞いてデザインを決めて下さるなんて思いませんでしたわ。出来上がりが楽しみです」
「こちらこそ、ありがとうございました。私は出来るだけ依頼主の方の意見に沿ったぬいぐるみを作りたいと思っておりますので。もし他にも何か要望等がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
私はとにかく依頼主が喜ぶ顔が見たいのだ。可能であれば、デザイン等も一緒に決めたいと思っている。
マリーナ様を見送った後、自室に戻り早速ぬいぐるみ作りを開始する。今回は、一メートルもの大きなぬいぐるみだ。早速先ほど書いたデザインを元に、パーツを型紙に書いていく。
ぬいぐるみが大きいと、型紙に書いていくのも一苦労だ。ある程度パーツを書き上げた時だった。モカラが部屋にやって来たのだ。
「ローラ様、大奥様がいらっしゃいました」
「えっ、お義母様が?わかったわ、すぐに行くわね」
急にお義母様が我が家にやって来るなんて、珍しいわね。いつも前日には連絡を入れてから来てくださるのに。不思議に思いつつ、お義母様の待つ居間へと向かった。
「お待たせして申し訳ございません」
居間に入るとお義母様の隣に、美しい少年が座っていた。金色の髪に深緑の瞳をしている。どことなく旦那様に似ている。
「ローラちゃん、突然押しかけてごめんなさい。実は…」
「伯母上、どうして女が居るんだ!俺は女が嫌いなんだ」
このセリフ、どこかで聞いた事があるわね…
「コラ、メイソン!ごめんなさいね、ローラちゃん、この子は私の妹の子供で、メイソンと言うの。妹はモンサラ王国に嫁いでいるのだけれどね。メイソンがどうしてもアーサーの元で騎士を目指したいと言うから、家でしばらく預かる事にしたの。それでね、メイソンをしばらくこの屋敷に置いてもらえないかしら?」
「家でですか?」
「伯母上、俺は確かにアーサー兄さんと一緒に生活したいとは言ったが、こんな女が居るなんて聞いていないぞ!この女を早く追い出してくれ」
「お黙りなさい、メイソン!ローラちゃんはアーサーの奥さんなのよ。言葉を慎みなさい」
「何だって、俺と一緒で女嫌いのアーサー兄さんの妻だと?」
目を大きく見開き、あり得ないと言った表情をしているメイソン様。そして、クルリと私の方を向くと、眉間に皺をたっぷり寄せ、私の方に近づいてくるではないか。その姿はまるで、昔の旦那様の様だ。
「お前、どうやってアーサー兄さんに取り入ったんだ。さてはアーサー兄さんの弱みでも掴んだのか?少し可愛い顔をしているからって、調子に乗るなよ!」
ものすごい勢いで、メイソン様が詰め寄って来る。
「やっぱりこんなのが居たら、ローラちゃんも嫌よね。メイソンは家で面倒を見るわ」
そう言って連れて帰ろうとするお義母様。まだ私を睨みつけている。
「伯母上、俺はここで生活をする。そもそも、どんな手を使ってアーサー兄さんを手名付けたかは知らないが、俺は認めない。絶対にお前を追い出してやるからな!おい、今すぐ俺の部屋に案内しろ」
近くにいた使用人に、偉そうに指図するメイソン様。
先が思いやられるわね…
そう、それなりにだ。私はやはり、ぬいぐるみ作家の仕事も大切にしたい。有難い事に、旦那様も義両親も私の気持ちを尊重してくれている。そのお陰で、以前の様にぬいぐるみ作りに専念する事が出来ているのだ。本当に感謝しかない。
今も自室でぬいぐるみのデザインを考えているところだ。
「ローラ様、ファンポーズ公爵夫人がお見えです」
私の元にやって来たのは、モカラだ。
「ありがとう。今行くわ」
ファンポーズ公爵夫人ことマリーナ様は、先日お茶会に参加した時、仲良くなった夫人だ。私の作品がずっと気になっていたそうで、向こうから話しかけてきてくれた。そして二ヶ月後お誕生日を迎える娘さんの為に、ぬいぐるみを作って欲しいとの事で、わざわざ訪ねてきてくれたのだ。
見本となるぬいぐるみや、デザインブックを持って夫人の待つ客間へと向かった。
「お待たせしてごめんなさい、マリーナ様。今日はわざわざ足を運んでいただき、ありがとうございます」
「こちらこそ、急な申し出を引き受けて下さり、ありがとうございます。まあ、ローラ様が抱いていらっしゃるのは、あなた様が作ったぬいぐるみですか?」
「はい、実際に見ていただいた方が、イメージが掴みやすいかと思いまして。他にもいくつか持ってまいりましたので、是非お手に取ってみてください」
モカラや他の使用人たちが、私の作品を次々と並べてくれた。
「お噂通り、とても素敵ですわ。それに肌触りがとてもいい。ずっと触っていたいくらいですわね。このウサギは、色々な生地を縫い合わせて出来ているのですね。斬新でとても素敵ですわ」
嬉しそうに、マリーナ様がぬいぐるみを抱いている。
「ありがとうございます。私の作品は全て、我がバーエンス公爵領で取れた良質な布を使っておりますので、肌触りが良いのですわ。そういえばマリーナ様のお嬢様は、六歳でしたね。お嬢様はどの様なぬいぐるみをご希望されているのでしょうか?」
「実は娘には内緒にしていますの。当日サプライズで渡して、びっくりさせたくて」
なるほど、それで今日娘さんが来ていないのね。
「娘は大きな犬が好きなので、一メートルくらいの犬のぬいぐるみをお願いしたいのだけれど、大丈夫でしょうか?」
一メートルくらいの犬のぬいぐるみか。これはまた作りがいがありそうだわ。
「ええ、大丈夫ですわ。それでは、具体的なデザインを考えていきましょう」
その後はマリーナ様と一緒に、細かなデザインを考えていく。犬の形を何度もスケッチブックに書き、マリーナ様に確認をとる。もちろん、色なども細かく聞き取っていった。
結局二時間近くかかってしまったが、無事デザインが完成した。
「ローラ様、今日はありがとうございました。こんなにも丁寧に私の意見を聞いてデザインを決めて下さるなんて思いませんでしたわ。出来上がりが楽しみです」
「こちらこそ、ありがとうございました。私は出来るだけ依頼主の方の意見に沿ったぬいぐるみを作りたいと思っておりますので。もし他にも何か要望等がありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」
私はとにかく依頼主が喜ぶ顔が見たいのだ。可能であれば、デザイン等も一緒に決めたいと思っている。
マリーナ様を見送った後、自室に戻り早速ぬいぐるみ作りを開始する。今回は、一メートルもの大きなぬいぐるみだ。早速先ほど書いたデザインを元に、パーツを型紙に書いていく。
ぬいぐるみが大きいと、型紙に書いていくのも一苦労だ。ある程度パーツを書き上げた時だった。モカラが部屋にやって来たのだ。
「ローラ様、大奥様がいらっしゃいました」
「えっ、お義母様が?わかったわ、すぐに行くわね」
急にお義母様が我が家にやって来るなんて、珍しいわね。いつも前日には連絡を入れてから来てくださるのに。不思議に思いつつ、お義母様の待つ居間へと向かった。
「お待たせして申し訳ございません」
居間に入るとお義母様の隣に、美しい少年が座っていた。金色の髪に深緑の瞳をしている。どことなく旦那様に似ている。
「ローラちゃん、突然押しかけてごめんなさい。実は…」
「伯母上、どうして女が居るんだ!俺は女が嫌いなんだ」
このセリフ、どこかで聞いた事があるわね…
「コラ、メイソン!ごめんなさいね、ローラちゃん、この子は私の妹の子供で、メイソンと言うの。妹はモンサラ王国に嫁いでいるのだけれどね。メイソンがどうしてもアーサーの元で騎士を目指したいと言うから、家でしばらく預かる事にしたの。それでね、メイソンをしばらくこの屋敷に置いてもらえないかしら?」
「家でですか?」
「伯母上、俺は確かにアーサー兄さんと一緒に生活したいとは言ったが、こんな女が居るなんて聞いていないぞ!この女を早く追い出してくれ」
「お黙りなさい、メイソン!ローラちゃんはアーサーの奥さんなのよ。言葉を慎みなさい」
「何だって、俺と一緒で女嫌いのアーサー兄さんの妻だと?」
目を大きく見開き、あり得ないと言った表情をしているメイソン様。そして、クルリと私の方を向くと、眉間に皺をたっぷり寄せ、私の方に近づいてくるではないか。その姿はまるで、昔の旦那様の様だ。
「お前、どうやってアーサー兄さんに取り入ったんだ。さてはアーサー兄さんの弱みでも掴んだのか?少し可愛い顔をしているからって、調子に乗るなよ!」
ものすごい勢いで、メイソン様が詰め寄って来る。
「やっぱりこんなのが居たら、ローラちゃんも嫌よね。メイソンは家で面倒を見るわ」
そう言って連れて帰ろうとするお義母様。まだ私を睨みつけている。
「伯母上、俺はここで生活をする。そもそも、どんな手を使ってアーサー兄さんを手名付けたかは知らないが、俺は認めない。絶対にお前を追い出してやるからな!おい、今すぐ俺の部屋に案内しろ」
近くにいた使用人に、偉そうに指図するメイソン様。
先が思いやられるわね…
10
お気に入りに追加
6,326
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつまりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。