上 下
51 / 51
番外編

子犬が可愛くてたまりません

しおりを挟む
「くすぐったいわ、ヴァイス。本当にあなたは可愛いわね」

先日新しく王家に家族として迎えられた子犬のヴァイス。人懐っこくて本当に可愛い。今日も小さな尻尾をブンブン振って、私の顔を舐めている。

「おい、ヴァイス、僕の可愛いオニキスを舐めるな!本当に図々しい犬だな」

不機嫌そうなブライン様が、ヴァイスに向かって文句を言っている。そんなブライン様を無視し、頬を舐め続けるヴァイス。

「おい、聞いているのか?本当にこの犬は」

私からヴァイスを奪い取り、ブライン様がヴァイスに文句を言っている。ただ…ヴァイスは尻尾を振って、ブライン様の頬をペロペロ舐めている。

「何だこいつは!くっ…お前、可愛いな。それにフワフワしていて、触り心地もいいし…だからと言って、オニキスに気安く触る事は許さないからな。いいな、分かったな」

「キャン」

ブライン様の言葉に答える様に、ヴァイスが返事をした。

「ヴァイスは本当にいい子ね」

ヴァイスの頭を撫でると、私の手をペロペロと舐めてくれる。本当に可愛いわ。

「おい、ヴァイス。言ったそばからすぐにオニキスを舐めるな。本当にこいつは…」

文句を言いながらも、なんだかんだ言ってヴァイスを可愛がっているブライン様。しょっちゅうヴァイスの様子を見に来るのだ。メイドたちの話では、私がいない時でも来ているとの事なので、よほどヴァイスの事が好きなのだろう。

「殿下、そろそろ公務にお戻りください」

「分かった。おいヴァイス、あまりオニキスに馴れ馴れしくするなよ。いいな。それじゃあオニキス、行ってくるね」

ヴァイスを私に渡すと、口づけをして足早に去っていくブライン様。

「王太子妃様、そろそろヴァイス様の躾の時間でございます。参りましょう」

「ええ、分かったわ」

今日は初めてヴァイスの躾を行う日。まだ小さなヴァイス、こんなに早く躾をしなくても…そう思ったが、小さい時からしっかり躾を行う事が大切との事。

ヴァイスを抱きかかえ、マリンと一緒にトレーナーの元へと向かう。

「王太子妃様、お初にお目にかかります。トレーナーのグリムと申します。どうぞよろしくお願いいたします」

お義父様とお義母様と一緒にいたのは、茶色の髪をした若い男性だ。

お義母様はともかく、お義父様もいらっしゃるなんて…公務の方は大丈夫なのかしら?おっといけない、私も挨拶をしないと。

「こちらこそ、よろしくお願いいたしますわ。さあ、ヴァイス、今からあなたは躾のトレーニングを行うのよ。頑張りましょうね」

ヴァイスに声を掛けると、嬉しそうに尻尾を振っている。

「それじゃあ始めましょうか。それではヴァイス様、こちらへ」

グリムをヴァイスに預けようとした時だった。

「オニキスにさわるなぁぁ!!」

物凄いスピードで、ブライン様がやって来たのだ。

「おい、君!僕の可愛いオニキスに触れるなんて、どういう了見だ!オニキス、こんな若い男と一緒にいるなんて。まさかこの男と、駆け落ちをするつもりなのかい?そんな事は許さないよ!」

かなり興奮気味のブライン様が、訳の分からない事を言って怒っている。

「ブライン様、落ち着いて下さい。この方はヴァイスのトレーナーの方ですわ。今から躾を行う為に、ヴァイスを渡そうとしただけです」

「そうよ、ブライン。本当にあなたは何を言っているの?」

「そうだぞ、お前はもう少し冷静に物事を判断しろ!本当にオニキスの事になると、冷静さを失うのだから」

お義父様とお義母様が私を庇ってくれる。でも…

「うるさい!だから僕は犬を飼う事には反対だったんだ。こんな若い男と一緒に過ごすなんて許さない。ヴァイスは父上と母上に任せて、君は僕と一緒に来るんだ!君の事が気になって、公務に集中できない」

さらに鼻息荒く迫ってくるブライン様。後ろには従者のヴァンが、申し訳なさそうに私を見ている。

「分かりましたわ。では、お義父様、お義母様、ヴァイスをお願いいたします」

「…ええ、分かったわ…オニキスちゃん、ブラインが本当にごめんなさいね…」

お義母様が苦笑いしながら謝ってくれた。

「さあ、オニキス、行こうか」

その後ブライン様に連れられ、執務室でブライン様の仕事を見守る事になった。それにしても、どうしてこんなに嫉妬深いのかしら…私もヴァイスのトレーニング姿、見たかったわ。


そして夕方。

「キャンキャン」

尻尾を振って飛んでくるヴァイスをすかさず抱きしめる。

「ヴァイス、あなた、今日のトレーニングは大丈夫だった?」

「ヴァイスはとてもいい子にトレーナーの言う事を聞いていたわよ。本当に賢い子ね」

そうお義母様が教えてくれた。

「そう、ヴァイスは頑張ってトレーニングを受けたのね。偉いわ」

ヴァイスをギュッと抱きしめると、頬を舐めてくれる。なんて可愛いのかしら?

「おい、ヴァイス。オニキスの顔を舐めるな」

隣でブライン様が怒っていたが、気にしないふりをした。

翌日、ブライン様に必死に頼み込み、ブライン様立ち合いの元、なんとかヴァイスのトレーニング風景を見る事が出来たのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?

恋愛
少しネガティブな天然鈍感辺境伯令嬢と目つきが悪く恋愛に関してはポンコツコミュ障公爵令息のコミュニケーションエラー必至の爆笑(?)すれ違いラブコメ! ランツベルク辺境伯令嬢ローザリンデは優秀な兄弟姉妹に囲まれて少し自信を持てずにいた。そんなローザリンデを夜会でエスコートしたいと申し出たのはオルデンブルク公爵令息ルートヴィヒ。そして複数回のエスコートを経て、ルートヴィヒとの結婚が決まるローザリンデ。しかし、ルートヴィヒには身分違いだが恋仲の女性がいる噂をローザリンデは知っていた。 エーベルシュタイン女男爵であるハイデマリー。彼女こそ、ルートヴィヒの恋人である。しかし上級貴族と下級貴族の結婚は許されていない上、ハイデマリーは既婚者である。 ローザリンデは自分がお飾りの妻だと理解した。その上でルートヴィヒとの結婚を受け入れる。ランツベルク家としても、筆頭公爵家であるオルデンブルク家と繋がりを持てることは有益なのだ。 しかし結婚後、ルートヴィヒの様子が明らかにおかしい。ローザリンデはルートヴィヒからお菓子、花、アクセサリー、更にはドレスまでことあるごとにプレゼントされる。プレゼントの量はどんどん増える。流石にこれはおかしいと思ったローザリンデはある日の夜会で聞いてみる。 「つかぬことをお伺いいたしますが、私はお飾りの妻ですよね?」 するとルートヴィヒからは予想外の返事があった。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

【完】ええ!?わたし当て馬じゃ無いんですか!?

112
恋愛
ショーデ侯爵家の令嬢ルイーズは、王太子殿下の婚約者候補として、王宮に上がった。 目的は王太子の婚約者となること──でなく、父からの命で、リンドゲール侯爵家のシャルロット嬢を婚約者となるように手助けする。 助けが功を奏してか、最終候補にシャルロットが選ばれるが、特に何もしていないルイーズも何故か選ばれる。

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

この婚約は白い結婚に繋がっていたはずですが? 〜深窓の令嬢は赤獅子騎士団長に溺愛される〜

氷雨そら
恋愛
 婚約相手のいない婚約式。  通常であれば、この上なく惨めであろうその場所に、辺境伯令嬢ルナシェは、美しいベールをなびかせて、毅然とした姿で立っていた。  ベールから、こぼれ落ちるような髪は白銀にも見える。プラチナブロンドが、日差しに輝いて神々しい。  さすがは、白薔薇姫との呼び名高い辺境伯令嬢だという周囲の感嘆。  けれど、ルナシェの内心は、実はそれどころではなかった。 (まさかのやり直し……?)  先ほど確かに、ルナシェは断頭台に露と消えたのだ。しかし、この場所は確かに、あの日経験した、たった一人の婚約式だった。  ルナシェは、人生を変えるため、婚約式に現れなかった婚約者に、婚約破棄を告げるため、激戦の地へと足を向けるのだった。 小説家になろう様にも投稿しています。

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

夫が「愛していると言ってくれ」とうるさいのですが、残念ながら結婚した記憶がございません

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
【完結しました】 王立騎士団団長を務めるランスロットと事務官であるシャーリーの結婚式。 しかしその結婚式で、ランスロットに恨みを持つ賊が襲い掛かり、彼を庇ったシャーリーは階段から落ちて気を失ってしまった。 「君は俺と結婚したんだ」 「『愛している』と、言ってくれないだろうか……」 目を覚ましたシャーリーには、目の前の男と結婚した記憶が無かった。 どうやら、今から二年前までの記憶を失ってしまったらしい――。

処理中です...