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第70話:それぞれの両親の想い

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「そうそう、その件で少し、アレックス様に相談がありまして…」

「僕にかい?僕に出来る事なら、何でも言ってくれ」

 私は早速、自分の気持ちを伝えた。この3ヶ月、自分なりに考えて決めた決断だ。

「ユーリ…それは…」

「私、頑張りますわ」

 アレックス様に向かって、にっこり微笑んだ。

「頑張り屋のユーリなら、きっとできるよ。僕も出来る限り協力するから」

「ありがとうございます。これから色々と頼ってしまう事もあるかもしれませんが、よろしくお願いします」

 苦笑いしながらも、私を応援してくれるとおっしゃってくれたアレックス様。ほんの半年前は、私の事なんて見向きもしてくれなかったアレックス様。でも今は、心強い友人の1人だ。

 アレックス様との話も終わり、再びディアンの元に戻ってきた。相変わらず眠ったまま。それでも私にとっては、大切な人だ。

「ディアン、今皆との挨拶も終わったわ。そろそろ皆帰る頃だから、見送りにって来るわね」

 日が暮れかかっている。続々と帰っていく友人たちを、笑顔で見送った。最後の1人まで見送った後、ディアンと一緒に、ディアンのお部屋に戻ってきた。久しぶりに入るディアンのお部屋には、婚約披露パーティーの書類や、領地経営に関する書類がたくさん並んでいる。

 頑張り屋のディアンの事だから、忙しい中婚約披露パーティーの準備と領地経営の勉強をしていたのだろう。きっと私との未来を夢見て…

「お嬢様、旦那様と奥様、カスタマーディス伯爵と夫人が居間でお待ちです」

「そう、分かったわ。すぐに行くわね」

 4人そろって私を呼び出すだなんて。でも、今後の件を話すいい機会ね。そんな思いで、居間へと向かった。

「皆様、お待たせして申し訳ございません」

「あら、ユーリ。まだ着替えていなかったの?まずは着替えてきたら?アン、部屋をお借りしてもいいかしら?」

「ええ、もちろんよ。ユーリちゃんの為に準備したお部屋を使って」

「ありがとうございます。でも、このままで大丈夫ですわ。私、このドレスがとても気に入っておりますので」

 そう伝えると、空いている席に座った。

 何だろう、この空気は…なんだか重苦しい空気が流れている様な気がするのだが…

「ユーリ嬢、今日は色々と本当にありがとう。ディアンもきっと、喜んでいるよ。私達も、最後にディアンとユーリ嬢の姿を見られて、本当に嬉しかった。ユーリ嬢、今までディアンに付き添ってくれて、本当にありがとう」

「ユーリちゃん、私からもお礼を言わせて。いつもディアンの傍にいてくれて、ありがとう。あなたにはとても感謝しているわ。だからこそ、もうあなたをディアンから解放してあげたいの」

 おじ様とおば様が、私に頭を下げたのだ。おば様の瞳からは、涙が溢れている。

「おじ様、おば様、それは私とディアンの婚約を解消するという事ですか?」

 彼らに向かって問いかけた。

「ああ、そうだよ。医者からもディアンが今後目覚める確率は、非常に低いと言われている。ユーリ嬢はまだ16歳だ。もう目覚める可能性の低いディアンと一緒にいるよりも、未来ある男性と結婚して、幸せになった方がいいだろう」

「ユーリちゃんはこの3ヶ月、ずっとディアンに寄り添ってくれていたでしょう。それだけで、私たちは十分幸せよ。きっとディアンも、ユーリちゃんの幸せを願っていると思うの。あなた、アレックス様の事が好きだったでしょう?今のアレックス様なら、ユーリちゃんの事を幸せに出来るのではないかしら?きっとディアンも、アレックス様なら、ユーリちゃんを任せられると思っているわ。だからね、どうかこちらにサインをして」

 おば様が差し出してきたのは、婚約解消届だ。

 そっとその紙を手に取った。

 そして…

 すっと紙を置いた。

「おじ様とおば様のお気持ちは分かりました。お父様とお母様も、おじ様やおば様と同じ考えですか?」

 婚約解消届には、カスタマーディス伯爵家の欄はサインをされているが、我がファルスィン伯爵家の欄は、白紙だったのだ。

「私たちはユーリの気持ちを尊重したい、そう思っている。だから、ユーリがディアン殿と婚約を解消したいのなら、それに従うまでだ。ユーリ、君はどうしたい?」

「ファルスィン伯爵、ユーリ嬢は優しい子だ。万が一ユーリ嬢がディアンの傍にいたいと言ったとしても、彼女の幸せを考え、説得するべきだろう。それなのにお前は…」

「私はユーリが、後悔しない様に生きて欲しいだけだ!ユーリはもう16歳だ。それにユーリは非常に頑固で、私が何を訴えようが、聞きやしないよ。そうだろう?ユーリ」

 さすがお父様、私の性格を熟知している。

「ええ、お父様の言う通りですわ。おじ様、おば様、私はこの3ヶ月、ずっと将来の事を考えていました。きっとディアンは、私の幸せを一番に考えてくるでしょう。私が幸せになるためには、どうしたらいいのか、その事ばかり考えていました。そしてある結論を出したのです」

 真っすぐおじ様とおば様を見つめた。
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