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第63話:ディアンの傍にいたいです
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「…リ、ユーリ、起きなさい。ユーリ!」
うるさいな…誰よ、大きな声をだしているのは。
瞼を上げると、そこには怖い顔をしたお母様の姿が。あら?ここは…
ふと隣を見ると、包帯を巻かれて眠るディアンの姿。そうだわ、昨日ディアンの布団に入って、グーグー眠ってしまったのだわ。慌てて布団から出る。
「あの…ごめんなさい」
「“ごめんなさい”じゃないわよ。あなたは一体、何を考えているの?意識のないディアン様の布団に入り込み、グーグー眠るだなんて。令嬢として…いいえ、女性として有るまじき行為よ」
ごもっともすぎて、何も言い返せない。
「こんな事なら、ユーリをディアン様の付き添いにさせるのではなかったわ。本当にあなたは!」
「リリー、落ち着いて。きっとユーリちゃんは、ディアンが寂しくない様に傍にいてくれたのよ。ディアンはユーリちゃんが大好きだから、きっと喜んでいるわ」
すかさずおば様が庇ってくれた。ただ…
「アンはユーリに甘いのよ。本当にあなたは!」
まだご立腹のお母様。やっぱりディアンの布団に入り込むのは、まずかったわね。少し仮眠をとったら、すぐに起きるつもりだったのだけれど。
ふとディアンを見る。今日もしっかり目が閉じられたまま。
「ディアン、おはよう。今日は目を覚ましてくれるかしら?」
ディアンの手に触れ、そっと呟いた。
「ユーリ…」
「ユーリちゃん、ディアンの傍にいてくれてありがとう。きっとディアンも、喜んでいると思うわ…ごめんなさい…ディアンの姿を見ていると、私…」
おば様がその場で泣き崩れてしまった。そんなおば様を慰めるお母様。お母様も悲しそうな顔をしている。私も涙が込みあげてきた。
昨日から泣いてばかりだ。でも、ディアンのこんな姿を見たら、涙が込みあげてくる。どうしてディアンがこんな目に…
「いつまでも泣いていたら、ディアン様が心配するわ。アンもユーリも、一旦落ち着きましょう。あなた、すぐにお茶の準備を」
近くに控えていたメイドが、すぐにお茶を入れてくれた。お茶を飲んだら、少し気持ちは落ち着いた。
「ユーリ、明日からは貴族学院に行きなさい。ずっとディアン様の傍にいても、仕方がないでしょう?さっきお医者様に話しを聞いて来たけれど、既に峠は越えている様だから、症状が悪化して命を落とす可能性は少ないそうよ。ただ、意識が戻るかどうかは分からないとの事だけれど…」
「分かりましたわ…ですが、どうか病院から通わせてください。1秒でも長く、ディアンの傍にいたいのです。お願いします」
「ユーリちゃん、気持ちは嬉しいのだけれど、さすがにあなたにとって、体の負担が大きいのではなくって?もしユーリちゃんが倒れてしまったら、きっとディアンが心配するわ。それに、もしディアンが目覚めなかったら、その時は…」
おば様が言いにくそうにしている。
「おば様、私はディアンと婚約を解消するつもりはありません。たとえ一生ディアンが目覚めなくても、私はディアンの傍にいます。他の殿方と結婚なんて、考えられませんわ!」
「アン、その話はまだユーリにするべきではないわ。ユーリ、気にしないで」
「ごめんなさい、私、色々と考えてしまって。ユーリちゃん、ごめんなさいね。今の話は、忘れてちょうだい」
おば様が悲しそうに笑った。その顔を見た瞬間、胸が締め付けられる。考えてみればおば様は、大切な一人息子が事故で意識がないのだ。どれほど辛く、胸を痛めているか…
「おば様、私こそごめんなさい。もしおじ様とおば様が良ければ、病院から通わせていただけないでしょうか?もちろん、無理強いはしません」
我が儘を言っているのは分かっている。でも私は、ディアンの傍にいたいのだ。
「ありがとう、ユーリちゃん。あなたがそこまで言ってくれるのなら、私は何も言わないわ。でも、あまり無理はしないでね。それに、ディアンとユーリちゃんは婚約しているけれど、その…婚約者としての務めとかは、考えないでほしい」
「私はただ、ディアンの傍にいたいのです。ただそれだけです。おば様、私の気持ちを汲んでくれて、ありがとうございます。私、しっかりディアンの傍にいますわ」
これでディアンの傍にずっといられる。ただ…ディアンはいつになったら目覚めるのかしら…
その日の午後
「ディアンはまだ目覚めていないのか…」
「ディアン殿、なんて事だ。こんな酷い怪我をして。ユーリ、大丈夫か?随分やつれてしまっているが」
お父様とおじ様も病室にやって来た。お父様は事故に遭ったディアンと会うのは初めてだ。ディアンの変わり果てた姿に、相当ショックを受けている様だ。
「あなた、それで相手との話し合いはどうなったの?」
「ああ、その件なのだが、相手方も大けがを負っている様でな。ただ、相手が一方的に悪いため、相手方からはかなり謝罪されたよ。慰謝料も支払うとの事だ。まあ、詳しくはまた後で話をするよ。それで、ディアンの容態は?」
「ええ、安定している様よ。もう峠は越えたそうだから、問題ないわ。ただ、意識が…」
悲しそうに、おば様がディアンを見つめた。おじ様も悲しそうにディアンを見つめている。その姿を見ていると、私も胸が苦しい。
「そうそう、ユーリちゃんがディアンの傍にいてくれるそうよ。きっとディアンも喜んでいるわ」
「そうか、ユーリ嬢、ディアンに寄り添ってくれてありがとう。せっかくディアンと婚約してくれたのに、こんな事になってしまって申し訳ない」
「おじ様、どうか謝らないで下さい。きっとディアンは、すぐに目覚めますわ。そうでしょう?」
「ああ、そうだな…」
おじ様が目頭を押さえている。
ディアン、おじ様もおば様も悲しんでいるわ。もちろん私も。だからお願い、早く目覚めて。
うるさいな…誰よ、大きな声をだしているのは。
瞼を上げると、そこには怖い顔をしたお母様の姿が。あら?ここは…
ふと隣を見ると、包帯を巻かれて眠るディアンの姿。そうだわ、昨日ディアンの布団に入って、グーグー眠ってしまったのだわ。慌てて布団から出る。
「あの…ごめんなさい」
「“ごめんなさい”じゃないわよ。あなたは一体、何を考えているの?意識のないディアン様の布団に入り込み、グーグー眠るだなんて。令嬢として…いいえ、女性として有るまじき行為よ」
ごもっともすぎて、何も言い返せない。
「こんな事なら、ユーリをディアン様の付き添いにさせるのではなかったわ。本当にあなたは!」
「リリー、落ち着いて。きっとユーリちゃんは、ディアンが寂しくない様に傍にいてくれたのよ。ディアンはユーリちゃんが大好きだから、きっと喜んでいるわ」
すかさずおば様が庇ってくれた。ただ…
「アンはユーリに甘いのよ。本当にあなたは!」
まだご立腹のお母様。やっぱりディアンの布団に入り込むのは、まずかったわね。少し仮眠をとったら、すぐに起きるつもりだったのだけれど。
ふとディアンを見る。今日もしっかり目が閉じられたまま。
「ディアン、おはよう。今日は目を覚ましてくれるかしら?」
ディアンの手に触れ、そっと呟いた。
「ユーリ…」
「ユーリちゃん、ディアンの傍にいてくれてありがとう。きっとディアンも、喜んでいると思うわ…ごめんなさい…ディアンの姿を見ていると、私…」
おば様がその場で泣き崩れてしまった。そんなおば様を慰めるお母様。お母様も悲しそうな顔をしている。私も涙が込みあげてきた。
昨日から泣いてばかりだ。でも、ディアンのこんな姿を見たら、涙が込みあげてくる。どうしてディアンがこんな目に…
「いつまでも泣いていたら、ディアン様が心配するわ。アンもユーリも、一旦落ち着きましょう。あなた、すぐにお茶の準備を」
近くに控えていたメイドが、すぐにお茶を入れてくれた。お茶を飲んだら、少し気持ちは落ち着いた。
「ユーリ、明日からは貴族学院に行きなさい。ずっとディアン様の傍にいても、仕方がないでしょう?さっきお医者様に話しを聞いて来たけれど、既に峠は越えている様だから、症状が悪化して命を落とす可能性は少ないそうよ。ただ、意識が戻るかどうかは分からないとの事だけれど…」
「分かりましたわ…ですが、どうか病院から通わせてください。1秒でも長く、ディアンの傍にいたいのです。お願いします」
「ユーリちゃん、気持ちは嬉しいのだけれど、さすがにあなたにとって、体の負担が大きいのではなくって?もしユーリちゃんが倒れてしまったら、きっとディアンが心配するわ。それに、もしディアンが目覚めなかったら、その時は…」
おば様が言いにくそうにしている。
「おば様、私はディアンと婚約を解消するつもりはありません。たとえ一生ディアンが目覚めなくても、私はディアンの傍にいます。他の殿方と結婚なんて、考えられませんわ!」
「アン、その話はまだユーリにするべきではないわ。ユーリ、気にしないで」
「ごめんなさい、私、色々と考えてしまって。ユーリちゃん、ごめんなさいね。今の話は、忘れてちょうだい」
おば様が悲しそうに笑った。その顔を見た瞬間、胸が締め付けられる。考えてみればおば様は、大切な一人息子が事故で意識がないのだ。どれほど辛く、胸を痛めているか…
「おば様、私こそごめんなさい。もしおじ様とおば様が良ければ、病院から通わせていただけないでしょうか?もちろん、無理強いはしません」
我が儘を言っているのは分かっている。でも私は、ディアンの傍にいたいのだ。
「ありがとう、ユーリちゃん。あなたがそこまで言ってくれるのなら、私は何も言わないわ。でも、あまり無理はしないでね。それに、ディアンとユーリちゃんは婚約しているけれど、その…婚約者としての務めとかは、考えないでほしい」
「私はただ、ディアンの傍にいたいのです。ただそれだけです。おば様、私の気持ちを汲んでくれて、ありがとうございます。私、しっかりディアンの傍にいますわ」
これでディアンの傍にずっといられる。ただ…ディアンはいつになったら目覚めるのかしら…
その日の午後
「ディアンはまだ目覚めていないのか…」
「ディアン殿、なんて事だ。こんな酷い怪我をして。ユーリ、大丈夫か?随分やつれてしまっているが」
お父様とおじ様も病室にやって来た。お父様は事故に遭ったディアンと会うのは初めてだ。ディアンの変わり果てた姿に、相当ショックを受けている様だ。
「あなた、それで相手との話し合いはどうなったの?」
「ああ、その件なのだが、相手方も大けがを負っている様でな。ただ、相手が一方的に悪いため、相手方からはかなり謝罪されたよ。慰謝料も支払うとの事だ。まあ、詳しくはまた後で話をするよ。それで、ディアンの容態は?」
「ええ、安定している様よ。もう峠は越えたそうだから、問題ないわ。ただ、意識が…」
悲しそうに、おば様がディアンを見つめた。おじ様も悲しそうにディアンを見つめている。その姿を見ていると、私も胸が苦しい。
「そうそう、ユーリちゃんがディアンの傍にいてくれるそうよ。きっとディアンも喜んでいるわ」
「そうか、ユーリ嬢、ディアンに寄り添ってくれてありがとう。せっかくディアンと婚約してくれたのに、こんな事になってしまって申し訳ない」
「おじ様、どうか謝らないで下さい。きっとディアンは、すぐに目覚めますわ。そうでしょう?」
「ああ、そうだな…」
おじ様が目頭を押さえている。
ディアン、おじ様もおば様も悲しんでいるわ。もちろん私も。だからお願い、早く目覚めて。
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