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第53話:本当にどうしようもない人間です
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「ユーリ、ユーリ、聞いているかい?」
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。えっと、何の話をしていたかしら?」
「ユーリ、アレックスの事を気にしているのだろう?僕と婚約をしてから、ずっと上の空だものね…もしかして僕との婚約、嫌だったかい?」
悲しそうに呟くディアン。
「違うのよ、決してディアンの事が嫌な訳ではないの。私はディアンが大好きで、一緒にいられて幸せだと思っているわ。ただ…」
「ごめん、ユーリ。僕だってわかっているよ、アレックスの事が気になるのだろう?あの日以降、アレックスはずっと学院に来ていないからね。本当にアレックスは、どこまでユーリを苦しめれば気が済むのだろうね…」
「ディアン、それは違うわ。アレックス様を苦しませているのは、私よ…」
「そうかな?僕はそうは思わないよ。そもそもアレックスは、ユーリが自分の事を好きなのをいい事に、ずっと酷い態度を取っていたそうじゃないか。それなのにユーリが諦めた途端、急に態度を変えて…本当に大切な人なら、最初から大切にするはずだよ」
確かに私は、アレックス様に散々傷つけられてきた。たくさん涙を流し、たくさん苦しんだ。でも…それでも私は…
「ユーリの事だから、僕が何を言っても納得しないのだろうね。ユーリは変に頑固なところがあるから…」
「ごめんね、ディアン。私、本当にダメね。せっかく大好きなディアンと結ばれたのに。ディアンにまで心配をかけて…」
ディアンはずっと、私の事を思い続けてくれた人だ。私の無神経な発言で、幼いディアンを傷つけ、王都から遠ざけさせるきっかけを作った私。そんな私を受け入れ、支えてくれるディアンを、今度は私が支えたいと思っていたのに…
そうよ、今私が幸せにしなければいけないのは、ディアンよ。ディアンと共に歩むと決めた時点で、アレックス様を傷つける事は分かっていた。それなのに、ウジウジ考えてディアンに心配をかけて。
私、一体何をやっているのかしら?
「ユーリが謝る必要はないよ。ユーリの気持ちは僕もわかるからさ…」
そう言って力なくディアンが笑った。
「ディアン、ありがとう。いつまでもくよくよしていても、仕方がないわね。ねえ、ディアン、思ったよりも参加者が多そうだから、奥の方の中庭も開放した方がいいと思うのだけれど、どうかしら?ほら、あなたの家の中庭は、奥もとても魅力的でしょう?」
「ユーリがそうしたいのなら、そうしよう。そうだ、せっかくだから木に装飾を施すなんてどうかな?」
「あら、素敵ね。そういえばレーナの婚約披露パーティーの時も、綺麗な装飾が施されていたわ。明日にでもレーナに聞いてみるわね」
「よかった…ユーリが少しだけ元気になってくれて…」
「ディアン、何か言った?」
「何でもないよ。さあ、婚約披露パーティーの話はここまでにして、お茶にしよう。疲れただろう?ユーリの好きなお菓子を準備したよ」
「まあ、嬉しいわ。ディアンが準備してくれるお菓子、本当に美味しいのよね」
やっと笑顔を見せてくれたディアンが、嬉しそうにお菓子を持ってきてくれた。よく考えてみれば、ディアンの笑顔、最近見ていなかった。
最近は私の元気がなかったせいで、いつも困ったような顔をしていたものね…
私、本当にどうしようもない人間ね。ディアンの笑顔まで奪っていただなんて。申し訳なくて、涙が出そうになるのを必死に堪えた。
その後は極力笑顔を作り、ディアンとのお茶を楽しんだ。
そして翌日。
「レーナ、あなたの婚約披露パーティーの時、木々に装飾を施していたでしょう?私たちの婚約披露パーティーでもやろうと思って。色々と教えてくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。それよりもユーリ、あなた顔色が悪いわよ。最近元気もないし。やっぱりアレックス様の事が、気になるの?あんなに酷い事をされたのに、アレックス様の事を気にかけるだなんて、どれだけお人好しなのよ」
「私は別に、アレックス様の事なんて…」
「気にしていますと、顔に書いてあるわよ。あなたがそんな顔をしているから、ディアン様が不安そうな顔をしているじゃない。ユーリはアレックス様ではなく、ディアン様を選んだのでしょう?2人ともユーリが好きだったのだから、どちらかを選べばどちらかが傷つく。そんな事、あなたも分かっていた事でしょう?」
「ええ、分かっていたわ…でも、私のせいでアレックス様が、学院に来なくなってしまって…」
「それはユーリのせいではないわ。きっとアレックス様には、今時間が必要なのよ。ユーリを諦める時間が。そもそも、ユーリがそんな顔をしていたら、アレックス様だって悲しいのではなくって?アレックス様の気持ちを受け入れられないと決めたのなら、せめて幸せにならないと。アレックス様が“もう僕には入り込む隙は無い”そう思わせるくらい、幸せになりなる事が、あなたに出来る唯一の事なのだから」
「私が幸せになる事が、アレックス様にできる唯一の事なの?」
「そうよ!だってあなたが幸せでなければ、自分にもまだ可能性があるのではないか?なんて期待をさせてしまうかもしれないじゃない。これ以上アレックス様に変な期待を持たせないためにも、幸せにならないとね」
レーナの言う通りだ。私はアレックス様ではなく、ディアンを選んだのだ。私が幸せにならないと、ディアンだけでなくアレックス様だって、報われない…
「ありがとう、レーナ。あなたの言う通りね。私は本当に愚かね…いつも自分の事しか考えていなくて…ディアンやアレックス様の気持ちなんて、ちっとも考えていなかったわ。私、ディアンと共に幸せになる。ただ、こんな性格だから、また悩むこともあると思うの。その時は、また話を聞いてくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。ユーリ、あなたは散々傷つき苦しんできたのですもの。誰よりも幸せにならないと」
「ありがとう、レーナ」
正直まだアレックス様の事が心配でたまならい。でも、私が浮かない顔をしていては、誰も浮かばれない。
いつかアレックス様の気持ちが落ち着き、学院に出てきてくれた時、安心してもらえる様に、出来る事を頑張ろう。
※次回、アレックス視点です。
よろしくお願いします。
「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。えっと、何の話をしていたかしら?」
「ユーリ、アレックスの事を気にしているのだろう?僕と婚約をしてから、ずっと上の空だものね…もしかして僕との婚約、嫌だったかい?」
悲しそうに呟くディアン。
「違うのよ、決してディアンの事が嫌な訳ではないの。私はディアンが大好きで、一緒にいられて幸せだと思っているわ。ただ…」
「ごめん、ユーリ。僕だってわかっているよ、アレックスの事が気になるのだろう?あの日以降、アレックスはずっと学院に来ていないからね。本当にアレックスは、どこまでユーリを苦しめれば気が済むのだろうね…」
「ディアン、それは違うわ。アレックス様を苦しませているのは、私よ…」
「そうかな?僕はそうは思わないよ。そもそもアレックスは、ユーリが自分の事を好きなのをいい事に、ずっと酷い態度を取っていたそうじゃないか。それなのにユーリが諦めた途端、急に態度を変えて…本当に大切な人なら、最初から大切にするはずだよ」
確かに私は、アレックス様に散々傷つけられてきた。たくさん涙を流し、たくさん苦しんだ。でも…それでも私は…
「ユーリの事だから、僕が何を言っても納得しないのだろうね。ユーリは変に頑固なところがあるから…」
「ごめんね、ディアン。私、本当にダメね。せっかく大好きなディアンと結ばれたのに。ディアンにまで心配をかけて…」
ディアンはずっと、私の事を思い続けてくれた人だ。私の無神経な発言で、幼いディアンを傷つけ、王都から遠ざけさせるきっかけを作った私。そんな私を受け入れ、支えてくれるディアンを、今度は私が支えたいと思っていたのに…
そうよ、今私が幸せにしなければいけないのは、ディアンよ。ディアンと共に歩むと決めた時点で、アレックス様を傷つける事は分かっていた。それなのに、ウジウジ考えてディアンに心配をかけて。
私、一体何をやっているのかしら?
「ユーリが謝る必要はないよ。ユーリの気持ちは僕もわかるからさ…」
そう言って力なくディアンが笑った。
「ディアン、ありがとう。いつまでもくよくよしていても、仕方がないわね。ねえ、ディアン、思ったよりも参加者が多そうだから、奥の方の中庭も開放した方がいいと思うのだけれど、どうかしら?ほら、あなたの家の中庭は、奥もとても魅力的でしょう?」
「ユーリがそうしたいのなら、そうしよう。そうだ、せっかくだから木に装飾を施すなんてどうかな?」
「あら、素敵ね。そういえばレーナの婚約披露パーティーの時も、綺麗な装飾が施されていたわ。明日にでもレーナに聞いてみるわね」
「よかった…ユーリが少しだけ元気になってくれて…」
「ディアン、何か言った?」
「何でもないよ。さあ、婚約披露パーティーの話はここまでにして、お茶にしよう。疲れただろう?ユーリの好きなお菓子を準備したよ」
「まあ、嬉しいわ。ディアンが準備してくれるお菓子、本当に美味しいのよね」
やっと笑顔を見せてくれたディアンが、嬉しそうにお菓子を持ってきてくれた。よく考えてみれば、ディアンの笑顔、最近見ていなかった。
最近は私の元気がなかったせいで、いつも困ったような顔をしていたものね…
私、本当にどうしようもない人間ね。ディアンの笑顔まで奪っていただなんて。申し訳なくて、涙が出そうになるのを必死に堪えた。
その後は極力笑顔を作り、ディアンとのお茶を楽しんだ。
そして翌日。
「レーナ、あなたの婚約披露パーティーの時、木々に装飾を施していたでしょう?私たちの婚約披露パーティーでもやろうと思って。色々と教えてくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。それよりもユーリ、あなた顔色が悪いわよ。最近元気もないし。やっぱりアレックス様の事が、気になるの?あんなに酷い事をされたのに、アレックス様の事を気にかけるだなんて、どれだけお人好しなのよ」
「私は別に、アレックス様の事なんて…」
「気にしていますと、顔に書いてあるわよ。あなたがそんな顔をしているから、ディアン様が不安そうな顔をしているじゃない。ユーリはアレックス様ではなく、ディアン様を選んだのでしょう?2人ともユーリが好きだったのだから、どちらかを選べばどちらかが傷つく。そんな事、あなたも分かっていた事でしょう?」
「ええ、分かっていたわ…でも、私のせいでアレックス様が、学院に来なくなってしまって…」
「それはユーリのせいではないわ。きっとアレックス様には、今時間が必要なのよ。ユーリを諦める時間が。そもそも、ユーリがそんな顔をしていたら、アレックス様だって悲しいのではなくって?アレックス様の気持ちを受け入れられないと決めたのなら、せめて幸せにならないと。アレックス様が“もう僕には入り込む隙は無い”そう思わせるくらい、幸せになりなる事が、あなたに出来る唯一の事なのだから」
「私が幸せになる事が、アレックス様にできる唯一の事なの?」
「そうよ!だってあなたが幸せでなければ、自分にもまだ可能性があるのではないか?なんて期待をさせてしまうかもしれないじゃない。これ以上アレックス様に変な期待を持たせないためにも、幸せにならないとね」
レーナの言う通りだ。私はアレックス様ではなく、ディアンを選んだのだ。私が幸せにならないと、ディアンだけでなくアレックス様だって、報われない…
「ありがとう、レーナ。あなたの言う通りね。私は本当に愚かね…いつも自分の事しか考えていなくて…ディアンやアレックス様の気持ちなんて、ちっとも考えていなかったわ。私、ディアンと共に幸せになる。ただ、こんな性格だから、また悩むこともあると思うの。その時は、また話を聞いてくれるかしら?」
「ええ、もちろんよ。ユーリ、あなたは散々傷つき苦しんできたのですもの。誰よりも幸せにならないと」
「ありがとう、レーナ」
正直まだアレックス様の事が心配でたまならい。でも、私が浮かない顔をしていては、誰も浮かばれない。
いつかアレックス様の気持ちが落ち着き、学院に出てきてくれた時、安心してもらえる様に、出来る事を頑張ろう。
※次回、アレックス視点です。
よろしくお願いします。
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