これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi

文字の大きさ
上 下
53 / 75

第53話:本当にどうしようもない人間です

しおりを挟む
「ユーリ、ユーリ、聞いているかい?」

「ごめんなさい、ちょっと考え事をしていて。えっと、何の話をしていたかしら?」

「ユーリ、アレックスの事を気にしているのだろう?僕と婚約をしてから、ずっと上の空だものね…もしかして僕との婚約、嫌だったかい?」

 悲しそうに呟くディアン。

「違うのよ、決してディアンの事が嫌な訳ではないの。私はディアンが大好きで、一緒にいられて幸せだと思っているわ。ただ…」

「ごめん、ユーリ。僕だってわかっているよ、アレックスの事が気になるのだろう?あの日以降、アレックスはずっと学院に来ていないからね。本当にアレックスは、どこまでユーリを苦しめれば気が済むのだろうね…」

「ディアン、それは違うわ。アレックス様を苦しませているのは、私よ…」

「そうかな?僕はそうは思わないよ。そもそもアレックスは、ユーリが自分の事を好きなのをいい事に、ずっと酷い態度を取っていたそうじゃないか。それなのにユーリが諦めた途端、急に態度を変えて…本当に大切な人なら、最初から大切にするはずだよ」

 確かに私は、アレックス様に散々傷つけられてきた。たくさん涙を流し、たくさん苦しんだ。でも…それでも私は…

「ユーリの事だから、僕が何を言っても納得しないのだろうね。ユーリは変に頑固なところがあるから…」

「ごめんね、ディアン。私、本当にダメね。せっかく大好きなディアンと結ばれたのに。ディアンにまで心配をかけて…」

 ディアンはずっと、私の事を思い続けてくれた人だ。私の無神経な発言で、幼いディアンを傷つけ、王都から遠ざけさせるきっかけを作った私。そんな私を受け入れ、支えてくれるディアンを、今度は私が支えたいと思っていたのに…

 そうよ、今私が幸せにしなければいけないのは、ディアンよ。ディアンと共に歩むと決めた時点で、アレックス様を傷つける事は分かっていた。それなのに、ウジウジ考えてディアンに心配をかけて。

 私、一体何をやっているのかしら?

「ユーリが謝る必要はないよ。ユーリの気持ちは僕もわかるからさ…」

 そう言って力なくディアンが笑った。

「ディアン、ありがとう。いつまでもくよくよしていても、仕方がないわね。ねえ、ディアン、思ったよりも参加者が多そうだから、奥の方の中庭も開放した方がいいと思うのだけれど、どうかしら?ほら、あなたの家の中庭は、奥もとても魅力的でしょう?」

「ユーリがそうしたいのなら、そうしよう。そうだ、せっかくだから木に装飾を施すなんてどうかな?」

「あら、素敵ね。そういえばレーナの婚約披露パーティーの時も、綺麗な装飾が施されていたわ。明日にでもレーナに聞いてみるわね」

「よかった…ユーリが少しだけ元気になってくれて…」

「ディアン、何か言った?」

「何でもないよ。さあ、婚約披露パーティーの話はここまでにして、お茶にしよう。疲れただろう?ユーリの好きなお菓子を準備したよ」

「まあ、嬉しいわ。ディアンが準備してくれるお菓子、本当に美味しいのよね」

 やっと笑顔を見せてくれたディアンが、嬉しそうにお菓子を持ってきてくれた。よく考えてみれば、ディアンの笑顔、最近見ていなかった。

 最近は私の元気がなかったせいで、いつも困ったような顔をしていたものね…

 私、本当にどうしようもない人間ね。ディアンの笑顔まで奪っていただなんて。申し訳なくて、涙が出そうになるのを必死に堪えた。

 その後は極力笑顔を作り、ディアンとのお茶を楽しんだ。

 そして翌日。

「レーナ、あなたの婚約披露パーティーの時、木々に装飾を施していたでしょう?私たちの婚約披露パーティーでもやろうと思って。色々と教えてくれるかしら?」

「ええ、もちろんよ。それよりもユーリ、あなた顔色が悪いわよ。最近元気もないし。やっぱりアレックス様の事が、気になるの?あんなに酷い事をされたのに、アレックス様の事を気にかけるだなんて、どれだけお人好しなのよ」

「私は別に、アレックス様の事なんて…」

「気にしていますと、顔に書いてあるわよ。あなたがそんな顔をしているから、ディアン様が不安そうな顔をしているじゃない。ユーリはアレックス様ではなく、ディアン様を選んだのでしょう?2人ともユーリが好きだったのだから、どちらかを選べばどちらかが傷つく。そんな事、あなたも分かっていた事でしょう?」

「ええ、分かっていたわ…でも、私のせいでアレックス様が、学院に来なくなってしまって…」

「それはユーリのせいではないわ。きっとアレックス様には、今時間が必要なのよ。ユーリを諦める時間が。そもそも、ユーリがそんな顔をしていたら、アレックス様だって悲しいのではなくって?アレックス様の気持ちを受け入れられないと決めたのなら、せめて幸せにならないと。アレックス様が“もう僕には入り込む隙は無い”そう思わせるくらい、幸せになりなる事が、あなたに出来る唯一の事なのだから」

「私が幸せになる事が、アレックス様にできる唯一の事なの?」

「そうよ!だってあなたが幸せでなければ、自分にもまだ可能性があるのではないか?なんて期待をさせてしまうかもしれないじゃない。これ以上アレックス様に変な期待を持たせないためにも、幸せにならないとね」

 レーナの言う通りだ。私はアレックス様ではなく、ディアンを選んだのだ。私が幸せにならないと、ディアンだけでなくアレックス様だって、報われない…

「ありがとう、レーナ。あなたの言う通りね。私は本当に愚かね…いつも自分の事しか考えていなくて…ディアンやアレックス様の気持ちなんて、ちっとも考えていなかったわ。私、ディアンと共に幸せになる。ただ、こんな性格だから、また悩むこともあると思うの。その時は、また話を聞いてくれるかしら?」

「ええ、もちろんよ。ユーリ、あなたは散々傷つき苦しんできたのですもの。誰よりも幸せにならないと」

「ありがとう、レーナ」

 正直まだアレックス様の事が心配でたまならい。でも、私が浮かない顔をしていては、誰も浮かばれない。

 いつかアレックス様の気持ちが落ち着き、学院に出てきてくれた時、安心してもらえる様に、出来る事を頑張ろう。



 ※次回、アレックス視点です。
 よろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

振られたあとに優しくされても困ります

菜花
恋愛
男爵令嬢ミリーは親の縁で公爵家のアルフォンスと婚約を結ぶ。一目惚れしたミリーは好かれようと猛アタックしたものの、彼の氷のような心は解けず半年で婚約解消となった。それから半年後、貴族の通う学園に入学したミリーを待っていたのはアルフォンスからの溺愛だった。ええとごめんなさい。普通に迷惑なんですけど……。カクヨムにも投稿しています。

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

新しい人生を貴方と

緑谷めい
恋愛
 私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。  突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。  2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。 * 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

夫に相手にされない侯爵夫人ですが、記憶を失ったので人生やり直します。

MIRICO
恋愛
第二章【記憶を失った侯爵夫人ですが、夫と人生やり直します。】完結です。 記憶を失った私は侯爵夫人だった。しかし、旦那様とは不仲でほとんど話すこともなく、パーティに連れて行かれたのは結婚して数回ほど。それを聞いても何も思い出せないので、とりあえず記憶を失ったことは旦那様に内緒にしておいた。 旦那様は美形で凛とした顔の見目の良い方。けれどお城に泊まってばかりで、お屋敷にいてもほとんど顔を合わせない。いいんですよ、その間私は自由にできますから。 屋敷の生活は楽しく旦那様がいなくても何の問題もなかったけれど、ある日突然パーティに同伴することに。 旦那様が「わたし」をどう思っているのか、記憶を失った私にはどうでもいい。けれど、旦那様のお相手たちがやけに私に噛み付いてくる。 記憶がないのだから、私は旦那様のことはどうでもいいのよ? それなのに、旦那様までもが私にかまってくる。旦那様は一体何がしたいのかしら…? 小説家になろう様に掲載済みです。

(本編完結)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?

水無月あん
恋愛
本編は完結してます。8/6より、番外編はじめました。よろしくお願いいたします。 私は、公爵令嬢のアリス。ピンク頭の女性を腕にぶら下げたルイス殿下に、婚約解消を告げられました。美形だけれど、無表情の婚約者が苦手だったので、婚約解消はありがたい! はれて自由の身になれて、うれしい! なのに、なぜ、近づいてくるんですか? 私に興味なかったですよね? 無表情すぎる、美形王子の本心は? こじらせ、ヤンデレ、執着っぽいものをつめた、ゆるゆるっとした設定です。お気軽に楽しんでいただければ、嬉しいです。

処理中です...