上 下
35 / 35

第34話:カイ様とこれからは生きていきます

しおりを挟む
ルイス様が帰国してから、早3ヶ月。あの後カルビア王国から何かを言ってくることはなかった。もしかして父が私を連れ戻しに来るかもしれない、そう思ったが、どうやら今のところなさそうだ。

ただ、ルイス様のあの様子だと、再びバーイン王国にやってくるのでは?と心配したが、カイ様が

“ルイス殿下がこの国に来ることはもうない。もちろん、君の父親もだ。だからアナスタシアは、安心して欲しい”

なぜか悲しそうに、そう言ったのだ。一体どういう意味だろうと思ったが、それ以上何も聞かなかった。もしかしたらカイ様が、陰で動いてくれたのかもしれない。

ちなみに私とカイ様は、先日正式に婚約をした。初めてこの国の貴族の方々にあったが、皆とてもいい人だった。

中には涙を流しながら

“陛下との結婚を決めていただき、ありがとうございました”

と言っていた人もいた。気になる令嬢たちだが、皆とてもいい人だった。私にはとても親切で

“何か困った事があったら、いつでも相談に乗りますわ”

そう言ってくれた。ただ、やはりカイ様が怖い様で、チラチラとカイ様を見ながら、時折怯えた表情を見せていた。やっぱりこの国の令嬢たちは、ちょっと失礼な様だ。

さらに王妃になる為の教育も受けているが、国は違えど王妃教育を受けていた身。王妃教育はどの国でもある程度共通の様で、復習みたいな感じで教わっている。

クロハを始め、王宮の使用人も貴族の人たちも、皆とても親切だ。その為、何不自由なく楽しく暮らしている。

そして今は、日課となった海に来ている。

「今日の海も穏やかね」

今日も穏やかな海。この海を見ると、私の心も落ち着くのだ。初めてここに来た時は、悲しくて辛くて心が潰れそうだった。でも今は…

「アナスタシア、また海に来ていたのか。本当に海が好きだね」

私の元にやって来たのは、カイ様だ。

「はい、海に来ると、心が落ち着くのです。カイ様、あの時私を助けて下さり、ありがとうございました。今あなた様の傍で生きていられることが、幸せでたまらないのです」

「私の方こそ、瀕死の状態からよく生き延びてくれた。もしかしたら君の専属メイドのリーナ殿が、生かしてくれたのかもしれないな。だって彼女は、君の事を大切に思ってくれていたのだろう?」

「リーナがですか?」

ふと海の方に目をやった。確かにリーナなら、私の幸せを誰よりも願ってくれてくれただろう。

その時だった。

”お嬢様、よかったですね。どうか幸せになってください…“

そうリーナの声が聞こえた気がした。もしかしたらリーナは、殺された後もずっと私の傍にいてくれたのかもしれない。そして命の危険に晒された私を、密かに助けてくれていたのかも…

そう思ったら、涙が溢れ出てきた。

「リーナは生前、ずっと私に寄り添い、私の幸せを考えていてくれた大切な人です。もしかしたらリーナは、殺された後もずっと私を見守っていてくれたのかもしれません。私が心から愛し、笑い合える人物に出会える様に…」

「そうかもしれないね。そもそも嵐に巻き込まれた時点で助かるだなんて、奇跡としか考えられない。それに運よく我が国の海岸に流れ着くなんて…やっぱりリーナ殿が助けてくれたんだよ。そう考えると、リーナ殿は私の恩人でもあるな。アナスタシアを私の元に連れてきてくれたのだから」

そう言って私を抱きしめるカイ様。

「アナスタシア、私も君も家族には恵まれなかった。だからこそ、私たちはこれから、誰もが羨む家族になろう。そしてこの国を、より良いものにしていこう」

カイ様が優しく微笑みながら、そう言った。

「はい、もちろんですわ。誰よりも素敵な家庭を作っていきましょう。2人で」


~数年後~
「「ほんぎゃぁぁぁ」」

「陛下、おめでとうございます。可愛らしい双子の王子殿下と王女殿下でございます」

「産まれたか!!」

私の元に駆け寄ってくるのは、カイ様だ。

「アナスタシア、お疲れ様。よく頑張ったね。元気な双子の男の子と女の子だ」

嬉しそうに笑うカイ様。そう、私は今、まさにカイ様との子供を出産したのだ。すぐに私の元に産まれたばかりの子供たちがやって来た。男の子の方はカイ様に似て黒い髪に赤い瞳をしている。女の子の方は…

「えっ…リーナ?」

そう、女の子の方は、金色の髪にエメラルドグリーンの瞳をしていたのだ。

「女の子の方は、私の母親に髪の毛は似てしまった様だね…でも、瞳はアナスタシアと同じだ。アナスタシア?どうしたんだ?」

「いえ…女の子の方が、リーナに髪も瞳の色も同じだったので…私とリーナは、瞳の色が同じだったのです…エメラルドグリーンの瞳なんて珍しいねって、よく2人で話していて…」

「そうだったのか。もしかしたら、この子はリーナ殿の生まれ変わりかもしれないな。よし、女の子の方はリーナという名前にしよう」

「カイ様、よろしいのですか?」

「ああ、元々女の子はアナスタシアにちなんだ名前にしようと思っていたんだ。男の子は、ルイにしようと思っている」

「ルイにリーナ、素敵な名前ですわ。あぁ…なんて可愛いのかしら?私たちの子供たちは」

産まれたばかりの子供たちを抱きしめる。小さくてふにゃふにゃで、とっても可愛い。

「本当にかわいい子たちだね。アナスタシア、こんなにも可愛い子供たちを産んでくれてありがとう。この子たちの為にも、今まで以上に平和な国をつくらないとな」

「はい、もちろんですわ。この子たちが安心して暮らせる国を、これからも作っていきましょう」

そっとカイ様の手に触れる。これからは家族4人で、温かい家庭を作っていこう。そして、今まで以上に戦争のない平和な国を目指していこう。大切な人たちの為に…


おしまい




~あとがき~
これにて完結です。
最後までお読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います

ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には 好きな人がいた。 彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが 令嬢はそれで恋に落ちてしまった。 だけど彼は私を利用するだけで 振り向いてはくれない。 ある日、薬の過剰摂取をして 彼から離れようとした令嬢の話。 * 完結保証付き * 3万文字未満 * 暇つぶしにご利用下さい

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】偽りの婚約のつもりが愛されていました

ユユ
恋愛
可憐な妹に何度も婚約者を奪われて生きてきた。 だけど私は子爵家の跡継ぎ。 騒ぎ立てることはしなかった。 子爵家の仕事を手伝い、婚約者を持つ令嬢として 慎ましく振る舞ってきた。 五人目の婚約者と妹は体を重ねた。 妹は身籠った。 父は跡継ぎと婚約相手を妹に変えて 私を今更嫁に出すと言った。 全てを奪われた私はもう我慢を止めた。 * 作り話です。 * 短めの話にするつもりです * 暇つぶしにどうぞ

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

処理中です...