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第20話:私の気持ち
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私はカイ様の目を真っすぐ見つめた。
「それは違いますわ!あなた様は、血も涙もない怪物ではございません。現に、お母様を殺めてしまった時、嘆き悲しんだのではありませんか?それに今でも、弟さんとお母様の件で、苦しんでいらっしゃるではありませんか。本当に血も涙もない怪物なら、きっと何とも思っていないはずです!それに…」
「それに?」
「たとえ実の親子であっても、決して分かり合えない事もあるのです。私の両親も、私を政治の道具としてしか見ていませんでした。私の利用価値が無くなれば、容赦なく捨てる…そんな人だったのです。私はどうしても…どうしても受け入れられない事があり、あの人たちから逃げました。とんだ親不孝者です。でも…後悔はしていません。ですから、陛下もどうかもうご自分を責めるのはお止めください。そして、前に進みましょう」
「前に進む?」
「そうですわ、だって陛下は、こんなにも素敵な殿方ですもの。それに陛下は、もう十分苦しんだのでしょう。ですから、もうこれ以上苦しまないで下さい。て、生意気な事を申してしまい、申し訳ございません」
ちょっと調子に乗りすぎて、言いたい事をズケズケと言ってしまったわ。
「どうしてアナスタシアが謝るんだい?ありがとう、君に話しを聞いてもらって、心が軽くなったよ。私はずっと、心の中で弟と母親に罪悪感を抱いて生きて来た。でも…確かに君の言う通り、いつまでも後ろを向いていても仕方がないな…」
「そうですよ…それでもどうしても気持ちの整理がつかないなら、弟さんとお母様に手紙を書いたらどうでしょうか?手紙を書いて、海に流すのです」
「弟と母親に手紙か…」
「はい、私もこの国に来て、ある女性に手紙を書きましたわ。いつも私の傍に寄り添ってくれた、姉の様な存在の女性に。でも、私のせいでその人は無残にも殺されてしまったのです。正直、今でもまだ彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも…いつまでも悲しんでいたら、きっと天国にいる彼女も心配するだろう。今はそう思っておりますの…」
私のせいで命を奪われたリーナ。彼女の事を考えると、胸が張り裂けそうになる。それでも、きっとリーナなら“お嬢様、いつまでも泣いていないで、前を向いて進んでください。あなた様が泣いていては、私はおちおち天国で安らかに眠る事もできませんわ”と言って、怒られるだろう。
だから私は、決めたのだ。前を向いて歩くと。
「アナスタシア、すまない、辛い事を思い出させてしまったね。わかったよ、弟と母親に手紙を書いて、海に流そう。海に流すときは、アナスタシアも一緒に来てくれるかい?」
どうやら無意識に涙が溢れ出ていた様で、私にハンカチを渡してくれたカイ様。相変わらずカイ様のハンカチは、私の刺しゅう入りのものだ。そっとハンカチで涙をぬぐう。
「ええ、もちろんですわ。それなら、私もリーナに手紙を書きます。ここに来たばかりの頃、一度書いたのですが、また書きたくなりましたので」
あの時は、リーナに対しての謝罪の手紙だった。でも今回は…
「随分と冷えてきたね。そろそろ帰ろうか」
そう言うと、カイ様が上着を私にかけてくれた。カイ様の上着、温かい…
当たり前の様に、カイ様と手を繋いで馬車へと向かう。
「カイ様、どうして急に、ご家族の事を話してくださったのですか?」
どうしても気になっていたことを、ポツリと聞いた。
「それは、その…アナスタシアには、私の事を知って欲しかったからだよ…正直この話をしたら、君に嫌われてしまうかもしれないと不安だった。でも、君に話してよかったよ…」
そう言って少し恥ずかしそうに笑ったカイ様。
自分の事を知って欲しかった、か…
なぜだろう、その言葉が心の中に響き渡る。カイ様は、辛い過去を私に話してくれた。きっと私に過去の話をするのは勇気がいっただろう。それでも自分の事を話してくれた事が、嬉しいのだ。
このままずっと、カイ様と一緒にいられたら、きっと幸せだろう。彼の傍で、彼を支えられたら。でも…
私はまだ、自分の正体を話していない。そう、カイ様に隠し事をしているのだ。本当は正直に話したい。でも…もし正直に話したとして、元婚約者の側室が嫌で国を出てきた、我が儘な令嬢と思われたら…
正直今の私には、カイ様に嫌われることが一番怖い。それに、その様な理由なら国に帰りなさいと言われるかもしれない。
私は、どうしても国に帰りたくない。出来る事ならこの国にずっといたい。それに、カイ様に嫌われるくらいなら、彼の妻になれなくても、近くで見守っているだけでもいい。
やっぱり、自分の事を話すのは止めよう。この関係を守るためにも…
※次回、カイ視点です。
「それは違いますわ!あなた様は、血も涙もない怪物ではございません。現に、お母様を殺めてしまった時、嘆き悲しんだのではありませんか?それに今でも、弟さんとお母様の件で、苦しんでいらっしゃるではありませんか。本当に血も涙もない怪物なら、きっと何とも思っていないはずです!それに…」
「それに?」
「たとえ実の親子であっても、決して分かり合えない事もあるのです。私の両親も、私を政治の道具としてしか見ていませんでした。私の利用価値が無くなれば、容赦なく捨てる…そんな人だったのです。私はどうしても…どうしても受け入れられない事があり、あの人たちから逃げました。とんだ親不孝者です。でも…後悔はしていません。ですから、陛下もどうかもうご自分を責めるのはお止めください。そして、前に進みましょう」
「前に進む?」
「そうですわ、だって陛下は、こんなにも素敵な殿方ですもの。それに陛下は、もう十分苦しんだのでしょう。ですから、もうこれ以上苦しまないで下さい。て、生意気な事を申してしまい、申し訳ございません」
ちょっと調子に乗りすぎて、言いたい事をズケズケと言ってしまったわ。
「どうしてアナスタシアが謝るんだい?ありがとう、君に話しを聞いてもらって、心が軽くなったよ。私はずっと、心の中で弟と母親に罪悪感を抱いて生きて来た。でも…確かに君の言う通り、いつまでも後ろを向いていても仕方がないな…」
「そうですよ…それでもどうしても気持ちの整理がつかないなら、弟さんとお母様に手紙を書いたらどうでしょうか?手紙を書いて、海に流すのです」
「弟と母親に手紙か…」
「はい、私もこの国に来て、ある女性に手紙を書きましたわ。いつも私の傍に寄り添ってくれた、姉の様な存在の女性に。でも、私のせいでその人は無残にも殺されてしまったのです。正直、今でもまだ彼女には申し訳ない気持ちでいっぱいです。でも…いつまでも悲しんでいたら、きっと天国にいる彼女も心配するだろう。今はそう思っておりますの…」
私のせいで命を奪われたリーナ。彼女の事を考えると、胸が張り裂けそうになる。それでも、きっとリーナなら“お嬢様、いつまでも泣いていないで、前を向いて進んでください。あなた様が泣いていては、私はおちおち天国で安らかに眠る事もできませんわ”と言って、怒られるだろう。
だから私は、決めたのだ。前を向いて歩くと。
「アナスタシア、すまない、辛い事を思い出させてしまったね。わかったよ、弟と母親に手紙を書いて、海に流そう。海に流すときは、アナスタシアも一緒に来てくれるかい?」
どうやら無意識に涙が溢れ出ていた様で、私にハンカチを渡してくれたカイ様。相変わらずカイ様のハンカチは、私の刺しゅう入りのものだ。そっとハンカチで涙をぬぐう。
「ええ、もちろんですわ。それなら、私もリーナに手紙を書きます。ここに来たばかりの頃、一度書いたのですが、また書きたくなりましたので」
あの時は、リーナに対しての謝罪の手紙だった。でも今回は…
「随分と冷えてきたね。そろそろ帰ろうか」
そう言うと、カイ様が上着を私にかけてくれた。カイ様の上着、温かい…
当たり前の様に、カイ様と手を繋いで馬車へと向かう。
「カイ様、どうして急に、ご家族の事を話してくださったのですか?」
どうしても気になっていたことを、ポツリと聞いた。
「それは、その…アナスタシアには、私の事を知って欲しかったからだよ…正直この話をしたら、君に嫌われてしまうかもしれないと不安だった。でも、君に話してよかったよ…」
そう言って少し恥ずかしそうに笑ったカイ様。
自分の事を知って欲しかった、か…
なぜだろう、その言葉が心の中に響き渡る。カイ様は、辛い過去を私に話してくれた。きっと私に過去の話をするのは勇気がいっただろう。それでも自分の事を話してくれた事が、嬉しいのだ。
このままずっと、カイ様と一緒にいられたら、きっと幸せだろう。彼の傍で、彼を支えられたら。でも…
私はまだ、自分の正体を話していない。そう、カイ様に隠し事をしているのだ。本当は正直に話したい。でも…もし正直に話したとして、元婚約者の側室が嫌で国を出てきた、我が儘な令嬢と思われたら…
正直今の私には、カイ様に嫌われることが一番怖い。それに、その様な理由なら国に帰りなさいと言われるかもしれない。
私は、どうしても国に帰りたくない。出来る事ならこの国にずっといたい。それに、カイ様に嫌われるくらいなら、彼の妻になれなくても、近くで見守っているだけでもいい。
やっぱり、自分の事を話すのは止めよう。この関係を守るためにも…
※次回、カイ視点です。
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