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第19話:カイ様の過去
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日が沈みかけた頃、孤児院を後にする私達。すっかり私とカイ様になれた子供たちは、お別れの時に泣いていた。また近いうちに遊びに来ると約束して、後ろ髪を引かれる思いで、その場を後にしたのだった。
「アナスタシア嬢、今日は本当にありがとう。君のお陰で、子供たちと仲良くなることが出来た。それにしても、君は随分と子供の扱いになれているのだね」
「陛下、アナスタシア嬢だなんて。さっきまでと同じように、アナスタシアとお呼びください。私は自国にいた頃から、慈悲活動の一環でよく孤児院を訪れておりましたので。でも、いつも子供たちの無邪気な笑顔に、逆に元気をもらっておりましたわ。今日も子供たちに、元気をたくさんいただきましたし」
「アナスタシア…君こそさっきまでと同じように、私の事を名前で呼んでくれ。もちろん、無理強いはしないが…それにしても、本当に君は子供が好きなのだね。見ていてわかるよ」
「ありがとうございます、それでは、カイ様とこれからもお呼びさせていただきます。そうですわね、子供は好きですわ」
まだ私がルイス様の婚約者だった頃、よく“子供はたくさん欲しいね”なんて話をしていた。でももうその夢は、決して叶わないけれど…
「アナスタシア、悲しそうな顔をしてどうしたのだい?」
「何でもありませんわ。カイ様、見て下さい、夕日がとても綺麗ですわ。少し海辺を散歩しませんか?」
ちょうど海沿いを走っていた馬車の窓から、夕日に照らされた美しい海が見えたのだ。
「そうだな、少し歩こうか」
馬車を止め、2人で海岸沿いを歩く。こうやってカイ様と一緒に2人で歩けるなんて、幸せだわ。そっとカイ様の手を握る。大きくてゴツゴツしているけれど、温かくてなんだか落ち着く。
「今日は街に連れて来てくださり、ありがとうございます。カイ様がいかにこの国の民たちの事を思っているのかが、よく分かりましたわ。弱い者を切り捨てずに、手を差し伸べられるあなた様を、私は尊敬いたしますし、素直に凄いと思います」
まだ21歳なのに、この国をたった1人で守っているだけでもすごいのに、孤児院にまで足を運んでいらっしゃるだなんて…
「私は…すごくもないし尊敬される様な人間ではない…」
急に立ち止まったかと思うと、絞り出すような声でそう呟いたカイ様。
「カイ様?」
一体どうしたのかしら?
「私は、実の弟と母親をこの手で殺めた人間だ。だから私は、君に尊敬される様な人間ではないのだよ」
クルリとこちらを振り向くと、カイ様が悲しそうに呟いた。その瞳は、酷く動揺しているとともに、悲しみがにじみ出ていた。その姿を見たら、胸が締め付けられそうになった。
「カイ様、私はあなた様の過去に、何が起こったのかは知りません。でも…弟さんとお母様を殺めてしまったのは、やむを得ない事情があったのではないですか?それに、血のつながった親子であっても、分かり合えない事もあります。私と両親の様に…」
私は知っている、カイ様はただ理由もなしに、家族を殺める様な事をする人ではないという事を。この半年、ずっとカイ様を見て来たのだから。それに…
「お母様の事は分かりませんが、弟さんの事は、歴史書で少し読みましたわ。隣国と和平条約を結んで、これから平和に向けて動き出すと言う時に、謀反を起こそうとしたのですよね。これからという時に、王族がゴタゴタを引き起こせば、国が乱れます。そうなれば、せっかく平和になった国は、また混乱しますわ。それを避けるためにも、厳正なる処罰を与えたのではありませんか?カイ様、お辛い判断をされたのですね。でも、あなた様のせいではありませんわ。だから、ご自分を責めないで下さい」
図書館でこの国の勉強をしている時、少しだけ歴史を勉強したのだ。14歳という異例の若さで国王に就任したカイ様。きっと並大抵の事ではなかっただろう…
「アナスタシア…君って子は…」
美しい真っ赤な瞳から、ポロポロと涙を流すカイ様。
「母は、昔から弟を寵愛し、私を憎んでいた。だから、弟を殺した私が許せなかったのだろう。私の寝首を掻こうとしたところで、私が母を剣で切り殺したのだ。この顔の傷は、その時の傷だ…」
なんと!あの顔の傷は、実のお母様から付けられた傷だったなんて…
「カイ様、顔の傷を戦争の勲章の様な事を申してしまい、申し訳ございません。そうでしたか、お母様に襲われたときの…さぞお辛かったでしょう」
「不可抗力だったとはいえ、私は実の母を殺したのだ…私は血も涙もない怪物なんだよ…」
血も涙もない怪物ですって!
「アナスタシア嬢、今日は本当にありがとう。君のお陰で、子供たちと仲良くなることが出来た。それにしても、君は随分と子供の扱いになれているのだね」
「陛下、アナスタシア嬢だなんて。さっきまでと同じように、アナスタシアとお呼びください。私は自国にいた頃から、慈悲活動の一環でよく孤児院を訪れておりましたので。でも、いつも子供たちの無邪気な笑顔に、逆に元気をもらっておりましたわ。今日も子供たちに、元気をたくさんいただきましたし」
「アナスタシア…君こそさっきまでと同じように、私の事を名前で呼んでくれ。もちろん、無理強いはしないが…それにしても、本当に君は子供が好きなのだね。見ていてわかるよ」
「ありがとうございます、それでは、カイ様とこれからもお呼びさせていただきます。そうですわね、子供は好きですわ」
まだ私がルイス様の婚約者だった頃、よく“子供はたくさん欲しいね”なんて話をしていた。でももうその夢は、決して叶わないけれど…
「アナスタシア、悲しそうな顔をしてどうしたのだい?」
「何でもありませんわ。カイ様、見て下さい、夕日がとても綺麗ですわ。少し海辺を散歩しませんか?」
ちょうど海沿いを走っていた馬車の窓から、夕日に照らされた美しい海が見えたのだ。
「そうだな、少し歩こうか」
馬車を止め、2人で海岸沿いを歩く。こうやってカイ様と一緒に2人で歩けるなんて、幸せだわ。そっとカイ様の手を握る。大きくてゴツゴツしているけれど、温かくてなんだか落ち着く。
「今日は街に連れて来てくださり、ありがとうございます。カイ様がいかにこの国の民たちの事を思っているのかが、よく分かりましたわ。弱い者を切り捨てずに、手を差し伸べられるあなた様を、私は尊敬いたしますし、素直に凄いと思います」
まだ21歳なのに、この国をたった1人で守っているだけでもすごいのに、孤児院にまで足を運んでいらっしゃるだなんて…
「私は…すごくもないし尊敬される様な人間ではない…」
急に立ち止まったかと思うと、絞り出すような声でそう呟いたカイ様。
「カイ様?」
一体どうしたのかしら?
「私は、実の弟と母親をこの手で殺めた人間だ。だから私は、君に尊敬される様な人間ではないのだよ」
クルリとこちらを振り向くと、カイ様が悲しそうに呟いた。その瞳は、酷く動揺しているとともに、悲しみがにじみ出ていた。その姿を見たら、胸が締め付けられそうになった。
「カイ様、私はあなた様の過去に、何が起こったのかは知りません。でも…弟さんとお母様を殺めてしまったのは、やむを得ない事情があったのではないですか?それに、血のつながった親子であっても、分かり合えない事もあります。私と両親の様に…」
私は知っている、カイ様はただ理由もなしに、家族を殺める様な事をする人ではないという事を。この半年、ずっとカイ様を見て来たのだから。それに…
「お母様の事は分かりませんが、弟さんの事は、歴史書で少し読みましたわ。隣国と和平条約を結んで、これから平和に向けて動き出すと言う時に、謀反を起こそうとしたのですよね。これからという時に、王族がゴタゴタを引き起こせば、国が乱れます。そうなれば、せっかく平和になった国は、また混乱しますわ。それを避けるためにも、厳正なる処罰を与えたのではありませんか?カイ様、お辛い判断をされたのですね。でも、あなた様のせいではありませんわ。だから、ご自分を責めないで下さい」
図書館でこの国の勉強をしている時、少しだけ歴史を勉強したのだ。14歳という異例の若さで国王に就任したカイ様。きっと並大抵の事ではなかっただろう…
「アナスタシア…君って子は…」
美しい真っ赤な瞳から、ポロポロと涙を流すカイ様。
「母は、昔から弟を寵愛し、私を憎んでいた。だから、弟を殺した私が許せなかったのだろう。私の寝首を掻こうとしたところで、私が母を剣で切り殺したのだ。この顔の傷は、その時の傷だ…」
なんと!あの顔の傷は、実のお母様から付けられた傷だったなんて…
「カイ様、顔の傷を戦争の勲章の様な事を申してしまい、申し訳ございません。そうでしたか、お母様に襲われたときの…さぞお辛かったでしょう」
「不可抗力だったとはいえ、私は実の母を殺したのだ…私は血も涙もない怪物なんだよ…」
血も涙もない怪物ですって!
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