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第8話:この方が国王陛下でした
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「あの…よろしければ少しお話をしませんか?あなた様は陛下の側近の方なのでしょう?陛下についてや、この国について色々と知りたいのです」
「…君は、国王に興味があるのかい?」
「ええ、もちろんですわ。だって陛下は、私の様などこの馬の骨かもわからない女を、助けて下さったのですもの。きっとお優しい方なのだと思います。本当はお会いしてお礼を言いたいのですが、気難しい方とお伺いしたので…未だに会う事が叶わなくて…」
この国はいつも他国から狙われていると聞く。私の様な女でも、もしかしたらスパイと疑われてもおかしくない。実際に意識が戻った時、クロハにスパイの疑いを掛けられたし。
それなのに、私を助けてくれた陛下。この人と仲良くなって、あわよくば陛下に会えたらと考えたのだ。やっぱり直接お礼が言いたいものね。
「君は…この国の国王の事を美化しすぎだ…実際は冷酷で血も涙もない男だ…会わない方がいい」
なぜか辛そうに呟く騎士様。どうしてこの人が、こんなにも辛そうな顔をしているのかしら?もしかして…
その時だった。ゆっくりとクロハがこっちにやって来たのだ。
「アナスタシア様、お伺いしたいのですが、この男性の事をどうお思いですか?」
クロハが急に変な事を聞いて来たのだ。
「どうって…この国を守って下さる騎士様だと考えているのだけれど、違うのかしら?」
「あの…そういう事ではなくて…ほら、顔に傷があるし、目つきも鋭いし…この国の令嬢は、彼を見るとガタガタと震えあがるのです。酷い方だと、気絶する方もいらっしゃいます」
「まあ、この国の令嬢たちは、失礼な方が多いのね。確かに目つきは鋭いと感じますが、その瞳からは殺気立ったものは感じませんし、傷も特に気になりませんわ。この国は頻繁に隣国が攻めてくると聞いた事があります。ですからきっと、その傷痕も戦争に行って出来たものなのでしょう?それなら、立派な勲章ですわ」
確かに目つきは鋭いが、私にはそんなに悪い人には見えない。そもそも見た目で人を判断するなんて、良くないわ。
「ですって、陛下」
ポツリとクロハが呟いたのだ。えっ?今、陛下って言ったわよね。
ビックリして、男性の方を見る。すると
「おい、クロハ、私の正体をばらさないでくれ!」
すかさずクロハに怒っていた。どうやらこの男性が、この国の国王陛下の様だ。
「あの…やはりあなた様が国王陛下でしたのね。どこの馬の骨か分からない私を助けて下さり、本当にありがとうございました。ずっと直接会って、お礼が言いたかったのです。それから、私が刺繍を入れたハンカチを使って下さっていたのですね。嬉しいですわ」
陛下に向かって、改めて頭を下げた。そうだわ、ついでにあの件もお願いしないと。
「あの…助けて頂いた上にこんな図々しいお願いをするのも心苦しいのですが…私はもう、帰る家がありません。どうかこの宮殿で働かせていただけないでしょうか?と言っても、私は本当に世間知らずで、思う様に仕事が出来ないでしょう。ですからお給料は結構ですわ。衣食住を与えて下されば、それだけで十分です」
どうかお願いします!と言わんばかりに、陛下に迫る。
「お…落ち着いてくれ…君はどこかの貴族と、クロハから聞いた…そして、誘拐されてこの国にたどり着いたという事も。きっと色々と苦労をしたのだろう。とにかくしばらくは、このまま生活してもらって構わない。その後、どこかよさそうな貴族に嫁げる様、手配しよう」
陛下が提案してくれた条件は、非常に有難いものだ。でも…
「お心使い、ありがとうございます。でも、どこの馬の骨かも分からない私を、この国の貴族に押し付けるのは申し訳ない事です。それに今は、結婚などは考えられませんので…」
「そうか…わかった。それでは、しばらくゆっくりと過ごすといい。それから君は刺繍がとても上手だ。もしどうしても何かしたいと言うのであれば、その…また私に刺繍を入れたハンカチを、プレゼントしてくれるだろうか?もちろん、無理強いはしないが…」
「刺繍なら私、とても得意なのです。はい、是非刺繍を入れさせていただきますわ。そうですわ、陛下は何がお好きですか?どうせなら陛下のお好きなものを入れさせていただきます。陛下の事、もっと色々と教えてくださいますか?あっ、でも私があまり馴れ馴れしくすると、王妃様に申し訳ないですわよね」
こんなにも素敵な男性なのだ。きっと素敵な奥様がいるのだろう。
「王妃?私は独身だ。それに婚約者もいない。好きな動物は、獅子が好きだ…」
「まあ、陛下は独身でいらっしゃるのですか?もしかして、女性が好きではないとか…」
そういえばさっき、令嬢たちが震えあがり気絶すると、非常に失礼な話を聞いた。もしかして、そのせいで令嬢が苦手なのかしら?
「別に令嬢が嫌いという訳ではない。ただ…私と結婚してくれる物好きがいないだけだ…私は怪物の様な人間だからな…」
「怪物だなんて、面白い事をおっしゃいますね。という事は、怪物の様にお強いのでしょう。あなた様のお話は、少し聞いたお事がありますわ。この国を守る為、若き国王が自ら剣を握り戦って、今の平和をつかみ取ったと。この国に生きる民の為、自ら先陣を切って戦われるなんて、本当に素敵ですわ。私の国は、ずっと昔から戦争とは無縁で、皆平和ボケしておりましたから」
「平和ボケか…その方が幸せだろう。戦争なんて、しない方がいい。悲しみや憎しみを生むだけだ…」
泣かしそうに呟いた陛下。その瞳を見た瞬間、私が想像する事も出来ないくらい、きっと辛く悲しい経験をたくさんして来たのだろう。なんだか胸が締め付けられるような気持ちになったのだった。
「…君は、国王に興味があるのかい?」
「ええ、もちろんですわ。だって陛下は、私の様などこの馬の骨かもわからない女を、助けて下さったのですもの。きっとお優しい方なのだと思います。本当はお会いしてお礼を言いたいのですが、気難しい方とお伺いしたので…未だに会う事が叶わなくて…」
この国はいつも他国から狙われていると聞く。私の様な女でも、もしかしたらスパイと疑われてもおかしくない。実際に意識が戻った時、クロハにスパイの疑いを掛けられたし。
それなのに、私を助けてくれた陛下。この人と仲良くなって、あわよくば陛下に会えたらと考えたのだ。やっぱり直接お礼が言いたいものね。
「君は…この国の国王の事を美化しすぎだ…実際は冷酷で血も涙もない男だ…会わない方がいい」
なぜか辛そうに呟く騎士様。どうしてこの人が、こんなにも辛そうな顔をしているのかしら?もしかして…
その時だった。ゆっくりとクロハがこっちにやって来たのだ。
「アナスタシア様、お伺いしたいのですが、この男性の事をどうお思いですか?」
クロハが急に変な事を聞いて来たのだ。
「どうって…この国を守って下さる騎士様だと考えているのだけれど、違うのかしら?」
「あの…そういう事ではなくて…ほら、顔に傷があるし、目つきも鋭いし…この国の令嬢は、彼を見るとガタガタと震えあがるのです。酷い方だと、気絶する方もいらっしゃいます」
「まあ、この国の令嬢たちは、失礼な方が多いのね。確かに目つきは鋭いと感じますが、その瞳からは殺気立ったものは感じませんし、傷も特に気になりませんわ。この国は頻繁に隣国が攻めてくると聞いた事があります。ですからきっと、その傷痕も戦争に行って出来たものなのでしょう?それなら、立派な勲章ですわ」
確かに目つきは鋭いが、私にはそんなに悪い人には見えない。そもそも見た目で人を判断するなんて、良くないわ。
「ですって、陛下」
ポツリとクロハが呟いたのだ。えっ?今、陛下って言ったわよね。
ビックリして、男性の方を見る。すると
「おい、クロハ、私の正体をばらさないでくれ!」
すかさずクロハに怒っていた。どうやらこの男性が、この国の国王陛下の様だ。
「あの…やはりあなた様が国王陛下でしたのね。どこの馬の骨か分からない私を助けて下さり、本当にありがとうございました。ずっと直接会って、お礼が言いたかったのです。それから、私が刺繍を入れたハンカチを使って下さっていたのですね。嬉しいですわ」
陛下に向かって、改めて頭を下げた。そうだわ、ついでにあの件もお願いしないと。
「あの…助けて頂いた上にこんな図々しいお願いをするのも心苦しいのですが…私はもう、帰る家がありません。どうかこの宮殿で働かせていただけないでしょうか?と言っても、私は本当に世間知らずで、思う様に仕事が出来ないでしょう。ですからお給料は結構ですわ。衣食住を与えて下されば、それだけで十分です」
どうかお願いします!と言わんばかりに、陛下に迫る。
「お…落ち着いてくれ…君はどこかの貴族と、クロハから聞いた…そして、誘拐されてこの国にたどり着いたという事も。きっと色々と苦労をしたのだろう。とにかくしばらくは、このまま生活してもらって構わない。その後、どこかよさそうな貴族に嫁げる様、手配しよう」
陛下が提案してくれた条件は、非常に有難いものだ。でも…
「お心使い、ありがとうございます。でも、どこの馬の骨かも分からない私を、この国の貴族に押し付けるのは申し訳ない事です。それに今は、結婚などは考えられませんので…」
「そうか…わかった。それでは、しばらくゆっくりと過ごすといい。それから君は刺繍がとても上手だ。もしどうしても何かしたいと言うのであれば、その…また私に刺繍を入れたハンカチを、プレゼントしてくれるだろうか?もちろん、無理強いはしないが…」
「刺繍なら私、とても得意なのです。はい、是非刺繍を入れさせていただきますわ。そうですわ、陛下は何がお好きですか?どうせなら陛下のお好きなものを入れさせていただきます。陛下の事、もっと色々と教えてくださいますか?あっ、でも私があまり馴れ馴れしくすると、王妃様に申し訳ないですわよね」
こんなにも素敵な男性なのだ。きっと素敵な奥様がいるのだろう。
「王妃?私は独身だ。それに婚約者もいない。好きな動物は、獅子が好きだ…」
「まあ、陛下は独身でいらっしゃるのですか?もしかして、女性が好きではないとか…」
そういえばさっき、令嬢たちが震えあがり気絶すると、非常に失礼な話を聞いた。もしかして、そのせいで令嬢が苦手なのかしら?
「別に令嬢が嫌いという訳ではない。ただ…私と結婚してくれる物好きがいないだけだ…私は怪物の様な人間だからな…」
「怪物だなんて、面白い事をおっしゃいますね。という事は、怪物の様にお強いのでしょう。あなた様のお話は、少し聞いたお事がありますわ。この国を守る為、若き国王が自ら剣を握り戦って、今の平和をつかみ取ったと。この国に生きる民の為、自ら先陣を切って戦われるなんて、本当に素敵ですわ。私の国は、ずっと昔から戦争とは無縁で、皆平和ボケしておりましたから」
「平和ボケか…その方が幸せだろう。戦争なんて、しない方がいい。悲しみや憎しみを生むだけだ…」
泣かしそうに呟いた陛下。その瞳を見た瞬間、私が想像する事も出来ないくらい、きっと辛く悲しい経験をたくさんして来たのだろう。なんだか胸が締め付けられるような気持ちになったのだった。
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