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第7話:男性に会いました
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バーイン王国に来てから、2週間が過ぎた。私の体調もすっかり良くなり、平和に暮らしている。ただ、このまま見ず知らずの私が、王宮でお世話になっている訳にはいかないと思い、再度クロハに王宮で働きたい旨を伝えた。
すると
“アナスタシア様は陛下の客人ですので、どうかこのままお過ごしくださいませ。陛下にも許可を取ってありますので”
と、言われてしまったのだ。それなら陛下に会って直接お礼を言いたいと伝えたのだが、やはり陛下は気難しい方の様で、会う事は未だに叶っていない。それでも私の命を助けてくれただけでなく、未だに衣食住を与えて下さり、メイドまで付けて下さっている陛下には感謝してもしきれない。
ただ、さすがに何もしないのも気が引けるので、私が唯一得意としている刺繍をハンカチに入れて、陛下に贈る事にした。
私が入れた刺繍のハンカチなんて、貰っても嬉しくもないかもしれない。それに裁縫セットやハンカチも、王宮で準備してくれたものだし…それでも、どうしても感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
手始めに2枚のハンカチに刺繍を入れ、クロハ経由で渡してもらった。いらなかったら捨ててもらっても構わないとも伝えた。
他にも少しでも自分で生活が出来る様に、今服の着方や湯あみの方法を覚えている。もう私は公爵令嬢ではないのだから、自分の事は自分で出来る様にならないと。
今日も王宮の図書館で、市民生活について勉強をした後、大好きな海へとやって来た。この海に来ると、なんだか心穏やかになるのだ。
「この貝殻、とても綺麗ね。この国では、貝殻やサンゴ、真珠などを加工して、アクセサリーを作って生計を立てている人がいると書いてあったわ。この貝殻を集めて売れば、私も1人で生きて行けるかしら?」
そう呟きながら、貝殻を拾う。そんな私を見て、くすくすと笑っているクロハ。何が可笑しいのかしら?訳が分からず、首をコテンとかしげていると…
「アナスタシア様、心の声が言葉として出ておりますよ。確かに貝殻を加工して売っている人はおりますが、貝殻は非常に安価なので、それだけでは生計は立てられませんわ」
「まあ、そうなのね。でもこの貝殻、とても綺麗よ。せっかくだから、拾って帰るわ。何かに使えるかもしれないから」
次々と貝殻を拾っていく。出来るだけ欠けていない物がいいわね。あら?これなんてとても綺麗。つい頬が緩んでしまう。
その時だった。黒色の髪をした男性が、岩陰からこちらを睨んでいるのが見えた。あら?見ない人だわ。誰かしら?ここは王宮内だから、きっと悪い人ではないわよね。
向こうもこちらに気が付いたのか、クルリと反対側を向くと、そのまま去って行こうとしている。その時だった、ハンカチがポロリと落ちたのだ。
「あの…ハンカチが落ちましたわ」
急いで駆け寄り、ハンカチを拾う。このハンカチは…
ゆっくり顔をあげると、赤い瞳と目があったが、すぐにそらされてしまった。
「す…すまない。それでは私はこれで」
ハンカチを私から奪うと、再び速足でその場を去って行こうとする男性。
「お待ちください、あなた様はこの国の国王陛下ではございませんか?」
彼が落としたハンカチは、私が感謝の気持ちを伝えるため陛下に渡してもらう様に頼んだ刺しゅう入りのハンカチだったのだ。
私の言葉に、一瞬立ち止まったが…
「いや…人違いだ…それでは失礼する」
「お待ちください。このハンカチは、私が陛下に差し上げたものです。あなた様が陛下ではないとすると、陛下に近い人物でございますよね。あの…少しお話をさせていただけませんか?私、陛下には本当に感謝していて。それで…」
彼の前に立つと、まっすぐ顔を見てはっきりと告げた。真っ赤な鋭い瞳と目が合う。よく見るとこの人、顔に大きな傷痕があるわ。この国は大国に囲まれている為、自国を守る為頻繁に戦争を行って来たと聞いた。という事は…
「あなた様はこの国を守っていらした騎士様ですのね。私が生まれ育った国は、平和な国でしたので、このように実際に戦に出られている騎士様にお会いできるなんて光栄ですわ」
私の住んでいたカルビア王国は、大陸の端っこにあり、隣国も穏やかな国なので戦争とは縁がない。だからこそ、実際に戦争で戦った事がある騎士様を見るのは初めてなのだ。やはり勇ましくて素敵ね。
「君は、私が怖くないのかい?」
「怖い?勇ましい方だとは思いますが、怖いとは感じませんわ。どうして怖いのですか?」
よくわからず、首をコテンと傾ける。すると、なぜか顔を赤くて目をそらしてしまった。もしかして、私の様な小娘に怖くないと言われた事がショックだったのかしら?
「あの…お気を悪くされたのなら申し訳ございません。私、実際に戦争に参加された騎士様に会うのは初めてで、少し興奮してしまいました」
それにしても、すごい筋肉ね。きっと今まで、この国の為に沢山戦ってきたのだろう。
初めて見る勇ましい男性に、つい興奮してしまったのだった。
すると
“アナスタシア様は陛下の客人ですので、どうかこのままお過ごしくださいませ。陛下にも許可を取ってありますので”
と、言われてしまったのだ。それなら陛下に会って直接お礼を言いたいと伝えたのだが、やはり陛下は気難しい方の様で、会う事は未だに叶っていない。それでも私の命を助けてくれただけでなく、未だに衣食住を与えて下さり、メイドまで付けて下さっている陛下には感謝してもしきれない。
ただ、さすがに何もしないのも気が引けるので、私が唯一得意としている刺繍をハンカチに入れて、陛下に贈る事にした。
私が入れた刺繍のハンカチなんて、貰っても嬉しくもないかもしれない。それに裁縫セットやハンカチも、王宮で準備してくれたものだし…それでも、どうしても感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
手始めに2枚のハンカチに刺繍を入れ、クロハ経由で渡してもらった。いらなかったら捨ててもらっても構わないとも伝えた。
他にも少しでも自分で生活が出来る様に、今服の着方や湯あみの方法を覚えている。もう私は公爵令嬢ではないのだから、自分の事は自分で出来る様にならないと。
今日も王宮の図書館で、市民生活について勉強をした後、大好きな海へとやって来た。この海に来ると、なんだか心穏やかになるのだ。
「この貝殻、とても綺麗ね。この国では、貝殻やサンゴ、真珠などを加工して、アクセサリーを作って生計を立てている人がいると書いてあったわ。この貝殻を集めて売れば、私も1人で生きて行けるかしら?」
そう呟きながら、貝殻を拾う。そんな私を見て、くすくすと笑っているクロハ。何が可笑しいのかしら?訳が分からず、首をコテンとかしげていると…
「アナスタシア様、心の声が言葉として出ておりますよ。確かに貝殻を加工して売っている人はおりますが、貝殻は非常に安価なので、それだけでは生計は立てられませんわ」
「まあ、そうなのね。でもこの貝殻、とても綺麗よ。せっかくだから、拾って帰るわ。何かに使えるかもしれないから」
次々と貝殻を拾っていく。出来るだけ欠けていない物がいいわね。あら?これなんてとても綺麗。つい頬が緩んでしまう。
その時だった。黒色の髪をした男性が、岩陰からこちらを睨んでいるのが見えた。あら?見ない人だわ。誰かしら?ここは王宮内だから、きっと悪い人ではないわよね。
向こうもこちらに気が付いたのか、クルリと反対側を向くと、そのまま去って行こうとしている。その時だった、ハンカチがポロリと落ちたのだ。
「あの…ハンカチが落ちましたわ」
急いで駆け寄り、ハンカチを拾う。このハンカチは…
ゆっくり顔をあげると、赤い瞳と目があったが、すぐにそらされてしまった。
「す…すまない。それでは私はこれで」
ハンカチを私から奪うと、再び速足でその場を去って行こうとする男性。
「お待ちください、あなた様はこの国の国王陛下ではございませんか?」
彼が落としたハンカチは、私が感謝の気持ちを伝えるため陛下に渡してもらう様に頼んだ刺しゅう入りのハンカチだったのだ。
私の言葉に、一瞬立ち止まったが…
「いや…人違いだ…それでは失礼する」
「お待ちください。このハンカチは、私が陛下に差し上げたものです。あなた様が陛下ではないとすると、陛下に近い人物でございますよね。あの…少しお話をさせていただけませんか?私、陛下には本当に感謝していて。それで…」
彼の前に立つと、まっすぐ顔を見てはっきりと告げた。真っ赤な鋭い瞳と目が合う。よく見るとこの人、顔に大きな傷痕があるわ。この国は大国に囲まれている為、自国を守る為頻繁に戦争を行って来たと聞いた。という事は…
「あなた様はこの国を守っていらした騎士様ですのね。私が生まれ育った国は、平和な国でしたので、このように実際に戦に出られている騎士様にお会いできるなんて光栄ですわ」
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「君は、私が怖くないのかい?」
「怖い?勇ましい方だとは思いますが、怖いとは感じませんわ。どうして怖いのですか?」
よくわからず、首をコテンと傾ける。すると、なぜか顔を赤くて目をそらしてしまった。もしかして、私の様な小娘に怖くないと言われた事がショックだったのかしら?
「あの…お気を悪くされたのなら申し訳ございません。私、実際に戦争に参加された騎士様に会うのは初めてで、少し興奮してしまいました」
それにしても、すごい筋肉ね。きっと今まで、この国の為に沢山戦ってきたのだろう。
初めて見る勇ましい男性に、つい興奮してしまったのだった。
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