68 / 73
第68話:犯人をあぶり出すために
しおりを挟む
“シュテルベンの花のエキスは、1週間毎日飲ませる事で、死に至らしめる毒です。その為、毒を摂取させなければ、これ以上悪化する事も、殿下が命を落とす事もありません。ちなみにこの花の毒は、恨みや憎しみを込める事で、より強力な毒になるのです”
恨みや憎しみを込める?魔術師様は、一体何を言っているのだろう。訳が分からず、王妃様と顔を見合わせた。
“実はシュテルベンの花の毒単体では、人間を死に至らしめる事は出来ないのです。魔力が含まれたエキスと一緒に、殺したいほど憎い相手を思い浮かべながら自分の血を混ぜる事で、シュテルベンの毒に強い呪いがかかり、より強力な毒になるのです。ただ、普通の人間がいくら恨みを込めながら血を混ぜても、魔力が含まれていなければ強力な毒にはなりません。きっと犯人の傍には、魔法が使える人物がいるはずです”
「魔術師様のお話が本当なら、一体誰がサミュエルを?サミュエルを殺したいほど憎んでいる人間なんて…もしかして…いいえ、さすがにそんな事は…」
王妃様が、完全に混乱している。きっとジェイデン殿下の顔が浮かんだのだろう。私も彼の顔が、一番に浮かんだのだ。
でも、いくらジェイデン殿下が王族とは言え、そう簡単に魔法を使える人物と繋がる事が出来るのかしら?それに、実の弟を呪い殺そうとするだなんて、いくら何でも…
“王妃殿下、キャリーヌ嬢、信じがたい話で混乱されているのは分かります。そもそも、どうやってサミュエル殿下に、毒を飲ませたのか…私の見解では使用人の中に、犯人の協力者がいると思われます。きっと食事か何かに、毒が入れられていたのでしょう”
「食事に毒ですって?でも、ここ数日、サミュエル様はろくに食事を摂っていらっしゃらなかったわ。それに今も、眠っていらっしゃいますし。起きた時に、水と薬を飲むくらいで…」
そう、今も意識がないまま、ずっと眠っているのだ。このまま目覚めないのではないかと、気が気ではない。
“それなら、もしかしたら薬か水に毒が仕込まれていたのかもしれない。とにかく、サミュエル殿下に関わった使用人たちを、徹底的に監視してください。確かサミュエル殿下が倒れてから、4日が経過したとおっしゃっていましたね。きっと今も犯人が、シュテルベンの花のエキスに自分の血液を入れ、呪いをかけているはずです。これ以上サミュエル殿下に、毒を飲ませない様にしましょう。私に良い考えがあります。犯人を捕まえるために、協力してくださいますか?”
モニター越しに、真っすぐ私たちを見つめるカイロ様。隣には、ミリアム様も強く頷いている。顔は見えないが、魔術師様も協力してくれる様だ。
「皆様、サミュエル様の為に、本当にありがとうございます。サミュエル様をこんな目に合わせた犯人が、私は憎いです。私に出来る事なら、何でもします。どうか、よろしくお願いします」
「キャリーヌちゃんの言う通りですわ。サミュエルの為に、本当にありがとうございます。私も全力で協力いたします。私共に出来る事があれば、何なりと申してください」
王妃様と一緒に、頭を下げた。
“分かりました。ではまずは、サミュエル殿下が口にするものを一度回収し、魔術師に見せて下さい。それから、さっきも申し上げた通り、サミュエル殿下に関わった使用人や護衛たちを、徹底的に監視してください。出来れば彼らの行動を、映像に残してくれると助かります。それから…大変言いにくいのですが、犯人はきっと権力を持った人物だと考えております。ですから、その…”
カイロ様が、言いにくそうにしている。そんなカイロ様の気持ちに気が付いた王妃様が、重い口を開いた。
「確かに魔力を持った者を雇えるほどの人物と言えば、王族や高貴な貴族しか考えられません。ジェイデンが一番怪しいでしょう。もしかしたら王宮に出入りしている貴族の中に、犯人がいるかもしれませんし。特にサミュエルが王太子になる事を反対していた貴族を中心に、徹底的に監視いたします」
王妃様が真っすぐモニターを見つめながら、そう言ったのだ。王妃様にとっては、ジェイデン殿下もお腹を痛めて生んだ可愛い子だ。そんなジェイデン殿下を疑わなければいけない王妃様の気持ちを考えると、胸が張り裂けそうになる。
「キャリーヌちゃん、私の事を心配してくれているのね。ありがとう。でも、もしジェイデンが犯人だったら、私は母親として、あの子の悪事を暴かなければいけないの。それが母親でもある、私の責任だから。だからどうか、私の事は気にしないで」
私の視線に気が付いた王妃様が、悲しそうに微笑んだのだ。ただ、その瞳からは強い意志を感じる。きっと王妃様はもう、腹をくくっているのだろう。
“それでは、今話した内容で動きましょう。王妃殿下、キャリーヌ嬢、何かあれば、すぐにまた連絡を入れて下さい”
「カイロ様、ミリアム様、魔術師様、本当にありがとうございます。このご恩は、一生忘れませんわ」
“もう、キャリーヌは大げさね。まだ、犯人を捕まえた訳ではないのよ。それに私たちに感謝してくれるのなら、あなた達の婚約披露でアラステ王国を訪問した時に、サミュエル殿下と一緒にしっかりとアラステ王国を案内して。私、アラステ王国に行くのを楽しみにしているのだから”
「もちろんですわ。アラステ王国の魅力を、目いっぱい伝えさせていただきます。その為にも、早くこの問題を解決しないといけませんね」
“そうよ、その意気よ。それにしても、どうしてすぐに、私に相談してくれなかったのかしら?すぐに相談してくれたら、キャリーヌがこんなにやつれてしまう事もなかったのに…本当にキャリーヌは!”
ぷんぷん怒っているミリアム様。そんな彼女を見ていたら、なんだか心が少し軽くなった。
1ヶ月後、ミリアム様とカイロ様がアラステ王国に来た時、サミュエル様と笑顔でアラステ王国を案内できるように、この事件をしっかり解決しないと。
その為にも、やらなければいけない事はただ1つ。
※次回、ジェイデン視点です。
よろしくお願いします。
恨みや憎しみを込める?魔術師様は、一体何を言っているのだろう。訳が分からず、王妃様と顔を見合わせた。
“実はシュテルベンの花の毒単体では、人間を死に至らしめる事は出来ないのです。魔力が含まれたエキスと一緒に、殺したいほど憎い相手を思い浮かべながら自分の血を混ぜる事で、シュテルベンの毒に強い呪いがかかり、より強力な毒になるのです。ただ、普通の人間がいくら恨みを込めながら血を混ぜても、魔力が含まれていなければ強力な毒にはなりません。きっと犯人の傍には、魔法が使える人物がいるはずです”
「魔術師様のお話が本当なら、一体誰がサミュエルを?サミュエルを殺したいほど憎んでいる人間なんて…もしかして…いいえ、さすがにそんな事は…」
王妃様が、完全に混乱している。きっとジェイデン殿下の顔が浮かんだのだろう。私も彼の顔が、一番に浮かんだのだ。
でも、いくらジェイデン殿下が王族とは言え、そう簡単に魔法を使える人物と繋がる事が出来るのかしら?それに、実の弟を呪い殺そうとするだなんて、いくら何でも…
“王妃殿下、キャリーヌ嬢、信じがたい話で混乱されているのは分かります。そもそも、どうやってサミュエル殿下に、毒を飲ませたのか…私の見解では使用人の中に、犯人の協力者がいると思われます。きっと食事か何かに、毒が入れられていたのでしょう”
「食事に毒ですって?でも、ここ数日、サミュエル様はろくに食事を摂っていらっしゃらなかったわ。それに今も、眠っていらっしゃいますし。起きた時に、水と薬を飲むくらいで…」
そう、今も意識がないまま、ずっと眠っているのだ。このまま目覚めないのではないかと、気が気ではない。
“それなら、もしかしたら薬か水に毒が仕込まれていたのかもしれない。とにかく、サミュエル殿下に関わった使用人たちを、徹底的に監視してください。確かサミュエル殿下が倒れてから、4日が経過したとおっしゃっていましたね。きっと今も犯人が、シュテルベンの花のエキスに自分の血液を入れ、呪いをかけているはずです。これ以上サミュエル殿下に、毒を飲ませない様にしましょう。私に良い考えがあります。犯人を捕まえるために、協力してくださいますか?”
モニター越しに、真っすぐ私たちを見つめるカイロ様。隣には、ミリアム様も強く頷いている。顔は見えないが、魔術師様も協力してくれる様だ。
「皆様、サミュエル様の為に、本当にありがとうございます。サミュエル様をこんな目に合わせた犯人が、私は憎いです。私に出来る事なら、何でもします。どうか、よろしくお願いします」
「キャリーヌちゃんの言う通りですわ。サミュエルの為に、本当にありがとうございます。私も全力で協力いたします。私共に出来る事があれば、何なりと申してください」
王妃様と一緒に、頭を下げた。
“分かりました。ではまずは、サミュエル殿下が口にするものを一度回収し、魔術師に見せて下さい。それから、さっきも申し上げた通り、サミュエル殿下に関わった使用人や護衛たちを、徹底的に監視してください。出来れば彼らの行動を、映像に残してくれると助かります。それから…大変言いにくいのですが、犯人はきっと権力を持った人物だと考えております。ですから、その…”
カイロ様が、言いにくそうにしている。そんなカイロ様の気持ちに気が付いた王妃様が、重い口を開いた。
「確かに魔力を持った者を雇えるほどの人物と言えば、王族や高貴な貴族しか考えられません。ジェイデンが一番怪しいでしょう。もしかしたら王宮に出入りしている貴族の中に、犯人がいるかもしれませんし。特にサミュエルが王太子になる事を反対していた貴族を中心に、徹底的に監視いたします」
王妃様が真っすぐモニターを見つめながら、そう言ったのだ。王妃様にとっては、ジェイデン殿下もお腹を痛めて生んだ可愛い子だ。そんなジェイデン殿下を疑わなければいけない王妃様の気持ちを考えると、胸が張り裂けそうになる。
「キャリーヌちゃん、私の事を心配してくれているのね。ありがとう。でも、もしジェイデンが犯人だったら、私は母親として、あの子の悪事を暴かなければいけないの。それが母親でもある、私の責任だから。だからどうか、私の事は気にしないで」
私の視線に気が付いた王妃様が、悲しそうに微笑んだのだ。ただ、その瞳からは強い意志を感じる。きっと王妃様はもう、腹をくくっているのだろう。
“それでは、今話した内容で動きましょう。王妃殿下、キャリーヌ嬢、何かあれば、すぐにまた連絡を入れて下さい”
「カイロ様、ミリアム様、魔術師様、本当にありがとうございます。このご恩は、一生忘れませんわ」
“もう、キャリーヌは大げさね。まだ、犯人を捕まえた訳ではないのよ。それに私たちに感謝してくれるのなら、あなた達の婚約披露でアラステ王国を訪問した時に、サミュエル殿下と一緒にしっかりとアラステ王国を案内して。私、アラステ王国に行くのを楽しみにしているのだから”
「もちろんですわ。アラステ王国の魅力を、目いっぱい伝えさせていただきます。その為にも、早くこの問題を解決しないといけませんね」
“そうよ、その意気よ。それにしても、どうしてすぐに、私に相談してくれなかったのかしら?すぐに相談してくれたら、キャリーヌがこんなにやつれてしまう事もなかったのに…本当にキャリーヌは!”
ぷんぷん怒っているミリアム様。そんな彼女を見ていたら、なんだか心が少し軽くなった。
1ヶ月後、ミリアム様とカイロ様がアラステ王国に来た時、サミュエル様と笑顔でアラステ王国を案内できるように、この事件をしっかり解決しないと。
その為にも、やらなければいけない事はただ1つ。
※次回、ジェイデン視点です。
よろしくお願いします。
1,128
お気に入りに追加
4,142
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる