44 / 73
第44話:サミュエル殿下が国に帰るそうです
しおりを挟む「サミュエル殿下、これ、受け取ってください」
「サミュエル殿下、今日ご予定はございますか?一緒にお茶でもいかがですか?」
あの日以降、令嬢たちはサミュエル殿下によく話しかけている。そんな姿を見ると、相変わらず胸が張り裂けそうになるが、私にはどうする事も出来ない。
そっとサミュエル殿下たちの傍を離れた。
「キャリーヌ、最近令嬢たちのサミュエル殿下へのアプローチがすごいわね。ねえ、本当にこのままでいいの?あなた、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?」
私に話しかけてきたのは、ミリアム様だ。
「私はサミュエル殿下の事は、何とも…」
「嘘おっしゃい!あなたが切なそうにサミュエル殿下を見つめているのを、私は知っているのよ。どうしてサミュエル殿下を避けるの?あなただって、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?それなら、どうして?」
「私はサミュエル殿下の事を、傷つけ裏切ったのです。だから私には…」
「私には、サミュエル殿下と幸せになる権利はないとでも言いたいの?その件に関しては、サミュエル殿下は気にしていないのよ」
「それでも私が気になるのです!どうかもう、サミュエル殿下と私の事は放っておいてください」
「待って…キャリーヌ…」
後ろでミリアム様の声が聞こえるが、今はミリアム様の傍にいる勇気がない。そもそもミリアム様は、私がサミュエル殿下にした仕打ちをよく知らないから、あんなことが言えるのよ!
カイロ様と仲睦まじいミリアム様に、私の気持ちなんてわからないわ!必死に涙を堪え、馬車に乗り込み家路についた。そして、すぐに自室に向かう。部屋についた瞬間、涙が溢れ出る。
苦しい…悲しい…辛い…そんな感情が溢れ出る。私だってサミュエル殿下の傍にいれたら、どんなにいいだろう。でも私は、彼を裏切ったという罪悪感が、それを許さないのだ。
「お嬢様…奥様がお呼びですが…お嬢様は体調が悪いという事にして、お断りしましょうか?」
どれくらい泣いていただろう。申し訳なさそうに、クラミーが話しかけてきたのだ。クラミーにも随分心配をかけている事は分かっている。
でも、自分でもどうする事が出来ないのだ。
「私は大丈夫よ、お姉様が呼んでいるのね。すぐに行くわ。ただ、こんな顔ではいけないから、目を冷やしてくれるかしら」
「かしこまりました。お嬢様、どうかご無理をなさらずに」
そう言いながら、私の目を冷やしてくれるクラミー。落ち着いたところで、お姉様の元へと向かおうとした時だった。待ちくたびれたのか、お姉様が部屋までやって来たのだ。
「キャリーヌ?遅いから来たわよ。今から王宮に行く事になったら、すぐに準備をして」
「えっ?王宮にですか?分かりました、すぐに準備をします」
一体何の用で王宮に向かうのだろう。心当たりと言えば…サミュエル殿下の事かしら?サミュエル殿下がカリアン王国に留学して来てから、早1ヶ月半、ずっと冷たくしていたから、さすがに注意を受けるとか?
いや…そんな事はないだろう。だとすると、一体なんだろう。不思議に思いつつ準備を整えると、お姉様とお義兄様と一緒に、王宮へと向かった。
王宮に着くと、王太子殿下と王太子妃殿下、ミリアム様とカイロ様、さらにサミュエル殿下が待っていた。
「クレスティル公爵、夫人、キャリーヌ嬢、急に呼び出してすまなかったね。実はサミュエル殿下が、急遽帰国する事になって。それで最後に君たちに挨拶をしたいとの事で、来てもらったんだよ」
急遽国に帰るですって…
そんな…
「確か留学期間は3ヶ月でしたよね?急に帰国されるとは、一体どういうことですか?それではキャリーヌも一緒に、帰国するという事ですか?」
お姉様も何も聞いていなかったようで、混乱している。もちろん、私も一体何が起きているのかさっぱりわからない。
「キャリーヌは連れて帰るつもりはないよ…キャリーヌ、僕のせいで辛い思いをさせてしまって、本当にすまなかったね。僕が来てからのキャリーヌは、本当に辛そうで…僕はこれ以上、君に悲しい顔をして欲しくないんだ。だから僕は、国に帰る事にした。キャリーヌ、どうかこの国で幸せになってくれ。君は兄上のせいで、随分傷ついた。だからこそ、幸せになる権利がある。それを邪魔する事なんて、誰にも出来ない。もちろん、僕にもね」
そう言うと、悲しそうに笑ったサミュエル殿下。
サミュエル殿下は、私の為に帰国するの?
でも…
それならそれでいいのかもしれない。サミュエル殿下にとっては、この国に長くいるメリットなんてない。自国でやらなければいけないことが、沢山あるはずだ。それに、私の事は忘れて、早く素敵な令嬢を見つけて欲しい。
「そうですか…サミュエル殿下、あなた様ならきっと、立派な国王陛下になられますわ。どうか…どうか素敵な令嬢を見つけて、幸せになってください。それでは私は、失礼いたします」
ダメだ、これ以上サミュエル殿下を見ていたら、涙が込みあげてきた。王族の方たちがいるまで、泣く訳にはいかない。
サミュエル殿下や王族の方たちに一礼をして、その場を後にしたのだった。
「サミュエル殿下、今日ご予定はございますか?一緒にお茶でもいかがですか?」
あの日以降、令嬢たちはサミュエル殿下によく話しかけている。そんな姿を見ると、相変わらず胸が張り裂けそうになるが、私にはどうする事も出来ない。
そっとサミュエル殿下たちの傍を離れた。
「キャリーヌ、最近令嬢たちのサミュエル殿下へのアプローチがすごいわね。ねえ、本当にこのままでいいの?あなた、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?」
私に話しかけてきたのは、ミリアム様だ。
「私はサミュエル殿下の事は、何とも…」
「嘘おっしゃい!あなたが切なそうにサミュエル殿下を見つめているのを、私は知っているのよ。どうしてサミュエル殿下を避けるの?あなただって、サミュエル殿下の事が好きなのでしょう?それなら、どうして?」
「私はサミュエル殿下の事を、傷つけ裏切ったのです。だから私には…」
「私には、サミュエル殿下と幸せになる権利はないとでも言いたいの?その件に関しては、サミュエル殿下は気にしていないのよ」
「それでも私が気になるのです!どうかもう、サミュエル殿下と私の事は放っておいてください」
「待って…キャリーヌ…」
後ろでミリアム様の声が聞こえるが、今はミリアム様の傍にいる勇気がない。そもそもミリアム様は、私がサミュエル殿下にした仕打ちをよく知らないから、あんなことが言えるのよ!
カイロ様と仲睦まじいミリアム様に、私の気持ちなんてわからないわ!必死に涙を堪え、馬車に乗り込み家路についた。そして、すぐに自室に向かう。部屋についた瞬間、涙が溢れ出る。
苦しい…悲しい…辛い…そんな感情が溢れ出る。私だってサミュエル殿下の傍にいれたら、どんなにいいだろう。でも私は、彼を裏切ったという罪悪感が、それを許さないのだ。
「お嬢様…奥様がお呼びですが…お嬢様は体調が悪いという事にして、お断りしましょうか?」
どれくらい泣いていただろう。申し訳なさそうに、クラミーが話しかけてきたのだ。クラミーにも随分心配をかけている事は分かっている。
でも、自分でもどうする事が出来ないのだ。
「私は大丈夫よ、お姉様が呼んでいるのね。すぐに行くわ。ただ、こんな顔ではいけないから、目を冷やしてくれるかしら」
「かしこまりました。お嬢様、どうかご無理をなさらずに」
そう言いながら、私の目を冷やしてくれるクラミー。落ち着いたところで、お姉様の元へと向かおうとした時だった。待ちくたびれたのか、お姉様が部屋までやって来たのだ。
「キャリーヌ?遅いから来たわよ。今から王宮に行く事になったら、すぐに準備をして」
「えっ?王宮にですか?分かりました、すぐに準備をします」
一体何の用で王宮に向かうのだろう。心当たりと言えば…サミュエル殿下の事かしら?サミュエル殿下がカリアン王国に留学して来てから、早1ヶ月半、ずっと冷たくしていたから、さすがに注意を受けるとか?
いや…そんな事はないだろう。だとすると、一体なんだろう。不思議に思いつつ準備を整えると、お姉様とお義兄様と一緒に、王宮へと向かった。
王宮に着くと、王太子殿下と王太子妃殿下、ミリアム様とカイロ様、さらにサミュエル殿下が待っていた。
「クレスティル公爵、夫人、キャリーヌ嬢、急に呼び出してすまなかったね。実はサミュエル殿下が、急遽帰国する事になって。それで最後に君たちに挨拶をしたいとの事で、来てもらったんだよ」
急遽国に帰るですって…
そんな…
「確か留学期間は3ヶ月でしたよね?急に帰国されるとは、一体どういうことですか?それではキャリーヌも一緒に、帰国するという事ですか?」
お姉様も何も聞いていなかったようで、混乱している。もちろん、私も一体何が起きているのかさっぱりわからない。
「キャリーヌは連れて帰るつもりはないよ…キャリーヌ、僕のせいで辛い思いをさせてしまって、本当にすまなかったね。僕が来てからのキャリーヌは、本当に辛そうで…僕はこれ以上、君に悲しい顔をして欲しくないんだ。だから僕は、国に帰る事にした。キャリーヌ、どうかこの国で幸せになってくれ。君は兄上のせいで、随分傷ついた。だからこそ、幸せになる権利がある。それを邪魔する事なんて、誰にも出来ない。もちろん、僕にもね」
そう言うと、悲しそうに笑ったサミュエル殿下。
サミュエル殿下は、私の為に帰国するの?
でも…
それならそれでいいのかもしれない。サミュエル殿下にとっては、この国に長くいるメリットなんてない。自国でやらなければいけないことが、沢山あるはずだ。それに、私の事は忘れて、早く素敵な令嬢を見つけて欲しい。
「そうですか…サミュエル殿下、あなた様ならきっと、立派な国王陛下になられますわ。どうか…どうか素敵な令嬢を見つけて、幸せになってください。それでは私は、失礼いたします」
ダメだ、これ以上サミュエル殿下を見ていたら、涙が込みあげてきた。王族の方たちがいるまで、泣く訳にはいかない。
サミュエル殿下や王族の方たちに一礼をして、その場を後にしたのだった。
1,206
お気に入りに追加
4,142
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる