私は側妃なんかにはなりません!どうか王女様とお幸せに

Karamimi

文字の大きさ
上 下
15 / 73

第15話:キャリーヌは私の大切な人です~ミリアム視点~

しおりを挟む
「――しょっぱい」

 背後から、四ノ宮がぽつりと零した。

「塩素の味がしますね」
「泳いだ直後だからな……不味いだろ?」
「いいえ? 水着って感じがして、この方が興奮しますよ」
「……変態」

 オレの罵倒などお構い無しに、四ノ宮は行為を続行した。項から背の中程まで、ぬるりとナメクジの這うような感触が伝っていく。
 辿られた背筋がぞわりと痺れ、胸元に回された四ノ宮の手指すらこそばゆく感じて、息を詰めて黒板に爪を立てて堪えた。

 水泳大会中で生徒の出払っている今、校舎は閑散としている。四ノ宮的には「本当はプールの更衣室の方が雰囲気が出て良かった」らしいが、そちらは今だと人の出入りが多い為、断念したのだとか。
「それに、普段勉強している教室聖域を穢すのって、興奮しませんか? この先毎日、授業中も僕との行為を思い出すことになるんですよ」――なんて、またもや悪趣味なご意見の元、連れてこられたのは二年A組、オレの教室だった。

 カーテンの閉ざされた無点灯の室内は、まだ夕暮れ前にも関わらず随分と薄暗い。二人きり、貸し切り状態のそこには、微かに湿った音が響いている。
 肌を舐る音。濡れた水着越しに、四ノ宮の雄がオレの尻と股間に擦り付けられる音。それは断続的に続いている。執拗に、何度も。
 プールで冷えた身体は今や鴇色に火照り、じわりと全身に汗が滲んでいた。――塩っぱいのは、塩素のせいだけじゃないかもしれない。

「てかお前、水着にすら興奮すんのかよ……」

 伸縮性のある布を持ち上げて己のソレが屹立しているのを嫌でも意識してしまい、気を紛らわす為に話し掛ける。

「トキさんのせいですよ。水着姿のトキさん、随分お預けを食らいましたからね」
「ッあ……!」

 突如、四ノ宮の指先がピンと張り詰めたオレの胸の突起を弾いた。ビリリと走る電気信号に、背が反る。

「あのまま逃げられるとでも思いましたか? 甘いですよ。……さてと。折角の水着なので、今日は脱がせずに隙間から挿れるとしましょうか」

 不穏な宣言に、ハッとして後ろを振り向いた。

「ま、待って、オレ……ひっ!」
「壁から手を離すなと言いましたよね?」

 布越しに、硬い異物が蕾に浅く押し入ってくる。散々ソレで擦られていたそこは、嫌でもひくりと求めるように反応してしまう。

「隙間が嫌なら鋏で穴を空けますよ」
「ばっ、オレこの後もまだ! 出番あるんだって!」
「おや、そうでしたか。ちなみに、何の種目です?」
「……メドレーリレー」
「花形じゃないですか。クロール?」
「いや、平泳ぎブレスト。クロールはタカだ」
「タカさんとの約束ってそれですか?」
「……違う」

 タカとの約束は……もう果たせないだろうな。こうしている間にも、水上騎馬戦はきっと始まっちまってる。
 ――ごめんな、タカ。
 もう何度目かも知れない謝罪を胸中で吐き、睫毛を伏せた。

「メドレーリレーなら一番最後ですし、まだたっぷり遊べますね」
「遊っ、いや、だからオレ泳ぐから! 挿入だけはマジで勘弁して欲しいんだけど! その……手とか口なら、貸すからさ」
「駄目ですよ。トキさん下手くそなんですもん」
「っ四ノ宮!」
「大丈夫ですって。泳ぐ頃には回復してますよ。……僕が満足するまで、付き合ってくれるんでしょう?」

 また、その言葉だ。何度も確認するように言うのは、もしかして脅しとかじゃなくて……不安、なのか?

「……どうすれば、お前を満たせるんだ? こういう行為じゃ、なくってさ」

 もっと別の何かで――四ノ宮の心に寄り添いたいと思うのに。どうしたら正解なのかが分からない。
 少し間があった。そっと、蕾から四ノ宮のものが離れていく。

「四ノ」
「無理ですよ。だって貴方、絶対に僕を見ないじゃないですか」

 え?

「いくら抱いても汚しても、手に入れた気がするのはその瞬間だけで……貴方は決して僕のものにはならない」

 ズボンのポケットから、四ノ宮は鋏を取り出した。ギラリと鈍い光を放つ刃先の存在感に、息を呑む。

「だから、永遠に満足することはないんです」
「四ノ宮……お前?」
「動かないでください。うっかり手元が狂ったら、肌が切れますよ?」

 臀部の布を引っ張られ、刃先が当てられる。鋭利な刃物に対する恐怖心や、水着を切られる危機感よりも、オレは今しがたの四ノ宮の言葉に戸惑っていた。
 ジャキッ――直後切り裂かれたのは、布ではなく彼自身の心だったかもしれない。


    ◆◇◆


 奥で熱が爆ぜた。ぶるりと身を震わせて、内部で四ノ宮が果てる。広がっていく液体の感覚。溺れる酩酊感。

「はっ、ぁ……!」

 身体の中心から、ゆっくりと四ノ宮が引き抜かれていく。栓を失い、ぱっくりと開いたそこから、どろりと精が溢れ出したのを感じた。

「あーぁ、汚しちゃいましたね。トキさんが大好きなタカさんの席」

 二つ繋げた机の上。仰向けに力無く寝そべって、オレは荒い息を吐いていた。――タカの机と、九重の机。四ノ宮が最終的に選んだ場所は、そこだった。
 
 ――よごした? タカを?
 思考が上手く働かずにぼんやりとしていると、身体の上にひらりと何かが降ってきた。

「水着。僕のを使ってください。リレーに出るんでしょう?」

 りれー? なんだっけ……。

「そうですね……そのまま僕のものを中に入れたまま泳げと言いたいところですが、トキさんすぐにバレて大変なことになりそうですからね。掻き出してきてもいいですよ? 僕は先に戻っていますので、どうぞ、ごゆっくり」

 掻き……? ダメだ、目が霞む。四ノ宮が行ってしまう。
 待ってくれ。オレまだ、お前に聞きたいことが――。

 遠ざかる足音と意識を必死に手繰り寄せようとしたけれど、落ちゆく瞼の重みに抗う術もなく、数瞬後には全てが分からなくなった。


   ◆◇◆


「……、……キ」

 ――誰かが呼んでいる。

「トキ……トキ!」

 ああ、この声は。

「――タカ?」

 呼び掛けると、すぐ傍にある気配がハッとしたのを感じた。
 えらく喉が乾いてる。あれ? オレ寝てたのか。薄く目を開くと、思ったよりも近くにタカの顔があった。ひどく憔悴したような表情。……何だ、どうした? そんな顔するなよ。
 頬に手を伸ばして触れようとすると、先にその手を掴まれ、抱き寄せられる。

「トキ……!」

 いや、〝しがみつかれた〟の方が近いかもしれない。タカの腕は苦しいくらいに力強くて、何故か震えていた。
 問い掛けようとして、曲げられたお腹の奥に不意にズキリとした痛みを覚える。次いで、内部から流れ出す生々しい液体の感触に、背筋がぞくりとした――これは。

 一気に記憶が蘇る。同時に状況を理解して、血の気が引いた。思わず、タカの胸を押して身を剥がす。タカは、傷付いた表情でオレを見た。

「ぁ……み、見ないで」

 自分でも驚く程、弱々しい声が出た。
 見られた。知られた。タカに、こんな……こんな姿を。
 ――それは、オレが一番恐れていたことだった。

「見ないでっ、タカ……!」

 注がれる視線に耐えかねて、顔を逸らして覆った。
 仄暗い教室内を、暫し重い沈黙が満たした――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?

柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。  お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。  婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。  そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――  ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!

風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。 結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。 レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。 こんな人のどこが良かったのかしら??? 家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

愛してくれない婚約者なら要りません

ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...