5 / 73
第5話:お姉様たちにも心配をかけてしまった様です
しおりを挟む
馬車が屋敷の中に入っていくと、大勢の人が待っていた。その中には、お姉様とお義兄様の姿もある。お義兄様が抱っこしている子が、きっと甥のグランね。
馬車のドアが開き、ゆっくり降りると
「キャリーヌ!可哀そうに、こんなにやつれてしまって。なんて事なの?あの王太子、絶対に許せないわ。私の可愛いキャリーヌに、こんな酷い仕打ちをするだなんて」
「義父上から通信が来た時は驚いたよ。まさかマディスン公爵令嬢に一方的に婚約解消を申し出ただけでなく、側妃になれと迫るだなんて…その上、自分の思い通りにならないからといって、牢にぶち込むだなんて」
「本当よ。あの男、どうしてもキャリーヌと結婚したい、結婚できないなら王位を継がないと言って駄々をこね、無理やりキャリーヌを婚約者にしたのに!こんな仕打ちをするだなんて!だから私は、最初からサミュエル殿下とキャリーヌを婚約させた方がいいと言ったのよ!」
「アリーナちゃん、落ち着いて。キャリーヌさんもきっと疲れているでしょう。外では何ですから、どうか屋敷に入ってください。ゆっくり話をしましょう」
この人は、お義兄様のお母様ね。一度だけお会いしたことがある。後ろには優しい眼差しでこちらを見つめている、元クレスティル公爵様の姿も。
「元クレスティル公爵、夫人。お義兄様、お姉様、急に押しかけてしまい、申し訳ございません。どうかしばらく、私をこの家においてください。よろしくお願いします」
すっとお姉様から離れ、挨拶をする。たとえ姉の家とはいえ、私は居候の身。身分をわきまえて生活をしないと。
「キャリーヌ、そんな事は気にしなくていいのよ」
「そうよ、キャリーヌさん。ごめんなさい、私たちがこの屋敷にいたから、気を使ったのね」
「だから言っただろう。キャリーヌ嬢が気を遣うから、わざわざ私たちが出迎えるのは避けようと!それをお前が」
「だって、こんなにも酷い仕打ちを受けたキャリーヌさんを、放っておけないじゃない」
何やら元公爵と夫人が言い合いを始めたのだ。
「お義父様もお義母様も落ち着いて下さい。キャリーヌ、お2人は普段領地で生活をしていらっしゃるのだけれど、あなたの事を聞いて、心配してすぐに駆け付けて下さったのよ。お義母様はすぐに陛下に、キャリーヌの長期滞在許可証の発行の手続きを依頼してくださったの」
「まあ、そうだったのですね。私の為に、ありがとうございます」
お義兄様のお母様は、元王女様。カリアン王国の現国王陛下の妹君と聞いたことがある。そんな方まで、私の為に動いて下さっただなんて…
「私は当たり前の事をしただけよ。そもそも、王族の権限を私欲の為に振りかざすだなんて、アラステ王国は一体何をしているのかしら?そんな人間が、国王になれるはずはないわ。なったところで、他国から総スカンをくらうまでよ。既に今回の事件は、私がしっかりとお兄様やお義姉様に伝えておいたわ。2人とも、かなり引いていたわ」
「これからアラステ王国は、少し混乱するかもしれないね。第一王子で王太子でもあるジェイデン殿下があれでは、貴族の中には彼を廃嫡しろという声が上がる事は間違いない。既に大貴族でもある、マディスン公爵家を敵に回したのだから。どうやらマディスン公爵は、第二王子のサミュエル殿下を王太子にと考えている様だし。これから熾烈な争いが始まるかもしれないな」
「父上、キャリーヌの前で、少し話しすぎですよ。さあ、キャリーヌも疲れただろう。屋敷に入ろう」
お義兄様が屋敷に促してくれた。
お父様は今、サミュエル殿下を次期国王にするために、動いているのね。お父様としては、このままジェイデン殿下が王位につかれると、何かと厄介だと考えたのだろう。確かに今後、熾烈な王位争いが始まるかもしれない。
そうなれば貴族界は大混乱するだろう。もし私が側妃を受け入れていれば…て、どう考えても無理だ。
「キャリーヌ、そんな顔をしないで。慣れない土地で大変かもしれないけれど、私がしっかりあなたを支えるわ。そうだわ、この子があなたの甥のグランよ」
目の前には、お姉様に抱っこされたグランがこちらを見つめていた。
「なんて可愛いのかしら?初めまして、私はあなたの叔母の、キャリーヌよ。よろしくね」
そう伝えると、何と手を伸ばしてきてくれたのだ。
「どうやらグランもキャリーヌを気に入った様ね。とにかく今日は、ゆっくり休みなさい。ここに来るまで、ずっと馬車で寝ていたのでしょう?公爵令嬢のあなたが、こんな過酷な旅を強いられるだなんて…」
お姉様の目から、涙が溢れていた。お義兄様も元公爵夫妻も辛そうな顔をしている。
「お姉様、泣かないで。私、王都からほとんど出たことがなかったでしょう。だから、なんだか大冒険をしたみたいで楽しかったのよ。それに、クラミーも傍にいてくれたし」
「あなたはいつもそうやって、私たちの事を考えてくれる優しい子なのよね。それなのにあの王太子!絶対に叩きのめしてやるわ」
泣いていたかと思うと、今度は怒り出したお姉様。ただ、お姉様の怒った顔が怖かったのか、グランが泣きだしてしまったのだ。
「ごめんね、グラン」
お姉様が必死にグランをあやしている。お姉様が子供をあやすだなんて、なんだか不思議ね。
カリアン王国に来て、不安な事も多いけれど、それでも私の事を心配してくれるお姉様家族。そんな彼らの優しさを無下にしないためにも、しっかりこの地で生きていかないと。
馬車のドアが開き、ゆっくり降りると
「キャリーヌ!可哀そうに、こんなにやつれてしまって。なんて事なの?あの王太子、絶対に許せないわ。私の可愛いキャリーヌに、こんな酷い仕打ちをするだなんて」
「義父上から通信が来た時は驚いたよ。まさかマディスン公爵令嬢に一方的に婚約解消を申し出ただけでなく、側妃になれと迫るだなんて…その上、自分の思い通りにならないからといって、牢にぶち込むだなんて」
「本当よ。あの男、どうしてもキャリーヌと結婚したい、結婚できないなら王位を継がないと言って駄々をこね、無理やりキャリーヌを婚約者にしたのに!こんな仕打ちをするだなんて!だから私は、最初からサミュエル殿下とキャリーヌを婚約させた方がいいと言ったのよ!」
「アリーナちゃん、落ち着いて。キャリーヌさんもきっと疲れているでしょう。外では何ですから、どうか屋敷に入ってください。ゆっくり話をしましょう」
この人は、お義兄様のお母様ね。一度だけお会いしたことがある。後ろには優しい眼差しでこちらを見つめている、元クレスティル公爵様の姿も。
「元クレスティル公爵、夫人。お義兄様、お姉様、急に押しかけてしまい、申し訳ございません。どうかしばらく、私をこの家においてください。よろしくお願いします」
すっとお姉様から離れ、挨拶をする。たとえ姉の家とはいえ、私は居候の身。身分をわきまえて生活をしないと。
「キャリーヌ、そんな事は気にしなくていいのよ」
「そうよ、キャリーヌさん。ごめんなさい、私たちがこの屋敷にいたから、気を使ったのね」
「だから言っただろう。キャリーヌ嬢が気を遣うから、わざわざ私たちが出迎えるのは避けようと!それをお前が」
「だって、こんなにも酷い仕打ちを受けたキャリーヌさんを、放っておけないじゃない」
何やら元公爵と夫人が言い合いを始めたのだ。
「お義父様もお義母様も落ち着いて下さい。キャリーヌ、お2人は普段領地で生活をしていらっしゃるのだけれど、あなたの事を聞いて、心配してすぐに駆け付けて下さったのよ。お義母様はすぐに陛下に、キャリーヌの長期滞在許可証の発行の手続きを依頼してくださったの」
「まあ、そうだったのですね。私の為に、ありがとうございます」
お義兄様のお母様は、元王女様。カリアン王国の現国王陛下の妹君と聞いたことがある。そんな方まで、私の為に動いて下さっただなんて…
「私は当たり前の事をしただけよ。そもそも、王族の権限を私欲の為に振りかざすだなんて、アラステ王国は一体何をしているのかしら?そんな人間が、国王になれるはずはないわ。なったところで、他国から総スカンをくらうまでよ。既に今回の事件は、私がしっかりとお兄様やお義姉様に伝えておいたわ。2人とも、かなり引いていたわ」
「これからアラステ王国は、少し混乱するかもしれないね。第一王子で王太子でもあるジェイデン殿下があれでは、貴族の中には彼を廃嫡しろという声が上がる事は間違いない。既に大貴族でもある、マディスン公爵家を敵に回したのだから。どうやらマディスン公爵は、第二王子のサミュエル殿下を王太子にと考えている様だし。これから熾烈な争いが始まるかもしれないな」
「父上、キャリーヌの前で、少し話しすぎですよ。さあ、キャリーヌも疲れただろう。屋敷に入ろう」
お義兄様が屋敷に促してくれた。
お父様は今、サミュエル殿下を次期国王にするために、動いているのね。お父様としては、このままジェイデン殿下が王位につかれると、何かと厄介だと考えたのだろう。確かに今後、熾烈な王位争いが始まるかもしれない。
そうなれば貴族界は大混乱するだろう。もし私が側妃を受け入れていれば…て、どう考えても無理だ。
「キャリーヌ、そんな顔をしないで。慣れない土地で大変かもしれないけれど、私がしっかりあなたを支えるわ。そうだわ、この子があなたの甥のグランよ」
目の前には、お姉様に抱っこされたグランがこちらを見つめていた。
「なんて可愛いのかしら?初めまして、私はあなたの叔母の、キャリーヌよ。よろしくね」
そう伝えると、何と手を伸ばしてきてくれたのだ。
「どうやらグランもキャリーヌを気に入った様ね。とにかく今日は、ゆっくり休みなさい。ここに来るまで、ずっと馬車で寝ていたのでしょう?公爵令嬢のあなたが、こんな過酷な旅を強いられるだなんて…」
お姉様の目から、涙が溢れていた。お義兄様も元公爵夫妻も辛そうな顔をしている。
「お姉様、泣かないで。私、王都からほとんど出たことがなかったでしょう。だから、なんだか大冒険をしたみたいで楽しかったのよ。それに、クラミーも傍にいてくれたし」
「あなたはいつもそうやって、私たちの事を考えてくれる優しい子なのよね。それなのにあの王太子!絶対に叩きのめしてやるわ」
泣いていたかと思うと、今度は怒り出したお姉様。ただ、お姉様の怒った顔が怖かったのか、グランが泣きだしてしまったのだ。
「ごめんね、グラン」
お姉様が必死にグランをあやしている。お姉様が子供をあやすだなんて、なんだか不思議ね。
カリアン王国に来て、不安な事も多いけれど、それでも私の事を心配してくれるお姉様家族。そんな彼らの優しさを無下にしないためにも、しっかりこの地で生きていかないと。
2,506
お気に入りに追加
4,142
あなたにおすすめの小説

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢
alunam
恋愛
婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。
既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……
愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……
そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……
これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。
※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定
それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

俺はお前ではなく、彼女を一生涯愛し護り続けると決めたんだ! そう仰られた元婚約者様へ。貴方が愛する人が、夜会で大問題を起こしたようですよ?
柚木ゆず
恋愛
※9月20日、本編完結いたしました。明日21日より番外編として、ジェラール親子とマリエット親子の、最後のざまぁに関するお話を投稿させていただきます。
お前の家ティレア家は、財の力で爵位を得た新興貴族だ! そんな歴史も品もない家に生まれた女が、名家に生まれた俺に相応しいはずがない! 俺はどうして気付かなかったんだ――。
婚約中に心変わりをされたクレランズ伯爵家のジェラール様は、沢山の暴言を口にしたあと、一方的に婚約の解消を宣言しました。
そうしてジェラール様はわたしのもとを去り、曰く『お前と違って貴族然とした女性』であり『気品溢れる女性』な方と新たに婚約を結ばれたのですが――
ジェラール様。貴方の婚約者であるマリエット様が、侯爵家主催の夜会で大問題を起こしてしまったみたいですよ?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております

愛を求めることはやめましたので、ご安心いただけますと幸いです!
風見ゆうみ
恋愛
わたしの婚約者はレンジロード・ブロフコス侯爵令息。彼に愛されたくて、自分なりに努力してきたつもりだった。でも、彼には昔から好きな人がいた。
結婚式当日、レンジロード様から「君も知っていると思うが、私には愛する女性がいる。君と結婚しても、彼女のことを忘れたくないから忘れない。そして、私と君の結婚式を彼女に見られたくない」と言われ、結婚式を中止にするためにと階段から突き落とされてしまう。
レンジロード様に突き落とされたと訴えても、信じてくれる人は少数だけ。レンジロード様はわたしが階段を踏み外したと言う上に、わたしには話を合わせろと言う。
こんな人のどこが良かったのかしら???
家族に相談し、離婚に向けて動き出すわたしだったが、わたしの変化に気がついたレンジロード様が、なぜかわたしにかまうようになり――
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる