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第34話:旦那様が離れません

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温かい…誰かに抱きしめられている様な、そんな感覚に襲われる。まるで子供の頃、お母様が抱きしめてくれていた時の様な、そんな感じだ。

無意識に温もりを求めて、ギュッとしがみつく。

「レアンヌは随分と甘えん坊だね。そんなところも可愛いのだが…」

ん?この声は…

ゆっくり瞼を上げると、旦那様のお顔が目に飛び込んできた。びっくりして飛び起きる。ここは…

そうか、昨日は旦那様のお部屋に簡易ベッドを置いて寝たのだったわ。でも…どう見ても、立派なベッドに寝かされている。ふと隣を見ると、空っぽの簡易ベッドが…

「あのベッド、窮屈そうだったから、私のベッドに移したんだよ。それにしてもレアンヌはお甘えん坊だね。寝ている間、私にギュッと抱き着いてきていたよ。私の腕の中は、そんなに心地よかったかい?」

そう言って旦那様が微笑んでいる。何ですって!旦那様を抱き枕にして眠ったですって!

「申し訳ございません。あの…不可抗力で。なんと申しますか、温もりが気持ちよくてその…」

「恥ずかしがらなくていいんだよ。レアンヌは7歳で母親を殺されたのだったね。人肌恋しくても不思議ではない。これからは毎日、私がレアンヌを抱きしめて寝てあげるよ」

確かに温かくて気持ちよかったが、いくら何でもそこまでして頂くのは申し訳ない。

「旦那様にその様な事をしていただく訳には…」

「私は君の夫だ。そうそう、夫婦とはどの様なものか、レアンヌは知らずに嫁いできたのだよね。近々家庭教師に、夫婦とはどういうものなのか教えてもらう様に伝えておくよ。レアンヌ、いいかい?私は君を妻として、これから生涯を共にしたいと考えている。その為、今後は夫婦として過ごしていきたいのだよ」

「夫婦としてですか?夫婦とは、一緒に暮らす事ではないのですか?」

正直私は、夫婦というものがよくわからない。ただ、陛下と王妃様は一緒に暮らしていた為、夫婦とは一緒に暮らすものだと思っていたのだが…

「それもそうなのだが。こうやって一緒に寝たりもするし、それにスキンシップもとったりするのだよ。レアンヌはずっと1人で生きて来たから、知らない事も多いだろうけれど、これから少しずつ夫婦になっていこう」

「分かりましたわ。正直まだ夫婦というものがよくわかりませんが、よろしくお願いします」

ペコリと頭を下げた。そんな私を抱きしめ、頬ずりをし、頬と唇に何度も口づけをする旦那様。これも夫婦としてのスキンシップってやつかしら?

「レアンヌは本当に可愛いね。さあ、そろそろ朝食にしよう。部屋まで送るから、着替えておいで」

「お部屋なら隣なので、1人で戻れますわ」

「いいや、1人で戻っている間に、またあの精霊が現れると厄介だからね。さあ、行こう」

旦那様に手を引かれ、自室へと戻ってきた。そして、着替えを済ませるとまた、旦那様と一緒に食堂に向かい、食事をとる。

今までは向かい合わせに座っていたが、なぜか隣同士だ。

「レアンヌ、この果物、美味しいよ。君は少し痩せすぎだから、しっかり食べないとね。これも食べて」

そう言って、次から次へと私の口に食べ物を入れて行く。私ばかり食べさせてもらっても悪いので、私も旦那様に食べさせてあげた。これが夫婦というものなのかしら?よくわからないが、旦那様が喜んでくれているので、これでいいのだろう。

食後は自室に戻り、久しぶりのお勉強だ。

「レアンヌ様、今日は旦那様から夫婦とは一体どういうものなのかを教えてやって欲しいとの事でしたので、夫婦について話をいたしますね」

そう言って先生が夫婦について語り始めた。どうやら夫婦とは、互いを尊重し合い、共に生きていくそうだ。そして他の異性とは、あまり交流を持つべきではないらしい。

さらに、夫婦になると夜の営みというものも行う様で、本来であれば新婚初夜に行うらしい。具体的なイラストを元に、先生が丁寧に教えてくれる。ただ…はっきり言って、この様な事を旦那様と行うだなんて、恥ずかしい。

でも、夜の営みはお互いの愛を深めるだけでなく、子供をつくるためにも必要不可欠な行為の様だ。

「レアンヌ様、あなた様と旦那様はやっと本来の夫婦になる為に、歩み始めたばかりです。ですので、あまり焦る必要はございませんわ」

そう言ってほほ笑んでくれた先生。焦らなくてもいいのね。それは良かったわ。でも、こんな恥ずかしい事、私に出来るかしら?

勉強が終わると、旦那様が部屋まで迎えに来てくれたので、一緒に食堂に行き昼食を頂いた。そして午後は、旦那様とティータイムだ。その時だった。

“レアンヌ、遊びに来たよ”

やって来たのは、仲良くなったリスたちだ。

「皆、来てくれ…」

「君たち、悪いが勝手に屋敷に入るのはよしてくれるかい?それから、しばらくはレアンヌを君たちに会わせるつもりはないから!ほら、レアンヌ、行くよ!」

動物たちにそう言うと、私の手を握り足早に歩き出した。

“何だよ、あの仮面男!僕たちがちょっとレアンヌを連れ出したくらいで怒るだなんて、器の小さな男だな!”

“レアンヌを返せ!!”

後ろで動物たちがブーブー文句を言っている。

「皆、ごめんね。また落ち着いたら会いましょうね」

そう伝えておいた。
そしてそのまま旦那様の部屋へとやって来た。

「本当に油断も隙も無い動物たちだ。あいつら、勝手に人の屋敷に入ってくるのだから!いいかい?私はまだ、君が1週間も家を空けた事を許していないのだからね。とにかく、動物たちにも会わせるつもりはないから!わかったね」

ものすごい勢いで迫ってくる旦那様。

「ええ…分かりましたわ…」

正直怖いので、素直にうなずいておいた。

その後旦那様は、ひと時も私から離れる事がなかったのだった。
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