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第5話:リサはとてもいい人です
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「あの…私、何か気に入らない事でもしてしまったかしら?その…あまり人と話をするのが慣れていなくて…」
7歳でお母様を亡くしてからの9年間、ほとんど人と会話をしてこなかったのだ。話をする相手と言えば、動物たちばかり。だから、人にどう接していいのか正直よくわからない。
「申し訳ございません。私の末娘と同じくらいの歳なのに、随分とご苦労をされたのだと思ったら、なんだか悲しくなってしまいまして…どうか思う存分召し上がってください。それからお召し物ですが、新しいものを新調いたしましょう。早速デザイナーをお呼びいたします」
私の着ている服を見たリサが、苦笑いしながら呟いた。確かにこの洋服は、お母様の服だ。もう随分長い期間着ていたから、ボロボロなのよね。王宮から勝手に持ってこられたドレスは、普段着にはちょっと着れそうにないし…
「ありがとう、そうしてもらえると嬉しいわ。でも、無料で作ってもらうのは申し訳ないから、私が持ってきたドレスを売って費用に当てて。あのドレス、私は着る予定がないから。もし欲しい人がいたら、差し上げてもらっても構わないわ」
「確かにあのドレスは、レアンヌ様のイメージではありませんものね。それでは私が責任をもって、処分させていただきます。ただ、洋服は公爵家から支給させていただきます。旦那様からも、必要な物は買い与える様に言われておりますので」
「まあ、英雄様が?次に会った時に、お礼を言っておかないと」
「英雄様?レアンヌ様は旦那様の事を、英雄様とお呼びになっておられるのですね」
そう言って笑うリサ。何かおかしなことを言ったかしら?
「あの…英雄様と言う呼び方は変かしら?」
「ええ、少し変ですわ。旦那様とお呼びになられたらいかがでしょうか?」
そうか、英雄様と言う呼び方は変なのね。
「分かったわ、色々と教えてくれてありがとう。それに、私の様な人間と、こんなにも沢山話をしてくれた事も、とても嬉しいわ。私、本当に今まで人と話すことがなかったの。だから、変なところがあったら、遠慮なく教えて」
そう言ってリサにほほ笑むと、またハンカチで涙をぬぐっていた。私の為にこんな風に泣いてくれるだなんて…なんだかお母様みたいで、心が温かくなる…
私、本当にここに置いてもらえて幸せだわ。
その後はリサに見守られながら、美しいお花たちを見つつ美味しいお菓子とお茶を頂いた。こんなにも美味しいお菓子は、初めて食べたわ。お母様が生きていたら、食べさせてあげたかったな…
ついそんな事を考えてしまう。
お茶を楽しみ、昼食を頂いた後は採寸を行った。私の洋服を作るためだ。わざわざ私の為に、デザイナーが来てくれ、採寸を行う。さらにどんな服にするか色々と聞かれたが、私にはよくわからなかったのでお任せした。
ただ、あまりにもリサとデザイナーが楽しそうに話しをしていたので、つい私も話に加わってしまった。
「それでは、出来るだけ早く洋服を仕上げさせていただきますね」
そう言って笑顔で帰って行ったデザイナー。
「とても感じの良い方だったわね。私にも笑顔で話しかけて下さったし」
この屋敷に来てまだ2日目だが、皆私に笑顔を向けてくれるのだ。離宮にいた時は、私の顔を見ると皆嫌そうにしていたのに。それが辛くて、極力人と関わり合わない様にしていた。
「それはよかったですわ。レアンヌ様、他に何かご希望等ございますか?旦那様にお話しして、極力レアンヌ様の希望に沿った形を取らせていただきたいと考えております」
「私の希望?こんなにも親切にして頂いているのに、まだ希望なんて言ったら、きっと罰が当たるわ。でも…もし可能なら、森に行きたいのだけれど。もちろん、1人で行くから皆の手を煩わせるつもりはないから安心して」
「森にですか?あの森には、クマもおりますし…」
そう言って考え込むリサ。やっぱり森に行くのはダメかしら?不安になって、リサを見つめる。
「今は特に動物たちが盛んに動いている時期でございます。もう少し動物たちが落ち着いたら、改めて森をご案内いたしますわ」
そう言われてしまった。色々と親切にしてくれるリサに、これ以上我が儘は言えない。
「分かったわ…そうしましょう」
「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。一度旦那様に話しをしてみますので。レアンヌ様が悲しそうな顔をすると、私も悲しくなってしまいますわ」
「私が悲しい顔をすると、リサも悲しくなるの?」
「ええ、そうですわ。今日レアンヌ様と一緒に過ごして、私はレアンヌ様が大好きになりましたの。ですから、どうかこれからは遠慮せずに私を頼ってください」
そう言って優しい微笑を浮かべるリサ。その顔を見た瞬間、なぜだか涙が溢れ出した。私にこんな風に優しく接してくれる人なんて、今までいなかった。そんな中、初めてお母様以外に出会った、私を好きだと言ってくれた人。その言葉が、嬉しくてたまらないのだ。
「リサ、ありがとう。私も今日あなたと一緒に過ごして、あなたが大好きになったわ。こんな私だけれど、これからもよろしくね」
ハンカチで涙をぬぐい、リサに向かってほほ笑む。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。さあ、採寸や洋服のデザインを選んで疲れたでしょう。夕食までお部屋でゆっくりしてくださいませ」
「ありがとう、リサ」
その後もリサと話をしながら、自室へと戻ったのだった。
7歳でお母様を亡くしてからの9年間、ほとんど人と会話をしてこなかったのだ。話をする相手と言えば、動物たちばかり。だから、人にどう接していいのか正直よくわからない。
「申し訳ございません。私の末娘と同じくらいの歳なのに、随分とご苦労をされたのだと思ったら、なんだか悲しくなってしまいまして…どうか思う存分召し上がってください。それからお召し物ですが、新しいものを新調いたしましょう。早速デザイナーをお呼びいたします」
私の着ている服を見たリサが、苦笑いしながら呟いた。確かにこの洋服は、お母様の服だ。もう随分長い期間着ていたから、ボロボロなのよね。王宮から勝手に持ってこられたドレスは、普段着にはちょっと着れそうにないし…
「ありがとう、そうしてもらえると嬉しいわ。でも、無料で作ってもらうのは申し訳ないから、私が持ってきたドレスを売って費用に当てて。あのドレス、私は着る予定がないから。もし欲しい人がいたら、差し上げてもらっても構わないわ」
「確かにあのドレスは、レアンヌ様のイメージではありませんものね。それでは私が責任をもって、処分させていただきます。ただ、洋服は公爵家から支給させていただきます。旦那様からも、必要な物は買い与える様に言われておりますので」
「まあ、英雄様が?次に会った時に、お礼を言っておかないと」
「英雄様?レアンヌ様は旦那様の事を、英雄様とお呼びになっておられるのですね」
そう言って笑うリサ。何かおかしなことを言ったかしら?
「あの…英雄様と言う呼び方は変かしら?」
「ええ、少し変ですわ。旦那様とお呼びになられたらいかがでしょうか?」
そうか、英雄様と言う呼び方は変なのね。
「分かったわ、色々と教えてくれてありがとう。それに、私の様な人間と、こんなにも沢山話をしてくれた事も、とても嬉しいわ。私、本当に今まで人と話すことがなかったの。だから、変なところがあったら、遠慮なく教えて」
そう言ってリサにほほ笑むと、またハンカチで涙をぬぐっていた。私の為にこんな風に泣いてくれるだなんて…なんだかお母様みたいで、心が温かくなる…
私、本当にここに置いてもらえて幸せだわ。
その後はリサに見守られながら、美しいお花たちを見つつ美味しいお菓子とお茶を頂いた。こんなにも美味しいお菓子は、初めて食べたわ。お母様が生きていたら、食べさせてあげたかったな…
ついそんな事を考えてしまう。
お茶を楽しみ、昼食を頂いた後は採寸を行った。私の洋服を作るためだ。わざわざ私の為に、デザイナーが来てくれ、採寸を行う。さらにどんな服にするか色々と聞かれたが、私にはよくわからなかったのでお任せした。
ただ、あまりにもリサとデザイナーが楽しそうに話しをしていたので、つい私も話に加わってしまった。
「それでは、出来るだけ早く洋服を仕上げさせていただきますね」
そう言って笑顔で帰って行ったデザイナー。
「とても感じの良い方だったわね。私にも笑顔で話しかけて下さったし」
この屋敷に来てまだ2日目だが、皆私に笑顔を向けてくれるのだ。離宮にいた時は、私の顔を見ると皆嫌そうにしていたのに。それが辛くて、極力人と関わり合わない様にしていた。
「それはよかったですわ。レアンヌ様、他に何かご希望等ございますか?旦那様にお話しして、極力レアンヌ様の希望に沿った形を取らせていただきたいと考えております」
「私の希望?こんなにも親切にして頂いているのに、まだ希望なんて言ったら、きっと罰が当たるわ。でも…もし可能なら、森に行きたいのだけれど。もちろん、1人で行くから皆の手を煩わせるつもりはないから安心して」
「森にですか?あの森には、クマもおりますし…」
そう言って考え込むリサ。やっぱり森に行くのはダメかしら?不安になって、リサを見つめる。
「今は特に動物たちが盛んに動いている時期でございます。もう少し動物たちが落ち着いたら、改めて森をご案内いたしますわ」
そう言われてしまった。色々と親切にしてくれるリサに、これ以上我が儘は言えない。
「分かったわ…そうしましょう」
「そんなに悲しそうな顔をしないで下さい。一度旦那様に話しをしてみますので。レアンヌ様が悲しそうな顔をすると、私も悲しくなってしまいますわ」
「私が悲しい顔をすると、リサも悲しくなるの?」
「ええ、そうですわ。今日レアンヌ様と一緒に過ごして、私はレアンヌ様が大好きになりましたの。ですから、どうかこれからは遠慮せずに私を頼ってください」
そう言って優しい微笑を浮かべるリサ。その顔を見た瞬間、なぜだか涙が溢れ出した。私にこんな風に優しく接してくれる人なんて、今までいなかった。そんな中、初めてお母様以外に出会った、私を好きだと言ってくれた人。その言葉が、嬉しくてたまらないのだ。
「リサ、ありがとう。私も今日あなたと一緒に過ごして、あなたが大好きになったわ。こんな私だけれど、これからもよろしくね」
ハンカチで涙をぬぐい、リサに向かってほほ笑む。
「はい、こちらこそよろしくお願いします。さあ、採寸や洋服のデザインを選んで疲れたでしょう。夕食までお部屋でゆっくりしてくださいませ」
「ありがとう、リサ」
その後もリサと話をしながら、自室へと戻ったのだった。
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