あなたの事は好きですが私が邪魔者なので諦めようと思ったのですが…様子がおかしいです

Karamimi

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第11話:ついにこの日がやってきました

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 記憶が戻って1週間が過ぎた。この1週間、極力記憶が戻る前の生活を心だけていたが、やはりアルト様を見ると、胸が張り裂けそうになる。

 それでも私は、アルト様の期待に応えるため、必死に王宮に通い、笑顔を作り続けてきたのだ。それももうすぐお終い。

 なぜなら今日、貴族学院に入学するのだから。2人がお互い猛烈に惹かれ合い、アルト様が私の事を疎ましく思う日もそう遠くないだろう。

 分かっている、私は所詮当て馬でしかない。それでも私は、アルト様を愛していたのだ。

「お嬢様、顔色が悪いですわ。やはり1週間前の原因不明の高熱が、まだ尾を引いていらっしゃるのかもしれません。すぐに旦那様に報告を…」

「私は大丈夫よ。お父様に知らせると、また大騒ぎをするだろうから、どうか黙っていて。それに今日は、貴族学院入学という大切な日なの。さすがに王太子殿下の婚約者が欠席する訳にはいかないでしょう」

「しかし…」

 心配そうな顔のメイドたちを宥め、鏡に映る自分を見つめる。正直制服姿を見ても、イマイチ実感がわかない。それでも今日から間違いなく、物語がスタートするはずだ。

 大丈夫よ、アルト様もシャーラ様も、絶対に幸せにするから。

 そう自分に言い聞かせた。昨日の夜は、1人で大きなサラミにかぶりつき、チーズをつまみながら炭酸入りブドウジュースを飲んだ。この国にも炭酸があるのだ。お酒が飲めないので、せめて炭酸ジュースでのどを潤した。

 これから私は、2人の幸せの為身を引くのだ。それがどれほど辛い事か…せめて好きな物くらい食べても、罰は当たらないだろう。それに私はもう、王妃になる事もないのだから。

 さあ、そろそろ学院に行こう。いつまでも落ち込んでいても仕方がない。そんな思いで部屋から出ると、お兄様たちが待っていてくれた。

 貴族学院は3年制で、お兄様達は今年3年なのだ。1年だけだが、お兄様たちと一緒に学院に通う事が出来る。

「カナリア、今日から貴族学院だね。万が一カナリアを虐める奴がいたら、俺たちに言うのだよ」

「俺たちが締め上げてあげるから。特に殿下とか」

 お兄様、さすがにそこでアルト様の名前を出すのは失礼かと…それに…

「お兄様たち、私は大丈夫ですわ。公爵令嬢でもある私を虐めるような、度胸のある方はいらっしゃらないかと」

「確かにそうだね。でもカナリアは可愛いから心配で。特に殿下が、カナリアにベッタリくっ付いて離れず、カナリアが嫌な思いをしないかとか!」

「その点は多分早々に解決するかと。さあ、そろそろ参りましょう」

 お兄様たち、アルト様は最愛の令嬢と今日、出会うのです。シャーラ様と出会ってしまえば、もう私には見向きもしなくなりますわ。そう言いたいが、言える訳がない。

 気を取り直して、3人で屋敷を出る。すると、両親とお姉様がお見送りに来てくれていた。

「カナリア、今日から貴族学院入学だね。いいかい、万が一カナリアを虐める様な不届き者がいたら、すぐにお父様に言うのだよ。特に殿下とか…」

 お父様、あなたもですか…本当にお兄様たちといい、お父様といい、アルト様を何だと思っているのかしら?

「あなた、カナリアは公爵令嬢なのだから、誰も虐めたりしないわよ。それにアクアとカルアもいるし」

「そうですわ、お父様。あまり殿下の事を悪く言うのはお止めください。さすがに見苦しいですわよ」

 お母様とお姉様が、はぁ~っとため息をついている。

 私の家族は、相変わらずね。そう思ったら、なんだか元気が出て来た。

「お父様、お母様、お姉様、行って参ります。アクアお兄様、カルアお兄様、参りましょう」

 お兄様たちの手を引き、そのまま馬車に乗り込んだ。ちょっと行き過ぎる事もあるが、それでも私の事を一番に考えてくれる大切な家族。大切な家族が傍にいてくれるというだけで、私もがんばれそうな気がする。

 それにお父様やお兄様たちは、私と殿下の婚約解消を望んでいる様だし。きっと婚約解消もスムーズに出来るだろう。婚約解消した暁には、予定通り国を出よう。お父様やお兄様たちは反対するかもしれないが、きっとお母様とお姉様は賛成してくれるはず。

 そうよ、私は世界中を見て回るという新たな夢が出来たのよ。だから、アルト様がたとえ傍にいて下さらなくても、私はきっと大丈夫。

 この世界には、どんな国があるのかしら?早速今日から、色々と調べないと。

「カナリア、もし嫌な事があったら、すぐに俺たちに報告するのだよ」

「そうだよ、カナリア。俺たちはいつでもカナリアの味方なのだから」

 お兄様たちが真剣なまなざしで訴えかけてくる。

「ありがとうございます、カルアお兄様、アクアお兄様。でも本当に大丈夫ですわ。それよりも、貴族学院が見えてきましたわ。今日からあそこに通うのですね」

 ついに見えて来たわ、小説の舞台となった貴族学院が。

 馬車が停まると、深呼吸をした。そしてお兄様たちと一緒に、ゆっくり馬車を降りたのだった。
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