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第16話:少しだけなら
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「セイラ、ここにいたのだね。今日は冷えるのに、外にいるだなんて」
こちらにやってくるのは、ロイド様だ。
「ロイド様、今日はどうされましたか?すぐに客間に」
「いいや、ここでいいよ。それよりも、風邪をひいては大変だ。これを」
何を思ったのか、私の肩に上着をかけてくれたのだ。さっきまでロイド様が着ていた上着。温かくていい匂いがする。
「ありがとうございます。とても暖かいですわ。それで今日は、どうされましたか?もしかして婚約解消届を持ってきてくださったのですか?」
「婚約解消届の件は、昨日も話した通り僕は書くつもりはないよ。それよりも、起きていて大丈夫なのかい?」
私の隣に腰を下ろすロイド様。いつも私に近づきもしないのに。もしかして、後3ヶ月で私の命は尽きるから、その期間だけは私の傍にいて下さるつもりなのかしら?
「ええ、今日は少し体の調子が良いので。私はそのうち動けなくなるでしょうから、動けるうちにやりたい事をやっておきたいと思って。今日はお天気も良いので、中庭でお茶を飲んでいたのです」
「そうか、それじゃあ、僕も一緒にお茶を頂くよ。そうそう、体に良いと言われているお茶を持ってきたのだ。ぜひ飲んでみてほしい」
「ありがとうございます、それでは早速頂きますわ」
何だか変なにおいがするお茶ね。こんなお茶、飲んで大丈夫なのかしら?でも、たとえ毒が入っていたとしても、どうせもう私の命は後わずかだし、いいか。
そう思い、一気にお茶を飲んだ。
これは…
苦い、苦いわ!何なの、このお茶は。
「お嬢様、大丈夫ですか?すぐにお菓子を。それからホットミルクも準備いたしますね」
近くにいたメイドたちが、私の為に甘いお菓子とホットミルクを準備してくれた。大好きなマカロンを口に入れる。甘くて美味しいわ。
「大丈夫かい?セイラは苦いものや辛い物が大好きと聞いたのだが…」
「ええ、大丈夫ですわ。私は苦みがあるものと辛い物は苦手で。甘いものが大好きなのです。特にマカロンとホットミルクは、好んで飲食しておりますわ。最近は大好きな甘いものも、思う様に食べられなくなってきてしまいましたが」
胃腸の調子が良くないのか、甘いものをたくさん食べると気持ち悪くなってしまうのだ。それでも少しは食べたい。
そういえば王宮では、デザートにニガウリや香辛料が強いお菓子がよく出ていた。私は苦手なので、ほとんど手を付けなかったが…
「甘いものが好きだっただなんて…すまない、知らなくて」
「いえ、私もお伝えしておりませんでしたので。気にしないで下さい」
再びマカロンを口にした。甘くて美味しい。でも、これ以上食べるときっと、気持ち悪くなってしまう。そんな気がして、そっとマカロンを置いた。
「もういいのかい?」
「はい、最近はあまり食べられなくて。でも、気にしないで下さい。私はこれくらいで、十分幸せなので」
「すまない、今日はもう帰るよ。また来るから」
そう言うと、足早に去って行ってしまったロイド様。一体どうされたのかしら?上着、返すのを忘れていたわ。
また来ると言っていた。きっと私が亡くなるまでは、せめて私の傍にいようというロイド様の優しさだろう。
たとえ同情であっても、私にとっては嬉しい。ロイド様を早く解放して差し上げようと思っていたけれど、後3ヶ月、傍にいても罰は当たらないか…
それにロイド様といると、胸の苦しみも少し和らぐ。たとえ報われない恋であっても、最後位はいい思いをして死にたいものね。
翌日。
「お嬢様、その様な格好をされて、どうされたのですか?」
「今日は森に行きたいと思って。ほら、婚約する前にロイド様と一度、森にピクニックに行ったことがあったでしょう?今日はいつも以上に体調がいいから、最後にあの場所にも足を運びたいと思って」
「ですが、万が一殿下がいらしたら…」
「2日連続でいらしたのよ。さすがに今日はいらっしゃらないでしょう。とてもお忙しい方だから。それに体調が良い日を見計らって行かないと、いつ行けるか分からないでしょう。日に日に体調は悪化していくのだから」
今日より明日、明日よりも明後日とどんどん私の体調は悪くなっていくのだ。だから動けるうちに動いておきたい。
「承知いたしました。それでは参りましょう」
馬車に乗り込もうとした時だった。王家の家紋が付いた馬車が、こちらにやって来たのだ。
こちらにやってくるのは、ロイド様だ。
「ロイド様、今日はどうされましたか?すぐに客間に」
「いいや、ここでいいよ。それよりも、風邪をひいては大変だ。これを」
何を思ったのか、私の肩に上着をかけてくれたのだ。さっきまでロイド様が着ていた上着。温かくていい匂いがする。
「ありがとうございます。とても暖かいですわ。それで今日は、どうされましたか?もしかして婚約解消届を持ってきてくださったのですか?」
「婚約解消届の件は、昨日も話した通り僕は書くつもりはないよ。それよりも、起きていて大丈夫なのかい?」
私の隣に腰を下ろすロイド様。いつも私に近づきもしないのに。もしかして、後3ヶ月で私の命は尽きるから、その期間だけは私の傍にいて下さるつもりなのかしら?
「ええ、今日は少し体の調子が良いので。私はそのうち動けなくなるでしょうから、動けるうちにやりたい事をやっておきたいと思って。今日はお天気も良いので、中庭でお茶を飲んでいたのです」
「そうか、それじゃあ、僕も一緒にお茶を頂くよ。そうそう、体に良いと言われているお茶を持ってきたのだ。ぜひ飲んでみてほしい」
「ありがとうございます、それでは早速頂きますわ」
何だか変なにおいがするお茶ね。こんなお茶、飲んで大丈夫なのかしら?でも、たとえ毒が入っていたとしても、どうせもう私の命は後わずかだし、いいか。
そう思い、一気にお茶を飲んだ。
これは…
苦い、苦いわ!何なの、このお茶は。
「お嬢様、大丈夫ですか?すぐにお菓子を。それからホットミルクも準備いたしますね」
近くにいたメイドたちが、私の為に甘いお菓子とホットミルクを準備してくれた。大好きなマカロンを口に入れる。甘くて美味しいわ。
「大丈夫かい?セイラは苦いものや辛い物が大好きと聞いたのだが…」
「ええ、大丈夫ですわ。私は苦みがあるものと辛い物は苦手で。甘いものが大好きなのです。特にマカロンとホットミルクは、好んで飲食しておりますわ。最近は大好きな甘いものも、思う様に食べられなくなってきてしまいましたが」
胃腸の調子が良くないのか、甘いものをたくさん食べると気持ち悪くなってしまうのだ。それでも少しは食べたい。
そういえば王宮では、デザートにニガウリや香辛料が強いお菓子がよく出ていた。私は苦手なので、ほとんど手を付けなかったが…
「甘いものが好きだっただなんて…すまない、知らなくて」
「いえ、私もお伝えしておりませんでしたので。気にしないで下さい」
再びマカロンを口にした。甘くて美味しい。でも、これ以上食べるときっと、気持ち悪くなってしまう。そんな気がして、そっとマカロンを置いた。
「もういいのかい?」
「はい、最近はあまり食べられなくて。でも、気にしないで下さい。私はこれくらいで、十分幸せなので」
「すまない、今日はもう帰るよ。また来るから」
そう言うと、足早に去って行ってしまったロイド様。一体どうされたのかしら?上着、返すのを忘れていたわ。
また来ると言っていた。きっと私が亡くなるまでは、せめて私の傍にいようというロイド様の優しさだろう。
たとえ同情であっても、私にとっては嬉しい。ロイド様を早く解放して差し上げようと思っていたけれど、後3ヶ月、傍にいても罰は当たらないか…
それにロイド様といると、胸の苦しみも少し和らぐ。たとえ報われない恋であっても、最後位はいい思いをして死にたいものね。
翌日。
「お嬢様、その様な格好をされて、どうされたのですか?」
「今日は森に行きたいと思って。ほら、婚約する前にロイド様と一度、森にピクニックに行ったことがあったでしょう?今日はいつも以上に体調がいいから、最後にあの場所にも足を運びたいと思って」
「ですが、万が一殿下がいらしたら…」
「2日連続でいらしたのよ。さすがに今日はいらっしゃらないでしょう。とてもお忙しい方だから。それに体調が良い日を見計らって行かないと、いつ行けるか分からないでしょう。日に日に体調は悪化していくのだから」
今日より明日、明日よりも明後日とどんどん私の体調は悪くなっていくのだ。だから動けるうちに動いておきたい。
「承知いたしました。それでは参りましょう」
馬車に乗り込もうとした時だった。王家の家紋が付いた馬車が、こちらにやって来たのだ。
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