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第37話:ルーマさんに別れの挨拶をします

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伯父様がやって来て私たちの気持ちが通じ合ってから、1ヶ月が過ぎようとしていた。この1ヶ月で、密かに王都に戻る準備を行った。

使用人たちにも、近々王都に戻る事になったという話をしたらしい。ただ、この地の領主でもあるマスティン侯爵の計らいで、この屋敷はそのままにしてくれる上、使用人たちも引き続きこの屋敷で働き続けてもらう事になった。

と言っても、主はいないので、この家の管理という名目で働いてもらう様だ。また希望者には、マスティン侯爵家の領地のお屋敷で働く事も可能との事。いずれにしろ、使用人たちが路頭に迷わない様に色々と配慮してもらえる形になったらしい。

もちろん、もし私たちの計画がうまく行き、奥様やエドワード様がそれぞれ王妃様と王太子殿下になったとしても、この地に遊びに来られる様に陛下に掛けあってくれるらしい。

ちなみに陛下と奥様は定期的に連絡を取っている様で、近々王都に戻ろうと考えていると話をしたところ、泣いて喜んでいたらしい。

どうやら陛下は、奥様の事を心から愛している様だ。もう二度と肩身の狭い思いをしない様に、今必死で王宮を過ごしやすい環境に整えようと動いているとの事。

“あの人も色々と苦労しているのよ。だからどうか、許してあげて”

と、奥様に言われた。どうやら奥様も、陛下を愛している様だ。王族がゆえに、自分の気持ちだけで動く事が出来ず歯がゆい思いをしていた陛下も、ある意味被害者なのかもしれない。

そう言えば私が王妃様に虐められている時や、ルイード殿下に仕事を押し付けられている時も、2人に注意している姿を見た事がある。ただ…そのせいで王妃様の嫌がらせが酷くなったため、陛下は私に極力関わらない様にしていたが…

とりあえず、陛下にも王都に戻るという話をしたことで、本格的に王都に戻る準備を進めているのだ。

そして気になるお母様が集めていた証拠の数々だが、かなり有力な証拠が集められていた様で、伯父様が“これほどまでに完璧に証拠を集めていただなんて…我が妹ながら、恐ろしい…”と、呟いていたそうだ。

これほどの証拠がそろっていれば、王妃様たちを断罪するのはたやすそうだとの事。さらに、王妃様やルイード殿下に対する不満を抱いている貴族たちは、思ったより多い様で、既にエドワード派がかなり集まっているらしい。

伯父様たちが動く前から、密かにエドワード様の居場所を探し出し、彼を王にしようとする派閥がエドワード様の捜索を開始していたらしい。

ここに来て、私たちにかなりの追い風になっている事は間違いない。準備が整った事から、いよいよ明日、王都へ向けて旅立つことになった。

ちなみにメイド長は、実は奥様やエドワード様の正体を知っていた唯一の人物だったらしく、そのまま王都についてくるとの事。元々は、王都のマスティン侯爵家でメイドとして働いていたらしい。

ただ、私にはまだやり残したことがある。それは、この地に来てから、本当の家族の様に接してくれたルーマさんに話をする事だ。エドワード様について王都に行く事は伝えたのだが、まだ私の本性を伝えられていない。

彼女にだけは、どうしても本当の事を話したいと思っている。この日は屋敷でもお別れパーティーが行われていたが、私は一足先に家に帰らせていただく事になった。

家につくと、ルーマさんの家を訪ねる。

「あら、マリアナちゃん。今日は随分帰りが早いじゃないか?今日は屋敷でお別れパーティーが行われるのではなかったのかい?」

「はい、そうなのですが、どうしてもルーマさんと話がしたくて、先に帰って来たのです。ルーマさん、少し宜しいですか?」

「ああ、もちろんだよ。座って。すぐにお茶を入れるわね」

そう言うと、美味しいお茶を入れてくれた。

「ルーマさん、どこの馬の骨か分からない私に家や仕事を与え、家族の様に接してくださり、ありがとうございました。私、ルーマさんのお陰で、人の温もりを思い出すことが出来ましたわ」

「こっちこそ、マリアナちゃんと過ごした時間は、とても幸せだったわ。マリアナちゃん、もし王都で辛い思いをしたら、いつでもこの地に帰っておいで。ここはあなたの第二の故郷なのだから」

そう言ってほほ笑んでくれるルーマさん。その言葉が、嬉しくてたまらない。でも、私はずっと自分を偽って来たのだ。

「ルーマさん、ごめんなさい…私の本当の名前は、マリー…です。元公爵令嬢で、現王太子殿下の元婚約者でした…そしてエドワード様はこの国の第二王子です。あの…黙っていて…」

「知っていたよ。どうしてもあなた達の事が気になって、メイド長を問い詰めたんだ。マリアナちゃんもお坊ちゃんも、高貴な身分の人なんじゃないかと思ってね。たとえマリアナちゃんが元公爵令嬢で王太子殿下の元婚約者だったとしても、マリアナちゃんはマリアナちゃんだよ。私はいつでも、あなたの味方だから」

「ルーマさん…」

気が付くとルーマさんに抱き着いていた。まさか、全て知っていただなんて…それでも受け入れてくれたルーマさんの優しさに、涙が溢れ出す。

「ほら、泣かないで。私達平民には難しい事はよくわからないけれど、今から王都に戦いに行くのだろう?マリアナちゃんとお坊ちゃんなら、きっとうまく行くはずだよ。でも、もしもうまく行かなかったら、また2人で帰っておいで。私達が匿ってあげるから。だから、安心して行っておいで!たとえもう二度と会えなくても、私たちはこの地からあなたの幸せを願っているから」


「ルーマさん、ありがとうございます。私、あなたに会えて本当に幸せでしたわ。ルーマさんやその家族に与えられた温もりや温かさは、一生忘れません」

「私も、マリアナちゃんの事は一生忘れないよ。私の可愛い娘だもの。さあ、もう泣かないで。明日も朝が早いのでしょう。明日に備えて、早く寝ないとね」

そう言って笑顔を向けてくれたルーマさん。でも、その瞳には、涙が光っていた。元公爵令嬢と知っても、“マリアナちゃんはマリアナちゃん”と言ってくれたルーマさん。彼女の優しさ、偉大さを改めて感じたのだった。
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