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第28話:心境に変化が生まれ始めています

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「マリー、今日はとても天気がいいよ。一緒に近くの森に行こう。きっとジャミンも喜ぶよ」

「わかりましたわ。ではすぐに、料理長にサンドウィッチを準備してもらいますね」

私が公爵令嬢だと奥様とエドワード様に知られてから、1ヶ月が過ぎた。私の願いを受け入れてくれたお2人のお陰で、私は今もこの家のメイド(としての仕事はほとんどしていないが)として働かせていただいている。ちなみにあの日から、エドワード様も奥様も、私の事を“マリー”と呼んでいるが、皆気にしていない様だ。

まさかお2人が、この国の側妃と第二王子だっただなんて…あの日奥様から、お母様の事やお2人の過去を聞いた時、あまりの衝撃で思考回路が停止し、何も考えられなかった。でも、時間が経つにつれて、だんだん怒りがこみ上げてきたのだ。

あんなにお優しい2人をこの地に追いやるほど追い詰めた王妃様に対して。でも、今の私には何もできない。私もあの人には散々イジメられた。正直関わりたくないという気持ちもある。でも…

「マリー、深刻な顔をしてどうしたんだい?さあ、行こうか」

「キャンキャン」

嬉しそうにエドワード様が、ジャミン様を抱っこしながら、私を馬車へと誘導する。そうそう、ジャミン様は実は、私が大切にしていたキャスの孫にあたるらしい。

“僕がこの地に引っ越すあの日、君が僕に可愛い子犬を譲ってくれたんだ。キャスが産んだ赤ちゃんよ、大切にしてねってね。残念ながらキャスの子供は亡くなってしまったが、その子が産んだ子がジャミンだ。だからジャミンは、キャスの孫なんだよ”

そうエドワード様が教えてくれたのだ。キャスの血を受け継いだ子と、また会えるだなんて。ジャミン様がキャスに見えたのは、きっと孫だったからなのだろう。

「マリー、今日は天気がとてもいいよ。あの丘は景色が綺麗だからね。それに広いから、ジャミンも思いっきり走り回れるよ」

「そうですわね。ジャミン様は本当に走るのが大好きですものね」

ジャミン様の頭を撫でると、気持ちよさそうな顔をしている。キャスも撫でられるのが好きだったな。ジャミン様といると、なんだかキャスへの罪悪感も少し和らぐ気がするのはなぜだろう。

この地に来て、私の心は随分落ち着いた。それと同時に、色々と考える事も多くなったのだ。私はこのまま、本当に逃げ回っていていいのだろうか…お母様は2人を守り、彼らをまた再び王宮に戻そうとしていたと聞いた。

お母様は曲がった事が嫌いで、たとえ身内であっても、悪い事をした人間は罰を受けないといけないと考えている様な人だった。

“マリー、あなたもどうか困っている人間がいたら手を差し伸べ、間違った方向に進んでいる人間がいたら正してあげられる人になって。たとえ家族であっても、間違ったことをしたら罰を受けないといけないのよ。分かったわね”

よく母はそう言っていたな…

「また神妙な顔をしているね。どうしたんだい?何か悩みがあるのなら、僕に遠慮せずに相談して欲しい。君がそんな顔をしていると、僕は不安になるよ」

心配そうな顔で私の方を見つめるエドワード様。彼はちょっとした私の変化も、すぐに気が付いてくれるのだ。ルイード殿下は、どんなに私が辛そうにしていても、全く気が付かなかったのに…

て、ルイード殿下とエドワード様を比べること自体失礼よね。エドワード様は本当に素敵な方なのだ。彼といるだけで、心が穏やかになる。それと同時に、なんだか幸せな気持ちになるのだ。彼にはいつでも笑顔でいて欲しい。

「それでは1つ質問をしてもよろしいですか?エドワード様は、もし…もし戻れるなら、王宮に戻りたいですか?」

彼を真っすぐ見つめ、そう問いかけた。その瞬間、一瞬目を大きく見開いたと思ったら、急に悲しそうに笑った。

「君はやっぱり夫人の子供だね。今の君の真剣なまなざし、君の母上にそっくりだ。確かに僕は、母上から家族を奪い、僕たちを苦しめた王妃や王妃の実家でもあるクディスル公爵家が憎いよ。でも…リスクを冒してまで、戻りたいとは思わない。現に僕たちの為に動いてくれた、君の母上は、殺されてしまったし…」

エドワード様の悲しそうな顔を見たら、胸が締め付けられるような感覚に襲われた。お願い、そんな悲しそうな顔をしないで…

そして、やっぱりエドワード様もお母様が殺されたと思っている様だ。確かにお母様の死は、今思い返しても不自然だった様な気がする。それに亡くなる少し前、お母様は…

なんだか思い出せそうで思い出せないのよね…

「また難しい顔をして。ほら、森ついたよ。ジャミンも早く出たがっているし、早く出よう」

「申し訳ございません。そうですわね。それでは参りましょう」

馬車から降りると、走り出したジャミン様。本当にジャミン様は走るのが大好きな様で、嬉しそうに駆け回っている。

「そう言えばマリーの家にいたキャスも、よくあんな風に中庭を走っていたね。そんなキャスを、マリーが一生懸命追いかけるのだけれど、中々捕まえられなくてね。その姿がまた可愛くて」

「まあ、私がキャスを?あまり覚えておりませんわ」

「君はまだ小さかったからね。すぐに眠ってしまうし。あの頃の君は、本当によく眠る子だったよ。僕の膝の上でも眠っていたよ」

「私がエドワード様の膝の上でですか?まあ、なんて事でしょう。それにしても、エドワード様はよく覚えていらっしゃるのですね。私と2歳しか変わらないのに…」

「僕はどちらかと言うと、記憶力がいい方だからね。それにあの頃が一番楽しかったんだよ。だから、絶対に忘れたくない大切な思い出なんだ」

忘れたくない大切な思い出か…
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