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第3話:公爵家を追い出されました

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公爵家に着くと、鬼のような顔をしたお父様と、ごみを見る様な目をした継母が待っていた。

「マリー、貴様!なんて事をしてくれたのだ!お前のせいで、殿下と婚約破棄する羽目になったじゃないか!王妃殿下もカンカンに怒っていたぞ。ただ、心お優しい殿下が“マリーが今までの行いを悔い改め、自分の事を最優先し大切にしてくれるのなら、もう一度婚約をし直してもいい”と言ってくれている。今すぐ王宮に行って、殿下と王妃殿下に土下座して謝罪してこい!」

予想通り、私に暴言を吐くお父様。ただ、あの後無事に婚約破棄が出来たのね。という事は、私はもう、王太子殿下の婚約者ではない。よし!

「本当に全く役に立たない女ね。まさか伯爵令嬢に、殿下の心を奪われるだなんて。あなたの様に魅力のない女、殿下も婚約破棄したいと思って当然よね。本当に、殿下も王妃殿下も、お気の毒だわ」

継母もすぐさま暴言を吐く。

「こんな役に立たない娘でも、王妃になってもらわないと困るんだ!我が家がより権力を保つためにも。それにマリーが王妃になれば、グリースだって、王妃の弟としてより権力を握れるのだぞ!」

グリースとは、継母父親の子供で、異母弟だ。継母と一緒で、性格が悪く私を見下す、とても嫌な弟なのだ。どうして私が、あんな弟の為に好きでもないバカ男と結婚しないといけないのだろう。

考えれば考えるほど、悲しくなってきた。

「おい、何をボーっとしているのだ。いいか、お前がもし殿下との婚約を再度取り直せなかったら、お前を勘当する!そんな事になれば、お前は野垂れ死ぬか、悪い奴に誘拐され、奴隷にされるのがオチだ!いいか?自分が今、どれほど窮地に立たされているか、しっかり理解する事だな」

そう叫び、ある用紙を見せて来た。そう、正式に親子の縁を切る為の用紙だ。今回は相当怒っている様で、こんな紙を準備したのね。ご丁寧に、自分のサインまでしてある。


そもそも、私が窮地に立たされているですって?この男はバカなの?今どう考えても、この生き地獄から逃げ出すチャンスじゃない。

そう思ったら、なんだか笑いが込みあげてきた。

「何が可笑しいのだ?頭がおかしくなったのか?」

「そうよ、急に笑い出さないでよ!びっくりするじゃない」

私が急に笑い出したからか、2人がびっくりしている。本当にこいつら、おめでたい頭をしているのよね。でも…こんな奴らの言いなりになっていた私が、一番大バカ者だったわ。

「窮地ですって?申し訳ございませんが、私は王太子殿下と婚約破棄出来て、せいせいしておりますの。誰が王宮に謝罪に何ていくものですか!勘当する?どうぞお好きな様に。勘当でも何でもしたらよろしいですわ。この紙にサインをすればいいのですわよね」

紙を受け取ると、その場でサインをした。そして

「この用紙を今すぐ提出して来て。今ならまだ間に合うわ」

「おい、勝手な事を…」

「私を勘当したいのでしょう?それとも、ただの脅しだったのかしら?」

コテンと首をかしげてやった。すると、みるみるタコの様に真っ赤な顔になったお父様。

「だ…誰が脅しなものか!いいだろう、今すぐ出してこい。後でいくら泣きついても、私は絶対にお前を許さないからな。見すぼらしくその辺で野垂れ死ね」

実の娘に野垂れ死ねだなんて、本当にこの男、最低だわ…

ただ、あの男の言葉を聞いた使用人が、急いで提出に行ったため、私はこれで正式に公爵令嬢ではなくなった。

「さあ、もう私の娘でも何でもない!さっさと出て行け!後で泣いて謝って来ても絶対に許してやらないからな!」

誰が泣いて謝るものですか!そっちこそ、絶対に私を探さないでよ!そう言いたいのを、ぐっと我慢した。

「分かりました。それでは私はこれで」

クルリと後ろを振り返ると、そのまま公爵家を出る。私が出たことを確認すると、すぐに門を閉める門番。相変わらずこの家の使用人たちは、皆感じが悪いことこの上ないわ。

思い返してみれば、お母様が亡くなってから、この家に私の味方はいなかった。私に優しかった使用人や、姉の様にずっと一緒だった専属メイドのルシアたちは、皆辞めさせられたのだ。

私を甘やかせる環境を作るのは良くないという、継母の指示によって私はずっと孤立した生活を送って来た。それでも私は、ただ皆に認められたくて、どんな理不尽な環境でも耐えてきたのよね。

本当に自分でもびっくりする程、自分の体も心も犠牲にして生きて来た。

「お疲れ様、今までよく頑張ったわね。これからは平民として、自由に生きましょう」

自分に向かって、自分にエールを送る。気が付くと、涙が溢れてきた。いけないわ、まだ泣くのは早い。安全にこの地から脱出して、生活の基盤を作るまでは、まだ泣く訳にはいかないのよ!

涙をぬぐい、急いでカバンを隠している茂みへと向かった。このドレスでは目立ちすぎる。ドレスを脱ぎ捨て、動きやすいワンピースに着替える。そしてカバンを持ち、そのまま事前に調べておいた夜行汽車に飛び乗ったのだった。
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