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第64話:私が2人の為に出来る事

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しばらくすると、バタバタと足音が聞こえた。そして

「オリビア、急に帰るなんて一体何があったんだ?」

やって来たのは、レオナルド様だ。どうしよう、きっと今レオナルド様の顔を見たら、号泣してしまう。そう思った私は、眠っているふりをする事にした。

「オリビア?眠っているのかい?」

ゆっくりと私に近づいてくるレオナルド様。そして、私のおでこに口づけをした。どうして?あなたには最愛の人、メアリーがいるのに、どうして私に口づけをするの?

目をつぶっているのに、涙が溢れそうになる。

「こんなに可愛い寝顔をしていたら、起こせないじゃないか。おやすみ、オリビア。ゆっくりお眠り」

もう一度おでこに口づけをすると、レオナルド様はそのまま部屋から出て行った。どうしてあの人は、あんな事をするのだろう。レオナルド様が愛しているのは、メアリーなのに。

もしかしたら、私との結婚は避けられないから、私を愛しようと頑張っているのかしら?優しいレオナルド様なら、やりそうなことだ。

でも…

「レオナルド様…私は優しくされればされるほど、辛くてたまらないのです…いっその事、“オリビアなんて嫌いだ!僕の好きな人はメアリーだ”と言ってくれたら、少しはレオナルド様を恨めるのに…」

レオナルド様の優しさが、今の私にとっては辛くてたまらない。私が誰よりも愛したレオナルド様、そして、この国で初めて出来た大切な女友達、メアリー。もしも私さえいなければ、2人は幸せになれるのかしら…

その後食欲もなく食堂に姿を現さなかった私を心配したお父様とお母様が様子を見に来たが、こちらも寝たふりで何とか乗り切った。しばらくベッドの中で過ごしたが、何となく1冊の小説を手に取った。

そういえばこの小説も、婚約者がいるヒーローをヒロインが好きになったのよね。まるでレオナルド様とメアリーみたい。

そうすると、私は邪魔者の婚約者か…

ベッドから抜け出し、窓を開けた。外は既に真っ暗だが、美しい月が出ていた。

私がいなくなれば、レオナルド様とメアリーは一緒になれる。私さえいなければ…

そんな思いが頭をよぎった。

正直、レオナルド様が他の女性を好きだと知った今、彼と結婚する事なんて出来ない。心は別の女性を思っている男性と結ばれても、惨めなだけだ。それならいっその事…

「私もこの国をひっそりと出て、1人で暮らしたら…」

ポツリとそんな事を呟いてしまった。私は9歳まで平民として育った。洋服の着かたや料理、掃除も出来る。簡単な裁縫も出来る。生まれてからずっと貴族だったお母様に比べれば、あまり苦労なく他国で暮らせるかもしれない。


でも…どうやって国から出ればいいのかしら…

お母様は、どうやって国から出たのかしら?そんな思いから、そのまま部屋を出た。向った先は、居間でお茶を飲んでいたお母様の元だ。

「お母様、少し宜しいでしょうか?」

「あら、オリビア、起きたのね。体調は大丈夫なの?」

「私の可愛いオリビア、ずっと起きないから心配したんだよ」

お父様が駆け寄ってきて、抱きしめてくれた。お母様も、隣で心配そうな顔をしている。

「実は私、今小説を書いていて。ほら、私は小説を読むのが好きでしょう。それで、どうせなら書きたいって思ったの。それで最近、夜更かししちゃって」

そう言って、ペロリと舌をだした。

「そうだったの。それで、急に私たちのを訪ねて来てどうしたの?」

「お母様は10年もの間、お父様から逃げていたのでしょう。それで、どうやって逃げたのかなって思って。今回の小説は、お母様をモデルにしたいなって思っていますの」

私の言葉に、凍り付くお母様。お父様の目の色も変わった。マズイ、これは聞いてはいけない事だったかしら?

「あの…ごめんなさい。話したくなければいいのですわ。それでは失礼いたします」

急いで2人の元を去ろうとしたのだが

「オリビア、待ちなさい。いいだろう。話してやろう。シャリーは…アリーシャの協力の元、国を出たんだよ。アリーシャという女は、非常に悪い女でね。国を出るための馬車の準備や、他国で生きていくためのお金なども彼女が準備した。そう、シャリーには協力者がいたんだよ」

ニヤリと笑ったお父様。その顔は、私が見ても後ずさりする程、恐ろしい顔だった。

「オリビア、女の友情なんて、当てにならない。女は嫉妬に狂うと、何をしでかすか分からないんだよ。いいかい?オリビアも気を付けるんだよ。さあ、小説もいいが、もう寝なさい。お父様が部屋まで送ろう」

私を抱きかかえると、歩き出したお父様。

「自分で歩けますわ」

そう伝えたのだが…

「後2ヶ月もすれば、もう気軽には会えなくなる…どうか今だけは、こうさせておくれ」

そう言うと、なぜか寂しそうな顔をしたお父様。もしも私が国を出ると知ったら、お父様はきっと悲しむだろう。

でも…
ギュッとお父様の首に巻き付いた。初めてお父様に会った時はまだ小さくて、普通に抱っこしてくれたのよね。でも今は、横抱きだ。それでもお父様は大きくて、温かい。

「お父様、心配かけてごめんなさい」

ポツリと呟いた。

「なんだ、心配かける様なことでもしたのか?私はいつでも君の味方だ。それだけは覚えておいて欲しい。私はオリビアを誰よりも愛している。もちろん、レオナルドよりもな。ただ…もうオリビアも16歳だ、私が口を出す年齢ではない。だから…もううるさくは言わないよ。自分が思った通りに生きなさい。ただ、後悔だけはするなよ。ほら、ベッドに着いたよ」

私をベッドに降ろすと、そのまま頬に口づけをした。

「私の可愛いオリビア、君に初めて会ったあの日から、もう7年も経ったんだね。それでも、君と過ごせなかった9年にはまだ及ばない。オリビア、生まれた時から傍にいてやれなくてすまなかった。それだけは、今でも心残りでしかない」

「お父様…」

「さあ、もうお休み。明日も学院があるのだろう?」

私の頭を優しく撫でてくれる大きな手。その手が、温かくて気持ちいい。

「おやすみなさい、お父様…」

「おやすみ、オリビア」

なんだか今日はゆっくり眠れそうだ。私はゆっくりと目を閉じた。

「オリビア…どうかシャリーと同じ運命だけは、たどらないでくれ…」

意識を失う寸前、お父様が何かを呟いたことに、私が気付く事はなかったのだった。
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