その結婚、喜んでお引き受けいたします

Karamimi

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第1話:侯爵様に嫁ぐことになりました

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「マリアンヌ、喜べ!お前に見合いの話しが舞い込んできたぞ」

お父様から呼び出されたかと思ったら、急にそんな突拍子な事を言い出したのだ。

私、マリアンヌ・ディアレスは16歳の伯爵令嬢。そんな私は、実はいわく付きな令嬢の為、今まで私と婚約したいという人なんて現れなかった。それなのに、どうして急に…

「お父様、私は1年前、婚約者だったダニエルの誕生日パーティーで、婚約破棄をされるという醜態をさらしたのです。あんな公の場で婚約破棄をされた私を、嫁に貰ってくれる人なんていないでしょう」

「それがだな、お前を嫁に貰ってもいいと言う人が現れたんだ。それもディファーソン侯爵だ。どうだ、すごいだろう!」

どや顔で私に話してくるお父様。何ですって!ディファーソン侯爵様ですって。一瞬にして鼓動が早くなり、胸がドキドキする。

グリム・ディファーソン侯爵様、彼は23歳という若さで侯爵家の当主を務めるだけでなく、騎士団長として日々活躍している男性だ。ただ、この国では珍しい黒髪なうえ、殺気立った鋭い目つきの為、令嬢たちからは怯えられているらしい。

その為か、未だに結婚していないのだとか。

「いいか、マリアンヌ、確かにディファーソン侯爵は目つきもあまり良くないし、厳しい方だ。でも、このまま誰とも結婚しない訳には行かないだろう。なっ?せっかくお前と結婚してやってもいいと言ってくれているんだ。ここは喜んで引き受けようじゃないか?」

お父様が私を説得しにかかって来た。そもそも、私はグリム様をお慕いしている。こんな夢のような話、引き受けない訳がない。

「お父様、このお話し、喜んでお引き受けいたしますわ」

「そうか、よかった。それじゃあ、早速先方に話しを付けよう」

嬉しそうに部屋から出ていくお父様。お父様には色々と心配を掛けてしまったものね。

一旦自室に戻ると、ふと過去の事を思い出す。私は8歳の時、幼馴染で侯爵令息のダニエルと婚約をした。ダニエルは親同士が決めた婚約者だった。それでも、ダニエルの婚約者として、それなりに楽しくやって来た。

でも、私たちが14歳の時、ダニエルが急に私に冷たくし始めたのだ。他の令嬢と積極的にダンスを踊りだしたり、私の悪口を令嬢たちに吹き込んだりした。何度もダニエルにやめてほしいと訴えたが、そのたびに嫌そうな顔で

“別にいいだろう?どうせ俺たちは結婚するんだから、それまでは羽目を少しくらい外しても”

そう言って、取り合ってくれなかった。そして事件は起こったのだ。


~1年前~
「ダニエル、15歳のお誕生日、おめでとう。これ、腕時計なの。知っている?時計はね、これからも同じ時間を共に生きましょうという意味があるのですって」

この日はダニエルの15歳の誕生日。侯爵家で盛大にパーティーが行われていた。もちろん、たくさんの貴族が集まってきている。そんな中、ダニエルは相変わらず私を無視し、他の令嬢とダンスを踊ったり、話しをしたりしていた。

それでもなんとか彼に自分の気持ちを伝えたくて、ダニエルを呼び出し、プレゼントを渡したのだ。

でも…

「悪いが、この腕時計は受け取れない。この際だからはっきり言うよ。皆も聞いて欲しい。俺はマリアンヌを愛していない。親が言うから、仕方なく婚約しただけだ。いつも俺にベッタリくっ付いてくる君が、邪魔でたまらなかったんだ。いい加減、俺を解放してくれないかい?この場を持って、俺と婚約破棄して欲しい」

婚約破棄…

その言葉で、一瞬頭が真っ白になった。周りも明らかにざわめている。いくら私と婚約破棄をしたいからって、こんな大勢の前で…

こみ上げる涙を必死に堪えた。泣くな、泣くものか!ここで泣いたら、きっと私は完全に可哀そうな子になる!それだけは、絶対に避けないと。

ギュッと目を閉じ、ゆっくりと開けた。

「わかりました、あなたとの婚約破棄、受け入れましょう。今までありがとうございました」

ぺこりと頭を下げ、そのままホールを後にした。後ろから両親や友人たちが何か叫んでいる声が聞こえたが、今はそれどころではない。とにかく、1人になりたかった。

無我夢中で走ってたどり着いた先は、中庭だった。中庭は月明かりが照らされているくらいで、薄暗い。でもその薄暗さがちょうどいい。近くに腰を下ろし、その場で声を殺して泣いた。

正直ダニエルを愛していたかと言われれば、答えはNoだ。それでもこれから人生を共に生きていく人として、今まで精一杯過ごしてきた。それなのに…こんなにあっさり捨てられるなんて…

それもここは貴族界。特に我が国は、どんな理由であれ婚約破棄された令嬢は、何かしら問題があるのだろうという事で、今後の結婚にひびく。あろう事か、あんな大衆の面前で婚約破棄されたのだ。きっともう、私は一生結婚できないだろう。

ふと近くに咲いているバラが目に入った。そういえばこの場所…

“マリアンヌはバラが好きだから、この場所にバラ園を作ったんだよ”

そう、私の為にダニエルが作ってくれたバラ園だ。ダニエルはとても優しい人だ。そんな人から婚約破棄をされるなんて…

「私が悪かったんだわ。あんなにも優しいダニエルに、婚約破棄と言わせてしまった私が…」

溢れる涙をとめる事が出来ず、その場にうずくまり泣いた。その時だった。

スッと誰かがハンカチを渡してくれた。誰?

ふと顔をあげると、そこにいたのはグリム様だ。

「俺からこんな事を言われても嬉しくないかもしれないが…優しい男は、公衆の面前で婚約破棄なんてしない。だから、君は何も悪くない、悪いのはあの男だ」

そう言うと、彼は足早に去って行った。




“優しい男は公衆の面前で婚約破棄をしない、君は悪くない、悪いのはあの男だ”

あの時グリム様の言葉で、私の心は少し軽くなったのよね。そしてあの日から、グリム様が気になりだした。

正直夜会なんて苦痛でしかなかった。私を公衆の面前で婚約破棄された可哀そうな令嬢として、皆見てくる。それでもグリム様を一目見たくて、そして私を必死に支えてくれる友人たちに心配かけたくなくて、なんとか参加していた。

そんなグリム様と結婚できるなんて!
あぁ、神様は私を見放していなかったのね。早速友人たちに伝えないと。



~あとがき~
新連載始めました。
よろしくお願いしますm(__)m
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