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第11話:私の前に現れた不思議な女性~ジルド視点~

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自分の無力さに、どうしようもない感情が襲う。そんな私を、いつも励ましてくれていたのは、姉上だ。

「ジルド、あなたが諦めてどうするの?大丈夫よ、あの女、魔女になったのですもの。きっとそのうち聖女様が誕生するわ。その聖女様が魔女をやっつけてくれるはずよ。だから、諦めずに戦いましょう」

聖女様か…

正直聖女様なんて、懲り懲りだ。そう思ったが、どんなに辛い環境でも、泣き言1つ言わない姉上を見ていたら、私も諦める訳にはいかない。そう思い必死に戦った。

そんな日々が12年続いたある日、急に目の前に令嬢が現れたのだ。どうしてこんな場所に令嬢が? 

かなり弱っているのか、目もうつろだ。早くこの令嬢を助けないと。そう思い、急いで隠れ家でもある地下へと連れて行く。どうやら彼女は、ジャンティーヌと言うらしい。家臣たちは彼女に対し怪訝そうな顔をしていたが、私はどうしても彼女が悪い令嬢に見えなかった。

それにもう私の目の前で、誰も死んでほしくない、そんな思いから、彼女に食べ物と休む部屋を与えた。それはそれは美味しそうに食べ物を頬張るジャンティーヌ殿。

その姿がなんだか可愛くて、つい目を離せない。なんだろう、この子。初めて会ったはずなのに、一緒にいて心地いい。この感覚は…

私が彼女に見とれている間に、あっと言う間に食事を終えたのだ。さらに何を思ったのか、笑顔で私に治癒魔法を掛けてくれたのだ。その魔力は、今までに感じた事のない、温かくて心地の良いものだった。

何なんだ、この魔力は…こんな魔力、今まで感じたことがない。それによく見ると、この国を救ってくれた伝説の初代聖女によく似ている。もしかして彼女は、伝説の初代聖女様か?そう思い彼女に聞いたのだが、自分は聖女ではないと言って笑っていた。

さらに助けてくれたお礼と言わんばかりに、怪我をしていた家臣たちを次々と治療していくジャンティーヌ殿。はやり彼女は、聖女なのでは?他の家臣たちも私と同じことを思った様で、彼女に聖女ではないのかと聞いていたが、自分は聖女ではないと言っていた。

おっといけない、体力が回復したのだから、もう一度地上に向かわないと。とにかく少しでも魔物たちを倒したい。そう思い、家臣を連れて再び地上に出た。

「殿下が連れて来た女性、やはり聖女様ではないのですか?よく見ると、伝説の初代聖女様によく似ていらっしゃる。魔力も尋常ではないですし」

家臣の1人が話しかけて来た。

「確かに私も聖女様かと思ったが、彼女は他国の人間だ。それにわざわざ他国も聖女を追い出したりしないだろう」

彼女はクリスティル王国から来たと言っていた。たとえ彼女が聖女様であっても、この国と縁もゆかりもない彼女を、危険な目に合わせる訳にはいかない。元気になったら、何とか安全なルートでこの国から逃がしてあげないと。

そのときだった。ゴブリンの群れが私たちを襲ってきた。早速攻撃魔法を掛ける。なんだかいつもよりも魔力の威力が強いな。あっという間にゴブリンの群れをやっつけた。

「殿下、なんだか今日は魔力がみなぎります。やはり彼女は、聖女様なのですよ」

「私もいつも以上に力を出せました。聖女様のお陰ですね。ただ、もう日暮れです。一度戻りましょう」

日が暮れると、増々魔物たちが凶暴になる。この日はとりあえず地下へと戻ろうとした時だった。目の前にはドラゴンが3匹も。さすがにこれは無理だ。

「私がこいつらをひきつけておくから、お前たちは急いで地下に戻ってくれ」

「何をおっしゃっているのですか?とにかく、一斉に攻撃魔法を…ウワァァ」

私たちが話をしている間に、1人の家臣がドラゴンに襲われたのだ。くそ、こうなったら戦うしかない!とにかくドラゴンをなんとかしないと!

必死に攻撃魔法を掛けるが、はやり歯が立たない。クソ…私たちもここまでか…そう思った時だった。数名の家臣たちが、残る力を振り絞りドラゴンの頭を凍らせたのだ。

「でん…か…今のうちに…」

グワァァァっと叫びながら、暴れているドラゴン。すぐに氷も溶かしてしまうだろう。ただ、今のうちに逃げられる。動けない者を必死で担いで、体を引きずりながらなんとか地下に戻ってきた。

血だらけの私を見た姉上が、急いで私に駆け寄ってきて泣きながら治癒魔法を掛けてくれる。でも、怪我が酷すぎて、ほとんど効果がない。私はもうダメかもしれない…せめて家臣たちだけは、生き残って欲しい…

意識が遠のきかけた頃、私の瞳にジャンティーヌ殿がうつった。心配そうにこちらに走って来たと思ったら、一気に治癒魔法を掛けたのだ。

その瞬間、怪我が見る見る治っていく。既に瀕死に近かった私たちの怪我を一瞬で治すだなんて、やはり彼女は…

ただ、元々体調の悪かった彼女は、その場に倒れ込んでしまった。急いでジャンティーヌ殿を抱きかかえて、姉上が準備した部屋へと連れて行く。今日彼女を助けた時も思ったが、令嬢とはこれほどまでに柔らかい生き物なのか。
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