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第11話:ケリがつきました
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部屋に戻ると、ヴァンが心配そうな顔で待っていた。
「お嬢様、どうでしたか?うまくいきましたか?」
「ええ、うまく行ったというか…かなり大事になってしまったわ」
私は今日の出来事を、ヴァンにわかりやすく説明した。
「そうでしたか。それにしても、お嬢様は優しすぎます。あの女は、ずっとお嬢様を苦しめてきた女なのですよ。現にこの前だって、あの女の嘘のせいで、旦那様に殴られ、小屋で寝る羽目になったではないですか?」
「あれはカミラ様のせいと言うよりも、ネイサン様がお父様に抗議したから悪いのよ。それにネイサン様、あんなにカミラ様にお熱だったのに、都合が悪くなるといとも簡単に捨てたのよ。本当に、クズ以外何者でもないわ…」
前世だったら一発ぶんなぐってやりたいくらいだが、生憎あの男は王太子。手を出すわけにはいかない。
「そうでしたか…でもお嬢様、いくら殿下が最低な人間でも、クズはダメです。万が一誰かに聞かれたら、どうするのですか?」
そうヴァンに怒られてしまった。
「ヴァン、やっぱり私は、ネイサン様と結婚なんてしたくないわ。何が何でも婚約破棄をしたいのだけれど、どうしたらいいかしら?」
今回の件で、心底あの男が嫌いになった。もう同じ空気を吸うのですら、嫌悪感を抱くのだ。
「そうでね…ライバルが消え去った今、向こうから婚約破棄を申し出てくることは厳しいかと…今回の件で、殿下はお嬢様との未来を意識している様ですし。それでしたらお金を貯め、こっそりとこの国を出るか…お嬢様または侯爵が重犯罪を犯して、婚約破棄されるか」
「お金を貯めて出ていくなんて、なんだか逃げるみたいで嫌よ。それにもし重犯罪なんて犯したら、下手したら極刑よ。お父様なら悪い事をいくらでもしてそうだけれど、さすがに家族を売るなんて出来ないわ。そうだわ、ネイサン様に身分の高い令嬢を、好きになってもらうなんてどうかしら?」
そうよ、カミラ様は身分が低かったからダメだったけれど、身分の高い女性ならきっと婚約破棄できるはずだわ。
「お嬢様も今回の件でわかったでしょう?陛下は比較的まともな方です。そんな方が、いくら身分の高い令嬢だったとしても、殿下の我が儘で婚約破棄を認めるでしょうか?その上、今回の件で陛下は、お嬢様に強い罪悪感を抱いていらっしゃる様ですし」
確かにヴァンの言う通りだわ。きっと陛下なら、ネイサン様を一喝するだろう。それにネイサン様、意外と切り替えが早いのよね…
「とにかくお嬢様が何かを起こさない事には、婚約破棄は難しいでしょう」
そうヴァンに言い切られてしまった。
「要するに、並大抵の努力では婚約破棄出来ないって事よね。ねえ、ヴァン、私がうまく婚約破棄できる様、協力してくれる?」
「もちろんです。お嬢様が婚約破棄出来た暁には、私も一緒に、旅に連れて行ってくれるのでしょう?」
そう言うと、それはそれは嬉しそうに笑ったヴァン。その笑顔を見た瞬間、再び鼓動が早くなる。
「…ええ、もちろんよ」
ダメよ、私の心臓、落ち着いて。必死に冷静を装う。
とにかく今は、どうやって婚約破棄をするかが一番の課題ね。
結局その日は、頭を悩ませながら眠りについたのであった。
翌日、今日は貴族学院がお休みだ。ヴァンと一緒に部屋で過ごしていると、お父様に呼び出された。
「ジェシカ、あの男爵令嬢の処分が決まったぞ。近々、国の外れにある修道院に入る事になった」
「修道院ですか?」
「ああ、私が随分と庇ってやったからな。ギュリネイ男爵は、泣いて喜んでいたよ。それに他の貴族も、私の優しさに尊敬の眼差しで見ていた!」
どや顔でお父様が話をしている。でも…それって私が昨日伝えた事を、実行しただけでは?そう思ったが、かなり機嫌のいいお父様の機嫌を損ねては大変なので、そっとしておいた。
「ただ、ネイサン殿下が随分と抵抗してね。“男爵令嬢の分際で、僕の婚約者を陥れたんだ!極刑が妥当だ”と叫んでいたよ。まあ、私は極刑でもよかったのだが、陛下がすかさず“お前がそれを言える立場か!そもそも、こんな大事にしたのはネイサン、お前自身だろう。少しは反省しろ!”と怒られて、小さくなっていた」
そりゃそうだろう…
多分、お父様以外その場所にいた全ての貴族が、陛下と同じことを思っただろう。それにしても、かつて愛した女性を極刑にしようだなんて、恐ろしい男…
「いいか、ジェシカ。今回の件で、殿下は完全にお前の方を向いている。根暗で要領が悪く、どうしようもないクズで役立たずの娘だと思っていたが、意外といい仕事をするじゃないか。いいか?これからは、あの頭の悪い殿下を手玉に取り、王家を牛耳れ。そうすれば、我が家はますます繁栄する」
ガハガハと下品な笑いをするお父様。それにしても、どうしようもないクズで役立たずな娘だなんて、本当に失礼ね…
「ジェシカ、もう下がっていいぞ。私は今日は非常に機嫌がいいからな。今日の晩御飯は期待しておけよ」
どうやら今日の私の晩御飯も、奮発してもらえる様だ。
何はともあれ、カミラ様の処分が決まってよかった。それに修道院なら、何年かしたらまた戻ってこられるだろうし。
「お嬢様、どうでしたか?うまくいきましたか?」
「ええ、うまく行ったというか…かなり大事になってしまったわ」
私は今日の出来事を、ヴァンにわかりやすく説明した。
「そうでしたか。それにしても、お嬢様は優しすぎます。あの女は、ずっとお嬢様を苦しめてきた女なのですよ。現にこの前だって、あの女の嘘のせいで、旦那様に殴られ、小屋で寝る羽目になったではないですか?」
「あれはカミラ様のせいと言うよりも、ネイサン様がお父様に抗議したから悪いのよ。それにネイサン様、あんなにカミラ様にお熱だったのに、都合が悪くなるといとも簡単に捨てたのよ。本当に、クズ以外何者でもないわ…」
前世だったら一発ぶんなぐってやりたいくらいだが、生憎あの男は王太子。手を出すわけにはいかない。
「そうでしたか…でもお嬢様、いくら殿下が最低な人間でも、クズはダメです。万が一誰かに聞かれたら、どうするのですか?」
そうヴァンに怒られてしまった。
「ヴァン、やっぱり私は、ネイサン様と結婚なんてしたくないわ。何が何でも婚約破棄をしたいのだけれど、どうしたらいいかしら?」
今回の件で、心底あの男が嫌いになった。もう同じ空気を吸うのですら、嫌悪感を抱くのだ。
「そうでね…ライバルが消え去った今、向こうから婚約破棄を申し出てくることは厳しいかと…今回の件で、殿下はお嬢様との未来を意識している様ですし。それでしたらお金を貯め、こっそりとこの国を出るか…お嬢様または侯爵が重犯罪を犯して、婚約破棄されるか」
「お金を貯めて出ていくなんて、なんだか逃げるみたいで嫌よ。それにもし重犯罪なんて犯したら、下手したら極刑よ。お父様なら悪い事をいくらでもしてそうだけれど、さすがに家族を売るなんて出来ないわ。そうだわ、ネイサン様に身分の高い令嬢を、好きになってもらうなんてどうかしら?」
そうよ、カミラ様は身分が低かったからダメだったけれど、身分の高い女性ならきっと婚約破棄できるはずだわ。
「お嬢様も今回の件でわかったでしょう?陛下は比較的まともな方です。そんな方が、いくら身分の高い令嬢だったとしても、殿下の我が儘で婚約破棄を認めるでしょうか?その上、今回の件で陛下は、お嬢様に強い罪悪感を抱いていらっしゃる様ですし」
確かにヴァンの言う通りだわ。きっと陛下なら、ネイサン様を一喝するだろう。それにネイサン様、意外と切り替えが早いのよね…
「とにかくお嬢様が何かを起こさない事には、婚約破棄は難しいでしょう」
そうヴァンに言い切られてしまった。
「要するに、並大抵の努力では婚約破棄出来ないって事よね。ねえ、ヴァン、私がうまく婚約破棄できる様、協力してくれる?」
「もちろんです。お嬢様が婚約破棄出来た暁には、私も一緒に、旅に連れて行ってくれるのでしょう?」
そう言うと、それはそれは嬉しそうに笑ったヴァン。その笑顔を見た瞬間、再び鼓動が早くなる。
「…ええ、もちろんよ」
ダメよ、私の心臓、落ち着いて。必死に冷静を装う。
とにかく今は、どうやって婚約破棄をするかが一番の課題ね。
結局その日は、頭を悩ませながら眠りについたのであった。
翌日、今日は貴族学院がお休みだ。ヴァンと一緒に部屋で過ごしていると、お父様に呼び出された。
「ジェシカ、あの男爵令嬢の処分が決まったぞ。近々、国の外れにある修道院に入る事になった」
「修道院ですか?」
「ああ、私が随分と庇ってやったからな。ギュリネイ男爵は、泣いて喜んでいたよ。それに他の貴族も、私の優しさに尊敬の眼差しで見ていた!」
どや顔でお父様が話をしている。でも…それって私が昨日伝えた事を、実行しただけでは?そう思ったが、かなり機嫌のいいお父様の機嫌を損ねては大変なので、そっとしておいた。
「ただ、ネイサン殿下が随分と抵抗してね。“男爵令嬢の分際で、僕の婚約者を陥れたんだ!極刑が妥当だ”と叫んでいたよ。まあ、私は極刑でもよかったのだが、陛下がすかさず“お前がそれを言える立場か!そもそも、こんな大事にしたのはネイサン、お前自身だろう。少しは反省しろ!”と怒られて、小さくなっていた」
そりゃそうだろう…
多分、お父様以外その場所にいた全ての貴族が、陛下と同じことを思っただろう。それにしても、かつて愛した女性を極刑にしようだなんて、恐ろしい男…
「いいか、ジェシカ。今回の件で、殿下は完全にお前の方を向いている。根暗で要領が悪く、どうしようもないクズで役立たずの娘だと思っていたが、意外といい仕事をするじゃないか。いいか?これからは、あの頭の悪い殿下を手玉に取り、王家を牛耳れ。そうすれば、我が家はますます繁栄する」
ガハガハと下品な笑いをするお父様。それにしても、どうしようもないクズで役立たずな娘だなんて、本当に失礼ね…
「ジェシカ、もう下がっていいぞ。私は今日は非常に機嫌がいいからな。今日の晩御飯は期待しておけよ」
どうやら今日の私の晩御飯も、奮発してもらえる様だ。
何はともあれ、カミラ様の処分が決まってよかった。それに修道院なら、何年かしたらまた戻ってこられるだろうし。
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