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第17話:残り2つの呪いがわかりません
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「殿下、この薬を飲めば、歳を取る呪いは完全に解けるはずです。どうか一気に飲み干してください」
薬が完成してから早1ヶ月。既にほぼ今の年齢と同じ姿に戻っているリベリオ殿下に、最後の薬を手渡した。この日を心待ちにしていた陛下や王妃殿下、王太子殿下、クリストフ殿下、さらに王宮魔術師たちも見守っている。
「ありがとう、ティア嬢。これを飲めば、ついに呪いが解けるんだね。これでこの苦くてマズイ薬を飲むのも最後かと思うと、なんだか寂しいな」
そう言いながら、一気に薬を飲みほしたリベリオ殿下。殿下の体がピンクの光に包まれたかと思うと、何かが割れる様な音が聞こえた。この音、呪いが解けた証なのだ。
「殿下、おめでとうございます。やっと歳を取る呪いが解けましたね。念のため、確認させていただきます」
すかさず殿下の手を握り、呪いを確認する。よし、しっかり解けているわ。でも…
「ティア嬢、本当にありがとう。もうすっかり昔の僕の姿に戻ったよ。君のお陰だ。本当にありがとう」
私をギューギュー抱きしめるリベリオ殿下。ちょっと、いくら嬉しいからって、抱きしめないでよ。私は殿方に対して、ほとんど免疫がないのだから。最近特にお美しい姿を見て、動揺しているのに…
「リベリオ、よかったわね。ティア嬢、本当にありがとう。あなたのお陰でリベリオは、すっかり元通りよ。何より、一番辛いときにリベリオに寄り添ってくれた事、とても感謝しているわ。どうかこれからも、リベリオの事をよろしくね」
「ティア嬢、私からもお礼を言わせてくれ。君は息子の命の恩人だ。王宮魔術師の話、早速進めて行こう。もちろん、高待遇で迎え入れるよ。そうだ、伯爵家の爵位も、侯爵にする様に話を進めよう。他に何か望みがあれば、何でも言ってくれ。そうだ、リベリオのお嫁さんなんてどうだい?リベリオは三男だが、公爵位を与える予定なんだ」
なぜか皆、呪いが解けたかのように喜んでいる。陛下に至っては、訳の分からない事を言いだしているし…
「あの、皆さま。落ち着いて下さい。まだ呪いは全て解けておりません。残り2つ呪いが残っているのですが、その呪いが何なのか分からなくて…」
すっとリベリオ殿下を引き離し、そう伝えた。
「まだ呪いが残っているのかい?でもリベリオは、完全に昔のリベリオに戻っているが」
「ティア嬢、僕はもうすっかり元気だよ。だから、残りの呪いはあえて解かなくても大丈夫だ」
「いいえ、そう言う訳にはいきませんわ。それにどうでもいい呪いを、わざわざかけるとは思えません。どうかもう少し、私に時間を頂けますか?」
フラれた腹いせに呪いをかける様な王女が、意味のない呪いをかけるとは思えない。きっと、リベリオ殿下に良くない呪いが残っているはずだ。
「ティア嬢、リベリオの為に本当にありがとう。リベリオもあなたが傍にいてくれると嬉しいでしょうから、どうか残りの呪いも、是非といてあげて頂戴。もし必要なら、我が国の王宮魔術師も使ってもらって構わないから」
「ありがとうございます、王妃殿…」
「母上、ティア嬢は我が国の王宮魔術師よりもずっと優秀ですから、彼らの協力は必要ないでしょう。それじゃあティア嬢、僕の呪いが完全に解けるまで、離宮にいてくれるという事でいいんだよね」
「ええ、そのつもりですが」
「よかった…もう離宮を出て行ってしまうのではないかと、心配していたんだ…」
「リベリオ殿下、何か言いましたか?」
「いや、何でもないよ。さあ、ティア嬢、疲れただろう。あっちでお茶にしよう。それでは僕たちはこれで失礼します」
私の手を掴むと、そのまま歩き出したリベリオ殿下。せっかく皆が集まってくれたのに、いいのかしら?そう思い、王族の皆様の方を向くと、ニコニコ笑いながら手を振っていた。どうやら問題ない様だ。ただ、王宮魔術師の皆様は、不満そうな顔をしていたが。
きっとリベリオ殿下がおっしゃった“ティア嬢は我が国の王宮魔術師よりもずっと優秀ですから”の言葉が、気に入らなかったのだろう。
再び手に魔力を集中させる。でも…やっぱり残り2つの呪いが何なのか分からない。そう、私の今の技術では理解できない程、複雑なのだ。
「ティア嬢、そんな真剣な表情をしてどうしたんだい?」
「残り2つの呪いが、どうしても分からなくて…」
「その事か。僕はすっかり元気になったし、そんなに思い悩まなくても大丈夫だよ。ティア嬢は笑っていた方が、可愛いよ」
そう言ってそれはそれは美しい微笑を見せるリベリオ殿下。これがこの国一番の美少年…いいや、今はもう青年か。美青年の微笑なのね。一瞬意識が遠のきそうになるのを、必死に堪えた。
やはり私も令嬢、こんなにも美しい微笑を浮かべられ、その上“可愛い”なんて言われたら、動揺するなという方が無理だろう。
「ティア嬢、頬が赤くなっているよ。照れているのかい?可愛いね」
「殿下、私をからかわないで下さい。とにかく私は、殿下の残りの呪いを必ず解いて見せますからね!」
「ああ、もちろんだ。ティア嬢なら必ず解けるよ。さあ、君の好きなクッキーを準備したよ。早速食べよう。そうだ、僕が食べさせてあげるね。君には食べさせてもらってばかりだったから、たまには僕が食べさせないと」
そう言うと、リベリオ殿下が私の口にクッキーを放り込んだのだ。
「で…殿下、私は自分で食べられますわ」
「分かっているよ。でも、僕が食べさせたいんだ。ダメかい?」
悲しそうな瞳で見つめられる。そんな目で見つめられたら、断れないじゃない。
結局その後、リベリオ殿下にたっぷりとクッキーを食べさせてもらったのだった。
薬が完成してから早1ヶ月。既にほぼ今の年齢と同じ姿に戻っているリベリオ殿下に、最後の薬を手渡した。この日を心待ちにしていた陛下や王妃殿下、王太子殿下、クリストフ殿下、さらに王宮魔術師たちも見守っている。
「ありがとう、ティア嬢。これを飲めば、ついに呪いが解けるんだね。これでこの苦くてマズイ薬を飲むのも最後かと思うと、なんだか寂しいな」
そう言いながら、一気に薬を飲みほしたリベリオ殿下。殿下の体がピンクの光に包まれたかと思うと、何かが割れる様な音が聞こえた。この音、呪いが解けた証なのだ。
「殿下、おめでとうございます。やっと歳を取る呪いが解けましたね。念のため、確認させていただきます」
すかさず殿下の手を握り、呪いを確認する。よし、しっかり解けているわ。でも…
「ティア嬢、本当にありがとう。もうすっかり昔の僕の姿に戻ったよ。君のお陰だ。本当にありがとう」
私をギューギュー抱きしめるリベリオ殿下。ちょっと、いくら嬉しいからって、抱きしめないでよ。私は殿方に対して、ほとんど免疫がないのだから。最近特にお美しい姿を見て、動揺しているのに…
「リベリオ、よかったわね。ティア嬢、本当にありがとう。あなたのお陰でリベリオは、すっかり元通りよ。何より、一番辛いときにリベリオに寄り添ってくれた事、とても感謝しているわ。どうかこれからも、リベリオの事をよろしくね」
「ティア嬢、私からもお礼を言わせてくれ。君は息子の命の恩人だ。王宮魔術師の話、早速進めて行こう。もちろん、高待遇で迎え入れるよ。そうだ、伯爵家の爵位も、侯爵にする様に話を進めよう。他に何か望みがあれば、何でも言ってくれ。そうだ、リベリオのお嫁さんなんてどうだい?リベリオは三男だが、公爵位を与える予定なんだ」
なぜか皆、呪いが解けたかのように喜んでいる。陛下に至っては、訳の分からない事を言いだしているし…
「あの、皆さま。落ち着いて下さい。まだ呪いは全て解けておりません。残り2つ呪いが残っているのですが、その呪いが何なのか分からなくて…」
すっとリベリオ殿下を引き離し、そう伝えた。
「まだ呪いが残っているのかい?でもリベリオは、完全に昔のリベリオに戻っているが」
「ティア嬢、僕はもうすっかり元気だよ。だから、残りの呪いはあえて解かなくても大丈夫だ」
「いいえ、そう言う訳にはいきませんわ。それにどうでもいい呪いを、わざわざかけるとは思えません。どうかもう少し、私に時間を頂けますか?」
フラれた腹いせに呪いをかける様な王女が、意味のない呪いをかけるとは思えない。きっと、リベリオ殿下に良くない呪いが残っているはずだ。
「ティア嬢、リベリオの為に本当にありがとう。リベリオもあなたが傍にいてくれると嬉しいでしょうから、どうか残りの呪いも、是非といてあげて頂戴。もし必要なら、我が国の王宮魔術師も使ってもらって構わないから」
「ありがとうございます、王妃殿…」
「母上、ティア嬢は我が国の王宮魔術師よりもずっと優秀ですから、彼らの協力は必要ないでしょう。それじゃあティア嬢、僕の呪いが完全に解けるまで、離宮にいてくれるという事でいいんだよね」
「ええ、そのつもりですが」
「よかった…もう離宮を出て行ってしまうのではないかと、心配していたんだ…」
「リベリオ殿下、何か言いましたか?」
「いや、何でもないよ。さあ、ティア嬢、疲れただろう。あっちでお茶にしよう。それでは僕たちはこれで失礼します」
私の手を掴むと、そのまま歩き出したリベリオ殿下。せっかく皆が集まってくれたのに、いいのかしら?そう思い、王族の皆様の方を向くと、ニコニコ笑いながら手を振っていた。どうやら問題ない様だ。ただ、王宮魔術師の皆様は、不満そうな顔をしていたが。
きっとリベリオ殿下がおっしゃった“ティア嬢は我が国の王宮魔術師よりもずっと優秀ですから”の言葉が、気に入らなかったのだろう。
再び手に魔力を集中させる。でも…やっぱり残り2つの呪いが何なのか分からない。そう、私の今の技術では理解できない程、複雑なのだ。
「ティア嬢、そんな真剣な表情をしてどうしたんだい?」
「残り2つの呪いが、どうしても分からなくて…」
「その事か。僕はすっかり元気になったし、そんなに思い悩まなくても大丈夫だよ。ティア嬢は笑っていた方が、可愛いよ」
そう言ってそれはそれは美しい微笑を見せるリベリオ殿下。これがこの国一番の美少年…いいや、今はもう青年か。美青年の微笑なのね。一瞬意識が遠のきそうになるのを、必死に堪えた。
やはり私も令嬢、こんなにも美しい微笑を浮かべられ、その上“可愛い”なんて言われたら、動揺するなという方が無理だろう。
「ティア嬢、頬が赤くなっているよ。照れているのかい?可愛いね」
「殿下、私をからかわないで下さい。とにかく私は、殿下の残りの呪いを必ず解いて見せますからね!」
「ああ、もちろんだ。ティア嬢なら必ず解けるよ。さあ、君の好きなクッキーを準備したよ。早速食べよう。そうだ、僕が食べさせてあげるね。君には食べさせてもらってばかりだったから、たまには僕が食べさせないと」
そう言うと、リベリオ殿下が私の口にクッキーを放り込んだのだ。
「で…殿下、私は自分で食べられますわ」
「分かっているよ。でも、僕が食べさせたいんだ。ダメかい?」
悲しそうな瞳で見つめられる。そんな目で見つめられたら、断れないじゃない。
結局その後、リベリオ殿下にたっぷりとクッキーを食べさせてもらったのだった。
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