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第13話:僕を人間として扱ってくれる彼女~リベリオ視点~
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少し休んだ後、昼食の時間になった。メイドたちが食事を運んでやって来たのだ。
「殿下、食事をお持ちいたしました」
“今回の食事から、この人に食べさせないといけないのよね。嫌だわ…気持ち悪い…こんな人に近づきたくない…”
相変わらず酷い暴言が聞こえて来た。もちろん、本人は本心を知られない様、必死で笑顔を作っている。
それでも必死に食べ物を口に運んでくれるのだが…
“うわ…気持ち悪い。どうして口から食べ物を出すのかしら?それに、臭くてたまらないわ。ハエも気持ち悪いし。もう嫌…早く食べ終わって!”
呪いのせいか老いのせいか、どうしても口から食べ物をこぼしてしまうのだ。そのたびに、メイドの顔が引きつるとともに、僕への暴言が飛ぶのだ。さすがにもう我慢が出来なくなり、いつもの様にメイドを追い払った。
分かっている、僕は、醜くて気持ち悪い、触れられたくない存在という事は。それでも、僕だって人間なんだ。そんな声を聞かされたら、傷つくし辛くなるんだ。悔しくて涙が溢れそうになった時だった。
心配そうな顔のティア嬢が、部屋にやって来たのだ。それと同時に、メイドが泣きながら出ていく。僕はティア嬢に、今の気持ちを伝えた。メイドたちが悪いのではない、でも、どうしても僕を気持ち悪がるメイドたちの心の声を受け入れる事が出来ないのだ。
そんな僕の姿を見たティア嬢が、僕の世話を自らすると言ってくれたのだ。僕を1人の人間として扱ってくれる彼女が世話をしてくれるなんて、こんなに嬉しい事はない。でも、ただでさえ僕の呪いを解くため、必死に動いてくれている彼女に、これ以上負担をかけたくない、そう思ったのだが。
そんな事は気にしなくていいと、笑顔を見せてくれたのだ。こんな僕に笑いかけてくれるだなんて…嬉しくてつい頬が緩んだ。
でもやっぱり食べ物が口からこぼれてしまう。それにハエも飛び交っているし。きっとティア嬢も、気持ち悪いと思っているだろう。ふと彼女の方を見ると、何食わぬ顔で僕の口の周りをタオルでふき、普通に食べさせている。
この子、気持ち悪くないのだろうか?そう言えば朝食の時も、普通に食べさせてくれていたな。それになぜか、嬉しそうに僕に話しかけてくれるし…
どうしてこんなに僕に尽くしてくれるのだろう。ファリスティ伯爵家は、お金に困っていると聞いたこともないし、むしろ領地経営もうまくっていて順調だと聞く。それなのに…そう思い、彼女に聞いた。
すると、王宮魔術師になりたいとの事。どうやら僕の呪いを解けば、特例として王宮魔術師にすると、父上や兄上が約束したらしい。よほど魔力が好きなのだろうな。こんなに嬉しそうに話をしてくれるだなんて。
ただ…
なぜか胸がチクリと痛んだ。
彼女は王宮魔術師になりたいが為に、僕に優しくしているのかもしれない。まあ、何かご褒美がないと、こんな醜くて気持ち悪くて臭い僕なんかのお世話なんて、したくないよな。それでも僕に優しくしてくれるのだから、やっぱり有難いと思わないといけないのだろう。
食後は僕の為に魔法でマッサージをしてくれた。ん?よく考えてみれば、ティア嬢程の魔力持ちなら、僕に食事を与えるのも魔法で出来るのではないのか?そう思って尋ねると
「魔法を使うより、こうやって自分の手を使って召し上がってもらった方が、より美味しいかと思いまして…」
そう言って笑ったのだ。そうか…彼女はいつも僕の事を考えて行動してくれているのだな…ティア嬢は、僕を1人の人間として、僕が少しでも心が穏やかに過ごせるように考えて行動してくれているのだろう。
呪いをかけられてから、こんな風に僕を1人の人間として接してくれた人がいただろうか。そう思うと、涙が込みあげてきた。
僕は醜いし気持ち悪いし臭い。でも…彼女が人間として僕に接してくれるなら、僕も彼女の気持ちに精一杯応えよう。そう心に誓った。
そしてその日から、僕の生活は一変した。相変わらず体は思う様に動かない。そんな僕に
「殿下、ずっとお部屋に閉じこもっていては良くありません。外の空気を吸いましょう」
そう言って車いすを持って現れたティア嬢。そんな彼女に連れられて、呪いをかけられてから初めて外に出た。
「殿下、見て下さい。お外は気持ちいでしょう?こうやって外の空気をするだけで、心が穏やかになるのです。せっかくなので、今日はお外で昼食を頂きましょう。私も一緒に頂きますわ」
「でも、僕は臭いし…」
「そんな事を気にしていらっしゃっているのですか?もう、殿下ったら。お外だと臭いがこもらないので、そこまで気になりませんわ。さあ、早速頂きましょう」
ティア嬢自らシートを敷くと、柔らかいクッションを準備してくれ、その上に座らせてくれた。
「殿下、今日の昼食はサンドイッチですわ。殿下の為に料理長が食べやすい大きさに切ってくれましたの。さあ、頂きましょう」
僕に食べさせながら、自分もサンドウィッチを頬張る。とても美味しそうに食べるティア嬢を見ていたら、僕もいつも以上にたくさん食べる事が出来た。
なぜだろう、ティア嬢と一緒にいると、自分が気持ち悪い妖怪だという事を忘れてしまう。それだけティア嬢が、僕に自然に接してくれているからだろう。
それが嬉しくてたまらない。彼女がずっと傍にいてくれたら…
ついそんな事を考えてしまうのだった。
「殿下、食事をお持ちいたしました」
“今回の食事から、この人に食べさせないといけないのよね。嫌だわ…気持ち悪い…こんな人に近づきたくない…”
相変わらず酷い暴言が聞こえて来た。もちろん、本人は本心を知られない様、必死で笑顔を作っている。
それでも必死に食べ物を口に運んでくれるのだが…
“うわ…気持ち悪い。どうして口から食べ物を出すのかしら?それに、臭くてたまらないわ。ハエも気持ち悪いし。もう嫌…早く食べ終わって!”
呪いのせいか老いのせいか、どうしても口から食べ物をこぼしてしまうのだ。そのたびに、メイドの顔が引きつるとともに、僕への暴言が飛ぶのだ。さすがにもう我慢が出来なくなり、いつもの様にメイドを追い払った。
分かっている、僕は、醜くて気持ち悪い、触れられたくない存在という事は。それでも、僕だって人間なんだ。そんな声を聞かされたら、傷つくし辛くなるんだ。悔しくて涙が溢れそうになった時だった。
心配そうな顔のティア嬢が、部屋にやって来たのだ。それと同時に、メイドが泣きながら出ていく。僕はティア嬢に、今の気持ちを伝えた。メイドたちが悪いのではない、でも、どうしても僕を気持ち悪がるメイドたちの心の声を受け入れる事が出来ないのだ。
そんな僕の姿を見たティア嬢が、僕の世話を自らすると言ってくれたのだ。僕を1人の人間として扱ってくれる彼女が世話をしてくれるなんて、こんなに嬉しい事はない。でも、ただでさえ僕の呪いを解くため、必死に動いてくれている彼女に、これ以上負担をかけたくない、そう思ったのだが。
そんな事は気にしなくていいと、笑顔を見せてくれたのだ。こんな僕に笑いかけてくれるだなんて…嬉しくてつい頬が緩んだ。
でもやっぱり食べ物が口からこぼれてしまう。それにハエも飛び交っているし。きっとティア嬢も、気持ち悪いと思っているだろう。ふと彼女の方を見ると、何食わぬ顔で僕の口の周りをタオルでふき、普通に食べさせている。
この子、気持ち悪くないのだろうか?そう言えば朝食の時も、普通に食べさせてくれていたな。それになぜか、嬉しそうに僕に話しかけてくれるし…
どうしてこんなに僕に尽くしてくれるのだろう。ファリスティ伯爵家は、お金に困っていると聞いたこともないし、むしろ領地経営もうまくっていて順調だと聞く。それなのに…そう思い、彼女に聞いた。
すると、王宮魔術師になりたいとの事。どうやら僕の呪いを解けば、特例として王宮魔術師にすると、父上や兄上が約束したらしい。よほど魔力が好きなのだろうな。こんなに嬉しそうに話をしてくれるだなんて。
ただ…
なぜか胸がチクリと痛んだ。
彼女は王宮魔術師になりたいが為に、僕に優しくしているのかもしれない。まあ、何かご褒美がないと、こんな醜くて気持ち悪くて臭い僕なんかのお世話なんて、したくないよな。それでも僕に優しくしてくれるのだから、やっぱり有難いと思わないといけないのだろう。
食後は僕の為に魔法でマッサージをしてくれた。ん?よく考えてみれば、ティア嬢程の魔力持ちなら、僕に食事を与えるのも魔法で出来るのではないのか?そう思って尋ねると
「魔法を使うより、こうやって自分の手を使って召し上がってもらった方が、より美味しいかと思いまして…」
そう言って笑ったのだ。そうか…彼女はいつも僕の事を考えて行動してくれているのだな…ティア嬢は、僕を1人の人間として、僕が少しでも心が穏やかに過ごせるように考えて行動してくれているのだろう。
呪いをかけられてから、こんな風に僕を1人の人間として接してくれた人がいただろうか。そう思うと、涙が込みあげてきた。
僕は醜いし気持ち悪いし臭い。でも…彼女が人間として僕に接してくれるなら、僕も彼女の気持ちに精一杯応えよう。そう心に誓った。
そしてその日から、僕の生活は一変した。相変わらず体は思う様に動かない。そんな僕に
「殿下、ずっとお部屋に閉じこもっていては良くありません。外の空気を吸いましょう」
そう言って車いすを持って現れたティア嬢。そんな彼女に連れられて、呪いをかけられてから初めて外に出た。
「殿下、見て下さい。お外は気持ちいでしょう?こうやって外の空気をするだけで、心が穏やかになるのです。せっかくなので、今日はお外で昼食を頂きましょう。私も一緒に頂きますわ」
「でも、僕は臭いし…」
「そんな事を気にしていらっしゃっているのですか?もう、殿下ったら。お外だと臭いがこもらないので、そこまで気になりませんわ。さあ、早速頂きましょう」
ティア嬢自らシートを敷くと、柔らかいクッションを準備してくれ、その上に座らせてくれた。
「殿下、今日の昼食はサンドイッチですわ。殿下の為に料理長が食べやすい大きさに切ってくれましたの。さあ、頂きましょう」
僕に食べさせながら、自分もサンドウィッチを頬張る。とても美味しそうに食べるティア嬢を見ていたら、僕もいつも以上にたくさん食べる事が出来た。
なぜだろう、ティア嬢と一緒にいると、自分が気持ち悪い妖怪だという事を忘れてしまう。それだけティア嬢が、僕に自然に接してくれているからだろう。
それが嬉しくてたまらない。彼女がずっと傍にいてくれたら…
ついそんな事を考えてしまうのだった。
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