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第12話:僕の前に現れた希望の光~リベリオ視点~
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来るな!頼む、僕はもう、暴言を聞きたくなんだ。僕の姿を見て悲鳴を上げられるのも、もうたくさんだ。僕はもう、傷つきたくないんだ。そんな思いで、必死にシーツを頭からかぶった。
そんな僕の願いも空しく、あっさりとシーツをはぎ取る令嬢。きっと悲鳴を上げるのだろう。またあの心無い暴言を聞くのか…そう思っていたが
「お爺様…」
令嬢はポツリとそう呟いたのだ。いくら何でも、本人にお爺様は失礼だろう!そう思い、令嬢に文句を言った。僕は確かに醜い、気持ち悪くて臭い奴なんだ。だからもう、僕には構わないで欲しい、そんな思いで伝えたのだが、何を思ったのか、僕の手を握ったのだ。
久しぶりに触れる、人間の温もり…温かくて柔らかい手。
一瞬心が温かい物で包まれる様な、そんな感覚に襲われたが、すかさず令嬢に文句を言う。だが、逆に令嬢に怒られてしまった。
ふと令嬢の顔を見ると、かなり真剣な顔をしている。彼女からは僕への嫌悪感は感じられないし、何よりいつも聞こえてくる心の暴言も聞こえない。ただ聞こえてくるのは、僕にかけられた呪いの数々だ。
この子、本当に僕の呪いを解こうとしているのか?これほどまでに真剣に僕の呪いに向き合ってくれた子は、今までいなかった。この子は一体…
兄上も同じことを思ったのか、嬉しそうに令嬢に話しかけている。令嬢の話では、僕はかなりの老人の様で、このままでは命があぶないらしい。
命が危ないだって…
令嬢の言葉に、急に不安になって来た。さっきまで早くあの世に逝きたいと思っていたが、いざ命が危ないと言われると、急に怖くなるなんて…人間って死が近くに迫ると、急に命が惜しくなるものなんだな。
でも、今までもあまり食事をしなくても、しぶとく生きて来たが…
僕が複雑な気持ちでいる間に、気が付くと食事が準備されていた。それも令嬢が僕の為に、食べやすい料理を準備してくれた様だ。
さらに令嬢が僕の口元に、食べ物を運んでくれている。それなのに僕は素直になれず、つい“どうせ近いうちに死ぬのだろう。それなら、食べても無駄だよ”と言ってしまった。その上、母上にまで暴言を吐いてしまった。きっと令嬢も呆れているのだろう。
そう思っていたのだが
「おかしいですわね?あなた様の呪いの中には、性格がひん曲がる呪いや、ネガティブな思考になる呪いはかかっていませんのに…どうしてその様な事を言うのでしょうか?」
心底不思議そうな顔をして、首をかしげている。この女、僕をバカにしているのか?そう思って文句を言ったのだが、どうやら僕の事を考えて、あえてそう言ってくれた様だ。
令嬢からいかに僕が、家族に愛されているのかを聞かされ、母上や兄上からも、僕を大切に思っている事を告げられた。
ここまで言われたら、食べない訳にはいかない。そう思い口を開くと、嬉しそうに食べ物を口の中に放り込む令嬢。この子は本当に何なんだろう。僕が呪いをかけられてから、僕を見て負の感情を抱かなかった人間などいない。家族でさえ、僕の顔を見て顔を引きつらせていたのに…
どうして赤の他人の彼女が、こんなに普通に僕に接してくれるのだろう。それになんだか彼女と一緒にいると、心が温かくなる。初めて会った女性にこんな感情を抱くだなんて…
その後も僕を普通の人間として接してくれる令嬢に、僕の心は少しだけ軽くなった。それと同時に、僕の見た目も少しだけましになった。
彼女曰く、心が穏やかでいると呪いが弱まるのだとか。終始和やかな空気のまま、彼女は僕の部屋を去って行った。それと同時に、両親や兄上たちも外に出ていく。
呪いをかけられてから、こんなに心が軽くなったのは初めてだ。確か彼女は、ファリスティ伯爵家の令嬢だったな。僕の1つ下の学年で、キブリス王国に2年間留学していたちょっと変わった令嬢だと聞いたことがある。
さらにファリスティ伯爵家は、先々代夫人が、キブリス王国出身だと聞いたことがある。あの国は、かなりの魔力大国だからな…
考える事と言えば、あの令嬢、いいや、ティア嬢の事ばかり。呪いをかけられてから、初めて僕に負の感情を抱かなかった令嬢…そして僕の為に、必死に動いてくれた子…
なぜだろう…無性に彼女が気になる。
その時だった。
「リベリオ、よかったな。まさか我が国にあそこまで凄い令嬢が存在していただなんてびっくりだよ。さすがキブリス王国の貴族の血を引いているだけの事はある。それにリベリオにも普通に接してくれるし」
嬉しそうに僕の部屋に入って来たのは、一番上の兄上だ。
「兄上、勝手に部屋に入ってこないで下さい!それよりも、よくあの様な令嬢を見つけてきましたね」
「実はたまたまなんだ。本当はキブリス王国の魔術師を呼ぼうと思ったのだが、断られてね。それで藁をもすがる思いで、キブリス王国に縁のある者がいないか考えていたら、ふとファリスティ伯爵家の存在を思い出して。それで伯爵に父上が声をかけたら、ティア嬢を紹介してくれたんだよ。伯爵曰く、ティア嬢はキブリス王国出身の先々代夫人の魔力を、色濃く受け継いでいるらしいよ」
そう教えてくれた。
「それにしても、リベリオの言う通り、リベリオに対しても普通に接していたね。令嬢は君の顔を見ただけで悲鳴を上げて逃げていくのに…やっぱり変わった令嬢だ」
そう言って兄上が笑っている。確かに僕の顔を見て令嬢たちは逃げていくが、だからって彼女が変り者だと言って笑わなくてもいいじゃないか!
「兄上、僕は老人なので、疲れております。その様な話なら、出て行ってください!」
そのままシーツを頭まですっぽりかぶった。
「ごめん、リベリオ。怒らないでくれ。とにかくティア嬢のお陰で、希望が見えてきてよかったな。それじゃあ、ゆっくり休むんだよ」
そう言うと、兄上は部屋から出て行った。
希望が見えて来たか…
確かに彼女がいれば、いずれ僕の呪いも解けるかもしれないな。ティア嬢、キブリス王国の血を引く令嬢か…
昨日までは間違いなく生きる事に絶望していた。でも今は、彼女のお陰で、ほんの少しだけ希望が持てるようになった。ただ…
鏡に映る醜い自分を見る。
本当にこの醜い姿から解放されるのだろうか…そんな不安が、僕を襲うのだった。
そんな僕の願いも空しく、あっさりとシーツをはぎ取る令嬢。きっと悲鳴を上げるのだろう。またあの心無い暴言を聞くのか…そう思っていたが
「お爺様…」
令嬢はポツリとそう呟いたのだ。いくら何でも、本人にお爺様は失礼だろう!そう思い、令嬢に文句を言った。僕は確かに醜い、気持ち悪くて臭い奴なんだ。だからもう、僕には構わないで欲しい、そんな思いで伝えたのだが、何を思ったのか、僕の手を握ったのだ。
久しぶりに触れる、人間の温もり…温かくて柔らかい手。
一瞬心が温かい物で包まれる様な、そんな感覚に襲われたが、すかさず令嬢に文句を言う。だが、逆に令嬢に怒られてしまった。
ふと令嬢の顔を見ると、かなり真剣な顔をしている。彼女からは僕への嫌悪感は感じられないし、何よりいつも聞こえてくる心の暴言も聞こえない。ただ聞こえてくるのは、僕にかけられた呪いの数々だ。
この子、本当に僕の呪いを解こうとしているのか?これほどまでに真剣に僕の呪いに向き合ってくれた子は、今までいなかった。この子は一体…
兄上も同じことを思ったのか、嬉しそうに令嬢に話しかけている。令嬢の話では、僕はかなりの老人の様で、このままでは命があぶないらしい。
命が危ないだって…
令嬢の言葉に、急に不安になって来た。さっきまで早くあの世に逝きたいと思っていたが、いざ命が危ないと言われると、急に怖くなるなんて…人間って死が近くに迫ると、急に命が惜しくなるものなんだな。
でも、今までもあまり食事をしなくても、しぶとく生きて来たが…
僕が複雑な気持ちでいる間に、気が付くと食事が準備されていた。それも令嬢が僕の為に、食べやすい料理を準備してくれた様だ。
さらに令嬢が僕の口元に、食べ物を運んでくれている。それなのに僕は素直になれず、つい“どうせ近いうちに死ぬのだろう。それなら、食べても無駄だよ”と言ってしまった。その上、母上にまで暴言を吐いてしまった。きっと令嬢も呆れているのだろう。
そう思っていたのだが
「おかしいですわね?あなた様の呪いの中には、性格がひん曲がる呪いや、ネガティブな思考になる呪いはかかっていませんのに…どうしてその様な事を言うのでしょうか?」
心底不思議そうな顔をして、首をかしげている。この女、僕をバカにしているのか?そう思って文句を言ったのだが、どうやら僕の事を考えて、あえてそう言ってくれた様だ。
令嬢からいかに僕が、家族に愛されているのかを聞かされ、母上や兄上からも、僕を大切に思っている事を告げられた。
ここまで言われたら、食べない訳にはいかない。そう思い口を開くと、嬉しそうに食べ物を口の中に放り込む令嬢。この子は本当に何なんだろう。僕が呪いをかけられてから、僕を見て負の感情を抱かなかった人間などいない。家族でさえ、僕の顔を見て顔を引きつらせていたのに…
どうして赤の他人の彼女が、こんなに普通に僕に接してくれるのだろう。それになんだか彼女と一緒にいると、心が温かくなる。初めて会った女性にこんな感情を抱くだなんて…
その後も僕を普通の人間として接してくれる令嬢に、僕の心は少しだけ軽くなった。それと同時に、僕の見た目も少しだけましになった。
彼女曰く、心が穏やかでいると呪いが弱まるのだとか。終始和やかな空気のまま、彼女は僕の部屋を去って行った。それと同時に、両親や兄上たちも外に出ていく。
呪いをかけられてから、こんなに心が軽くなったのは初めてだ。確か彼女は、ファリスティ伯爵家の令嬢だったな。僕の1つ下の学年で、キブリス王国に2年間留学していたちょっと変わった令嬢だと聞いたことがある。
さらにファリスティ伯爵家は、先々代夫人が、キブリス王国出身だと聞いたことがある。あの国は、かなりの魔力大国だからな…
考える事と言えば、あの令嬢、いいや、ティア嬢の事ばかり。呪いをかけられてから、初めて僕に負の感情を抱かなかった令嬢…そして僕の為に、必死に動いてくれた子…
なぜだろう…無性に彼女が気になる。
その時だった。
「リベリオ、よかったな。まさか我が国にあそこまで凄い令嬢が存在していただなんてびっくりだよ。さすがキブリス王国の貴族の血を引いているだけの事はある。それにリベリオにも普通に接してくれるし」
嬉しそうに僕の部屋に入って来たのは、一番上の兄上だ。
「兄上、勝手に部屋に入ってこないで下さい!それよりも、よくあの様な令嬢を見つけてきましたね」
「実はたまたまなんだ。本当はキブリス王国の魔術師を呼ぼうと思ったのだが、断られてね。それで藁をもすがる思いで、キブリス王国に縁のある者がいないか考えていたら、ふとファリスティ伯爵家の存在を思い出して。それで伯爵に父上が声をかけたら、ティア嬢を紹介してくれたんだよ。伯爵曰く、ティア嬢はキブリス王国出身の先々代夫人の魔力を、色濃く受け継いでいるらしいよ」
そう教えてくれた。
「それにしても、リベリオの言う通り、リベリオに対しても普通に接していたね。令嬢は君の顔を見ただけで悲鳴を上げて逃げていくのに…やっぱり変わった令嬢だ」
そう言って兄上が笑っている。確かに僕の顔を見て令嬢たちは逃げていくが、だからって彼女が変り者だと言って笑わなくてもいいじゃないか!
「兄上、僕は老人なので、疲れております。その様な話なら、出て行ってください!」
そのままシーツを頭まですっぽりかぶった。
「ごめん、リベリオ。怒らないでくれ。とにかくティア嬢のお陰で、希望が見えてきてよかったな。それじゃあ、ゆっくり休むんだよ」
そう言うと、兄上は部屋から出て行った。
希望が見えて来たか…
確かに彼女がいれば、いずれ僕の呪いも解けるかもしれないな。ティア嬢、キブリス王国の血を引く令嬢か…
昨日までは間違いなく生きる事に絶望していた。でも今は、彼女のお陰で、ほんの少しだけ希望が持てるようになった。ただ…
鏡に映る醜い自分を見る。
本当にこの醜い姿から解放されるのだろうか…そんな不安が、僕を襲うのだった。
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