上 下
53 / 66

第53話:どうしてですか?

しおりを挟む
「次はどこに行こうか?」

「あのお店に行きたいのですが?」

私が気になったのは、アクセサリーのお店だ。

「それじゃあ行こうか?」

早速お店に入ってみる。ここも最近できたお店の様で、動物や植物の形をした宝石のアクセサリーがたくさん売られていた。

「この蝶のネックレス、可愛いですわ。こっちの花のイヤリングも。どれもとても手が込んでいますわ」

とても細かい部分まで再現されていて、素敵だ。

「この青い鳥、ルミタンの瞳の色とよく合っているね。こっちの蝶も可愛いよ」

次々と選んでいくカルロス様。

「この狼、赤い髪をしていますわ。珍しい、カルロス様みたい。これも買いましょう」

赤い髪にグリーンの瞳をした珍しい狼をモチーフにしたブローチを発見したのだ。なんだかカルロス様みたいで、ついカゴに入れてしまった。

結局このお店で、8点もの宝石を購入し、次のお店へと向かう。次はドレスのお店だ。さすがにドレスは…そう思ったが、カルロス様がどうしてもというので、緑色のドレスを購入した。

その後も色々なお店を見て回る。気が付くと、辺りが暗くなっていた。

「そろそろ帰ろうか。あまり遅くなると、ドリトル殿が鬼のような顔をして待っていると面倒だ」

そう言って笑うカルロス様。確かにお兄様なら、怖い顔をして待っていそうだわ。

「そうですね、帰りましょう」

2人で馬車に乗り込み、侯爵家を目指す。

「カルロス様、今日はありがとうございました。とても楽しかったですわ」

「それは良かった。また街に来ようね」

「はい」

そっとさっき購入した狼のブローチを取り出す。見れば見るほど、カルロス様に似ているわ。これ、私の宝物にしよう。

「よかった、やっとルミタンが笑ってくれたね。最近元気がない様だったから、心配していたんだよ」

「えっ?」

「俺はルミタンをずっと見ているからわかるんだ。ごめんね、心配かけて」

そう言って抱きしめてくれるカルロス様。もしかして私がずっと心配していたことに、気が付いていたの?だから今日、街に連れて行ってくれたの?

カルロス様はいつもそうだ。私の事を常に考えてくれている。

「カルロス様、私…」

ちょうどそのタイミングで、屋敷に着いた。

「おかえり、今日はずいぶん遅かったね…」

カルロス様の予想通り、お兄様が怖い顔で待っていた。ただ…

「まあ、今日は見逃してあげるよ。カルロス殿、君も夕食を食べていくだろう?さあ、皆で食事をしよう」

あら?珍しいわ。お兄様が何も言わないだなんて。でも、ラッキーね。

この後2人で食堂に向かうと、なぜかカルロス様のご両親もいた。一体どうしたのかしら?

「ルミナスとカルロス殿の快気祝いを行っていなかったからね。せっかくだから家で行おうという事になって。それでクラッセル公爵と夫人も招待したんだよ。さあ、早速食事をしよう」

確かにいつもより豪華な夕食が並んでいる。せっかくなので、皆で食事を頂いた。こうやって皆で食事をするのもいいな。

「ルミタン、はい、あーんして」

いつもの様に、私に食べ物を与えるカルロス様。私もカルロス様の口に、食べ物を運ぶ。

「相変わらずカルロスとルミナスちゃんは仲良しね」

そう言って夫人がくすくすと笑っている。家族の前でこういう事をするのも、すっかり慣れた。

食後は皆でティータイムだ。

「ルミタン、大事な話があるんだ」

急に真剣な表情でそう言ったカルロス様。その顔を見た瞬間、嫌な予感がした。

「どうしたのですか、急に。カルロス様、このクッキー、甘さ控えめで美味しいですよ。はい、あ~んして下さい」

必死に話題を変えようとするが

「ルミタン、俺は明日、魔物討伐部隊に合流する事になった。しばらく会えなくなってしまうが、必ず戻って来る。だから…」

「どうしてですか?カルロス様はまだ学生でしょう?学生は討伐部隊には参加しないはずです。そうでしょう?お兄様」

必死にお兄様に訴える。

「通常であればそうなのだが…本人が希望すれば、行く事は可能なんだ」

「そんな…お願いです、カルロス様。行かないで下さい。どうかお願いします」

お願い、行かないで。もう私は、魔物に大切な人を奪われたくはない。

「すまない、ルミタン…騎士団長が怪我をしてしまったんだ。俺が行かないと、指揮をとる人間がいない。それに何より、仲間が必死に戦っているのに、俺だけ王都でのうのうとしているなんて出来ないんだ。必ず帰って来るから」

必ず帰って来る…

「嘘よ…お父様もそう言って討伐に向かったわ。“すぐに帰って来る、安心しろ”て。でもお父様は、帰ってこなかった!カルロス様、あなた私に言いましたよね。私の事が一番大切だって。それなら、どうか私の願いを聞き入れて下さい」

自分でもわかっている、カルロス様がどんな思いで討伐部隊に参加する事を決めたかくらい。本来なら、笑顔で送り出してあげないといけないことぐらい。でも私は、そんな出来た人間ではないのだ…

「すまない…俺は困っている民たちを見殺しにすることは出来ないんだ…」

辛そうに呟くカルロス様。

「結局あなたも、任務の方が大切なのですね…わかりました、もう二度と私に会いに来ないで下さい…魔物討伐でも何でも、好きな場所に行ってください!!」

自分でも酷い事を言っているのは分かっている。でも、口が勝手に動くのだ。私はそのまま部屋から飛び出した。

「待ちなさい、ルミナス」

「ルミタン」

後ろで皆が私を呼ぶことが聞こえるが、その場を後にし、自室へと向かった。そして部屋に鍵を掛ける。

結局カルロス様も、魔物討伐に行ってしまう。

あの時のお父様と重なる。きっとカルロス様も…そう考えたら、胸が張り裂けそうなくらい苦しくて、涙が止まらず、ただただ泣き続けたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

婚約者候補を見定めていたら予定外の大物が釣れてしまった…

矢野りと
恋愛
16歳になるエミリア・ダートン子爵令嬢にはまだ婚約者がいない。恋愛結婚に憧れ、政略での婚約を拒んできたからだ。 ある日、理不尽な理由から婚約者を早急に決めるようにと祖父から言われ「三人の婚約者候補から一人選ばなければ修道院行きだぞ」と脅される。 それならばと三人の婚約者候補を自分の目で見定めようと自ら婚約者候補達について調べ始める。 その様子を誰かに見られているとも知らずに…。 *設定はゆるいです。 *この作品は作者の他作品『私の孤独に気づいてくれたのは家族でも婚約者でもなく特待生で平民の彼でした』の登場人物第三王子と婚約者のお話です。そちらも読んで頂くとより楽しめると思います。

【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます 修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。 その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。 彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。 ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。 一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。 必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。 なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ── そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。 これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。 ※小説家になろうが先行公開です

告白さえできずに失恋したので、酒場でやけ酒しています。目が覚めたら、なぜか夜会の前夜に戻っていました。

石河 翠
恋愛
ほんのり想いを寄せていたイケメン文官に、告白する間もなく失恋した主人公。その夜、彼女は親友の魔導士にくだを巻きながら、酒場でやけ酒をしていた。見事に酔いつぶれる彼女。 いつもならば二日酔いとともに目が覚めるはずが、不思議なほど爽やかな気持ちで起き上がる。なんと彼女は、失恋する前の日の晩に戻ってきていたのだ。 前回の失敗をすべて回避すれば、好きなひとと付き合うこともできるはず。そう考えて動き始める彼女だったが……。 ちょっとがさつだけれどまっすぐで優しいヒロインと、そんな彼女のことを一途に思っていた魔導士の恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...