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第41話:事件の真相と今後について

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「その話なのだが、少し待ってくれるかい?もうすぐ公爵たちもいらっしゃるだろうから、皆がそろってから話をしよう。ほら、いらしたみたいだよ」

入り口を見ると、カルロス様のご両親が立っていた。後ろには男性使用人の姿も。

「カリオスティーノ侯爵、それに元夫人も。待たせてしまってすまなかったね。カルロス、ガードにお前の世話を頼もうと思って連れて来たよ」

後ろで男性使用人が控えている。確かあの人、カルロス様の専属執事だったわね。

「父上、そんな事はいいから、あの女…アナリス殿下はどうなったのですか?もちろん、牢にぶち込んだのでしょうね。いくら何でも、侯爵令嬢を崖から突き落とすだなんて、とんでもない話しだ。今回は貴族学院主催の野外学習で起こった事件です。さすがにもみ消すことは無理でしょう」

「ああ…確かにもみ消すのは無理だろうな…実際アナリス殿下が連行されて行くところ、怪我をしたルミナス嬢やカルロスが運ばれている現場を皆見ている。それに騒ぎを聞きつけ、現場にやって来ていた生徒たちも大勢いた。今回の件は、既に貴族中に広まっているよ…」

はぁ~っとため息を付くクラッセル公爵。

「昨日俺とクラッセル公爵とで、王宮に改めて抗議に行ったよ。家の護衛が撮影していた映像も実際に見せた。その際、何人かの貴族や騎士団長もいたから、一緒に見てもらったよ。さすがに皆、絶句していた。とにかく今回の件は、我がカリオスティーノ侯爵家は絶対に許すつもりはない、徹底的に抗議する旨を伝えたよ」

「ドリトル殿の堂々たる姿は、お父上でもある元騎士団長殿を思い起こすほどの気迫だったよ。やはりあなたは、元騎士団長の息子なのだね。いやぁ、本当にかっこよかった」

「私なんてまだまだですよ。クラッセル公爵こそ冷静かつ鋭い指摘、素晴らしかったです。ただ今回の件で、アナリス殿下の輿入れが中止になるかもしれない」

そう言って苦笑いをしているお兄様。輿入れが中止になるとは、一体どういう事なのかしら?

「それはそうでしょう。さすがに犯罪者を隣国の王太子殿下に嫁がせる事なんて出来ないでしょう。アナリス殿下には、この国の法律にのっとり、厳正に処罰をしてもらわないと!本当なら俺の手で八つ裂きにしてやりたいところだが、あんな女でも一応は王女だからな…クソ、思い出しただけで腹が立つ…」

ちょっとカルロス様、最後の方、かなり恐ろしい事を口走っておりましたわよ!そう言いたいが、殺気立っているカルロス様にそんな事は言えない。

「そうだな…今回の件は黙っていても隣国に伝わるだろうし…百歩譲って隣国の王太子がそれでも嫁いできて欲しいと言ったとしても、きっと隣国の陛下や王妃殿下が許さないだろうし。それにしても、厄介な問題を起こしてくれたものだよ…まさか魔物まで捕まえてくるだなんて…」

再び公爵がため息を付いている。

「本当にとんでもない姫君だ。騎士団長の話では、今団員たちがサンダードラゴンの子供を返しに行っているが、既に子供を奪われた親が暴れているかもしれないと不安がっていたよ。よりによって魔物をこっち側から刺激するだなんて…近々魔物との戦いも視野に入れないといけない」

魔物との戦い…
その言葉に胸が突き刺さる。私の大切なお父様を奪った魔物たち。そんな危険な戦いは、もう二度としてほしくはない…

「ルミタン、顔色が悪いよ。大丈夫かい?それよりも父上、アナリス殿下はどうやって魔物を生け捕りにしたのですか?さすがにあの女が魔物を生け捕りにできるなんて思えないのですが…」

「その件なのだが、どうやら王太子殿下の目を盗んでこっそりと闇の組織と取引をしていた様なんだ。その闇の組織が今回魔物の子供を生け捕りにして来たらしい…そして当日、まずは組織の人間が生け捕りにしておいたサンダードラゴンの子供を逃がして騒ぎを起こしたらしい。そしてカルロスがルミナス嬢から離れたタイミングで、アナリス殿下がルミナス嬢に近づき、崖から突き落としたという訳だ」

「闇の組織だって?あの女、そんな組織と関係を持っていたのか…」

「ただ今回の件で、アナリス殿下が全て吐いたよ。そのお陰で、闇の組織は全て捕まえられたとの事だ。どうやらアナリス殿下は髪の色を変える特殊な液と、声を変える装置を使って、ルミナス嬢に近づいたらしい。それらも闇の組織が準備した様だ。本当に変なところで悪知恵が働くのだから…」

だから声が違ったのね。髪の色も水色だったし。全てが一致したわ。

「ただ、殿下の誤算は、ルミナス嬢に護衛が付いていた事だな。現行犯で捕まった事で、アナリス殿下も言い逃れが出来ないだろう。さすがに今回の件を重く見た王太子殿下によって今、アナリス殿下は王宮の北にある塔に幽閉されている」

「父上、北の塔とはどういう事ですか?あの女はあれほどまでに重罪を犯したのに、地下牢に入れないだなんて!いくら何でも甘すぎる」

そう言って怒っているカルロス様。確か北の塔は、王族がちょっとした悪さをしたときに反省を促すために入れられる塔と聞いたことがある。ちょっとした悪さ…ではないわよね…

「落ち着け、カルロス。とにかくこれから色々と調べないといけないし、魔物の件もあるし、やらなければいけない事が山積みなんだよ。さすがに今回は、アナリス殿下を正式に裁判にかける事になるだろうし。裁かれるまでには、少し時間が掛かりそうだ」

「そんな悠長な事を!」

「とにかく王族を裁くのは大変なんだよ。幸い王太子殿下は今回の件で完全にご立腹だから、アナリス殿下もただでは済まされないだろう。君たちはとにかく、怪我を治すことに専念してくれ」

そう言ってカルロス様の肩を叩く公爵様に対し、悔しそうにカルロス様は唇を噛んでいる。

私には難しい事は分からない。ただ…どうか魔物たちが暴れ出さない事だけを願うまでだ。

※次回カルロス視点です。
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