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第12話:俺は無力だ~カルロス視点~
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騎士団長たちが魔物討伐部隊に参加してから、2週間が経とうとしていた。未だに団長たちは戻って来ていない。ただ、騎士団内はいつも通り、皆稽古に励んでいる。
本当は皆、騎士団長の事が心配で、気になって仕方がない。でも、俺たちは騎士団員だ。どんな時でも、平常心を忘れず目の前の事に取り組まないといけない。そう、団長が俺たちに教えてくれた事だ。
それに恐ろしいほど強い団長が率いる部隊だ。きっと大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせた。
でも…
「皆、魔物の討伐は成功したらしい。ただ…最後のサンダードラゴンとの戦いで、団長が命を落としたそうだ…それでも団長は、しっかりとサンダードラゴンを倒したらしい。本当に、強い男だ…」
1人の団員が、そう報告してくれた。
嘘だ…団長が死ぬなんて…嘘だ…
「ふざけるな!団長が死ぬ訳ないだろ?誰よりも強いんだぞ…あの団長が…」
「そうだ、きっと嘘に決まっている。ドリトル、お前の父親は死んでいない。そうだろう?」
近くで真っ青な顔をしているドリトルを、皆が必死に慰めている。そうだ、団長が死ぬ訳がない。俺たちはそんな事は信じない!
きっと何かの誤報だ。そう思っていた。でも…
魔物討伐部隊のメンバーが帰って来た。メンバーの話では、今回の騎士団内での犠牲者は、奇跡的に団長だけだった様だ。団長は“絶対に誰も死なせない”という言葉通り、団員たちを常に庇いながら、自ら先陣を切り戦っていた様だ。
「本当に強い人だっよ…団長がいたから、俺たちは生きて帰れたんだ。でも、そんな団長が死んじまうだなんて…」
そう言って声を上げて泣く、討伐部隊のメンバーたち。やっぱり団長が亡くなったのは、本当の様だ。
その後、国をあげて団長の葬儀が行われた。団長が寝る棺桶を見た瞬間、涙が溢れ出ていた。
騎士団に入るきっかけをくれた団長、誰よりも優しく、誰よりも強く、正義感に溢れていた団長。いつかルミタンと結婚して、団長と家族になれるのを密かに楽しみにしていたのに…
そうだ、ルミタン!きっと父親が亡くなって、悲しんでいるはずだ!
ふと親族席に目をやると、強く拳を握りしめているドリトルと、必死に涙をこらえているルミタンの姿が目に入った。
既に泣きはらしたのか、目は真っ赤で腫れていた。本来であれば、すぐにでも彼女の元に行って、抱きしめてあげたい。彼女の傍にずっといてあげたい。でも…今の俺にはそんな事は出来ない。
それが悔しくて仕方がない。俺は傷つき苦しんでいるルミタンの力になる事も出来ないなんて…
さらに追い打ちをかける様に、ルミタンの兄、ドリトルまで騎士団を辞めると言い出したのだ。
「ドリトル先輩、どうか騎士団を続けて下さい。あなたが侯爵位を継がなければいけなくなったことは知っています。でも、騎士団長だって侯爵の仕事をしながら、立派に騎士団長の仕事をしていたではありませんか?俺たち貴族が、あなたを支えます。ですから、どうかこれからも俺に指導をして下さい」
俺は必死にドリトルを止めた。でも…
「俺は父上みたいに器用じゃない。それに今、12歳の俺では侯爵は務まらないだろうと、親戚共が侯爵位を奪おうと群がって来ているんだよ。俺はどうにかして、カリオスティーノ侯爵家を守りたいんだ。だからカルロス、どうかお前が、俺の夢を受け継いでくれないかい?」
「俺が、ドリトル先輩の?」
「そうだよ、俺の代わりに、カルロスが騎士団長になってくれ。俺はお前ならなれると確信している。父上が認めた男だ。カルロス、お前に俺の夢を託すよ。それから、俺はカリオスティーノ侯爵だ。もう先輩でも後輩でもない。これからは、カリオスティーノ侯爵と、クラッセル公爵令息として接しよう」
そう言うと、ドリトルが悲しそうに笑った。でもその瞳には、決死の覚悟が感じられる。
「…わかりました。カリオスティーノ侯爵、あなたの果たせなかった夢、必ず俺が果たします」
そしてルミタンと結婚します!
「ありがとう、カルロス殿」
そう言ってほほ笑んだドリトルは、やっぱり悲しそうだった。
そんなドリトルの助けがしたくて、我が家もカリオスティーノ侯爵家を陰で支えた。我が家だけではない、生前団長とかかわりが深かった貴族たちは、皆ドリトルを支えた。
時には若くして侯爵になったドリトルをバカにする不届きな貴族もいた。そんな貴族たちは、俺たち別の貴族が全力で叩き潰した。
俺たちは団長に感謝してもしきれない程の恩がある。その恩を、多くの貴族が感じていた様で、皆が進んでドリトルの味方になっているのだ。
それでも若くして侯爵になったドリトルの苦労は測りしてないだろう。
ドリトルも頑張っているのだ。俺も頑張らないと!そんな思いから、俺は今まで以上に稽古に励んだ。それこそ血の滲む様な努力を重ねたのだ。その甲斐あって、15歳で副騎士団長になった。そして、17歳で団長の試験に合格し、貴族学院を卒院したら、騎士団長になる事も決まったのだ。
気が付くとルミタンに出会ってから、8年もの年月が流れていたのだ。
本当は皆、騎士団長の事が心配で、気になって仕方がない。でも、俺たちは騎士団員だ。どんな時でも、平常心を忘れず目の前の事に取り組まないといけない。そう、団長が俺たちに教えてくれた事だ。
それに恐ろしいほど強い団長が率いる部隊だ。きっと大丈夫だろう。そう自分に言い聞かせた。
でも…
「皆、魔物の討伐は成功したらしい。ただ…最後のサンダードラゴンとの戦いで、団長が命を落としたそうだ…それでも団長は、しっかりとサンダードラゴンを倒したらしい。本当に、強い男だ…」
1人の団員が、そう報告してくれた。
嘘だ…団長が死ぬなんて…嘘だ…
「ふざけるな!団長が死ぬ訳ないだろ?誰よりも強いんだぞ…あの団長が…」
「そうだ、きっと嘘に決まっている。ドリトル、お前の父親は死んでいない。そうだろう?」
近くで真っ青な顔をしているドリトルを、皆が必死に慰めている。そうだ、団長が死ぬ訳がない。俺たちはそんな事は信じない!
きっと何かの誤報だ。そう思っていた。でも…
魔物討伐部隊のメンバーが帰って来た。メンバーの話では、今回の騎士団内での犠牲者は、奇跡的に団長だけだった様だ。団長は“絶対に誰も死なせない”という言葉通り、団員たちを常に庇いながら、自ら先陣を切り戦っていた様だ。
「本当に強い人だっよ…団長がいたから、俺たちは生きて帰れたんだ。でも、そんな団長が死んじまうだなんて…」
そう言って声を上げて泣く、討伐部隊のメンバーたち。やっぱり団長が亡くなったのは、本当の様だ。
その後、国をあげて団長の葬儀が行われた。団長が寝る棺桶を見た瞬間、涙が溢れ出ていた。
騎士団に入るきっかけをくれた団長、誰よりも優しく、誰よりも強く、正義感に溢れていた団長。いつかルミタンと結婚して、団長と家族になれるのを密かに楽しみにしていたのに…
そうだ、ルミタン!きっと父親が亡くなって、悲しんでいるはずだ!
ふと親族席に目をやると、強く拳を握りしめているドリトルと、必死に涙をこらえているルミタンの姿が目に入った。
既に泣きはらしたのか、目は真っ赤で腫れていた。本来であれば、すぐにでも彼女の元に行って、抱きしめてあげたい。彼女の傍にずっといてあげたい。でも…今の俺にはそんな事は出来ない。
それが悔しくて仕方がない。俺は傷つき苦しんでいるルミタンの力になる事も出来ないなんて…
さらに追い打ちをかける様に、ルミタンの兄、ドリトルまで騎士団を辞めると言い出したのだ。
「ドリトル先輩、どうか騎士団を続けて下さい。あなたが侯爵位を継がなければいけなくなったことは知っています。でも、騎士団長だって侯爵の仕事をしながら、立派に騎士団長の仕事をしていたではありませんか?俺たち貴族が、あなたを支えます。ですから、どうかこれからも俺に指導をして下さい」
俺は必死にドリトルを止めた。でも…
「俺は父上みたいに器用じゃない。それに今、12歳の俺では侯爵は務まらないだろうと、親戚共が侯爵位を奪おうと群がって来ているんだよ。俺はどうにかして、カリオスティーノ侯爵家を守りたいんだ。だからカルロス、どうかお前が、俺の夢を受け継いでくれないかい?」
「俺が、ドリトル先輩の?」
「そうだよ、俺の代わりに、カルロスが騎士団長になってくれ。俺はお前ならなれると確信している。父上が認めた男だ。カルロス、お前に俺の夢を託すよ。それから、俺はカリオスティーノ侯爵だ。もう先輩でも後輩でもない。これからは、カリオスティーノ侯爵と、クラッセル公爵令息として接しよう」
そう言うと、ドリトルが悲しそうに笑った。でもその瞳には、決死の覚悟が感じられる。
「…わかりました。カリオスティーノ侯爵、あなたの果たせなかった夢、必ず俺が果たします」
そしてルミタンと結婚します!
「ありがとう、カルロス殿」
そう言ってほほ笑んだドリトルは、やっぱり悲しそうだった。
そんなドリトルの助けがしたくて、我が家もカリオスティーノ侯爵家を陰で支えた。我が家だけではない、生前団長とかかわりが深かった貴族たちは、皆ドリトルを支えた。
時には若くして侯爵になったドリトルをバカにする不届きな貴族もいた。そんな貴族たちは、俺たち別の貴族が全力で叩き潰した。
俺たちは団長に感謝してもしきれない程の恩がある。その恩を、多くの貴族が感じていた様で、皆が進んでドリトルの味方になっているのだ。
それでも若くして侯爵になったドリトルの苦労は測りしてないだろう。
ドリトルも頑張っているのだ。俺も頑張らないと!そんな思いから、俺は今まで以上に稽古に励んだ。それこそ血の滲む様な努力を重ねたのだ。その甲斐あって、15歳で副騎士団長になった。そして、17歳で団長の試験に合格し、貴族学院を卒院したら、騎士団長になる事も決まったのだ。
気が付くとルミタンに出会ってから、8年もの年月が流れていたのだ。
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