上 下
50 / 50
番外編

仕方ないので許してあげます

しおりを挟む
食べられる!

そう思った時だった。ふわりと体が浮いたと思ったら、そのままギュッと抱きしめられた。この匂いやこの感覚は…

「ヴィクトリア、大丈夫かい?僕に黙って勝手に実家に帰るから、こういう目に合うのだよ。本当に君は!」

「ディーノ様!恐ろしかったですわ!」

ディーノ様の首にしがみつき、ボロボロと涙を流して泣いた。1度ならず2度までも、あんな恐ろしい大蛇に襲われそうになるだなんて。


「よしよし、怖かったね」

子供をなだめるように、私の頭を撫でるディーノ様。

「ヴィクトリアちゃん、本当にごめんなさいね。すぐにマロンちゃんを連れて行って。さあ、ゆっくり屋敷で休んで。殿下も、どうぞこちらへ」

「義姉上、今日はもう帰ります。急にヴィクトリアが押しかけてきて、申し訳ございませんでした。さあヴィクトリア、一緒に帰ろう」

ディーノ様に連れられ、そのまま馬車に乗せられた。それにしてもあの大蛇、まさか我が家にいただなんて。もう二度と、実家になんて帰らないのだから!

「ヴィクトリア、怖い思いをさせてごめんね。でも、これで分かっただろう?黙って実家に帰ると、どんな目に合うか。でも…僕も少し大人げなかったよ。ヴィクトリアには反省して欲しくて、わざと実家に帰るのを止めなかったのだから。本当にごめんね」

だから王宮を出た時、誰も止めに来なかったのか!悔しいわ!!その上、不覚にもディーノ様に抱き着いて泣いてしまった。

私は一体、何をしているのかしら?

「ヴィクトリア、そんな顔をしないでくれ。さあ、王宮に着いたよ。僕が部屋まで連れて行ってあげよう」

私を抱きかかえ、そのまま部屋まで向かうディーノ様。部屋に入ると…

「あら?これは」

机の上には、沢山のスイートポテトが。

「ディーノ様、このスイートポテトは…」

「さすがにちょっと、僕も大人げなかったから…その…これで許してくれるかい?」

少し恥ずかしそうに、ディーノ様が呟く。

「仕方ありませんね、このスイートポテトに免じて、許して差し上げますわ。それからその…私も入学式をサボったり、ディーノ様を陥れたり…その…ディカルド殿下と仲良くしたり…さすがに公爵令嬢としては、よくなかったですわ…申し訳ございません…でした…」

そもそも私は、謝罪するという行為が大嫌いなのだ。それなのに私ったら、一体何を言っているのかしら?

「今のはその…」

「ヴィクトリア、僕の方こそ本当にごめんね。さあ、仲直りのしるしに、一緒にスイートポテトを食べよう。そうだ、食べた後は、一緒にクリーに乗ろうね」

すっかり機嫌がなおったディーノ様。

正直まだ不満はあるが、なんだかんだ言って、私はディーノ様の笑顔、嫌いじゃないのよね。

ふと後ろに控えているクロハを見る。きっと

 “また殿下がお嬢様を甘やかして。だからお嬢様が、つけあがるのですわ!”

そんな声が聞こえてくる。でも、それが私たちなのだ。

「ディーノ様、早くスイートポテトを食べてしまいましょう。きっとクリーも待っておりますわ」

「そうだね、でも、急いで食べると喉につかえてしまうよ。クリーは逃げないから、ゆっくり食べるといい」

その後はお腹いっぱいスイートポテトを食べ、思う存分クリーと一緒に走った。

そして夜

「今日はあの大蛇を見て、相当怖い思いをしたのだろう?万が一悪夢にうなされると大変だ。僕がヴィクトリアを抱きしめて寝てあげるね」

そう言って図々しく、私の布団に入り込んできたのだ。

「ディーノ様、いい加減にしてください!さすがに一緒に寝るだなんて…」

「今日くらいはいいだろう?ほら、こっちにおいで。それにもしかしたらあの大蛇が、君に会いたがって王宮に来ているかもしれないし…今日も義姉上から抜け出して、ヴィクトリアの元に来ようとしていたものね」

ふと今日のあいつの姿が、脳裏に浮かんだ。その瞬間、無意識にディーノ様に抱き着いた。

「やっぱり僕が傍にいた方がいいよね。さあ、寝よう。お休み、ヴィクトリア」

私をギュッと抱きしめると、ディーノ様がさっさと目を閉じてしまった。もう、自分勝手なのだから!

私もさっさと寝よう、そう思い目を閉じるのだが、恐ろしいあいつの姿が脳裏に浮かぶ。ただ、ディーノ様の温もりを感じると、なんだか安心する。仕方ない、今日は一緒に寝てあげるか。

そんな思いで、再びゆっくり目を閉じたのだった。


ディーノ様のお陰かは分からないが、その日はあいつの夢を見る事はなかった。

ただ…

このまま大蛇に怯え続ける生活なんて嫌よ!そんな思いから、蛇を克服するべく、訓練を開始したのだった。その結果、1年後には、マロンを見ても動揺する事がないくらい、克服したのだった。



~あとがき~
番外編、一旦ここまでです。
また時間を見つけて、ディカルド殿下とヴァイオレット、ディーノのやり取りなどを書けたらいいな…と考えております。
お読みいただき、ありがとうございましたm(__)m
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」

まほりろ
恋愛
【完結済み】 若き侯爵ビリーは子爵家の財産に目をつけた。侯爵は子爵家に圧力をかけ、子爵令嬢のエミリーを強引に娶(めと)った。 侯爵家に嫁いだエミリーは、侯爵家の使用人から冷たい目で見られ、酷い仕打ちを受ける。 侯爵家には居候の少女ローザがいて、当主のビリーと居候のローザは愛し合っていた。 使用人達にお金の力で二人の愛を引き裂いた悪女だと思われたエミリーは、使用人から酷い虐めを受ける。 侯爵も侯爵の母親も居候のローザも、エミリーに嫌がれせをして楽しんでいた。 侯爵家の人間は知らなかった、腐ったスープを食べさせ、バケツの水をかけ、ドレスを切り裂き、散々嫌がらせをした少女がエミリーに化けて侯爵家に嫁いできた世界最強の魔女だと言うことを……。 魔女が正体を明かすとき侯爵家は地獄と化す。 全26話、約25,000文字、完結済み。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 他サイトにもアップしてます。 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 第15回恋愛小説大賞にエントリーしてます。よろしくお願いします。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

村八分にしておいて、私が公爵令嬢だったからと手の平を返すなんて許せません。

木山楽斗
恋愛
父親がいないことによって、エルーシャは村の人達から迫害を受けていた。 彼らは、エルーシャが取ってきた食べ物を奪ったり、村で起こった事件の犯人を彼女だと決めつけてくる。そんな彼らに、エルーシャは辟易としていた。 ある日いつものように責められていた彼女は、村にやって来た一人の人間に助けられた。 その人物とは、公爵令息であるアルディス・アルカルドである。彼はエルーシャの状態から彼女が迫害されていることに気付き、手を差し伸べてくれたのだ。 そんなアルディスは、とある目的のために村にやって来ていた。 彼は亡き父の隠し子を探しに来ていたのである。 紆余曲折あって、その隠し子はエルーシャであることが判明した。 すると村の人達は、その態度を一変させた。エルーシャに、媚を売るような態度になったのである。 しかし、今更手の平を返されても遅かった。様々な迫害を受けてきたエルーシャにとって、既に村の人達は許せない存在になっていたのだ。

前世の記憶が蘇ったので、身を引いてのんびり過ごすことにします

柚木ゆず
恋愛
 ※明日(3月6日)より、もうひとつのエピローグと番外編の投稿を始めさせていただきます。  我が儘で強引で性格が非常に悪い、筆頭侯爵家の嫡男アルノー。そんな彼を伯爵令嬢エレーヌは『ブレずに力強く引っ張ってくださる自信に満ちた方』と狂信的に愛し、アルノーが自ら選んだ5人の婚約者候補の1人として、アルノーに選んでもらえるよう3年間必死に自分を磨き続けていました。  けれどある日無理がたたり、倒れて後頭部を打ったことで前世の記憶が覚醒。それによって冷静に物事を見られるようになり、ようやくアルノーは滅茶苦茶な人間だと気付いたのでした。 「オレの婚約者候補になれと言ってきて、それを光栄に思えだとか……。倒れたのに心配をしてくださらないどころか、異常が残っていたら候補者から脱落させると言い出すとか……。そんな方に夢中になっていただなんて、私はなんて愚かなのかしら」  そのためエレーヌは即座に、候補者を辞退。その出来事が切っ掛けとなって、エレーヌの人生は明るいものへと変化してゆくことになるのでした。

【完結】アッシュフォード男爵夫人-愛されなかった令嬢は妹の代わりに辺境へ嫁ぐ-

七瀬菜々
恋愛
 ブランチェット伯爵家はずっと昔から、体の弱い末の娘ベアトリーチェを中心に回っている。   両親も使用人も、ベアトリーチェを何よりも優先する。そしてその次は跡取りの兄。中間子のアイシャは両親に気遣われることなく生きてきた。  もちろん、冷遇されていたわけではない。衣食住に困ることはなかったし、必要な教育も受けさせてもらえた。  ただずっと、両親の1番にはなれなかったというだけ。  ---愛されていないわけじゃない。  アイシャはずっと、自分にそう言い聞かせながら真面目に生きてきた。  しかし、その願いが届くことはなかった。  アイシャはある日突然、病弱なベアトリーチェの代わりに、『戦場の悪魔』の異名を持つ男爵の元へ嫁ぐことを命じられたのだ。  かの男は血も涙もない冷酷な男と噂の人物。  アイシャだってそんな男の元に嫁ぎたくないのに、両親は『ベアトリーチェがかわいそうだから』という理由だけでこの縁談をアイシャに押し付けてきた。 ーーーああ。やはり私は一番にはなれないのね。  アイシャはとうとう絶望した。どれだけ願っても、両親の一番は手に入ることなどないのだと、思い知ったから。  結局、アイシャは傷心のまま辺境へと向かった。  望まれないし、望まない結婚。アイシャはこのまま、誰かの一番になることもなく一生を終えるのだと思っていたのだが………? ※全部で3部です。話の進みはゆっくりとしていますが、最後までお付き合いくださると嬉しいです。    ※色々と、設定はふわっとしてますのでお気をつけください。 ※作者はザマァを描くのが苦手なので、ザマァ要素は薄いです。  

【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない

miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。 断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。 家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。 いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。 「僕の心は君だけの物だ」 あれ? どうしてこうなった!? ※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。 ※ご都合主義の展開があるかもです。 ※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。

処理中です...