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第13話:感情が抑えきれない~ウィリアム視点~

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新しい土地で始まった魔物討伐。やはり、随分と奥の方まで来ているという事もあり、魔物たちも格段に強くなっている。

ただ今のところ、1人の犠牲者も出ていない。そう、あの女が料理を作る様になってから、明らかに皆強くなった。あの女の魔力が、料理を通じて皆の体に眠る魔力を引き出している様だ。

ふと女を見ると、今日も楽しそうにジークやハルと話をしている。その笑顔がたまらなく眩しい。俺にはそんな笑顔を見せてくれた事が無いのに…

もっと彼女の側にいたい、いつしかそう思う様になっていった。その思いは日に日に強くなっていく。そのせいで、無意識に彼女を探し、隣の席を陣取る。正直、こんな感情は初めてだ。

自分でもどうしていいのか分からない。ただ1つ言える事がある。それは、俺は彼女に物凄く怖がられているという事だ。まあ、今までの俺の行いを思い返してみれば、当たり前と言えば当たり前かもしれない。

彼女が俺に抱く恐怖を少しでも和らげようと、極力怒鳴らないようにしているが、今まで散々怒鳴り散らしていたせいか、俺が話しかけただけで、身を縮こませてしまう。

きっと俺が側にいない方が、彼女は幸せなのだろう。そう思って距離取ろうとした事もある、でも、やっぱり無理だ。彼女を見ると、彼女が他の隊員やデビッドと楽しそうに話していると、いてもたってもいられなくなるのだ。

そんな俺の様子に気が付いたデビッド

「ウィリアムもクレアの事が好きになっちゃったんだね。まあ、彼女の魅力は半端ないから仕方がないよ。でも、あまり私情を挟むなよ。ウィリアムはこの過酷な魔物討伐部隊の騎士団長なんだから!」

そう言われた。確かにデビッドの言う通り、俺は彼女に好意を抱いている。それは認めよう。でも過酷な魔物討伐部隊を指揮しなければいけない、そう、俺は隊員たちの命を預かっている立場なんだ。

そうだ、女にうつつを抜かしていてはいけない。早く魔物をやっつけて、彼女を親元に帰してやらないと。

でも、そうなったらもう彼女とは会えなくなるのか…複雑な感情が俺の心を支配する。

そんなある日、いつもの様に彼女が昼食を作って皆に振舞っていた。まだ忙しそうに動く彼女を目で追いながら、とりあえずデビッドの隣に座った。

今日も美味そうな料理が並んでいる。ふと彼女を目で追うと、いつもの様にジークとハルの元にいた。彼女はあの2人に随分と懐いている様だ。それにあいつらも、随分と彼女を気に入っている。もしかしたら、どちらかとくっ付くのか?

そう思ったら、いてもたってもいられず、すぐに彼女の元へと向かう。すると急に立ち上がったと思ったら、倒れかかって来た。すぐに彼女を受け止める。どうやら熱がある様だ。

そのまま抱きかかえ、テントへと向かった。それにしても、柔らかいな…
一気に体中の血が沸き上がる様な、何とも言えない興奮を覚える。俺は何を考えているんだ!相手は病人だぞ!

とにかくテントまで連れて行き、寝袋を広げ寝かせた。また後で様子を見に来ると言って、一旦皆の元に戻った。でも…彼女が心配でたまらない!

午後の稽古も早々に切り上げ、彼女の元に急いで向かう。他の奴らには

「俺が面倒を見るから、絶対テントに近づくな!」

そう伝えておいた。テントに入ると、明らかに熱が上がっている様で、真っ赤な顔をして苦しそうに呼吸をしている彼女が目に入る。急いで水を汲んでテントに戻った。

その時だった。

「水…」

どうやら目を覚ました様だ。すぐに水を飲ませた。かなり辛そうだ。せめて薬草だけでも!そう思い、急いで薬草を取りに行く。戻った時には、苦しそうに眠っていた。泣いていたのか、涙が頬を伝った痕もある。

急いで薬草を潰した。

「おい、薬草だ。飲めるか?」

眠る彼女を抱き起すと、うっすら目を開けた。でも、視点が定まっていない。

「サ…ミュエル様…来てくれたのですね…嬉しい…です…」

そう言って嬉しそうに俺に抱き着いて来た。サミュエル?誰だ?そうだ、薬草を飲ませようと思っていたんだった!

「とにかく薬草を」

そう言って薬草を飲ませようとしたのだが

「薬草は…苦いので…嫌です…」

そう言って顔を背けられてしまった。困ったな。

「でも…口移しで飲ませてくれるなら…飲んでもいいです…」

そう言ってヘラっと笑った彼女。その姿が物凄く可愛くて、気が付くと薬草と水を口に含ませ、彼女に口移しで飲ませていた。

柔らかく温かい感触が、唇から全身に伝わる。無我夢中で口移しで薬草を飲ませた。ふと我に返り、彼女の方を見ると眠っていた。

俺は何て事をしてしまったんだ!いくら彼女から要求されたからって、熱でうなされている彼女にく…口付けをしてしまうなんて。

いや、口付けではないな。口移しだ。そもそも、自力で飲む事が出来なかった可能性が高い。そう考えると、これは立派な看病の一種だ。そうだ!俺は看病しただけだ!そう自分に言い聞かせる。

少し薬が効いて来たのか、スヤスヤ眠る彼女。その寝顔がまた可愛くてたまらない。

少しだけならいいか…
彼女の隣に寝転がり、頭を撫でた。こうやって見ると、普通の少女だ。彼女は一体何を背負ってここに来ているのだろう。どんな思いで、討伐に参加しているのだろう。

俺が思っている以上に、この小さな体に大きなものを背負っているのかもしれない。彼女の事がもっと知りたい…

そんな事を考えながら、再び頭を撫でようとした瞬間、俺にすり寄って来た。きっと無意識なのだろう。

でも…

そっと彼女を抱きしめた。柔らかな感触が体中に伝わる。さらに俺にすり寄る彼女。これはたまらない!そのままギューっと抱きしめた。この子は俺が守ろう。どんな事があっても!

翌日
彼女に起こされ目を覚ました。しまった、つい抱きしめて眠ってしまった。物凄く焦ったが、それを悟られたくはない。必死に平然を装う。そんな俺に

「騎士団長様が私の看病をして下さったのですよね。ありがとうございます!」

そう言ってにっこり笑った。その笑顔が可愛いのなんのって!初めて俺に向けられた笑顔が嬉しくてたまらない。その日はゆっくり休む様に伝えたのだが、昼前には起きてきて、皆のご飯を作って待っていた。

隊員たちも彼女の復活を喜び、皆彼女に群がっている。それが妙に腹ただしい!

そう言えば昨日意識が朦朧とする中、“サミュエル様”と呟いたな。サミュエルか…どこかで聞いたことある名前だな!

まあいいか!とにかく彼女…いいや、クレアが元気になってよかった。クレアの笑顔を見て、1人密かに微笑むウィリアムであった。
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