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第58話:私に残されたわずかな時間

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「なんて綺麗な景色なのかしら…」

「この場所からは、王都の美しい街が一望できるんだよ。この場所を見つけた時、アンジュ様に見せたくてね。今日来られてよかった」

そう言ってダルク様が笑った。どうしてダルク様はこんなに優しくしてくれるのだろう…なんだか胸が熱くなり、涙が込みあげてきた。

「ありがとうございます、私、今日ダルク様とこの景色を見られた事、とても幸せに思いますわ」

「それは良かったよ。ねえ、アンジュ嬢、私は君の事が好きなのは知っているよね。私はね、君を追ってこの地にやって来た。そしてこの地で、新しい夢を見付けたんだ。それが“2つの国の架け橋になる事”。アンジュ嬢、私と一緒にこの夢を実現させてくれないだろうか?私は今でも君を愛している。カリオス王国出身の君と、ミラージュ王国出身の私が共に手を取り合い、お互いの母国の架け橋になれたら…そう私は思っている」

「私とダルク様が、2つの国の架け橋に…」

「とはいっても、デイビッド殿の事もあるだろうから、アンジュ嬢が私を選んでくれたらの話にはなるが…アンジュ嬢、私は君に出会って、人生が180度変わった。もちろん、いい意味で。どうか…私と共に歩んで行って欲しい。返事は、来週、私が旅立つ前に聞かせてくれるかい?」

「ダルク様…私…」

「さあ、もう日が暮れる、帰ろう」

ダルク様が私の手を握って、歩き始めた。温かくて大きな手…

「ダルク様、今日はありがとうございました。とても楽しかったですわ」

「お礼を言うのは、私の方だ。アンジュ嬢とこうやって1日過ごせた事、本当に幸せに思っている。アンジュ嬢、君と出会えて、私は本当に幸せだよ」

ダルク様…

「さあ、少し遅くなってしまったね。早く帰ろう」

馬車に乗り込み、家路へと急いだ。ちょうど夕焼けで空が真っ赤に染まっていた。

「とても綺麗な夕焼け空ですね」

「本当だね。アンジュ嬢、以前の私ならこんな綺麗な夕焼け空を見ても、何とも思わなかった。いいや…見ようともしなかったのだ。でも君に会えて、美しいものを美しいと感じられる様になった。君が私を、人間らしくしてくれたんだよ。本当にありがとう」

「私は別に…」

「ほら、屋敷に着いたよ。そうそう、明日は君の父上と、絹の件で最終確認を行う事になっているから、貴族学院は休むことにしたんだ。それから、君の父上が、私の為にお別れ会を開いてくれるとの事でね。明日はアンジュ嬢の家で、夕食を頂く事になっている。アンジュ嬢の父上には、本当に良くしてもらった。感謝してもしきれないよ」

「まあ、そうだったのですね。学院で会えないのは寂しいですが、夕食、楽しみにしておりますわ。それではまた明日」

「ああ、また明日」

お父様ったら、ダルク様のお別れ会をしようとしていただなんて。お父様はダルク様の事を、随分気に入っているものね。

そうだわ、せっかくだからアリアたち友人も招待しよう。それに、騎士団のメンバーも。きっとダルク様も喜んでくれるわよね。お父様にも伝えておかないと。

屋敷に戻ると、お母様が待っていた。

「おかえりなさい、アンジュ。随分と遅かったわね。あら?そのドレス」

「ただいま帰りました。このドレス、ダルク様が私の為にデザインしてくださいましたの」

「そうだったの。よく似合っているわ。さあ、着替えていらっしゃい、夕食にしましょう」

お母様に促され、着替えを済ませると、夕食を頂いた。

「お父様、明日ダルク様のお別れ会を我が家でやるのですよね?アリアたちクラスメイトも呼んでもいいかしら?皆ダルク様ととても仲良くなったので」

「もちろんだよ。まさかミラージュ王国の国王陛下が倒れられるとは…ダルク殿も大変だな。ダルク殿には本当に世話になったから、明日は精一杯送り出してあげよう」

よかった、お父様から許可が下りたわ。

部屋に戻ると、ダルク様から貰ったドレスを見つめる。本当に素敵なドレスだ。あら?よく見ると、この裾の部分、ミラージュ王国の運河をイメージしているのね。全く気が付かなかったわ。素敵ね…

その時だった。

「アンジュ、ちょっといいかしら?」

やって来たのは、お母様だ。
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