58 / 75
第58話:私に残されたわずかな時間
しおりを挟む
「なんて綺麗な景色なのかしら…」
「この場所からは、王都の美しい街が一望できるんだよ。この場所を見つけた時、アンジュ様に見せたくてね。今日来られてよかった」
そう言ってダルク様が笑った。どうしてダルク様はこんなに優しくしてくれるのだろう…なんだか胸が熱くなり、涙が込みあげてきた。
「ありがとうございます、私、今日ダルク様とこの景色を見られた事、とても幸せに思いますわ」
「それは良かったよ。ねえ、アンジュ嬢、私は君の事が好きなのは知っているよね。私はね、君を追ってこの地にやって来た。そしてこの地で、新しい夢を見付けたんだ。それが“2つの国の架け橋になる事”。アンジュ嬢、私と一緒にこの夢を実現させてくれないだろうか?私は今でも君を愛している。カリオス王国出身の君と、ミラージュ王国出身の私が共に手を取り合い、お互いの母国の架け橋になれたら…そう私は思っている」
「私とダルク様が、2つの国の架け橋に…」
「とはいっても、デイビッド殿の事もあるだろうから、アンジュ嬢が私を選んでくれたらの話にはなるが…アンジュ嬢、私は君に出会って、人生が180度変わった。もちろん、いい意味で。どうか…私と共に歩んで行って欲しい。返事は、来週、私が旅立つ前に聞かせてくれるかい?」
「ダルク様…私…」
「さあ、もう日が暮れる、帰ろう」
ダルク様が私の手を握って、歩き始めた。温かくて大きな手…
「ダルク様、今日はありがとうございました。とても楽しかったですわ」
「お礼を言うのは、私の方だ。アンジュ嬢とこうやって1日過ごせた事、本当に幸せに思っている。アンジュ嬢、君と出会えて、私は本当に幸せだよ」
ダルク様…
「さあ、少し遅くなってしまったね。早く帰ろう」
馬車に乗り込み、家路へと急いだ。ちょうど夕焼けで空が真っ赤に染まっていた。
「とても綺麗な夕焼け空ですね」
「本当だね。アンジュ嬢、以前の私ならこんな綺麗な夕焼け空を見ても、何とも思わなかった。いいや…見ようともしなかったのだ。でも君に会えて、美しいものを美しいと感じられる様になった。君が私を、人間らしくしてくれたんだよ。本当にありがとう」
「私は別に…」
「ほら、屋敷に着いたよ。そうそう、明日は君の父上と、絹の件で最終確認を行う事になっているから、貴族学院は休むことにしたんだ。それから、君の父上が、私の為にお別れ会を開いてくれるとの事でね。明日はアンジュ嬢の家で、夕食を頂く事になっている。アンジュ嬢の父上には、本当に良くしてもらった。感謝してもしきれないよ」
「まあ、そうだったのですね。学院で会えないのは寂しいですが、夕食、楽しみにしておりますわ。それではまた明日」
「ああ、また明日」
お父様ったら、ダルク様のお別れ会をしようとしていただなんて。お父様はダルク様の事を、随分気に入っているものね。
そうだわ、せっかくだからアリアたち友人も招待しよう。それに、騎士団のメンバーも。きっとダルク様も喜んでくれるわよね。お父様にも伝えておかないと。
屋敷に戻ると、お母様が待っていた。
「おかえりなさい、アンジュ。随分と遅かったわね。あら?そのドレス」
「ただいま帰りました。このドレス、ダルク様が私の為にデザインしてくださいましたの」
「そうだったの。よく似合っているわ。さあ、着替えていらっしゃい、夕食にしましょう」
お母様に促され、着替えを済ませると、夕食を頂いた。
「お父様、明日ダルク様のお別れ会を我が家でやるのですよね?アリアたちクラスメイトも呼んでもいいかしら?皆ダルク様ととても仲良くなったので」
「もちろんだよ。まさかミラージュ王国の国王陛下が倒れられるとは…ダルク殿も大変だな。ダルク殿には本当に世話になったから、明日は精一杯送り出してあげよう」
よかった、お父様から許可が下りたわ。
部屋に戻ると、ダルク様から貰ったドレスを見つめる。本当に素敵なドレスだ。あら?よく見ると、この裾の部分、ミラージュ王国の運河をイメージしているのね。全く気が付かなかったわ。素敵ね…
その時だった。
「アンジュ、ちょっといいかしら?」
やって来たのは、お母様だ。
「この場所からは、王都の美しい街が一望できるんだよ。この場所を見つけた時、アンジュ様に見せたくてね。今日来られてよかった」
そう言ってダルク様が笑った。どうしてダルク様はこんなに優しくしてくれるのだろう…なんだか胸が熱くなり、涙が込みあげてきた。
「ありがとうございます、私、今日ダルク様とこの景色を見られた事、とても幸せに思いますわ」
「それは良かったよ。ねえ、アンジュ嬢、私は君の事が好きなのは知っているよね。私はね、君を追ってこの地にやって来た。そしてこの地で、新しい夢を見付けたんだ。それが“2つの国の架け橋になる事”。アンジュ嬢、私と一緒にこの夢を実現させてくれないだろうか?私は今でも君を愛している。カリオス王国出身の君と、ミラージュ王国出身の私が共に手を取り合い、お互いの母国の架け橋になれたら…そう私は思っている」
「私とダルク様が、2つの国の架け橋に…」
「とはいっても、デイビッド殿の事もあるだろうから、アンジュ嬢が私を選んでくれたらの話にはなるが…アンジュ嬢、私は君に出会って、人生が180度変わった。もちろん、いい意味で。どうか…私と共に歩んで行って欲しい。返事は、来週、私が旅立つ前に聞かせてくれるかい?」
「ダルク様…私…」
「さあ、もう日が暮れる、帰ろう」
ダルク様が私の手を握って、歩き始めた。温かくて大きな手…
「ダルク様、今日はありがとうございました。とても楽しかったですわ」
「お礼を言うのは、私の方だ。アンジュ嬢とこうやって1日過ごせた事、本当に幸せに思っている。アンジュ嬢、君と出会えて、私は本当に幸せだよ」
ダルク様…
「さあ、少し遅くなってしまったね。早く帰ろう」
馬車に乗り込み、家路へと急いだ。ちょうど夕焼けで空が真っ赤に染まっていた。
「とても綺麗な夕焼け空ですね」
「本当だね。アンジュ嬢、以前の私ならこんな綺麗な夕焼け空を見ても、何とも思わなかった。いいや…見ようともしなかったのだ。でも君に会えて、美しいものを美しいと感じられる様になった。君が私を、人間らしくしてくれたんだよ。本当にありがとう」
「私は別に…」
「ほら、屋敷に着いたよ。そうそう、明日は君の父上と、絹の件で最終確認を行う事になっているから、貴族学院は休むことにしたんだ。それから、君の父上が、私の為にお別れ会を開いてくれるとの事でね。明日はアンジュ嬢の家で、夕食を頂く事になっている。アンジュ嬢の父上には、本当に良くしてもらった。感謝してもしきれないよ」
「まあ、そうだったのですね。学院で会えないのは寂しいですが、夕食、楽しみにしておりますわ。それではまた明日」
「ああ、また明日」
お父様ったら、ダルク様のお別れ会をしようとしていただなんて。お父様はダルク様の事を、随分気に入っているものね。
そうだわ、せっかくだからアリアたち友人も招待しよう。それに、騎士団のメンバーも。きっとダルク様も喜んでくれるわよね。お父様にも伝えておかないと。
屋敷に戻ると、お母様が待っていた。
「おかえりなさい、アンジュ。随分と遅かったわね。あら?そのドレス」
「ただいま帰りました。このドレス、ダルク様が私の為にデザインしてくださいましたの」
「そうだったの。よく似合っているわ。さあ、着替えていらっしゃい、夕食にしましょう」
お母様に促され、着替えを済ませると、夕食を頂いた。
「お父様、明日ダルク様のお別れ会を我が家でやるのですよね?アリアたちクラスメイトも呼んでもいいかしら?皆ダルク様ととても仲良くなったので」
「もちろんだよ。まさかミラージュ王国の国王陛下が倒れられるとは…ダルク殿も大変だな。ダルク殿には本当に世話になったから、明日は精一杯送り出してあげよう」
よかった、お父様から許可が下りたわ。
部屋に戻ると、ダルク様から貰ったドレスを見つめる。本当に素敵なドレスだ。あら?よく見ると、この裾の部分、ミラージュ王国の運河をイメージしているのね。全く気が付かなかったわ。素敵ね…
その時だった。
「アンジュ、ちょっといいかしら?」
やって来たのは、お母様だ。
11
お気に入りに追加
4,403
あなたにおすすめの小説
忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。
【完結】憧れの人の元へ望まれて嫁いだはずなのに「君じゃない」と言われました
Rohdea
恋愛
特別、目立つ存在でもないうえに、結婚適齢期が少し過ぎてしまっていた、
伯爵令嬢のマーゴット。
そんな彼女の元に、憧れの公爵令息ナイジェルの家から求婚の手紙が……
戸惑いはあったものの、ナイジェルが強く自分を望んでくれている様子だった為、
その話を受けて嫁ぐ決意をしたマーゴット。
しかし、いざ彼の元に嫁いでみると……
「君じゃない」
とある勘違いと誤解により、
彼が本当に望んでいたのは自分ではなかったことを知った────……
「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。
あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。
「君の為の時間は取れない」と。
それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。
そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。
旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。
あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。
そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。
※35〜37話くらいで終わります。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
ガネス公爵令嬢の変身
くびのほきょう
恋愛
1年前に現れたお父様と同じ赤い目をした美しいご令嬢。その令嬢に夢中な幼なじみの王子様に恋をしていたのだと気づいた公爵令嬢のお話。
※「小説家になろう」へも投稿しています
【完結】貴方が好きなのはあくまでも私のお姉様
すだもみぢ
恋愛
伯爵令嬢であるカリンは、隣の辺境伯の息子であるデュークが苦手だった。
彼の悪戯にひどく泣かされたことがあったから。
そんな彼が成長し、年の離れたカリンの姉、ヨーランダと付き合い始めてから彼は変わっていく。
ヨーランダは世紀の淑女と呼ばれた女性。
彼女の元でどんどんと洗練され、魅力に満ちていくデュークをカリンは傍らから見ていることしかできなかった。
しかしヨーランダはデュークではなく他の人を選び、結婚してしまう。
それからしばらくして、カリンの元にデュークから結婚の申し込みが届く。
私はお姉さまの代わりでしょうか。
貴方が私に優しくすればするほど悲しくなるし、みじめな気持ちになるのに……。
そう思いつつも、彼を思う気持ちは抑えられなくなっていく。
8/21 MAGI様より表紙イラストを、9/24にはMAGI様の作曲された
この小説のイメージソング「意味のない空」をいただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=L6C92gMQ_gE
MAGI様、ありがとうございます!
イメージが広がりますので聞きながらお話を読んでくださると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる