何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi

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第56話:ダルク様と急遽街に行く事になりました

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貴族学院主催の狩りの事件から、1ヶ月が過ぎた。あの日以降、相変わらずダルク様もデイビッド様も積極的に私に話し掛けてきてくれる。

ただ…

未だに私は自分の気持ちに答えを出すことが出来ていないのだ。アリアは自分の気持ちに正直でいいと言ってくれていたが、彼らを見ているとやはり早く結論を出した方がいいのではないかと考えてしまう。

でも、考えれば考えるほど、自分の気持ちが分からず、頭を抱える日々が続いている。

今日も朝から、2人の事を考えては頭を抱えている。ちなみに今日は、貴族学院が休みなのだ。

「お嬢様、そんなところでボーっとして。あなた様は侯爵令嬢なのですよ。シャキっとしてください」

すかさずカリアに怒られてしまった。

その時だった。

「お嬢様、ダルク様がいらしております。至急客間に」

何ですって!ダルク様がですって?

「分かったわ、すぐに行くわね」

急いで客間へと向かう。そこには確かにダルク様の姿が。一体どうしたのかしら?

「ダルク様、一体どうされたのですか?」

急に訪ねてくるだなんて、本当にどうしたのだろう?何か急用かしら?

「急に押しかけてきてすまなかったね。実はミラージュ王国の国王陛下が体調を崩されて倒れてしまったんだ。かなり危険な状況の様で…それでイカロス殿下が、王位を継ぐ話が進んでいて。それで私も急遽帰国する事になったんだよ。既に絹に関しての話し合いは終わっているし、貿易も今のところ順調に進んでいるしね」

「そんな…だって卒業まで後3ヶ月しかないのですよ。卒業までこの国にいる事は出来ないのですか?」

「私もアンジュ嬢と卒業したかった。でも…幼馴染でもあるイカロス殿下が困っているのを、私は放っておく訳にはいかないよ。ただ…色々と準備があるから、何とか来週この国を旅立つよう調整してもらったんだ」

「来週…そんなに急に」

分かっている、王太子殿下のお父様でもある国王陛下が命の危機にさらされているのだ。一刻も早くダルク様も帰国して、殿下を支えたいのだろう。分かってはいるが…

「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。卒業まで一緒にいられなくて本当にすまない。それで、1つ頼みがあるんだが、聞いてくれるかい?」

「はい、私にできる事なら、何でもおっしゃってください」

「急に帰国が決まってしまったから、アンジュ嬢との思い出を作っておきたいんだ。今から街に出たいのだけれど、いいかな?」

「はい、もちろんですわ。ぜひ行きましょう」

「ありがとう、アンジュ嬢。それじゃあ、早速行こうか」

スッと手を差し伸べてくれるダルク様の手を、そっと握った。大きくて温かい手…後1週間で、ダルク様が帰ってしまう。

そう思ったら、どうしようもないくらい寂しくて、胸が締め付けられた。それでもダルク様にその気持ちを知られない様に、必死に笑顔を作る。

馬車に乗り込むと、無意識にダルク様を見つめた。ミラージュ王国ではいつも真顔だったのに、この国に来てからは良く笑ってくれる様になったダルク様。と言っても、私の前だけらしい。

それでも私は、ダルク様の少しはにかんだ笑顔が好きだ。

「アンジュ嬢、私の顔を見つめてどうしたんだい?」

「いいえ、何でもありませんわ。街が見えてきましたよ。今日はどこに行きましょうか?」

「私がこの国に初めて来た時、アンジュ嬢と一緒に街に行ったよね。あの時と同じコースを回りたいのだが、いいかな?」

「ええ、もちろんいいですわ。参りましょう」

ダルク様と一緒に馬車を降りると、まず向かったのはマダムのお店だ。私達が顔を出すと、嬉しそうにマダムがこちらにやって来た。

「アンジュ様、それにダルク様も。ようこそいらっしゃいました。ダルク様、既にご依頼のドレス、出来ておりますよ」

「それは良かった。仕事が早くて助かるよ。マダムのドレスは、ミラージュ王国でも評判が良く、既にたくさんの依頼が来ているけれど、大丈夫かい?」

「お陰様で、大繁盛ですわ。それもこれも、ダルク様のお陰でございます。本当にありがとうございます。おっと、話がそれてしまいましたね。すぐに例のものをお持ちいたしますわ」

そう言うと、奥に入っていったマダム。そして美しい青色のドレスを持って出てきたのだ。

「こちらでよろしいでしょうか?」

「ありがとう、とても素敵な出来栄えだよ。アンジュ嬢、このドレス、君へのプレゼントだ。君にはいつもお世話になりっぱなしだからね。ずっとドレスを贈りたいと思っていたのだよ」

「このドレスを、私にですか?」

「まあ、アンジュ様によくお似合いですわ。青色はお2人のお色ですものね。さあ、アンジュ様、せっかくなのでお着替えを。どうぞこちらへ」

青は私達の色か…

ダルク様の髪は青、私の瞳は水色だ。確かに私たちの色ね。

そんな事を考えているうちに、あっと言う間にマダムに着替えさせてもらった。

「アンジュ様、本当によくお似合いですわ。このドレス、ダルク様がデザインされたのですよ。何度も何度も足を運んでくださって。本当に素敵な殿方ですわね」

そう言ってマダムが微笑んでくれている。
ダルク様が私の為に…

「さあ、ダルク様がお待ちです。戻りましょう」

マダムに連れられ、ダルク様の元へと戻ってきた。

「ダルク様、こんなにも素敵なドレスを、ありがとうございます。どうですか?似合いますか?」

「ああ、とてもよく似合っているよ。やはりアンジュ嬢は、青が似合うね」

そう言ってほほ笑んでくれたダルク様。

「マダム、素敵なドレスをありがとう。それじゃあ私たちは、先を急ぐので」

「こちらこそ、ありがとうございました」

笑顔で手を振ってくれるマダムに、私たちも手を振り返し、お店を後にした。
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