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第42話:絶対に渡したくない~ローイン視点~

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不安の中、伯爵家に着いてしまった。とにかく今日の件、伯爵たちに話しをしないと。そんな思いで、マーガレット嬢と一緒に馬車を降りた。

急に来たにも関わらず、伯爵もバロン殿も笑顔で向か入れてくれた。

「ローイン殿、マーガレットはどうでしたか?ジェファーソン殿は…」

心配そうに伯爵が話しかけてくる。

「ジェファーソン殿は、マーガレット嬢に言い寄っていました。予想通り、ジェファーソン殿はマーガレット嬢を諦めていない様です」

「おのれジェファーソンめ。あれだけマーガレットを苦しめ傷つけておいて、今更まだ言い寄ってくるだなんて!もう我慢できない。あの男を八つ裂きにして参ります!」

俺の話を聞いたバロン殿が剣を腰に差し、部屋から出ていこうとしている。

「待て、バロン。落ち着いてくれ!とにかく座れ。ローイン殿、見苦しい姿をお見せして申し訳ございません」

伯爵に促され、不満そうではあるが一旦席に着いたバロン殿。

「俺もバロン殿と同じ気持ちでいますので…それでお願いがあるのですが。万が一ジェファーソン殿が伯爵家を訪ねて来ても、マーガレット嬢には会わせないで欲しいのです」

我ながら我が儘な事を言っているという事は分かっている。でも、どうしても俺の知らないところで、彼らを会わせたくはないのだ。

「もちろんです。もしあの男が来たら、八つ裂きにしてやります。ローイン殿、あなた様には本当に妹の件で色々とお世話になりました。あいつは少し抜けているところはありますが、芯は通っております。どうか妹を信じてやってください」

バロン殿が頭を下げて来たのだ。マーガレット嬢を信じるか…そもそもマーガレット嬢は、俺の事をどう思っているのだろう…

伯爵家で話をした後、屋敷へと戻ってきた。するとなぜかノエルが待っていたのだ。

「やあ、ローイン。随分面白い顔をしているね」

俺の顔を見るなり、ノエルがクスクスと笑っている。相変わらず失礼な男だ。

「俺の顔のどこが面白いんだ!失礼にも程があるぞ。俺をからかいに来たのなら、帰ってくれ」

「別にからかいに来たわけじゃないよ。親友が心乱しているみたいだから、心配で様子を見に来たんだ。それにしてもマリン譲と不貞を行った令息たち、見苦しいね。今頃元婚約者に必死に取り入ろうとして。ローインも大変だね。でも、マーガレット嬢はきっと大丈夫だよ」

「ノエルが俺を慰めてくれるだなんて、珍しいな。一体何を企んでいるのだい?」

「別に企んでいないよ。ただ…大切なものを失った男は、何をするか分からないからね。ローインに忠告をしに来たんだ。あの男には気を付けた方がいいとね」

「そんな事、俺だってわかっているよ。だから今、ジェファーソン殿が彼女に近づかない様に手を打っているじゃないか」

「手を打っている?僕には何にもしていない様に見えるけれど。ローイン、君はマリン嬢を追い詰め、彼らを断罪しただけの行動力のある人間だ。今回も持ち前の行動力で、ジェファーソン殿の動きを封じた方がいいのではないのかい?手遅れになる前に…」

「ジェファーソン殿の動きを封じる?一体何を言っているのだ?」

「君が思っている以上に、ジェファーソン殿は厄介だよ。僕はちゃんと忠告したからね。それじゃあ、これで失礼するよ」

笑顔でノエルが去っていく。

確かにノエルの言う通り、もしもジェファーソン殿が無理やりマーガレット嬢を手に入れようとしたら…考えただけで怒りがこみあげてくる。

でも、既に崖っぷちの彼が、そんな事をするだろうか?

ふとマーガレット嬢の笑顔が脳裏に浮かんだ。俺はもう、彼女を失いたくはない。その為にも俺がやらなければいけない事は…

結局その日も色々と思い詰めてしまい、あまり眠れなかった。

翌日も、その翌日も、マーガレット嬢に近づこうとするジェファーソン殿をけん制する日々が続く。

マーガレット嬢もジェファーソン殿にはっきりと

“あなたとはもうやり直すことはありません。どうか諦めて下さい”

と、何度も伝えているが、全く動じる気配がない。これほどまでに拒絶されているのに、全くひるまないだなんて…

そんな日々が1ヶ月ほど続いた。他の令息たちも、元婚約者を毎日の様に迫っていた。そんな中、数名の令嬢たちがついに折れてしまい、不貞を働いた令息たちと寄りを戻そうという動きが出始めたのだ。

元々令嬢たちも婚約者を愛していたのだろう。それにしても、許してしまう令嬢がいるだなんて…

ふとマーガレット嬢を見る。もし彼女もジェファーソン殿の猛アプローチに折れてしまったら…

考えただけでめまいがしそうだ。

俺は一体何をしているのだ。このまま指をくわえて見ているだけでいいのか?また7年前の様に、同じ失敗を繰り返すのか?そんなのは絶対に嫌だ!

このままではダメだ。俺も腹をくくらないと!あんな男に、絶対にマーガレット嬢は渡さない!どんな手を使っても、マーガレット嬢を、今度こそ手に入れて見せる!

※次回、マーガレット視点に戻ります。
よろしくお願いいたします。
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