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第29話:ワイアーム様の為に私が出来る事

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「お兄様、今すぐ陛下と王妃殿下に、ワイアーム様との婚約を結び直したい旨を伝えて下さい」

「ああ、分かったよ。セーラ、ずっと隠していてごめんね。これで1つ心が軽くなったよ」

「これで1つ?その言い方だと、まだ私に隠し事をしている様に聞こえますが」

「そんなつもりはないよ。それじゃあ、僕はすぐに陛下や王妃殿下に伝えに行くよ」

 そう言うと、足早にお兄様が部屋から出て行った。お兄様を見送ると、早速使用人から受け取ったぬれタオルで、ワイアーム様の顔を拭いた。

「あなたはずっと、ワイアーム様の傍にいたのでしょう?お願いします、どうかもっと私に、詳しく話を聞かせて下さい。ワイアーム様がどんな気持ちで龍の力を使い、どれほどの苦しみを味わっていたのか」

「承知いたしました…」

 その後執事が、ワイアーム様について色々と話してくれた。私の為に、本当に色々と尽くしてくれていた様だ。お父様が殺されたとき、お父様を守れなかった事を相当悔やんでいたらしい。

 そして私が身投げをした事を知ると、それこそ狂ったように龍の力を酷使し続けた。それこそ、何度も吐血しながら…その結果があの断罪劇だった様だ。既に立っているのもやっとの状態のワイアーム様だったが、クレイジー公爵とレイリス様の刑執行にも立ち会ったらしい。

 そして私に対する噂を流した令嬢たちを、自らの手で裁いたとの事。全てが終わった事で、やっと私を迎え入れられる、私を悲しませたぶん、一生をかけて償っていこう。そう考えていたらしい。

 でも、ワイアーム様の容態は予想以上に悪かった様だ。

「殿下はセーラ様の事になると、我を忘れてしまうのです。その結果がこれです。これも龍の血を色濃く受け継ぐ者の、定めなのかもしれませんね」

 そう言うと、悲しそうに笑った執事。彼の話を聞き、増々涙が止まらない。でも…

 スッと涙を拭いた。

 もしワイアーム様が目覚めた時、私が泣いていたらきっと、ワイアーム様は傷つくだろう。だからこそ、泣いていてはダメだ。彼が目覚めた時、安心してもらえる様に。

「ワイアーム様の事を色々と教えてくださり、ありがとうございました。あの…明日から王宮に通ってもよろしいでしょうか?ワイアーム様の傍に、いたいのです」

「もちろんですよ。あなた様は殿下が唯一愛したお方。好きなだけ殿下の傍にいてあげてください」

「ありがとうございます。ワイアーム様、あなた様を1人で戦わせてごめんなさい。これからはずっと私が傍にいますわ。だからどうか、早く元気になってくださいね」

 その後私は、再びお兄様に呼び出され、陛下や王妃殿下が見守る中、婚約届にサインをした。既に王族の方たちのサインは済んでいた為、正式に私たちは婚約者同士に戻った。

 明日には貴族たちに、一斉報告されるとの事。まさかこんな形で、再び婚約を結び直すだなんて思わなかったわ。

 ただ、今度こそワイアーム様と幸せになりたい。いいえ…今度は私の手で、ワイアーム様を幸せにしたい。そんな思いを胸に、この日は家路についた。

 翌日
「セーラ、早速今日から王宮に通うのかい?」

「ええ、もちろんですわ。ワイアーム様の容態も気になりますし。お兄様、社交界に復帰する話ですが、ワイアーム様の容態が安定するまで、保留にして頂けますか?ワイアーム様が元気になられたら、2人で社交の場に参加したいのです」

「ああ、もちろんだよ。セーラにとって最近の社交界は、良い思い出がないだろう。中には好奇な目で見る愚か者もいるかもしれない。君が好きなタイミングで、戻ったらいいよ」

「ありがとうございます、お兄様」

 確かに最近の社交界には、よい思いではない。でも、これからはワイアーム様と一緒に、良い思い出に塗り替えていきたいと考えている。その為にも、ワイアーム様には、早く元気になってもらわないと。

 そんな思いで、王宮へと向かった。王宮に着くと、なぜか王妃殿下が迎えてくれたのだ。

「セーラちゃん、おはよう。随分と早いのね」

「おはようございます、王妃殿下。ワイアーム様はお目覚めになられましたか?」

「それが、まだ目覚めていないの。でも、心配しないで。ついこの前も、半月程度眠いっていたから。またすぐに目覚めるでしょう」

 少し悲しそうに笑った王妃殿下。きっと息子が心配なのだろう。

「王妃殿下、ワイアーム様は私の為に、龍の力を酷使したとお伺いしました。私のせいで、ワイアーム様は…」

「セーラちゃんのせいではないわ!悪いのはクレイジー元公爵とレイリス嬢よ。だから気にしないで。セーラちゃん、ワイアームの傍にいる事を選んでくれて、ありがとう。きっとセーラちゃんが傍にいてくれたら、すぐに元気になるわ。あの子はそういう子だから」

「ワイアーム様が元気になってくれる様に、頑張りますわ。それでは、私はこれで失礼いたします」

 王妃殿下に頭を下げ、急ぎ足でワイアーム様の部屋へと向かったのだった。
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