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第12話:久しぶりに診療所と実家に行きます【後編】

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馬車に揺られる事約5分、我が家が見えてきたのだが、明らかに奇麗になっている…
何度目をこすって見てみても、やっぱり立派になっている。壁は奇麗に塗装され、ボーボーだった庭も手入れされている。

一体何があったの?

完全に固まる私をよそに
「着いたみたいだね、行こうか」
そう言って手を差し出すルーク様。動かない私に業を煮やしたのか、私の手を掴んで馬車から降り、玄関へと向かう。

2ヶ月前まで草が生え放題だった庭も、奇麗に手入れされ花が咲き乱れている。一体どうなっているのだろう?

屋敷に入ると
「お嬢様!お帰りなさいませ!お久しぶりでございます」

「まあ、どうしてあなたがここに居るの?」

彼女は3年前、我が家が借金を背負う前まで家でメイドをしてくれていた女性だ。
借金を背負ってからは何とか生活を立て直す為に、お父様の執事のみを残し、泣く泣く解雇したのだ。そんな彼女がなぜ?

「私だけではございませんよ。3年前までお世話になっていた使用人たちは、ほとんど戻ってきております。詳しい話は旦那様からお聞きください。今すぐ呼んでまいりますね」

そう言ってお父様を呼びに行くメイド。一体何がどうなっているのかしら?動揺する私の手を、ギューッと握ってくれたのはルーク様だ。

ルーク様に手を握られると、少しだけ動揺が落ち着いた。何だろう…この安心感は…

その時、お父様とお母様がやって来た。

「セリーナ、お帰りなさい!まあ、あなた様はファーレソン公爵家のルーク様ですね。公爵様によく似ていらっしゃる!わざわざ娘と一緒に来て頂いたのですか?ありがとうございます」

そう言って深々と頭を下げるお父様。

「急に僕まで押しかけてしまってすみません。セリーナが一度家に帰りたいと言うので、一緒に来てしまいました」

「まぁ、そうでしたか?どうぞこちらへ」

お父様達に案内され、居間へと通された。居間に来るまで、何人もの使用人に会ったが、明らかに3年前よりも増えている。一体何があったと言うの?

お父様とお母様の向かいに、私とルーク様が座る。なぜか私の腰をしっかり掴んでいるルーク様。また誤解されてしまうわ!そう思って離れようとしたのだが、何分力の強いルーク様から離れる事は出来なかった。仕方ない、後で誤解は解けばいいか。

「それよりお父様、一体何があったの?2ヶ月前より屋敷は奇麗になっているし、使用人はいるし」

「その事なのだが、ファーレソン公爵様がお前のお給料だと言って、莫大な金額を定期的に送ってくれていてね。最初は私たちも使わず残しておいたのだが、何度も足を運んでお礼を言ってくれるファーレソン公爵様を見て、考えが変わったんだよ。それに、ファーレソン公爵家に嫁がせるのに、実家がみすぼらしいとお前にも肩身の狭い思いをさせてしまうと思ってね」

「ファーレソン公爵家に嫁がせる?」

お父様は何を言っているのかしら?

「あなた!何でもないのよセリーナ。ずっとあなたがファーレソン公爵家にお世話になっているでしょう?だから、お父様が勝手にファーレソン公爵家にセリーナが嫁ぐのではって思っているだけなの。ルーク様もごめんなさいね。バカな父親で!」

なんだ、そういう事か。本当にお父様ったら、妄想にしても図々しすぎるわ。それもルーク様の前で!お母様が冷や汗をかいているじゃない。

「もう、お父様ったら!ルーク様のいる前で、失礼な事を言うのは止めてよね。ごめんなさい、ルーク様」

「僕は別に気にしていないよ。そう言えば、君には弟と妹がいるんだよね。紹介してくれるかな?」

「ええ、もちろんです。少々お待ちくださいね」

そう言って立ち上がろうとしたのだが
「お嬢様、私が呼んでまいります」
と、メイドが呼びに行ってくれた。

「そうだ、セリーナのご両親に会ったら、お礼を言わなきゃと思っていたのだった。セリーナのおかげで、すっかり元気になりました。本当にありがとうございました」

ルーク様が両親に頭を下げた。

「いいえ、私たちは何も!お礼ならセリーナに行ってあげてください!」

そう言って慌てる両親。

「そう言えば、まだセリーナにお礼を言ったことが無かったね。僕を治してくれてありがとう。君のおかげで、こんなに元気になったよ」

「どういたしまして。でも、まだ完全に完治した訳ではないので、お礼を言われるのは少し早い気がしますわ」

まだ耳の後ろに少し湿疹が残っている。あの湿疹が完全に消えるまでは、完治したとは言えない。

その時だった。豪快に扉が開いたと思ったら
「お姉さま!!!」

そう言って妹や弟たちが飛びついて来た。ギューギュー抱き着いて来る妹や弟たち。

「あなたたち、元気そうでよかったわ。ほら、お客様の前よ、ちゃんとご挨拶しなさい」

ルーク様を見た妹たちが

「わぁぁ、カッコいいお兄ちゃんだ!」

そう言って嬉しそうに抱き着いた。

「コラ、お前たち!相手はファーレソン公爵家のご子息だぞ。ちゃんと挨拶をしなさい!」

真っ青な顔のお父様が妹たちを怒鳴りつけている。

「伯爵、大丈夫ですよ。へ~、こんなに沢山妹や弟がいるんだね。それにしても、皆セリーナによく似ているね。この子なんて、セリーナを小さくしたみたいでとても可愛いよ」

そう言って、一番末っ子の妹を膝に抱いたルーク様。それを見て、自分も自分もと、次々と妹や弟たちがルーク様の膝に乗ろうとしている。

その後、ルーク様は妹と弟と一緒に遊んでくれていた。どうやら子供の扱いが上手いらしい。ちなみに私のすぐ下の弟は、12歳でやっと念願の騎士団に入れた様で、早速ルーク様と打ち合いをしていたが、相手にならない。

「ルーク様は本当にお強いのですね。どうしたらそんなに強くなれるのですか?」
と、目を輝かせて聞いていた。

結局日が暮れるまで我が家に滞在した私とルーク様。お母様からせっかくだから晩ご飯でもと言われたが、今日は帰る事にした。

ちなみにルーク様が帰ると知るや否や、小さな妹や弟たちが泣いてルーク様から離れず大変だった。姉の私も帰るのだけれど、残念ながら私には誰も抱き着いてくれなかった。私の存在って一体…

何とか馬車に乗り込み、公爵家へと戻る。

「ルーク様、今日は妹や弟たちと遊んでいただき、ありがとうございます」

「お礼を言うのは僕の方だよ。あんな風に人と触れ合ったのはいつぶりだろうか。また遊びに行ってもいいかな?」

「もちろんです。きっと皆喜びますよ」

“また遊びに行ってもいいかな?”その言葉が胸に突き刺さる。きっとこの言葉も、一生実現しないだろう。治療が終われば、私たちはそれぞれ元の生活に戻るのだから。

でも…
出来る事なら、ルーク様とずっと一緒にいたい。そんな感情が、私の心が支配ていく。

ダメよ!そんな図々しい事を考えては。でもルーク様の病気が完治するまでは…

ギューッと握られたルーク様の手の温もりを感じながら、今だけはこの幸せを噛みしめたいと思うセリーナであった。
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