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第3話:住み込みで治療する事になりました

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「先生、こちらの部屋です」

そう言って公爵様と夫人が部屋に入って行く。その後ろを私も付いて部屋に入った。

すると
「僕に触るな!とにかく放っておいてくれ!あっちに行け!!!」

部屋に入るなり、男性の怒鳴り声が聞こえて来た。近くでメイドが3人震えている。

「どうしたんだ、こんなに声を張り上げて!今度は何があったんだ」

震えるメイドに声を掛ける公爵様。

「お坊ちゃまのお着替えをしようとしたのですが、お坊ちゃまがまた怒鳴りつけて来たのです」

涙目で訴えるメイドたち。

「ルーク、どうしてメイドを怒鳴りつけたんだ。彼女たちは、お前の体をキレイにしようとしてくれているだけなんだぞ!」

公爵様がベッドの中にいる令息(私の位置からは見えないが)に怒鳴っていた。でも、ふとメイドの手袋が気になった。

「公爵様、差し出がましいようですが、どうしてメイドたちは手袋をしているのですか?」

「そんなの決まっているだろう!僕が気持ち悪いからだよ!全身緑の湿疹で覆われているからね!それより君は誰だよ!」

「私は治癒師のセリーナ・ミルトンと申します。それよりも、気持ち悪いと言う理由で手袋を付けているのですか?」

「セリーナ先生、それは誤解です!万が一息子の病気が移るといけないと思って、メイドたちに手袋をさせているのです」

なるほど、得体のしれない病気という訳ね。

「分かりました。一度令息様の様子をみせて頂いてもよろしいですか?」

「ああ、早速お願いするよ」

公爵様に許可を得て、ゆっくりベッドに近づく。ベッドには、令息が横になっていた。明らかに私を睨んでいる。確かに公爵様が言う様に、肌が見える部分は緑の湿疹が覆っている。そのせいか、顔もかなりむくんでいるわ。

「ちょっと失礼しますね」

布団を剥がし、服を脱がせる。

「おい、何をするんだ!お前も手袋を付けないと、この恐ろしい病気が移るぞ!」

そう怒鳴る令息を無視し、上半身裸にさせた。体にも緑色の湿疹が広がっていた。触ってみると、ザラザラしている。これは一体何の病気かしら?

とにかく治癒魔法を掛けていくか。
裸にしたところで、手に魔力を集中させる。そして「ヒール」と唱えると、体中が光に包まれる。しばらく魔力を送っていると、お腹の一部の緑の湿疹が少しずつ薄くなっていく。

でも…

「ハーハー。申し訳ございません。魔力が切れました」

そう、途中で魔力切れを起こしたのだ。こんな事、今までなかったのに。

「あれ…手が動く…」

そう言って手を動かす令息。

「本当だ!それに、お腹部分の湿疹も随分と薄くなった。肌色に戻っている部分もあるぞ!」

どうやら全く私の治癒魔法が効かなかった訳ではなさそうだ!良かった。

「セリーナ先生、ありがとう!これで少し希望が見えて来たよ!」

私に向かって頭を下げる公爵様。後ろで夫人も涙を流していた。

「それで、このまま治療を行って貰いたい!息子の治療に専念できるよう、我が家に住み込みで治療してもらおうと思っている。もちろん、給料も奮発するよ!診療所と伯爵家には私から連絡しておこう。とにかく、今日はゆっくり休んでくれ。そこの君、セリーナ先生の部屋を至急準備するんだ!」

メイドに指示を出す公爵様。どうやら今話した事は決定事項の様だ。でも、私にも準備と言うものがあるのだ。

「公爵様、先の程のお話ですが…」

「そうだな。診療所の引継ぎもあるだろうし、セリーナ先生も家に荷物を取りにも行きたいだろう!大切なセリーナ先生に、もしもの事があっては大変だ。そこの君、セリーナ先生と一緒に診療所と伯爵家に向かいなさい」

だから、そうじゃなくて!この公爵様は人の話を聞くつもりが無いのかしら?それもメイドを付けるなんて、私が逃げるとでも思っているのかしら?心外だわ!

「セリーナ先生、では参りましょう」

結局公爵様に反論できず、そのままメイドに付き添ってもらい、診療所と家に向かう。
まずは診療所だ。

「という訳で、しばらくお休みします」
所長に状況を説明し、しばらくお休みする事を伝えた。

「わかったよ。それにしても、かなり優秀だとは思っていたが、まさかここまでとは思わなかったよ。とにかく、公爵令息様を治す事だけを考えなさい」

そう言ってくれた所長。本当に良い人ね。そうだわ!

「所長、ちょっとこの本借りてよろしいですか?」

「ああ、構わないよ!」

先生に借りたのは、医学書だ。自国のみならず、他国の病気も記載されている。もしかしたら、ここに令息様の病気も記載されているのではないかと思ったのだ。

分厚い本を20冊、馬車に乗せた。

「あの、セリーナ先生、これを本当に公爵家に持って行くつもりでございますか?」

苦笑いするメイド。

「ええ、もちろんよ。大丈夫よ。私が運ぶから。さあ、次は私の実家ね。さっさと行きましょう」

家に着くと、両親が飛んできた。

「セリーナ、さっき公爵家の使者がいらっしゃったよ。それで、かなりの額を置いて行かれた。前払金だそうだ!その金額だけで、借金を全て返済できそうだ…それにしても、お前はそこまで凄い治癒師だったなんて…」

そう言って真っ青な顔をしているお父様。

「お父様、大丈夫よ。きっと令息様を治して見せるわ!」

「でも、無理はするなよ。とにかくあのお金は、万が一の時の為に使わずに残しておくから、安心しなさい!」

きっと私が治せなかった時に、公爵様に返す為だろう。自慢ではないが、私の父親は本当に心優しい人なのだ。私が働きに出ると言った時も、泣いて反対していた。

「とにかく、私は大丈夫よ。とりあえず、荷物を持って行って来るわね」

急いで自室に戻り、荷物を鞄に詰める。と言っても、そんなに服も持っていないので、あっという間に荷造り完了だ。

最後に、弟や妹、両親に別れを告げ、再び馬車へと乗り込んだ。

「あの…セリーナ先生、お荷物はこれだけですか?」

「ええ、そうよ」

少なすぎやしないかい?そう言いたいのだろう。大きなお世話だ。そして再び公爵家へと戻って来た。これからしばらくここにお世話になるのね。さあ、気を引き締めて行かなくっちゃ。
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